明けましておめでとうございます!
新年とともに心機一転頑張ります!
「あの人使徒聖じゃない! 聞いてないよ、璃洒ちゃん!!」
「うん。だってウチは相手を呼ぶとは言ったけど、具体的に誰を呼ぶとは言ってないもん」
「だからって…………」
「問題ありませんわ」
「え!?」
「へぇ」
ミスミスが驚くのも無理はないだろう。
天帝の直属護衛であり、帝国の最高戦力でもある使徒聖のネームレスを相手に『問題はない』と言ったのだ。
不遜としかいいようのない物言いに、璃洒は面白そうな笑みを浮かべた。
──────その刹那。
シスカは左手をミスミスの眼前に差しだし、何かを指で掴んだ。
ほぼ完全に近い透明の刃をシスカは造作もないように完璧なタイミングで受け止め、あろうことかそれを粉々に砕いたのだ。
『…………ほう』
さすがのネームレスでも感心したような声音で反応を示す。
「ひっ…………!!」
ミスミスは短い悲鳴をあげかけるが、シスカが唇の前で指を立て静かにするように促す。
そして、シスカはミスミスの耳にそっと耳打ちする。
「…………」
「…………えっ。でも、そんなこと…………」
「…………」
「…………うん。分かったよ」
シスカは満足のいく答えを得られたことに満足し、ミスミスから離れネームレスの立つフィールドに向かう。
ネームレスから十数メートル離れた位置に立つと、ネームレスがゆっくりと口を開ける。
『手を抜いたつもりはなかったが、よく止めたと誉めてやろう。尤も、それで貴様をすぐに入隊させるというわけにはいかんがな』
「というと全力であの程度だと? 虫が飛んでいると錯覚してしまうところでしたわ」
『言ってくれるな。それほどの大口を叩けるならば、腕の一本や二本は使い物にならなくなるという覚悟はあるのだろうな』
「あなたこそ、
『貴様…………』
イスカ達から貰った予備のベルトに固定した一対の剣を抜き、構えるシスカ。
試合開始の合図など無粋、そう言わんばかりに一気に距離を詰めたネームレスの拳がシスカの顔面に容赦なく迫る。
それを黒鋼の剣でなんでもないように払いのけ、コマのように大きく回転。
ネームレスの首を断たんと迫る白鋼の剣。
後方に跳躍し、すぐさまナイフをシスカめがけて放つ。
真横へと逃げることでナイフは空を穿ち、シスカは難を逃れた。
迎撃からの回避、通常であれば攻撃に移ることなど不可能だ。
──────そう思っているだろう。
「
白鋼の剣が光を発し、能力『星の解放』により黒の星剣が最後に斬った星霊術が一度だけ再現される。
何故、この場において星霊術を斬っていない状態で白鋼の剣の能力を使用できるのか。
答えは簡単だ。
ネウルカの樹海を抜ける前に戦場にあった全ての氷の剣を斬り、いざというときのために残しておいたのだ。
『氷禍・千枚の棘吹雪』。
大小様々な剣が次々と生成され、ネームレスを取り囲んだ。
千枚には遠く及ばないだろうが、その数三百三十四本。
「…………その程度の数で俺を仕留める気か? ならばやめておけ、無駄弾になるのがオチだ」
無論、シスカとてこれで使徒聖たるネームレスを倒せるとは思っていない。
だが、準備は整った。
「…………穿て!」
氷剣がネームレスの足下、頭上、背後を問わずに降り注ぐ。
「遅い」
しかし、足を振りあげて地表からの剣が蹴り飛ばされ、反動を利用して身を旋回、両の拳で頭上と背後から迫る剣を殴りつける。
シスカはかつてアリスが使徒聖ネームレスとの戦ったという話を思いだし、敢えてこの術を繰り出した。
もしも自分が星霊術を全力で使った上で星剣を用いて戦っていたならば容易に決着を付けられただろうが、それはできない。
