原作より色々と緩い風鳴家にクリスちゃんが嫁いだ話   作:とりなんこつ

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新妻なクリスちゃん

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薄暗い、如何にもラスボスがモノローグを語ってござい、という風の部屋で、二人の巨漢が対峙している。

 

「というわけで、そろそろ引退しろ、親父」

 

仁王立ちでそう告げるは風鳴弦十郎。

国連直属特殊部隊S.O.N.G.総司令にして、日本国を守護する一族の尖兵である。

 

「ほう。抜かしおるわ、この愚息めが」

 

腕組みをしたまま相対するは風鳴訃堂。

国防の首魁にして、風鳴一族の現当主だ。

 

睨み合う格好の二人は、真っ向から視線を逸らさない。

お互いに、並みの人間が向けられれば気絶しそうな眼光を放っている。

だが、先に視線を切ったのは弦十郎の方。

 

「いや、本当にいいかげん歳を考えてくれ、親父どの」

 

深々と溜息をつき、弦十郎は言った。

 

「この間も、腰が痛いだ足が浮腫(むく)むだと、大騒ぎしたばかりではないか」

 

「むう…」

 

唸る訃堂は、身に覚えがあり過ぎる。

 

「そのたびに、按摩だ医者だと秘密裡に呼びつけるのも限界だろう? 経費だってバカにならんし」

 

訃堂は、神州日本のフィクサーを自認している。

そんな彼が軽々に市井に出ることは、彼自身が許していない。

必然的に、外部から呼びつけるしかないわけだが、仮にも秘密組織に招き入れる格好だ。

身辺調査や移動の手間など、弦十郎の指摘するとおりかなりの経費がかかっている。

 

「おまけに、せっかく探してきた連中も、怯えて二度と招聘に応じてくれなくなるし…」

 

訃堂は施療中、ずっと愛刀群蜘蛛を手放さない。

いつ何時寝首を掻かれるかも知れぬから、との訃堂の主張するところである。

が、段ビラを煌めかせたまま治療を迫られる従事者はたまったものではないだろう。

弦十郎のぼやきもさもありなん。

 

「…一世紀も使っておるのだ。ガタが来るのも仕方なかろう」

 

「そうそれだ! いくら人生100年時代でも、もう現役を退いてもいいだろう?」

 

訃堂の台詞に、弦十郎は全力全開で言葉を被せていく。

医療や科学の発達とは別次元で、訃堂の頑健さは異常だった。

それでも、さすがに100歳越えとあっては、いつ、何があってもおかしくないと考える方が普通ではないのか?

リスクヘッジの意味も込めてそう力説する息子に、訃堂の額に青筋が浮いてくる。

いまだボディビルダーも真っ青な太い二の腕にも血管を浮かべた訃堂は、次の瞬間、傍らにあった愛刀を抜き放っていた。

 

「尻の青いひよっこがよう吠えたわッ!」

 

神速の居合抜きを披露し、その切っ先を弦十郎へと突きつけた訃堂の表情は、一瞬で驚愕へと切り替わる。

護身挺刀たるはずの蜘蛛の紋様を浮かべた刃は、竹光に代わっていたのだ。

 

「やはり老いたな、親父」

 

ニヤリと笑う弦十郎。

訃堂の手から竹光が転げ落ちた。

己の分身とも呼べる愛刀が摺り替えられたことに気づかぬなど。

 

「…親父の後釜は、全て兄貴が引き継ぐ」

 

転げ落ちた竹光を、放り出された鞘に納めながら弦十郎。

 

「引き継ぎも遺漏なく。だから、どうか憂いなく身を引いてくれ」

 

「………」

 

茫然と椅子に腰を下ろす訃堂に対し、弦十郎は打って変わった優し気な眼差しを向けた。

 

「長い間の国防、ご苦労でした。しばらくは温泉にでも浸かって養生されてください」

 

ゆっくりと訃堂の白眉が上げられる。

 

「…一つ、頼みがある」

 

「なんなりと」

 

「儂もこれで自由気ままの身。されば」

 

「はッ」

 

「されば、儂も、若い女子(おなご)に囲まれてチヤホヤされてみたいのだッ!」

 

「…なるべく善処しましょう」

 

風鳴訃堂、引退―――。

 

 

 

 

 

 

そして数日後の風鳴訃堂の姿は都内某所にあった。

 

「わー、風鳴さんの筋肉、凄いのねー」

 

「胸板なんかパンパンよー」

 

「百歳ですって? まあ、冗談がお上手ですこと」

 

幾人もの女性に囲まれもてはやされる訃堂だったが、その表情は複雑骨折を通り越している。

遠慮なく触れてくる女どもは、皆揃って若かった。だがそれは、訃堂から見ての相対的なもの。

 

―――あの愚息め!

