【二次創作】Fate Grand Order 〜英霊が生まれる時〜 作:麻宮鈴
何とか敵の襲撃を逃れ、地下へと逃げ込んだ藤丸たちだったが、そこはなぜか死者の国で―――――
今回で特異点の秘密、黒幕が少しだけ明らかになるかも。
シリーズ初見の人は、「プロローグ」から読むことを推奨します。
(注意点)
・今作はFGO第5異聞帯クリア後の世界を舞台としています。その為、真名など二部のネタバレを含みますのでご注意ください。
・CPはありません。ストーリーを楽しみたい人向けです。
・オリジナルキャラが複数人でてきます。
・Fateの世界観や設定を掴み切れていない部分があるかもしれません。その為独自の解釈や捏造を含みます。
・一応、国文出身なので日本神話に関しては授業の資料やネットを参考にしました。ただ専門家ではないのでご了承ください。
以上、「大丈夫だよ」という心の広い方は是非最後までお付き合いいただけると幸いです。
2節 ようこそ黄泉の国へ
「私の名前は太宰治。ようこそ、黄泉の国へ」
特異点の地下空間の中、立花たちの前に手を広げた太宰がにこやかにそう告げる。
「………え」
「は?」
太宰の言葉に、立花とラーマは開いた口が塞がらない。そんな二人の様子を見て太宰は「いい反応するなぁ」と言わんばかりに笑いながら手に持ったグラスを仰いでいる。
「あの、お二人とも大丈夫ですか?」
フリーズしてしまった立花達を心配して、紅子がセーラーの裾を揺らしながら近づいてくる。
しばらく固まっていた二人だったが、いち早く衝撃から立ち直ったのはラーマだった。
「紅子、『黄泉の国』というのは日本の死者の国の名だと聖杯の知識にあるのだが、ここがそうだと?」
「はい。言い忘れていましたがそうなんです………」
恐る恐る尋ねたラーマに対し、紅子はあっさりと肯定した。
またしてもラーマはぽかんとして固まってしまう。そんなラーマを見てようやく冷静になった立花が口を開いた。
「でも、おかしくないですか? 俺たちはただ地下に下りただけで、死んでもいないのに」
「藤丸君と言ったかな? 君は日本神話はどれくらい知っているんだい?」
「日本神話………」
グラスを傾けながら問いかけた太宰の言葉に、立花は必死に国語の授業の内容を呼び起こす。
「たしか古典の授業で『古事記』をやった時に聞いたような。イザナギとイザナミがどうのこうのって………」
「うん。その様子じゃあまり知らないようだね。ちゃんと授業聞いていたのかい?」
「うっ」
「………マスター、流石に自分の国の神話くらいは知っておいた方がいいと思うぞ」
「うぐっ」
ラーマの言葉でとどめを刺された。立花は思わず胸を押さえてうずくまる。
だって、古典って何言ってるかわかんないから眠くなるんだよ……
でも今時の子は日本神話を知らない子も多いと思う。俺だけとは思いたくない……
心の中で言い訳をしていると、心優しい紅子さんが「大丈夫ですか?」と背中をさすってくれる。ありがとう、紅子さん。
「さて、藤丸君が知らないようだから私が簡単に、この特異点と関わることだけ説明してあげよう」
「……お願いします」
「よろしい。………あ、そこの君。これ片付けてくれないかい?」
「お、太宰の旦那! お安い御用です」
立ち上がりながら立花がお願いすると、太宰は近くにいた気さくな男性にグラスを預けて話し始める。
「ではまず、日本の神々は男神「伊邪那岐命(イザナギノミコト)」と女神「伊邪那美命(イザナミノミコト)」から生まれたんだ。だが、火の神を生んだ時にイザナミは火傷を負って死んでしまった。悲しんだイザナギは妻に会いたくて黄泉の国まで会いに行くんだ」
「む。黄泉の国とはそう簡単に行ける所なのか?」
興味深そうに太宰の話を聞いていたラーマが首をかしげる。
「君はラーマと言ったかな? えーと、聖杯くーん………ああ、インドの英霊なのか」
「ちょっと待って、今聖杯検索しました? というか何やら物騒な単語が…………包丁とか出てきませんよね?」
某宴を思い浮かべながら、立花は思わずキョロキョロと辺りを見渡してしまう。
