【二次創作】Fate Grand Order 〜英霊が生まれる時〜   作:麻宮鈴

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シリーズ5作目です。
この物語はオリキャラが登場するため、シリーズ初見の人は第1作目「プロローグ」から読むことを推奨します。

(あらすじ)
黄泉の国で太宰治からこの特異点の黒幕について知らされた藤丸たち。
だが、太宰たちに残された時間は残りわずかで―――――

今回で太宰さんの秘密が少しだけ明らかになります。

(注意点)
・今作はFGO第5異聞帯クリア後の世界を舞台としています。その為、真名など二部のネタバレを含みますのでご注意ください。
・CPはありません。ストーリーを楽しみたい人向けです。
・オリジナルキャラが複数人登場します。
・Fateの世界観や設定を掴み切れていない部分があるかもしれません。その為独自の解釈や捏造を含みます。
・ラーマ君の寝起きを捏造してます。

以上、「大丈夫だよ」という心の広い方は是非最後まで読んでくれると嬉しいです!


【閉塞特異点】邪光降臨神島 壱岐 〜古き神と月満ちる刻〜 第3節 私の秘密を教えてあげよう

 第3節 私の秘密を教えてあげよう

 

 太宰が部屋を出て行ったあと、残った3人の間には重い空気が流れていた。

 

 「………紅子さん、今のは一体どういう意味?」

 

 沈黙を破り、立花は紅子に問いかける。

 

 「私も詳しいことは教えられていません。ただこの特異点は3日後に黒幕の手に落ちます」

 「どうしてそう思うんだ?」

 

 あまりにも確信めいた言い方に、ラーマが疑問を投げかける。

 

 「3日後に月が満ちるからです。太宰さんによると、満月になれば敵の力も最大になり、この黄泉の国にも月の力が及んでくるそうなのです」

 「そんな! じゃあここにいる人々は………」

 「皆さん、承知の上でここにいます。太宰さんがここに皆さんを連れてくる際に話したそうです。皆さんはここで、残り短い時間をせめて精一杯楽しみたいと、ああやって明るく過ごしているのです」

 

 紅子は悲しそうに深緑の瞳を伏せる。

 思い出されるのは地下に来た時に見た、活気付いた光景。親し気に声をかけてくる人々の笑顔が立花の頭を過る。

 

 あの人たちが月の光でおかしくなってしまう所なんて見たくない。何とかしないと!

 

 「諦めるのはまだ早いです! 何か、黒幕を倒す方法はないんですか?」

 「太宰さんが、できることはないと言ったんです」

 「なぜそう言い切れる? そもそも太宰はなぜ黒幕やこの特異点のことに詳しいのだ?」

 「それは………太宰さんはこの特異点ができた最初の方からここに呼ばれたらしいですし、黒幕とも会ったことがあるそうなのです」

 「何!?」

 

 ラーマが目を見開く。

 確かに、黒幕であるツクヨミに―――神に、実際に会ったことがあるからこそ勝てないと察しているのかもしれない。

 だけど、それでも、諦めるわけにはいかない。今までだって絶対に勝てないような相手でも、それこそ神が相手でも戦い抜いて汎人類史を守ってきたのだ。こんなところで、人類最後の砦が諦めるわけにはいかない。

 

 右手に着けた通信機を撫でる。

 

 今はみんなの声は聞こえないけれど、きっと俺たちが特異点を修復すると信じてサポートを続けてくれているはずだ。みんなの期待に、応えなければ。

 

 「神が相手だろうと関係ないよ。俺たちが必ず、ツクヨミを倒して見せる!」

 「藤丸さん……」

 「マスター、その意気だ! 余も全力を尽くす故、安心するといい、紅子」

 「ラーマさんも………二人ともありがとうございます!」

 

 紅子はパッと花のような笑顔を浮かべる。

 

 地下の人々も、受け入れているのかもしれないけど、本当はなんとかしたいと思っているはずだ。明日、太宰さんにも話をしよう。

 

 そう決心をしていると、ぐーっと立花の腹の虫が空腹を訴えた。

 途端に顔に熱が集まっていく。

 

 「………とりあえず、ご飯にしましょうか」

 「うん、お願いします……」

 「うむ。余も腹が減ったな」

 

