原作より色々と緩い風鳴家にクリスちゃんが嫁いだ話 作:とりなんこつ
大団円
全てが終わり、クリスと赤ん坊は病院へと収容された。
実は娘よりクリスの方が衰弱しており、入院を余儀なくされている。
そんなクリスも体調を回復し、広いスイートルーム風の病室には、今回の関係者が集まっていた。
クリスと赤ん坊が壮健なことに喜ぶ響を筆頭とした装者たち。
発令所の面々。
そして―――ヴァネッサたち三人。
談笑する三人に、獣耳や羽といった怪物の特徴は見当たらない。だからといって、エルフナイン手製のブレスレットで変身したわけでもなかった。
今の彼女たちの肉体は、元の肉体から怪物遺伝子を除外した上でエルフナインが精製したホムンクルス。
その肉体に精神を移行するのが、人間へと戻るためのプランB。
しかし、元はキャロルが錬金術を駆使して開発したこのシステムは、無限に人造人間を増やせるという可能性もあるわけで、人倫にもとると判断した日本政府はチフォージュ・シャトーごと第一級封印指定。
ために、この計画は二の足を踏んでいたわけだが、このたびのヴァネッサらの活躍と、弦十郎と訃堂の強力な後押しもあり、特例的に使用許可の承認が下りている。
では彼女たちの精神はどこから?
実はあのシェム・ハとの決戦の最中に、ネットワークが復旧すると同時にエルフナインと藤尭は三人の疑似人格を発見。
ダイダロス・エンドで力を使い果たし、あとはネットの海に散りゆくはずだった彼女たちの記憶を搔き集め、独立サーバーへサルベージするというファインプレー。
「けれど、なんだか妙な感じがするゼッ」
しみじみと腕と肩を回したりするミラアルクに、
「すみません。ご希望通りに胸のサイズは少し大きくしたつもりなんですが…」
「そ、それは言わない約束だゼッ!」
エルフナインとのこの会話には、笑いが巻き起こる。
集まった全ての人間の顔は明るい。
確かに想像を絶する苦闘だった。
だが誰一人欠けることなく、こうやって顔を合わせられているのだ。
「けどよ、今回の件の立役者は、どう考えても爺様だろ?」
腕の中の赤ん坊をあやしながらクリス。
窓際に立つ訃堂へと、皆の視線が集中する。
『神の防壁』の存在の知ったのちの訃堂の行動。
鎌倉の大仏を運搬してきたのは、伊達でも酔狂でもない。
相手が唯一の神を標榜するなら、こちらは仏をぶつけてやれ。
エルフナインほど明確な論旨に基づいた発想ではないにせよ、おそらくあの逆境を回天させる唯一の方法だったのではないか。
わざわざ徒歩で運んだのは、移動車両が使えなかったこともあるが、道々で群衆の信心を募るためのパフォーマンスの意味があった。
そのやり様は余人には不可能であるにせよ、その発想は見事に図に当たり、シェム・ハの防壁を打ち砕いている。
成果に加えて労力を思えば、クリスの評価
に誰もが異論を唱えられない。
むしろ、忌憚のない賞賛が次々と訃堂へと浴びせられる。
風鳴家の内情を知っているマリアをして賞賛を惜しまなかった。
「む…」
訃堂は唸る。
この反応も相変わらずで、喜んでいるのか戸惑っているのか微妙なところ。
そんな訃堂の様子を横目に、クリスはベッド脇の弦十郎と頷き交わしている。
「そのお礼ってわけじゃねえんだけどよ」
クリスは、腕の中の娘から訃堂へと視線を転じて、
「この子の名前を、爺様が付けてやってくれないか…?」
面向かって言われて、訃堂は明らかに虚を突かれた顔をした。
だが、それを漠然と晒すことはなく、くるりとこちらに背を向けてしまう。
「親父のやつ、照れているのか…?」
小声で言ってくる弦十郎を、「しッ」とクリスは軽く叱責。
娘が生まれる直前。
訃堂は何やら半紙と硯を大量に買い込んで部屋にこもっていたことを、彼女は知っていた。
窓の外を、二羽の鳥が飛んで行く。
11月にもなろうというのに、暖かい風が吹き込んでくる。
その風に乗せて、訃堂の声がゆっくりと室内へ広がった。
「その子の名は――――」
原作より色々と緩い風鳴家にクリスちゃんが嫁いだ話
おしまい