【二次創作】Fate Grand Order 〜英霊が生まれる時〜   作:麻宮鈴

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シリーズ9作目です。

(あらすじ)
敵の正体が悪魔と神の混ざりものだと知り、早々に無理だと諦めてしまった太宰。
しかし、太宰治というサーヴァントの存在を補強するために、彼の中にいる存在の力が唯一敵を倒すヒントにつながるはずだ。そう考えた藤丸たちはラーマ、紅子とともに太宰の後を追いかける。
一方、太宰は胸の中に様々な秘密と苦悩を抱えていて―――――

「恥の多い生涯を送って来ました………………なんてね」


【閉塞特異点】邪光降臨神島 壱岐 〜古き神と月満ちる刻〜 第7節 太宰治

第7節 太宰治

 

 「俺たちは諦めるわけにはいかないんだ。何とかしてツクヨミ―――サリエルを倒さないと!」

 

 

 月が満ち、人々を支配する月光が最大になるまで今日を入れてあと三日。そうなればこの特異点は完全に敵の手に落ち、自分たちの敗北が確定する。

 その前に何とかして敵を倒さなければならない。

 

 「でも一体どうするんですか? 相手は悪魔と神の混ざりものなのでしょう。そんな存在にどうやって挑めばいいのか………

 太宰さんも行ってしまいましたし………」

 「キュウ………」

 

 紅子の不安に呼応するように、彼女の傍らに浮かぶ謎の生物タマちゃん(命名・紅子)が力無く鳴く。

 

  「そのことなんだが、太宰は確か、以前ツクヨミから逃げ延びたと言っていたよな?」

 「あ、確かに言ってたね」

 

 立花はラーマの言葉に肯定しつつ、以前太宰が話してくれた内容を思い出す。

 

 

 『逆に私が倒されない限りツクヨミの願いは成就しない。そう考えた私………というか私の中にいる存在が力を使って何とかこの黄泉の国に逃げることができたという訳さ。まぁ、その力は私の脆弱な霊基には強大過ぎて、こうしてボロボロになってしまったわけだが』

 

 

 

 「太宰さんの中にいる存在の力を使ったとか言ってたっけ」

 「だとしたらその力にツクヨミ………便宜上『ツクヨミ・サリエル』と呼称するか。

 やつを倒すヒントが隠されているかもしれないな」

 「! 確かに、ラーマの言う通りかも!」

 「あ、あの!」

 

 敵を倒す手がかりを掴みかけテンションが上がっている立花とラーマとは裏腹に、紅子は困惑したように眉を顰める。

 

 「そんな話聞いたことがないのですが………」

 「あ」

 

 

 『そういえば、紅子さんはこの話知ってるの?』

 『いや? 話したのは君たちが初めてだよ』

 

 太宰さんは素性がわからない紅子さんを警戒して、この話はしていないと言っていたっけ。

 

 迂闊だったとはいえ、今はそれぐらいしかヒントがないし、紅子に話しても問題ないだろう。

 

 「実は太宰さんは以前ツクヨミ・サリエルと会ったことがあって、力を使ってここまで逃げてきたらしいんだ」

 「そうだったんですね………知りませんでした。

 確かに太宰さんは秘密主義なところがありますからね」

 

 紅子は笑ってはいるが、少し悲しそうに目を伏せる。

 そんな様子を見て立花とラーマは、慌てて口を開く。

 

 「別に気にすることはないよ! 太宰さんがうっかり話し忘れてただけかもしれないし………ね、ラーマ!」

 「ああ、マスターの言うとおりだ! 気にする必要はないぞ、紅子!」

 

 自分にだけ話されていなかった事実に暗い気持ちになっていたが、二人の必至な様子に思わず紅子は顔を綻ばせる。

 

 「お二人とも優しいのですね。でも、いいんです。太宰さんが私を警戒しているのはなんとなくわかりますから。自分でも自分が何者なのか、悪い人間なのか良い人間なのかわかりませんし………むしろ素性のわからない私に名前をくれてここに置いてもらっているだけでも感謝してもしきれません」

 「紅子さん………」

 

 紅子の言葉を聞いて立花は胸が痛むのを感じた。

 自分はおそらく彼女の真名を知っている。

 彼女の言動と先の戦いで使っていた力、月光への耐性、それらを鑑みても自分の予想は間違っていないだろう。

 もし彼女に真名を告げ、サーヴァントとしての本来の力を完全に取り戻したのならこの状況を打破することができるかもしれない。

 だがそれでも立花は彼女に真名を告げることができずにいた。

 

 悪か、善か。

 

 彼女が自分で言うように、立花もサーヴァントとしての彼女の性質を見極めきれずにいる。

 

 だって彼女の正体は自分たちとは違う、もっと別の………

 

 今はまだ伝えるべきではない。

 他に手段がなくなった時、その時までは胸にしまっておこう。

 

 「それに、太宰さんは怖がりな人ですから、素性の知れない私に話すのを避けたのでしょう」

 「太宰が怖がり? そんな風には見えなかったが?」

 紅子の言葉にラーマは首をかしげる。

 確かに太宰さんは怖がりというよりは臆せず誰にでも話しかけていくような好奇心旺盛な性格だと思っていたのだが。

 

 「確かに、太宰さんは気さくで地下の人たちともよく楽しそうに話しています。ですが、いつもどこかで怖がっているような、そんな感じがするんです」

 「怖がってる、か………」

 

 思えば、太宰さんは自分のことを極力話すことを避けていた。

 特に自分の中にいる存在について。

 

 自分の中にいる存在を知られるのが怖いのか?