 恥ずかしさに俯いている横で、ラーマがお腹をさすっている。

 サーヴァントは食事を必要としないといっても、カルデアでは食堂のメニューも充実しており、サーヴァントたちも日常的に食事をしている。ラーマも習慣的に食事をとっているから癖で空腹を感じるのだろう。それにさっきの戦いで宝具を撃ったし魔力もかなり消耗しているはずだ。そろそろ休ませてあげなくては。

 

 「紅子さん、食事が終わったらラーマと一緒にどこかで寝かせてもらってもいいかな?」

 「はい。もちろんです。小部屋も空きがあると思いますし、そちらで休めますよ」

 「ありがとう。………そういえば、ここって今何時なの? ずっと夜だから時間感覚がおかしくなりそうなんだけど」

 

 ずっと暗いので気にしていなかったが、ここの人たちはどうしているのだろうか?

 疑問に思っていると、紅子は制服のポケットから手のひらサイズの懐中時計を取り出した。

 

 「えーと、今は夜の8時半くらいですね」

 「へぇ、ちゃんと時計があるんだな」

 

 ラーマが物珍しげに懐中時計を覗く。

 

 「はい。外があんなんなので、時計がないと時間感覚が狂ってしまいますから。これは地上の廃屋で拾ったんです。ここの人たちはみんな時計の時間に合わせて生活しているので、今だったらまだ、夜ご飯の残りがもらえるかも」

 「おお、それはありがたい!」

 「では遅めの夕食と洒落込もうじゃないか! 紅子、マスター!」

 

 ラーマに続いて、3人は地下空間にある食堂を目指して、談話室を後にした

 

 

 

*******

 

 

 

 「はぁ、ご飯おいしかったね」

 

 紅子に案内された小部屋で、借りた布団に横になりながら立花が呟く。

 

 「ああ、本当にご馳走だった。地下の人々も親切だし、ここはいいところだなマスター」

 「うん。ここがあの黄泉の国とは思えないくらい」

 「そういえば、何でこの特異点の地下は黄泉の国に続いているのか結局わからなかったな」

 

 ラーマが隣の布団に腰掛けて、ふと気がついたように首を傾げる。

 確かに、太宰が「後で説明する」と言って、結局何も教えてくれなかった。

 

 「マスターは、太宰のことをどう思う?」

 「え、どうしたの突然?」

 

 笑いながらラーマを見れば、いつになく真剣な目をしている。

 

 「………太宰さんがどうかしたの?」

 「聖杯の知識によると彼はマスターの国の作家なのだろう? それも近代の」

 「うん、そうだけど」

 「なら、おかしくないか?」

 「?」

 

 ラーマの言っている意味がわからず、思わず首を傾げてしまう。

 

 おかしい? 彼は今もその名が語り継がれているし、英霊となっていてもおかしくないと思うけど………

 

 「マスター、失礼を承知で言わせてもらうと、太宰治という作家は海外ではあまり知られていないのでは?」

 「え!そうなの!?」

 

 そんな、日本では有名なのに!!

 でも、そう言われると自分も近代の海外作家の名前は1人も知らないな……

 

 「それに、エジソンの例がある。近代の英霊はそれ単体ではサーヴァントとしてかなり弱い。 それもあまり海外では知られていない作家となれば、サーヴァントとして現界するには足りないのでは?」

 

 そう言われると、確かにそうだ。

 あの世界的知名度を誇るエジソンでさえ、歴代のアメリカ大統領を概念礼装として使うことで「エジソン」という概念を強化して現界している。なら当然、サーヴァントとして弱い太宰治も何かしらで存在を強化しなければ現界できないはずだ。

 

 「確かに。じゃあ太宰さんは一体………」

 「わからない。だが、彼は何かを隠している気がする。あまり信用しすぎない方がいいかもしれない。マスターはそういうのは苦手だと思うが、気を抜くな」

 「………うん。わかった。忠告ありがとね、ラーマ」

 「礼はいい。今日はもう休もう。おやすみ、マスター」

 「うん、おやすみ」

 

 そのまま電気を消してそれぞれ布団に入る。

 

 太宰さんのこと、あんまり疑いたくないなぁ。日本が誇る文豪の一人だし。

 

 疑念を打ち消すように目を瞑れば、今までの疲れが出たのかすんなりと意識が遠のいていった。

 

 

 

 

 

 

 夢を見た。

 気がついたらとても明るい世界にいた。

 そこはとてもポカポカしていて、水田が陽の光を浴びてきらきらと光り、空には小鳥たちが楽しそうに舞っている。

 

 すごい、綺麗……

 それにとても居心地がいい所だな。

 

 見惚れていると、ふと視界が揺れた。

 どうやらこの視界の人物は走っているようだ。

 

 ………これは俺の夢じゃないな。

 

 マスターである自分は、時々夢としてサーヴァントの記憶を見ることがある。これもこの視界の人物の記憶なのだろう。

 

  でも誰のだろう?