 

訃堂の魂の絶叫も、更に増えた女性たちに揉みくちゃにされていく。

 

ここは都内のとある老人クラブである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

嫁の朝

 

 

「さーて、ようやっと真打ちの登場ですよー、っと」

 

「むう? 何を言っているのだ、クリスくん?」

 

弦十郎の声に、雪音クリス、いや風鳴クリスは、いや何でもねえよ、と手を振って見せる。

それから夫にジャケットを着せてやるために、近くの椅子へと足を乗せた。二人の身長差を考えると仕方のないことだった。

 

「つーか、また『くん』付けになっているぞ、おっさん」

 

クリスはぼやく。

 

「そういうおまえも、俺のことをいま『おっさん』と呼んだな?」

 

そう応じる弦十郎。

互いに顔を見合わせ、どちらともなく笑み崩れる。

 

「やっぱ、なかなか慣れるもんじゃねえよなあ」

 

笑顔でぼやくクリスに、

 

「そうだな、こればかりは、な」

 

こちらも笑顔で賛同を示す弦十郎。

しかし、やおら弦十郎は表情を改めると、

 

「…クリス」

 

「は、はいッ」

 

「今日も、その、綺麗だぞ…?」

 

「ッ! …ありがと、その、アナタ…」

 

未だ新婚ホヤホヤな二人。

朝っぱらから甘い雰囲気を爆発させ、見つめ合った顔と顔が近づこうとする寸前―――。

 

スパーン! 

 

と、勢いよく開け放たれる襖。

その向こうでは、お碗片手に風鳴翼が仁王立ちしている。

 

「何をやっている雪音! 朝餉が冷めてしまうではないか!」

 

弾かれたように離した顔から一転、げんなりとした表情を浮かべるクリス。

 

「もうちっと空気読んでくれねえかな、先輩さんよ」

 

イラ立ちも隠さない棘だらけの声を向けるが、翼はきょとんとした表情を浮かべるのみ。

その奥の食卓には緒川慎次が座し、「ああ、翼さん、お碗を持ったままでは行儀が悪いですよ」と諫めているが、このNINJAも明らかに何かしらがズレていた。

 

「ま、まあ、ともかく、朝食を頂くとするかッ」

 

弦十郎が取りなすようにそう声を上げ、結局四人で食卓に着く。

 

 

 

「はい、ご飯は大盛りでいいか?」

 

「ああ、大丈夫だ。ありがとう」

 

「納豆はいいですね。日本食文化の極みですよ」

 

「そこに生卵を投入してこそ、二つの味の翼でどこまでも飛んでいける美味ッ」

 

「おい、コラ、飯食いながら新聞は読むなって」

 

「すまんすまん。ついでに、そこの醤油をとってくれないか?」

 

「はい、こちらの刻み生姜も食べてくださいね」

 

「私の喉をいたわってくれているのですね、感謝しますッ」

 

 

カチャカチャと食器の音に会話が弾む。

極ありふれた食事風景に見えて、その実、クリスが爆発するまでのカウントダウン。

 

「…だーッッッ!!! なんで先輩と緒川さんが、めちゃくちゃ自然な流れで揃ってうちの食卓についているんだよッ!?」

 

カウントゼロとともに全力で声を上げるクリスを、しかし不思議そうに眺める翼。

 

「どうしたもこうも。この屋敷には私の部屋もあるのだから仕方なかろう?」

 

翼の主張する通り、ここは都内にある門構えも立派な風鳴屋敷。

装者たちの特訓が出来るほど敷地内は広く、翼の指摘した通り、彼女の居室も存在する。

 

「だからって、ここしばらくずーっと屋敷に居座っているのはなんか違うだろッ!? 