 

 わからない。でも、この状況を打開するためには彼の力に、ツクヨミ・サリエルから逃げることができたその方法に賭けるしかない。

 

 「今は、太宰さんが頼りだ。みんなで追いかけて、もう一度話をしよう」

 「そうだな」

 「はい」

 

 三人は頷き合うと、太宰の歩いて行った方向へ足を踏み出した。

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 『恥の多い生涯を送って来ました。

 自分には、人間の生活というものが、見当つかないのです。』

 

 『つまり、わからないのです。隣人の苦しみの性質、程度が、まるで見当つかないのです。』

 

 『そこで考え出したのは、道化でした。

 それは、自分の、人間に対する最後の求愛でした。自分は、人間を極度に恐れていながら、それでいて、人間を、どうしても思い切れなかったらしいのです。』

 

(太宰治『人間失格』第一の手記より抜粋)

 

 

 

 

 立花たちと別れ、自分の書斎へ向かって冷たい地下の道を進んでいく。

 地下道には明かりがつけられているというのに、今日はいつもより道が暗く感じる。

 

 無理だ。自分には無理だ。

 

 既に霊基はボロボロで、取り繕った心も粉々に壊れてしまいそうだ。

 今は誰にも会いたくない。早く自分の書斎で書物でも読んで気を紛らわそう。

 そう考えながら足を速める。

 しかし、前から聞こえてくる足音に気が付くとすぐさま道化のように顔に笑顔を張り付ける。

 

 「あ、太宰さんだ!」 

 「太宰さん、こんにちは!」

 「やぁ、こんにちは」

 

 足音の主は太宰が地下に避難所を作った時からいる幼い兄妹だ。

 両親はすでに月光に操られ、地下にいる人々が彼らの親代わりをしている。

 太宰もそんな人々をマネて、兄妹を見かければ気まぐれにちょっかいをかけ、お菓子を与えたりしていた。名前は確か………

 

 「タロウとサチコだったっけ」

 「風太とのぞみだ! 全然あってねぇーじゃん!」

 「アハハ、そうだったそうだった」

 「もう、だざいさんったら」

 

 あえて違う名前を呼んで、兄である風太が突っ込んで妹ののぞみが笑う。それが彼らに会った時のお決まりのやり取りだ。

 

 「もうご飯は食べたのかい?」

 「うん、たべたよ!」

 「そうかい、美味しかったかい?」

 「うん、すっげぇ美味かった!」

 「………おとうさんとおかあさんにも、たべさせてあげたかったなぁ」

 「おい、のぞみ………」

 「………」

 

 月光に操られた人々は、月光の力なのか飲み食いせずとも生き永らえている。だから彼らの両親はまだ地上で生きているだろう。

 だが、あと三日でこの特異点は終わりを迎える。

 彼らが正気に戻った両親と会うことはもう永遠にできない。

 その悲しみがどれほどのものか、太宰には理解できないが、それでもそれがとても悲しいことだというのはわかる。  

 

 慰めてやらないと。

 

 そう思い手を伸ばすが、のぞみの言葉にピタリと止まる。

 

 「あのね! もうすこしでおとうさんとおかあさんにあえるんだよ!」

 「え………」

 「のぞみ!」

 

 兄の制止を聞かず、のぞみの目は希望に輝いている。

 

 「だってね、ふじまるさんがやくそくしてくれたの! ぜったいにみんなをたすけるって!」

 「藤丸くんが………」

 

 さっき別れた少年の顔が思い浮かべる。

 まさかこの子たちとも仲良くなっていたとは。

 

 「ふじまるさんとラーマさんはね、たくさんせかいをすくうためにぼうけんしてきたんだって!」

 「なぁ太宰さん。こんな状況を何とかするって、子供の俺でも難しいことだってわかる。

 でも、太宰さんと藤丸さんたちなら………」

 「……………」

 

 兄妹の目は期待に満ちていた。

 自分がさっき無理だと切り捨てたことを、この子たちは望み、自分たちに期待してくれている。  

 

 やめてくれ。

 私にはそんなことできっこないんだ。

 

 そんな心の声を押し込んで道化のように笑顔を浮かべる。

 

 「そうだね」

 

     期待しないで。

 

 「そうなったら」

 