 ラーマ……?

 

 不思議に思っていると、ふと視界の揺れがおさまった。

 どうやら立ち止まったみたいだ。目の前を見ると、白い衣を纏った髪の長い女性が背を向けて立っている。その後ろ姿だけでも、彼女がとても美しく貴い人であることが自然と感じられるのだから不思議だ。

 

 思わず見惚れていると、頭の中に誰かの声が響いた。

 

 『会いたい。会いたい。愛してる。愛しております、母上――――』

 

 頭の中でこの夢の人物の強い思いがこだまする。

 それはとても情熱的で、とても家族愛にあふれていて、心地がいい感情だ。

 

 その時、視界の人物が目の前の人物の肩に手を伸ばす。すると、女性が長い髪を揺らしながらこちらを振り返り―――――――

 

 バチッ

 

 まるでその先を見るのを何かに妨害されたように視界が荒れ始め、そこで夢は途切れた。

 

 

 

 『だめですよ♡ 乙女の秘密をのぞいては』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ハッ」

 

 目が覚めると冷たい土の天井が見える。昨日ラーマと共に眠った地下の小部屋だ。

 

 さっき見た夢は一体誰の………

 それに最後に何か聞こえた気がしたけど、何でだろう。うまく思い出せないや。

 

 ふと横を見れば、隣に敷いた布団の上でラーマが大胆な寝相を披露している。

 

 さっきの夢、なんとなくだけどラーマの記憶じゃない気がする。

 でも、そうなると誰の? 

 

 夢の中でチラッと見えた視界の人物の手は、大きくてガッチリとした男のもののようだった。そうなると紅子さんではないし、太宰さんの手はガッチリというよりは細くて綺麗めな手だった。

 

 ………じゃあ、あれは一体?

 

 「うーん」

 

 布団の上で考えていると、隣のラーマが唸りながら瞼を上げる。

 

 「……マスター、早いな」

 「おはよう、ラーマ。あのさ、さっき夢を」

 「んー………ん? 何か言ったか?」

 

 ラーマは朝が弱いのか、目を瞑ってふらふらとしながら手探りで布団を畳んでいる。

 

 ………眠そうだし、夢のことは言わなくていいか。本当にただの俺の夢かもしれないし。

 それより考えなきゃいけないことは山積みだ。通信の回復に、襲ってきた殺し屋、それに太宰さんのこと………

 差し当たってはまず、3日後の満月になる前に敵を倒す方法を考えないと!

 

 そうと決まったら早く朝の準備を整えなくては。立花は自分の布団を仕舞うと、眠そうにしているラーマを覚醒させるべく肩をゆすってみる。

 

 「ラーマ、ちゃんと起きて! 早く準備して敵を倒す方法を考えないと!」

 「うん? うん、わかったわかった………」

 

 そう言いつつも、まだうつらうつらと体が揺れている。

 これはわかってないやつだ。だが、そう悠長にもしてられない。

 

 「ラーマ、許せ」

 

 これから俺は心を鬼にして、嘘をつきます。

 

 立花は最終手段に出るべく、息を吸い込んでラーマの耳元に口を寄せた。

 

 「………………あ、シータだ」

 「何!? シータ!!」

 

 途端、さっきまでが嘘のように軽やかに飛び起きる。

 

 これが、立花が考えた対ラーマ特攻の目覚まし宝具だ。

 そのあと、機嫌を損ねたコサラ皇子と一悶着あったのだが、それはまた別のお話。

 

 

 

 

 

*********

 

 

 

 「はい、次! 味噌汁のお代わりがいる方は?」

 「はい!」

 「あ、紅ちゃん俺も!」

 「私にも一つちょうだい!」

 「あ、僕も!」

 「みなさん、順番に行きますのでお待ちくださいね!」

 