「包丁はよくわからないが、そりゃあ検索ぐらいするよ。大学には通っていたが、インド専攻という訳でもないしね。………話を戻そうか。ラーマ君の出身国のインドではどうかわからないが、昔は黄泉の国というのは黄泉比良坂(よもつひらさか)という坂で地上と繋がっていたんだ」
「へぇ、知らなかった」
「マスター……」
「そんな目で見ないでよ!」
隣でラーマが憐れみを含んだ目で見てくるたび胸が痛い。もっとまじめに勉強しておけばよかった。
「そうして会いに行ったイザナギだったが、イザナミの体はすでに腐っており、その姿を見たイザナギは怖くて逃げ出してしまうんだ。姿を見られたことを怒ったイザナミはイザナギを追いかけるが、イザナギは地上への入り口を大岩で塞ぎ、イザナミと完全に離縁した。そのため現在は黄泉の国に行くことは出来ず、黄泉の国はイザナミの領域となったんだよ」
「なるほど。では「地下に入れば黄泉の国」というのもあながち無茶苦茶な現象ではないということか」
「そういうことだ」
なるほど。ウルクのように昔は死者の国も地続きに存在していたということか。
「あれ? でも、入り口を塞いじゃったんだから、今は黄泉の国に行くことができないんじゃないの?」
「その辺の事情は後程説明しよう。先に、黄泉の国以外の領域について話そうじゃないか。でもその前に……」
そう言うと太宰は地下空間の奥にある扉のうちの一つを指さした。扉の横には「談話室」という張り紙が付いている。
「あそこに移動しようか。ここからはこの特異点の黒幕についての話になるからね。ここの人たちに聞かれて混乱を生むのは避けたい」
「わかりました」
小声で話す太宰に頷き返し、紅子を含め4人は談話室へと移動した。
******
談話室は小部屋になっており、外から話を聞かれる心配はなさそうだ。部屋の中心には簡素な組み立て式の机と4脚の椅子があり、立花はラーマの隣に腰を下ろした。
「皆さん、お茶をどうぞ」
席に着くと、紅子が温かいお茶をそれぞれの前に置く。
「ありがとう、紅子さん」
ズズッと一口飲むと、緑茶の香りが口の中に染み渡る。思えば、特異点に来てから何も口にしていない。
ラーマも隣でフーフーと息を吹きかけながらおいしそうに飲んでいる。
「さて、それでは続きを話そうか。黄泉の国から帰って来たイザナギは汚れを落とすために禊を行った。その時に左目から天照大御神(アマテラスオオミカミ)、右目から月読命(ツクヨミノミコト)、そして、鼻から須佐之男命(スサノオノミコト)の3兄弟が生まれたんだ」
「あ、その神様達の名前は聞いたことあるよ!」
「マスター、成長したな!」
太宰の話の中に知っている単語を見つけて思わず声を上げると、隣に座るラーマが頭をなでてくれる。
「それはよかった。では、この神たちが統べる領域はどこかわかるかい?」
「え、りょ、領域………?」
「マスター………」
途端に歯切れが悪くなった立花を、ラーマが悲しそうな目で見てくる。
………いいよ、もう気にしない! 開き直って行こう。
そんな立花たちのやり取りを見て太宰と紅子はクスリと笑っている。
「アマテラスは太陽神であり、天の高天原(たかまがはら)の統治者で、その弟のツクヨミは月の神で夜の支配者だよ、藤丸君」
「そうなんだ。
………あれ、スサノオは? 確かヤマタノオロチを退治したんですよね。俺あの話すきなんだよなぁ」
「………その神の話は今回の特異点では何の役にも立たないから一先ず置いておこう」
「?」
太宰の声音が少し暗くなったように感じたが、立花と目が合うとニコリと微笑む。
「さて、藤丸君、ラーマ君。ここまで聞けば、この特異点の黒幕が誰だか察しがついたんじゃないかい?」
「え、それってまさか………」
ラーマと二人、顔を見合わせる。
今までの会話に出てきた中で、あの異様な月と関係のある存在なんて一人しかいない。
だが、それがもし本当だとしたらかなりまずい。だって、神が敵として回ったということなのだから。
「ツクヨミが、今回の黒幕なの……?」
「正解だ」
半分、否定してほしい気持ちで問いかけると、太宰はあっさりと肯定する。
諦めきれなくて紅子の方を見るが、紅子も悲しそうに目を伏せるだけで何も言わない。
本当に、あんなことを神がやっているのか……?