     頑張りたくない。

 

 「どれほど」

 

     怖い。

 

 「素敵だろうね」     

 

     期待に沿えないことが怖い。

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 それは突然のことだった。

 

 

 いきなり声が聞こえて、気が付いたらこの特異点にいた。

 そりゃあ驚いたさ。

 自分はサーヴァントとしてはひどく弱く、こんな風に実体をもって召喚されることはないと思っていたのだから。

 せっかく実体を持てたならおいしいものでも食べて、美しい景色を肴にお酒でも飲めたら最高だ。

 そんなことを考えながら目を開けた。

 だが、次に目に飛び込んできた光景を前にして驚きは絶望へと変わった。

 

 突然始まった戦争。

 これが聖杯戦争というやつだと聖杯から与えられた知識で理解した。

 だがそれは戦争というにはあまりに一方的で、異常な光景だった。

 そこには自分を除いて4基のサーヴァントとそれに対峙している1基の強大な何かがいた。

 マスターらしき人物は見当たらない。

 4基のサーヴァントは争う様子はなく、皆一様に瞳を金色に輝かせ、ぼーっとした様子で強大な何かを見つめているばかりだった。

 

 何かがおかしい。

 

 そうは思いつつも、強大な何かはなぜか私には気がついていない様子だったので、私はとっさに物陰に隠れてその様子を見つめていた。

 

 ―――――え

 

 しばらくして4基のサーヴァントは、それぞれの武器を取り出すと、徐に自分の体へ突き立てた。

 ある者は首を落とし、ある者は心臓を貫き、ある者は腹を裂き、ある者は頭を打ちぬいた。

 

 は? 何だこれは?

 こんなの聖杯の知識と違う………

 こんなまるで操られたかのように自分でリタイヤするなんて………いや、これは操っていたんだ!

 あの十字架の下に座る、おぞましく強大な何かが!

 

 その時、私は私の中に別の存在がいることを知覚した。

 それと同時に、私の中の存在の声が聞こえたんだ。

 

 『目くらましも限界に近い。お前に私の力の一部を与えた。その力を使って、何としてもこの場を逃げ延びろ』

 

 何もわからない私は、ただこの場で死を迎えることが恐ろしくて、その言葉に従って無我夢中で力を使った。

 

 

 

 

 「はぁ、はぁ、はぁ」

 

 息が上がる。

 暑いのに寒い。

 霊基が悲鳴を上げているのがわかる。

 

 「ちょ、どういうことだい、あなたの言う通り力を使ったら死にそうなんだが!」

 

 自分の中の存在に向けて抗議すると、再び声が頭の中に響く。

 

 『ふむ、思ったよりお前の霊基には私の力は強すぎたようだな。至急黄泉の国へと行き、そこで療養するとしよう』

 「え、黄泉の国って、あの日本神話のかい?」

 『ああそうだ。あくまで奴の攻撃を防ぐための工房?概念礼装? まぁその辺のことはよくわからないが、本物に似せたこの特異点限定の黄泉の国だ。行き方はわかるようにした。

 あとは、期を見てやつを倒せ』

 「は? いや、私にどうしろと? この体はあげますからあなたが戦えばいいでしょう!」

 『それでは駄目なのだ』

 「なぜ?」

 

 私は死にかけの状態ということもあり、私の中にいるあの方に対して丁寧な言葉を作る余裕もなく疑問をぶつけた。

 

 『この霊基では、お前の、太宰治の宝具がなければ奴を倒すための私の宝具が使えないのだ。私の宝具は実体がある。だからお前に貸し与えることができるが、お前の宝具はお前にしか使えない。この意味が分かるだろ?』

 「っ!」

 『私はこれで眠る。もうお前に語ることもない。私の自我がお前の中にいるだけでもこの霊基には荷が重いからな』

 「待ってくれ! 私は!」

 

 ………………

 

 「………………人間失格の私なんかに、そんな大役託さないでくれよ」

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 幼い兄妹と別れた後、沈んだ気持ちで書斎の椅子に腰かける。

 

 あの日、この特異点ができた日、私はツクヨミに召喚されて、でも私の中にいた存在の力を使ってここまで逃げてきた。

 力を使ってボロボロになった霊基は、回復してきてはいるが全快とは程遠い。

 正直、あの日以降眠りについた私に力を与えた存在の見立ては間違っていない。

 仮に霊基が回復し、私の宝具を使えばこの霊基に分不相応な借り物の宝具も使うことができるだろう。

 そう、私のあの地獄のような宝具さえ使えば………

 

 「………恥の多い生涯を送って来ました。なんてね」

 

 およそ自分はダメ人間で、とても人さまに話せるような人生を送ってこなかった。

 

 どうして私なんかにこんな力を与えたのだろうか。

 愛がわからず、人も自分も傷つけてばかりで、こんな私では到底英雄になんかなれやしないのに。

 

 なのにどうして、自分はまだここにいるのだろう? 

 




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