 朝の食堂はそれは凄い賑わいを見せていた。

 立花とラーマは食堂の端の席に座り、その盛況ぶりに圧倒させられている。

 昨日夕食を分けてもらったときは、ピーク時を過ぎていたこともあり食堂の中は割と空いていたのだが、朝は地下にいる人が一気に集中するのか、席はすべて埋まってしまっている。

 厨房の中を見れば数人が忙しなく駆け回っており、紅子も当番なのかおかわりの鍋をもって食堂内を歩き回っている。

 

 「すごいね。カルデアの食堂よりも賑ってるんじゃない?」

 「ああ、ここが死者の国だということを忘れそうになる光景だな」

 「仕方ないさ。人は死んでもお腹が空くものなんだ。本物の黄泉の国にも食べ物はあるしね」

 「!」

 

 後ろを振り返ると、紺色の着流しを纏った長身の男性―――太宰の姿がある。

 

 「太宰さん! おはようございます」

 「おはよう、藤丸君にラーマ君」

 「ああ」

 

 挨拶を済ませて太宰を見れば、定食の乗ったトレーを手に持っている。これから朝食のようだ。

 ちょうどその時、立花達の隣で食べていた地下の住民がタイミングよく立ち上がる。

 

 「太宰の旦那、もう食べ終わったんでここ使ってください!」

 「おや、いいのかい? それじゃあ遠慮なく」

 

 気さくな男性が座っていた席に太宰が腰を掛けると、ラーマが少し警戒したように口を開く。

 

 「さっきの、本物の黄泉の国とはいったいどういう意味だ? ここは偽物なのか?」

 「さぁ、それは秘密だ。良い男はあまり語り過ぎないものさ」

 

 太宰は茶化すようにそう言うと、みそ汁を一口すする。

 

 「誤魔化すな。そう隠し事をされるとこっちも信用できんぞ」

 「ちょ、ラーマ!」

 

 太宰の態度に痺れを切らしたのか、ラーマの口調が強くなる。

 気持ちはわからないでないが、今衝突するのはまずい。幸い、こちらの会話は食堂内の喧騒にかき消されて他の人には聞こえていないようだからまだいいが………

 立花が間に入ろうと立ち上がりかけると、太宰が手でそれを制した。

 

 「確かに、私という男は自分でも得体のしれないと思ってるぐらいだ。ラーマ君が警戒するのも仕方がない。だが………」

 

 太宰はそこでコーヒーを一口すすると、コップを置いて顔を上げた。その目はいつもより真剣だ。

 

 「私は、君たちが黒幕を倒してくれるというならできる限り協力したいと思っているし、諦めてせめて最後まで楽しく過ごしたいというのなら歓迎する。そのつもりだ」

 「太宰さん………」

 「では、お前も一緒に戦ってくれるということか?」

 「いや。悪いが、それは出来ない」

 

 そこまで協力的な姿勢を見せていた太宰が首を横に振る。

 

 「何故だ? 余はツクヨミを倒したいと思ってる。協力してくれるのではないのか?」

 「私は作家だ。作家に戦力を期待されても困るよ」

 「確かに。………でも、太宰さんは俺が知ってる通りの作家太宰治じゃないよね?」

 

 そこで太宰は一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐにいつものように笑みを浮かべた。

 

 「なぜ、そう思うんだい?」

 「だって、あなたは近代を生きた作家だ。時代が新しすぎてサーヴァントして現界出来ないくらい弱いはずです」

 「弱いとは言ってくれるねぇ。

 …………まぁ、確かに私は他の人の力を借りて現界している。だから本来の私よりは戦えるだろう」

 「やはり! じゃあ一緒に………」

 「だが、それも万全の状態での話だ」

 

 そう言うと、太宰は着流しの襟元を緩めた。

 

 「えっ」

 「これは………」

 

 着流しから覗く太宰の胸元には、血の滲んだ包帯が巻かれていた。血の量から察するに、かなり大きな傷のようだ。

 

 「この通り、私の霊基はボロボロでね。戦闘では役立てそうにないのさ」

 「そんな。この傷どうしたんですか?」

 「そうだなぁ。君たちの信用を得るために私の秘密を一つだけ教えてあげよう」

 

 太宰は着流しを直しながらそう言うと、まだあまり食べていないトレーをもって立ち上がる。

 

 「だが、続きは私の部屋でしようか」

 