アリスに聞いた話では『氷禍・千枚の棘吹雪』はあっさりと破られたらしいが、シスカにはアリスにはない
──────白兵戦という手段が。
「ちっ」
さすがに三百以上の氷の剣を迎撃しながらシスカの相手をするのは難しいと判断したのか、破壊した剣の群れの隙間をすり抜けるように脱出。
ネームレスには僅かな切り傷しか見受けられないが、視界に入ったシスカが驚異に映ったのだろう。
瞬きの時間ほどの迷いもなく、シスカの頭部へと足を振りおろす──────
はずだった。
ネームレスの足下にはいつの間にか抉られたような
しかし、相手は使徒聖ネームレス。
崩れたバランスすらも利用し、旋回して放たれた回し蹴りがシスカの脇腹にめり込む直前…………シスカの姿が掻き消えた。
シスカの気配を背後に感じ取った時には遅く、ネームレスの左腕は肩から先が呆気なく切り落とされた。
「璃洒ちゃん、どうしよう!? 使徒聖さんの腕が…………!!」
「あーうん。大丈夫、彼の左腕は義手だから。…………あ、さすがにもう勝負はついたかな。はいはい、そこまで」
璃洒がシスカとネームレスの間に割り込み、両者に戦闘の終了を告げる。
「…………」
ネームレスは何を言うこともなく、音もなく演習エリアから立ち去った。
使徒聖の姿が見えなくなったところで、ミスミスはシスカに勢いよく抱きついた。
「シスカちゃん、よかったよぉ!! アタシ怖かったんだからね!!」
「ありがとうございますミスミスさん。あなたのお陰で勝利に手が届きました。
◆◆◆◆
時は、戦闘の直前まで遡る。
「ええっ!? アタシが銃をあの人に向かって撃つ!?」
「はい。ミスミスさんもやられっぱなしは癪でしょう? 一発肝を冷やして差し上げては?」
「無理無理!! 恐れ多いし、そもそもアタシの銃の腕じゃ当たらないよぅ!!」
「構いません。適当な場所に撃って、地面に穴を開けるだけです。わたくしを試すつもりで放ったのでしょうが、結果的には命を狙われたわけですから。それに、もしもの時はわたくしが守りますから」
「…………本当?」
「約束しますわ」
「…………うん。分かったよ」
そして現在に至る。
例の窪みは氷の剣によって穿たれたものではなく、ミスミスが撃った銃により作られたもの。
氷の剣がフィールドに突き刺さる音に紛れ、銃声など聞こえていなかったのだろう。
ネームレスが壊していた筈の剣の群れも、彼の癖や動きを先読みして
これが『鏡』の星霊の真骨頂。
あらゆるものを模倣する星霊はネームレスが視界に入った時点で彼の経験、技術や癖に至る全てを映しとりシスカがそれを戦闘に投影。
ネームレスがどのような手段をとるか、どのような反応をするか、シスカには全てお見通しだったのだ。
いつしか、この『鏡』の星霊を負けなしの星霊と呼ぶものも出てきた。
が、相手は使徒聖ネームレス。
念には念を入れ、ミスミスの手を借りることにしたのだ。
結果、ミスミスの撃った銃弾がシスカを勝利に導いた。
彼女のいざというときの胆力は尊敬に値する、しかしシスカは口には出さない。
ジン曰く、調子に乗るから。
勝利の余韻に浸るのも程々に、璃洒に振り返りシスカはいたずらっ子のような笑みを浮かべた。
「わたくしの勝ちですわ。これで文句はないでしょう?」
「いやー、まさか本気で勝つとは思わなかったよ。確かにウチからは何もない。でも…………」
「でも?」
「天帝閣下がシスカっちを呼んでるから、ご同行願えるかな?」
「…………はい?」
眼鏡のレンズ越しに璃洒がウィンク。
「万能の天才」の言葉をシスカはまるで理解できずに、思考を停止したのだった。
戦闘描写は難しいですね!
追記
アンケートの結果、アリスの娘に決定しました!
ご協力ありがとうございました!