「久々に姉妹全員揃ってのお食事だなんて……とっても幸せです!」
きっと―――いや、その言葉に嘘偽りがないのは姉の顔を見たら明らかだ。表情が緩みに緩みまくった姉は楽しくて仕方がないと言わんばかりで、後ろに付いて歩く私たち姉妹を早く来いと手招きしながら一番に食堂へと足を踏み入れた。
「せっかくですし…!こうなったら奮発して、みんなですき焼きを食べましょう!」
長女でありながら姉妹の誰よりもはしゃいでいる姉の姿を見ると、ついこっちも嬉しい気持ちになってくる。そして姉は食堂のカウンターで「すいませーん!すき焼き定食を姉妹分お願いしまーす!」と大声で注文し、ルンルン気分で腕を振りながら私たち姉妹の座るテーブルまで戻ってきた。戻って来るや否や「今日は奢っちゃいますっ」と得意気だ。
「フフフ、なんと間宮さんの計らいでカセットコンロと鍋も拝借出来ちゃいました!これで一緒に鍋をつつきながら、姉妹水入らずでご飯…!感激です!」
余程嬉しかったのか、姉は興奮冷めやらぬ様子でそう語り、まだかな~まだかな~とソワソワしながらすき焼きが運ばれてくるのを待っていた。
いや、本当に…。
「あ、待ち遠しくてつい体を揺らしてしまいました!」
私たちの姉…朝潮は本当に―――
□
今日は珍しく朝潮型全員が非番。しかもみんな特に予定もなかったので、朝潮姉たっての希望で私たちは食堂を訪れた。
「うーんたくさん食べたら眠くなってきました…」
いくら共同生活を送っているとはいえ、こうして姉妹全員揃ってご飯を食べられるなんてなかなか無い機会だ。朝潮姉はもちろんのこと、他の姉さんたちも嬉しそうだし、かくいう私も内心嬉しくてたまらない。「霞はなんだか難しい顔をしてますね…」なんて言われたけど、ほんと嬉しくって仕方ないったら!
「…ZZZ」
姉妹ですき焼きをつつきながら、たわいのない話に花を咲かせていた時、気が付くと朝潮姉がテーブルに突っ伏していた。そしてよく耳を澄ませるとすうすう寝息を立てている。
「きっと楽しかったのね。一番はしゃいでいたもの」
誰かがポツリと言った言葉にみんな納得した。そして子どものようにスヤスヤ眠る長女を姉妹全員で優しく見守りながら、あともう少ししたら帰ろうかなんて話していた時だ。
「あら、陽炎型もみんなでご飯なのかしら?というかやっぱり陽炎型ともなると大所帯だから賑やかね~」
ふと食堂が騒がしくなったので、食堂入り口に目を遣る。どうやら陽炎たちがご飯を食べに来たようだ。陽炎を筆頭に陽炎型の面々が楽しそうにお喋りしながら食堂へとなだれ込んでくる。
「…あらあら、私たちみたいに仲が良いのね~。…さて、私たちもすき焼きをご馳走になったわけだし、そろそろ朝潮姉さんを起こしてお暇しましょうか」
テーブル席に座り、ワイワイガヤガヤと賑やかな陽炎ご一行。ちょっとうるさいくらいに仲睦まじい陽炎型を見て、やっぱり姉妹艦はどこも仲が良いんだなと思いながら、スヤスヤ寝息を立てる朝潮姉を見る。
陽炎型ほどに大所帯ではないが、それでも仲の良さなら朝潮型だって負けてはいないだろう。それに……比べるわけじゃないけど、やっぱり私たちの姉は朝潮姉以外にありえないんだから…!