 暇なのか!? 暇なんだなッ!?」

 

そのクリスの声に、翼は気まずそうにお茶を一口。

 

「それは…やむをえんのだ。歌女の活動をしたくとも、今の私は『C・C翼』などという仇名を賜っているのだから」

 

「C・C? なんかのカードでもキャプチャーすんのか? それともキャプテン?」

 

「それは、コンサート会場・クラッシャーの略ですね」

 

眼鏡姿で爽やかにとんでもない説明をしたのは緒川。

 

「ここだけの話ですが、翼さんが大規模なライブをする会場は、いつも何かしらのトラブルに見舞われてまして…」

 

「あー…」

 

思わず納得の声を上げてしまうクリス。

考えてみれば、幾つもの事件は、全て翼のライブ会場から始まっているような気がする。

 

ちなみに、この世界線の訃堂はノーブルレッドと手を組んでないのでシェム・ハ復活もライブ会場の大惨劇も起きてないよ。本当だよ?(ガリィ・ボイス)

 

「だ、だったらよ、タレントとして活動すりゃいいじゃねえか。クイズ番組なんか先輩のオハコだろ?」

 

クリスがそういうと、今度の翼ははっきりと顔を伏せてしまう。

替わりとばかりに、緒川がにこやかに説明。

 

「この間の、小学五年生でも解ける問題がでるクイズ番組で、ライフラインを全て使い切った上に、わずか三問目で敗退してしまったのは、この僕の目をもってしても…」

 

そのほとぼりを冷ます意味で、しばらく活動を自粛中だという。

残酷な事実をあくまで爽やかに説明する緒川の横で、ますます縮こまる翼がいる。

この様子に、さすがにクリスも憐憫の情が沸いてきた。

 

「ご、ごほん。な、ならさ。いままで先輩はさんざん忙しかったんだろう? これを絶好の機会と捉えてのんびりとどっか旅行にでも…」

 

「所持しているバイクコレクションを一斉にレストアしたら、先立つものが…」

 

なんなんだろう、この私生活の計画性のない防人は。

クリスの瞳は雄弁にそう主張していたが、実際にはごそごそと近くのタンスを漁っている。

 

「ほら、先輩」

 

クリスが差し出したのは高額紙幣2枚。

 

「これは…?」

 

「その、なんだ、小遣いみたいなもんだよ!」

 

「ううッ! 年下の叔母に小遣いを恵んでもらう屈辱。だがこの残酷さ、今の私には心地よい…!」

 

「結局いるのか!? いらないのか!?」

 

「雪音、感謝する。この借りは必ず」

 

「おう。たっぷりと利子付けて頼むわ」

 

タン! と箸を置き、頬っぺたにご飯粒を付けたまま翼は立ち上がって宣言する。

 

「緒川さん! 軍資金を頂きました! これでかつて防人たちの活躍した九州を回ってみましょうッ!」

 

「二万円でどこまで行けるか心元ないですが、貴女と一緒ならどこまでも」

 

姓名通りの風のように翼は屋敷から飛び出していく。

ほっと溜息をつき、今度のクリスは夫を見送る番だ。

 

「それじゃ、行ってくるぞ」

 

「あいよ。車に気をつけてなー」

 

本当は、車の方に気を付けてもらいたいところだ。

 

「晩飯は何がいい?」

 

「なんでも構わないぞ。おまえの作る飯は全部美味い」

 

「…そーゆーのが一番困るんだけどさ」

 

そう言いつつ、クリスの表情は満更でもない。

 

「あ、ネクタイが曲がっているぜ?」

 

「本当か?」

 

「少し屈んでくれ。直してやるよ…ッと」

 

引き寄せた弦十郎の唇に、軽い軽いフレンチ・キス。

それでいて、顔を真っ赤に染めてしまうクリスに世話はない。

 

「それじゃ、改めて、行ってきます」

 

「ああ、いってらっしゃい」

 

「愛してるぞ」

 

「朝っぱらから抜かしてんじゃねーよ」

 

そういって弦十郎を見送ったクリスだったが、その大きな背中が見えなくなったとたん、へなへなとその場へと座り込む。

彼女の腰は、明らかに抜けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クリスちゃんは専業主婦

 

 

「つーか、この屋敷、広すぎだろッ? いくら計画的にやっても日が暮れるわッ!」

 

「せめて、使っている部屋だけでも…」

 

「…先輩の部屋は見なかったことにしよう」

 

「褌って、洗濯機で洗っていいもんなのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

風鳴訃堂VSクリスちゃん

 

 

「あ~、クリスさん、飯はまだかねえ?」

 

「もー、やだな、お爺ちゃん。ご飯は一昨日に食べたばかりでしょ?」

 

 

 

 

無慈悲かつ辛辣な舅イジメが訃堂を襲う!

 

 

 

 

 

 

 





…続くのこれ?
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