地上での出来事を思い出し、背中に冷や汗が流れる。
フラフラとおぼつかない足取りで月を恍惚と見上げる人々。立花達を追いかける時のあの狂気に染まった笑みが今でも忘れられない。
「だが、おかしくないか? だって、ツクヨミという神は邪神ではないのだろう? あのようなことをする理由が余には思い浮かばん」
「そうだよ! 黒幕は教会にいるって聞いたし、ツクヨミとは縁遠い場所なんじゃないの?」
隣にいたラーマの言葉に同調すると、太宰は湯飲みに口を付けた後、徐に上を見上げるとこう切り出した。
「………月って、そんなにいいものだと思うかい?」
「え?」
突然の質問に答えられないでいると、太宰は着流しの襟元に手を突っ込んで、万年筆を取り出した。
「紅子、何か紙はあるかい?」
「あ、はい! たしかここに………ありました!」
「ありがとう」
紅子が部屋の隅に置かれた棚から取り出した紙に、太宰は万年筆で何かを書き込んでいく。立花が少しワクワクしながら手元を覗くと、達筆な字で、
「起 船が転覆し、一組の男女が無人島に流れ着く
承 過ごすうちに、お互いに惹かれあっていく
転 彼女が重い病気を患っており、苦しむ前に殺してほしいと頼まれる
結 男は涙を流しながら彼女の首を絞める」
と、書かれていた。
「例えば、藤丸君がこのような純愛小説を書いたとする」
「え、それ純愛ですか……? 仮定の話なのに重い……」
「アハハ、純愛だとも。さて、小説を書くときは場面設定をしなくてはいけない。藤丸君なら結の場面設定はどうする?」
「えぇ、こういうの苦手なんだけどなぁ。それに太宰さんの前で言うの恥ずかしい……」
「気にする必要はない、小説に正解なんて無いのだから。ほら、言ってみてくれ」
太宰はそう言うが、やはり文豪の前で小説の設定を話すのはなんだか恥ずかしい。
「ラーマ、先に言って!」
「え、余もやるのか!? うむ、マスターの頼みとあらば……」
ラーマは腕を組んで少し考えた後、太宰の万年筆を借りて紙に絵を描いていく。
「こんな感じだろうか」
「どれどれ………」
紙には、棒人間が1人葉っぱの上に寝そべっており、その横に棒人間が座っている絵が描かれ、背景は黒く塗りつぶされている。
「夜に草の葉っぱの上に彼女を寝かせて、首に手をかける、という感じにしたのだがどうだろうか?」
「うん、いいんじゃない! 俺も大体おんなじ感じのを考えてたよ」
「うん。良い設定だと思うよ。それで、天気はどうなんだい? 晴れ?くもり?それとも雨?」
「特に考えていなかったが、まぁ晴れだろうか」
「藤丸君は?」
「俺も晴れかなぁ」
「じゃあ、二人とも彼女を殺すときには月が出ていることになるね」
「!」
確かに、人が殺されたと聞けば無意識に夜を想像してしまう。それに映画とかでも月が出ている夜に事件が発生することが多い気がする。
「古来から月の光は邪気を含んでいるとされる。「ルナティック(精神異常者)」なんて言葉もあるしね」
「邪気………」
紅子はどこか遠い目をして小さく呟いた。その様子が気になり、立花は声をかけようとしたが、ラーマの声にさえぎられてしまう。
「だが、ツクヨミは別に邪神ではないのだろう? やはりこんなことをする理由がわからぬ」
「確かにツクヨミは邪神ではない。だが心優しい神という訳でもないよ。日本神話によるとツクヨミは冷徹な一面も持ち、地上世界にいる穀物の神ウケモチに会いに行った際、ウケモチが口から食べ物を生み出して彼に差し出したことに怒り、剣を抜いて殺しているんだ」
「えぇ、なにも殺さなくても……」
「まぁ、でも人を害して喜ぶような神ではないから、それだけが原因ではないけどね」
「じゃあ、一体何が原因なんですか?」
「………あれは、ツクヨミであって、ツクヨミではない。何か、良からぬものが混じっているんだと思う。それが何かまではさすがの私にも分からないけど」
そう言うと太宰は紙に「神霊」という文字を書き込み丸を付ける。
「さて、私も聖杯の知識で知っただけだが、神霊は普通サーヴァントとして現界をすることは出来ないのだろう?」
「はい、そのはずです」