 

 

******

 

 

 

 太宰に連れられて食堂を後にした立花たちは、奥の通路の先にある太宰の部屋へと来ていた。

 部屋の作りは立花達が眠った部屋と大差はないが、本棚とデスクが置かれており、いかにも書斎と言った感じだ。太宰に促されて近くの椅子に腰を掛けると、太宰もデスクの椅子に座り話し始める。

 

 「では、私の秘密を教えてあげよう」

 「お願いします」

 「そうかしこまらなくてもいいが。

 実は私、ツクヨミに召喚されたサーヴァントなんだ」

 「え」

 「は」

 

 世間話でもするように軽い感じで太宰が自身の秘密を明かす。

 

 「ツクヨミは聖杯を使って5騎のサーヴァントを召喚した。そのうちの一人がこの私というわけだ」

 

 確かに、今までの特異点でも黒幕のサーヴァントが聖杯を使って新たなサーヴァントを喚び出すことは何度かあった。そう考えるとそこまで驚くことではないのかもしれない………が、その場合はたいてい喚び出された者は黒幕側だ。

 

 「太宰さんは、ツクヨミ側のサーヴァントなの?」

 「まさか! 私は彼と契約もしていないし、私は彼から逃げて来たんだよ」

 

 よかった。まぁ、明らかにツクヨミの結界から人々を守っているし仲間でないとは思っていたけど、わかってたとは言え確認せずにはいられなかった。

 

 「それじゃあ、他の4騎のサーヴァントはどこにいるんだ?」

 「彼らはみんなツクヨミに倒されて聖杯へくべられたよ。喚ばれてすぐにツクヨミに襲われたから、彼らの名前まではわからないが」

 「聖杯に………まるで聖杯戦争みたいだな」

 

 ラーマが考え込むように呟く。

 なるほど、ツクヨミは聖杯にサーヴァントをくべて願いを叶えようとしているのだろう。

 

 ………あれ、でもそれだとなんかおかしいような?

 

 「そんなわけで、私以外はみんな倒されてしまった。逆に私が倒されない限りツクヨミの願いは成就しない。そう考えた私………というか私の中にいた存在が力を使って何とかこの黄泉の国に逃げることができたという訳さ。まぁ、その力は私の脆弱な霊基には強大過ぎて、こうしてボロボロになってしまったわけだが」

 「その存在というのは?」

 「それはプライバシーにかかわるので秘密だ」

 

 太宰は人差し指を口に当て、誤魔化すようにニコリと笑う。

 どうやら彼の中にいる存在に関してはどうしても話したくないようだ。今はあまり詮索しない方がいいのかもしれない。

 

 「では、太宰は余たちの味方と考えていいのだな?」

 「ああ、もちろん。私はツクヨミに狙われているからね。今だって人々を操って私を探させているし」

 

 なるほど、昨日の夜「人々を使って探させている」と言っていたのは太宰のことだったのか。だとしたら、例え万全の状態でも地上に出るのは危険かもしれない。なぜなら太宰がツクヨミに倒されたが最後、ツクヨミの願いが叶ってしまうのだから。それがわかっているから彼はこの地下に閉じこもっているのだろう。

 

 「というのが私の事情だ。力も使いきってボロボロの私には、ツクヨミを倒すことができない。君たちが代わりに倒してくれるというのなら、願ってもないのだが」

 「倒します! 必ず、俺たちがこの特異点を救ってみせます」

 「ああ、マスターの言う通りだ」

 「ありがとう」

 

 そう言うと太宰は優し気な笑みを浮かべる。

 が、次の瞬間ニコリとわざとらしい笑みを作ると立花達を見つめた。

 

 「と、このように私は自身の秘密を一つ明かしたわけだ。次は君たちの番では?」

 「え? ヒミツと言われても俺たちは何も………」

 「実は君たち、名前以外に私に何も素性を明かしていないのだが?」

 「あ」

 

 言われて見れば確かに。地下に来た時に色々と衝撃過ぎて名前ぐらいしか自己紹介していなかった。

ラーマを見れば顔を真っ青にしている。大方、「自分のことは棚に上げて滅茶苦茶疑っちゃった」とか考えているのだろう。全くその通りなのでフォローできないが。

 

