原作より色々と緩い風鳴家にクリスちゃんが嫁いだ話   作:とりなんこつ

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お世話になりました

再会

 

 

腰を抜かしたのも束の間、クリスは軒下にぶら下げられた見知らぬ少女をしみじみと眺めた。

しかし、トイレに行く途中であることを思い出し、半纏に包まった肩を揺らして用足しへ。

 

「う~、さぶさぶ」

 

さっぱりして戻ってくれば、軒下の少女は「きゅう」という感じで目を回したまま。

彼女を包んでいる丹前の帯に手を伸ばし、あまりの結びの固さにクリスは閉口。

 

「ゴルディアスの結び目かよ…」

 

呟いて、こんな真似をしそうな人間を、クリスは二人しか知らない。

なのでクリスは、解決するべくその片方を呼ぶ。

 

「お~い、ダンナ~」

 

「ん? どうしたクリス」

 

冬用の甚兵衛の胸元をぼりぼりと掻きながら、夫である弦十郎が現れた。

寝ぼけ眼も一転、軒下の光景に目を開いている。

 

「…どうしたのだ、この子は?」

 

「分からねえよ。目を覚まして便所行こうとしたら、ここに吊るされてさ」

 

「まあ、おそらく親父の仕業だろうが…」

 

弦十郎が断言する。二人とも昨晩ずっと一緒だからそれは疑いようのないことだ。

 

「知らねえ女の子を軒下で虫干しするたあ、あの爺様も本格的にボケてきたのかな…?」

 

薄ら寒そうに首を捻るクリスは、戦利品である人間を吊るしたり髑髏を取り出して磨いたりする戦闘狂宇宙人の映画を思い出している。

 

「いや、単にさらってきたのとも違うようだぞ」

 

弦十郎が指を向ける先。

少女の、妙に鋭角的なザンバラポニーテルの一房は赤い。

耳も同じく鋭く尖っているのは、まあファッションとしても珍しくないだろう。

この冬空でノースリーブの露出の多い服も個人の趣味としても、その背中から蝙蝠のような羽が生えているのは明らかに異形だった。

 

「…!」

 

クリスは軽く目を見張る。だが、それだけだ。

 

「とりあえず、下ろしてやったらどうだ? あたしゃ朝飯の支度するからさ」

 

「ん…」

 

事も無げにいってクリスは身を翻し、弦十郎が軒下の帯へと手を伸ばそうとした時。

 

「ウ、ウチをどうする気だ、おまえらッ!?」

 

吊るされたままの少女が覚醒する。

長い八重歯を剥き出しにする彼女を前に、クリスと弦十郎は顔を見合わせた。

 

「いや、別にどうもこうもするつもりはないが…」

 

弦十郎が答える。

 

「だったらさっさと離しやがれッ!」

 

少女はジタバタと暴れるが、丹前はビクともしない。

 

「まあ、解放するのも吝かではないが、キミはここで何をしているのだ?」

 

仮に、訃堂が無理やり拉致ってきたのであれば、全力で土下座を敢行するつもりである。

 

「それは…ッ」

 

口ごもる少女。

その様子に、脛に傷がないわけではないなと弦十郎は看守。

 

「と、とにかく、ここにウチの仲間を監禁しているのは分かってるんだゼッ!」

 

「仲間?」

 

この発言に、クリスはピンときた。

そういえば、つい先日、訃堂が似たような女の子を拾ってきたばかりではないか。

 

「けれど、監禁しているって言われてもなあ…」

 

同じく苦笑を浮かべる弦十郎を横目に、クリスは障子戸を開けた。

そこはちょうど十畳の居間になっており、中心にはコタツが据えてある。

 

そのコタツ布団がめくりあがり、まずは白い子猫が出てきた。これは2号。

続いて、中型の三毛猫が3号。

最後にモソモソと出てきたのは、例の獣耳を持つ少女だった。

彼女は、先の二匹と合わせて四つん這いで大きく伸びをしている。

 

「…エルザッ!?」

 

吊るされた少女が声を上げた。

 

「ミラアルクでありますかッ!?」

 

獣耳の少女は驚きの声を上げている。

 

見つめ合う二人をよそに、クリスはしみじみと獣耳の少女の方へと声をかけた。

 

「4号、おまえの名前はエルザっていうのか…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お世話になりました

 

 

 

風鳴屋敷の居間のコタツにて。

エルザとミラアルクは、顔を突き合わせてミカンなんぞを剥いている。

 

「そっか。エルザはここの連中に保護されていたのか…」

 

「左様であります」

 

答えるエルザの膝の上に乗ってくる白猫2号。

顎をくすぐってやる手つきも表情も優し気だ。

 

「まあ、飯は美味かったゼ? 久しぶりに風呂にも入れてもらったしな」

 

今朝、軒下から降ろされたあと。

「腹減ったろ?」ということで、炊き立てのご飯を振舞われた。

もとがオーストリア人であるミラアルクにとって、平均的な日本の和食は初めてだったが、意外と食べられた。

考えてみれば、まともな食事らしい食事をしたのは何年ぶりだろうか。

そのあと風呂にも入れてもらった。

風呂上りにおそるおそるコタツに足を突っ込んだところ、あまりの心地よさにこちらもついウトウトとしてしまい、夕方までうたた寝してしまった。

夕食のビーフシチューは恐ろしく美味かった。

 