「じゃあ、そのツクヨミもあくまでサーヴァントであって本物の神霊ではないということか?」
「ああ、ラーマ君の言う通りだ。この特異点は比較的時代が新しいし、霊核を下げないとサーヴァントとして現界できない。これは私の想像だが、おそらく西洋の、それも人を害するような良からぬものと融合することで、相反する性質で互いの力を弱体化させて現界しているのだと思う」
「そんなことが可能なんて……」
「ただ無茶な現界の分、制約も多いはずだ。現に奴は教会の外からは出られない。教会から出れば霊基のバランスが崩れてしまうんだろう。だから人々を月光で支配して、探させているのさ」
「探す?何を?」
「それは、……………………」
それまで流暢に話していた太宰が口を閉じる。
どうしたのかと不安になり紅子を見ると、紅子もわからないという風に首をかしげている。
すると、黙り込んでいた太宰は徐に万年筆と紙を懐にしまうと、冷めた湯飲みを一気に仰いだ。
「…………今日はここまでにしようか。私も酔いが回って来たし」
そう言うと立ち上がって部屋を出ていこうとする。
「待ってください! これからどうすれば……
それにまだ聞きたいことがたくさんあr」
「悪いが、また今度にしてくれ。布団が余っていたはずだからそれを使えばいい。食事も限りがあるが自由に食べてくれて構わない。二人増えてもあと3日くらいは保つだろう」
「3日を過ぎたらどうなるんだ?」
「………4日後以降のことは知らないよ。その頃には私はいないからね」
「!」
「紅子、二人を案内してあげなさい」
「………はい、太宰さん」
そう言うと太宰は部屋を出ていった。
*******
闇の中で何かが蠢く。
月明かりが差し込む教会の奥で、ソレは十字架の下に縛り付けられていた。相反する存在を一つの器の中に閉じ込めた存在はひどく不安定で、脆い。おまけに教会の中という悪条件にもかかわらず、ソレは特異点全体を結界で覆いつくすほど強大な力を宿していた。おかげで教会から出る事が叶わずとも、月の光が届く場所は全て観測することができる。
「アハハハハ! こんなにも容易く狂ってしまうとは。いい気味だ、人間ども!」
十字架の下で、ソレは獰猛な笑みを浮かべる。
そんな歪な存在を見ていた一騎のアルターエゴが深い藍色の法衣を揺らしながら近づいていく。
「今日は随分とご機嫌ですね」
「…………お前か。何の用だ?」
「いえ。探し物は見つかったのか気になったもので」
アルターエゴの言葉に、ソレは不機嫌そうに真っ赤な瞳を細める。
「アイツは地上にはいない。愚かにも母の領域に逃げ込むとは。
………まったく、アイツは変わらないなぁ」
先ほどの態度から一変、まるで大切な存在を思うように優しい声音で呟く。その瞳はアメジストの様に暗い紫に変わっていた。
「………これだから混ざりものは」
アルターエゴの男は厄介そうに呟くと、十字架に込めていた魔力を少し弱めた。
途端にソレは表情を変え、瞳の色が真っ赤に変色する。
「………憎い、人間ども」
「やれやれ、これは大変だな………ん?」
男はため息をつくと、何かに気づいたのか扉を振り返った。
ガチャ
両開きの扉が少し開き、何者かが中に入ってくる。
「………………」
入ってきた人物の予想外の姿に、男にしては珍しく言葉を失った。
「………君は、もしや?」
「………はい。ホワイトエンドです。ラスプーチンさん」
入ってきた白髪の少女―――ホワイトエンドは血の付いたマントを脱ぎながらラスプーチンのもとへ歩いて行く。
「その恰好、どうした?」
「すみません。私としたことが対象に逃げられました。やはりサーヴァントというのは強いのですね。普通の人間相手の様にはいきませんでした」
「そうか。やはり予定通りにはならないか。あの方の結界に耐性のあるサーヴァントがいたのだろうな」
「はい。そのようです」
表情の乏しい顔でそう言いながら、血が飛び散った首筋を撫でる。
その仕草を見てラスプーチンは片眉を上げる。
「なんだ? 首でもはねられたのか?」