「そうね…朝潮姉を起こして帰りましょうか」
食堂も騒がしくなってきたし…!朝潮姉を起こして部屋にでも戻りますか。ついでに二次会でもしちゃう?とそんなことを考えながら朝潮姉を起こそうとした―――そんな時だ。
「………?」
急に食堂が静かになった。それまでの騒がしさが嘘のように静まり返った。
「どうしたのかしら?」
「さぁ…」
姉さんたちも急に陽炎たちのうるさいくらいの声が聞こえなくなったのを不思議に思っているようだった。
でも…突然の静寂にはもちろん理由があった。
「…あー、なるほど」
答えは陽炎たちの見つめている視線の先にあった。
「………」
静まり返った食度にわざとらしく大きな足音を響かせて入って来たのは夕雲―――そして彼女の後ろには彼女の姉妹たち。
夕雲を先頭にまるで行進するかの如く食堂へとやって来た彼女たちを陽炎型の面々は見たこともないくらいの怖い顔で睨みつけている。
陽炎型が静かになったのも尤もだ。
「…なんか出て行きにくくなっちゃったわね」
陽炎たちの陣取る席から大分離れたところに陣取った夕雲型。お互い牽制するかのように最初は睨み合っていたが、その内目を合わせずぞれぞれ食事を始めた。
もちろん会話なんてない。
どうしよう…この殺伐とした空気。耐えられないったら!
そして助けを求める様に朝潮姉を見るが……
「…ぐぅぐぅ」
朝潮姉は呑気に寝息を立てるだけだった。
□
陽炎型と夕雲型が発するギスギスした空気にせっかくの姉妹水入らずの楽しい思い出を台無しにされながらも、私たち朝潮型はその場(食堂)から出るに出られなくなっていた。
「………」
「………」
カチャカチャと食器の音がするだけで、姉妹で会話なんて無し。殺気だった空気とお互いに視線を合わせないように下を向いて食事をする陽炎型と夕雲型を前にどうすればいいかなんて分からなかった。
でも…事態は急展開を迎える。
「…司令は巻雲たちとご飯を食べるんですぅ~」
「だーめッ!!提督は舞風たちと一緒にご飯食べるの!」
「うわあっ!!裂ける裂けるぅ!」
…いつの間にか食堂に来ていたクズ、もとい司令官が原因でそれまで冷戦状態だった陽炎型と夕雲型が実力行使に踏み切ってしまった!
司令官は左側を巻雲たち夕雲陣営に引っ張られ、右側を舞風たち陽炎型陣営に引っ張られ今にも引き千切られそうだったら!
「このぉ!!」
「おりゃあ!!」
先程までの静けさが嘘のよう…。嵐に浦風、朝霜と長波なんか掴み合い寸前で一触触発じゃない!大乱闘に巻き込まれる前に撤退!撤退よ!!
「この際はっきりさせましょう!?提督は夕雲たちとご飯食べたいですよね!?」
「そんなことないよね!?司令は私たち陽炎型とご飯食べるよね!?」
遂には陽炎と夕雲まで司令官の綱引きに加わって…あぁ!もうクズが裂けそうじゃない!
そしてこの混乱に乗じて食堂から撤退しようとしたら………
あのクズ、とんでもない爆弾を落としてくれたったら!!
「俺は……」
「なんですか!?提督は夕雲たちの方が好きですよね!?」
「ううん、嘘言わないで!?陽炎型だよね、司令が好きなのは!?」
「お、俺は……俺は!!!」
「俺は朝潮型が好きだ!!!」
…………???
……?
…!?!?!?
はぁッ!?
「はあああああッ!?」
思わず叫んでしまった。
そして私の大声をきっかけに再び静かになる食堂。
「………」
「………」
…何を言ってるのか分からないって顔をしていた陽炎と夕雲、そして彼女の姉妹たちは最初は呆然としていた。
けど、え、なんかこっちを見てる…?
そしてこの際恥とかどうでもいいから食堂から姉妹を連れて早々に退散しようとした…したのに!
「…感激しました」
なぜかこんな時に限って……
「この朝潮、司令官の為なら……」
あーもう!めちゃくちゃだったら!
「なんだって出来ちゃいます!」
…そう言って、朝潮姉(他人)はクズの元へと走って行ったわ。
「…あうっ!?」
けど、うたた寝した後だったから、辿り着く前に転んで顔面を床に強打したんだけどね…。