 「すみません! あの、俺たちは」

 「カルデアってやつかい?」

 「! 何で知ってるんですか!?」

 「実は、ツクヨミの教会の中にいた神父が「カルデアを倒す」とか言っているのが聞こえたからてっきり君たちがそうなのかと思ってね」

 「神父だと!」

 

 太宰の言葉を聞いて、ラーマと二人顔を見合わせる。

 カルデアのことを知っている存在は、白紙化された地球では今や限られた存在のみだ。クリプター、それに異星の神。その中で神父と言えば一人しかいない。

 

 「ラスプーチン……!」

 「ラスプーチンって、あのロシアの?」

 「ああ、そうだ。奴は異星の神の手下で、我々カルデアと敵対しているんだ」

 「………詳しく聞かせてもらえるかい?」

 

 

 

 

 

*******

 

 

 

 「なるほど、汎人類史を守るために戦っているのか。白紙化に異聞帯に異星の神………君たちは相当な数の修羅場をくぐって来たみたいだね。今回の特異点はその異星の神側の仕業というわけかい?」

 「恐らくそうだと思います。そう考えるとあの殺し屋の女の子もラスプーチンに雇われたのかも」

 「殺し屋の女の子?」

 「紅子さんと出会った直ぐ後に地上で襲われたんです」

 「神父の隣にマントを被った子供がいるのは見たが、その子のことかな? まさか女の子だったとは」

 

 太宰は意外そうに目を丸めている。

 

 それにしても改めて考えると不思議だ。

 昨日は太宰のことを疑っていたのに、今ではすっかり打ち解けてお互いの事情を話し合っている。まぁ、太宰さんはまだ隠していることがあるようだが、それでも今は自然と信用したいと思っている。これが彼の生前からの魅力なのかもしれない。

 

 「太宰さん、色々話してくれてありがとうございます」

 「こちらこそ。何か協力して欲しいことがあれば言ってくれたまえ。気が向いたら聞いてあげよう」

 「気が向いたらじゃ困りますよ!」

 

 自然と笑みが溢れる。どうやら太宰は冗談めいた言い回しが好きなようだ。

 

 「それじゃあ、そろそろ戻るか。紅子に相談して地上に出れないか聞いてみよう。地上に行けば、何かツクヨミの弱点を知る手がかりがあるかもしれないしな」

 「そうだね。太宰さんはそういうの心当たりがないんですか?」

 「………ないね。見当もつかないとも」

 

 一瞬の間の後、太宰が首を振る。

 

 「そういえば、紅子さんはこの話知ってるの?」

 「いや? 話したのは君たちが初めてだよ」

 「紅子にも話しておいた方が良かったのではないか? 月光にも耐性があるようだしツクヨミを倒すのに必要な存在になるだろう」

 

 ラーマの言葉に、太宰が顔を曇らせる。

 

 「どうしたんですか?」

 「いや、紅子のことなんだが、本人から彼女自身のこと何か聞いたかい?」

 

 ラーマと顔を見合わせ、昨日の記憶を呼び戻す。

 

 「確か記憶喪失って言ってたね。自分のことはわからないって」

 「紅子という名前は太宰が付けたって言ってたな」

 「ああ、私が適当につけたとも」

 「適当って…」

 

 立花が呆れながら太宰を見ると、思いの外真剣な顔で何かを考え込んでいる。

 

 「太宰さんは紅子さんが何者か知っているの?」

 「いや。正直私も全くわからない。ツクヨミが呼んだサーヴァントの中にはいなかったし、そもそもこの特異点はツクヨミの結界にすっぽりと覆われているから、土地に呼ばれてサーヴァントが現界することは本来ならないはずなんだ」

 「え、それじゃあ紅子さんはどうやってこの特異点に…?」

 「わからない。少し前に地上に食料を取りに行っていた人々が彼女を拾って来たのだが、彼女はとにかくよくわからないんだ。良い子なのはわかるのだが、味方とは限らない。くれぐれも用心したまえ」

 

 確かに、この特異点で未だに彼女だけ素性がわからない。それでも、今まで立花たちに向けてくれた笑顔を疑いたくはない。

 

 太宰の忠告を受け取り、立花達は部屋を後にした。

 




最後までお読みいただきありがとうございます。
次回も投稿するつもりなので気長にお待ちいただけると幸いです。
モチベ向上のために気軽にコメントいただけると嬉しいです!

今作はpixivの方にも挿絵付きで上げています。
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