「はい。対象が連れていたサーヴァントの必殺技みたいなのを喰らいまして。すぐに再生したのでもう何ともありませんが」
「…………冗談のつもりだったのだが。まさか宝具を喰らって、ほとんどノーダメージとはな」
淡々と答える少女に、ラスプーチンは呆れたような感心したような態度で顎に手を当てる。
(それにしても、まさかこのような少女だったとは。意外だったな)
顔を隠していたので、てっきり頭部だけ人外の要素が強いのかと思ったが見る限り普通の人間だ。それもかなり美形の部類に入る。
瞳や髪の色は普通の人間とはかけ離れているが、それが余計に美しさを強調し、天使や妖精のように神秘的な印象を見る者に与える。
もっとも、感情を失くしたような表情と所々に飛び散った血痕がそれを台無しにしてしまっているが。
少女は長い髪を揺らしながら徐にその場に跪くと、生気のない瞳でラスプーチンを見上げた。
「それと、もう一つ報告があります」
「なんだ?」
「例の野良サーヴァントが対象とともに行動していました。彼女の能力のせいで対象を見失い、追いかけることができませんでした。おそらく地下に逃げ込んだものと思われます。申し訳ありません」
少女は深々と頭を下げる。
「まさか野良サーヴァントまで味方につけているとは、さすがは人類最後のマスターだ。だが、それもあと3日の命だ。この方の結界が完成すれば奴等にできることはない」
目を細めて男が笑う。その笑みは聖職者のものとは思えない。
「だが不安粒子は取り除いておくに越したことはない。この方と我々の悲願の為にな」
ラスプーチンが後ろを振り返る。少女もつられて祭壇の十字架を見れば、相変わらず「憎い、憎い………」とうわごとを呟いている月神との混ざり物が憐れにも縛り付けられている。
少女は感情の読めない瞳でソレを見つめると、もう一度深々と頭を下げた。
「………承知しました。次回はこちらも本気でいきましょう。早速、地下への入り口を探してきます」
少女は立ち上がると、血の飛び散ったマントを羽織り直す。
「その姿でいくのか? それにそろそろ休息を取った方がいいだろう。特異点に来てから一度も眠っておるまい」
「もう顔は見られているので隠す必要はありません。それに私は眠らなくても死にませんので」
平坦な声でそう告げると、扉に手をかける。
その時、今までうわごとを呟いていた混ざり物が赤い瞳を光らせながら蠢いた。
「待て」
魔力の込められたその一言だけでも、とてつもないプレッシャーが周囲を包み込む。ラスプーチンでさえも少し肩を揺らすほどだ。だが少女は特に気にすることもなく振り返る。
「どうしました?」
「アイツを早く連れて来い。それを最優先しろ」
「…………善処しましょう」
短くそう告げると、ガチャリと扉を開けて外へと飛び出す。
「ああ、アイツさえ逃げなければ今頃私は………!
ただのできそこないの分際で、私に反逆するとは!」
十字架の下の混ざりものは真っ赤な瞳を憎々しげに歪ませる。
その様子をラスプーチンは冷ややかに見つめていた。
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真っ白な髪をなびかせながら、月光に照らされた夜の町を走る。
精神攻撃の対象から外してもらったとはいえ、ずっと光を浴び続けるのもあまりいい気はしない。
それに、この光を見ているとつい余計なことを考えてしまう。聖杯と呼ばれるあの杯を使って、あの混ざりものを喚び出した直後にラスプーチンが言っていたことを。
「………こういうのは慣れっこです。
今更何とも思いません。それに………」
ふと見れば、もう使われていない廃屋がある。
少女は月光から逃げるように部屋に上がると、そこに腰を下ろした。
「………結局、私にはどうすることもできませんから」
相変わらず表情は変わらないが、ほんの少しだけ、同情するかのように瞳を揺らして少女は可哀想な混ざり物を思ってそう呟いた。
最後までお読みいただきありがとうございます!
次回も投稿できるよう頑張りますので、気長にお待ちいただけると幸いです。
この作品はpixivの方でも公開しております。