「にしても、拍子抜けだゼ」

 

ミラアルクは天井を仰ぐ。

風呂に入れられて、食事を摂らされて、何かしらの詮索をされると思っていた。

けれど、この家の連中は何も訊いてこない。

それどころか、コタツでゴロゴロする二人にミカンを補充してくれる始末。

挙げ句、二人を居間に残してさっさと眠ってしまったのは何と言えばいいものか。

 

「…いい人たち、なんでありますね」

 

エルザが感慨深く目を細める。

彼女の家族は、彼女に対する加害者だった。その過去を知っているだけに、ミラアルクも胸が詰まる。

 

「けどよ、並の人間ってこともないだろうゼ」

 

エルザもミラアルクも、後天的とはいえ怪物染みた感知能力と生存本能を備えている。

そんな二人のセンサーは、風鳴弦十郎に対し、ビンビンとアラートを鳴らしていた。

おそらく、二人で挑んでも勝ち目はないだろう。

 

「そういや、もう一人いるはずなんだよな…」

 

ミラアルクの声はやや戦慄を帯びる。

自分をハエ叩きで撃墜した巨漢。

同時にそれはエルザを拾ってきた老人と同一人物なわけだが、その風鳴訃堂は、今日一日屋敷内に姿はなかった。

 

「万が一にも、あの二人を消すのは難しいだろうゼ」

 

ミラアルクがぼやく。

未だ逃亡中の身としては、なるべく痕跡を残したくない。追跡を逃れるためには、接触した人間を消すことにも躊躇はなかった。

 

「ミラアルクッ!」

 

エルザの獣耳がピンと立つ。

 

「分かってるゼ。ウチだって、一宿一飯の恩義ってヤツは知ってる」

 

「ならいいであります」

 

ホッと胸を撫でおろすエルザは、研究所を逃げ出してこの方、これほど安逸な時間を過ごしたことはなかった。

それでも、彼女は意を決したように顔を上げて言う。

 

「だからこそ、これ以上の迷惑はかけられないでありますッ」

 

同感だ、とミラアルクは言わない。彼女はエルザほどこの家の空気を満喫出来てないからだ。

 

「エルザのアタッシュケースはヴァネッサが確保している。一刻も早く合流するゼッ」

 

「そろそろ稀血も摂取しないといけないでありますからね…」

 

口にしておいて、自分が人間を逸脱してしまったことを思い知らされる台詞だ。

 

今の自分たちにとって、暖かい家や平穏などはひと時の幻想に過ぎない。

そう、本当の人間の姿に戻る日までは―――。

 

「そろそろ行こうゼ。結社の連中に見つかったらヤバイことになる」

 

「そうでありますね…」

 

名残惜し気に猫たちを撫でて、エルザはコタツを出る。

結社の瓦解のどさくさに研究所を脱出できたはいいが、既に幾度かの追手との戦闘を行っていた。

この家の人たちも尋常ではないとは思うが、錬金術師相手ではいささか分が悪いと思う。

だから、この屋敷が襲撃を受ける前に出ていこう。

 

時刻は日付を過ぎた深夜。

縁側から降り立った広い庭先には、人の気配がない。

 

凍りそうな空に浮かぶ砕けた月を見上げながら、二人は湿った芝の上に歩を進めた。

それからエルザは振り向いて、ペコリと屋敷へと頭を下げる。

ミラアルクも、儀礼的にそれに倣った。

そうして前を向きなおった瞬間、二人は揃って硬直する。

 

「!?」

 

彼女たちの目前に、まるで壁のような巨躯の老人が出現していた。

 

「このような夜更けにどこへ行く?」

 

しわがれた声が、アンデス降ろしのように吹き付けてくる。

これには、エルザもミラアルクも、無意識に身を寄せ合って震えるしかない。

老人の太い腕が翻る。

 

「ひッ!」

 

異形の少女二人は、ひしっとお互いを抱きしめあう。

だが、予想したような衝撃は訪れない。替わりにドサドサっと何かが転がるような音が連鎖する。

 

「…?」

 

エルザとミラアルクがうっすらと目を開けた先。

広い庭の芝生の上に、頭からすっぽりと外套を被った男たちが荒縄で縛られたまま転がっていた。

 

「どうした、親父!?」

 

屋敷から飛び出してきたのは風鳴弦十郎。

彼をして、庭先に転がっている怪しい風体の男たちに目を見張る。

 

「数日前から屋敷の周辺をうろついておった不逞の輩どもよ」

 

事も無げに風鳴訃堂が答える。

遅れてやってきたパジャマ姿のクリスも、つっかけを履いて庭まで出てきた。

 

「なんだよこいつら。パヴァリア光明結社の錬金術師たちか?」

 

目敏い彼女は、男の一人が首からぶら下げていたエンブレムを確認している。

むう、と腕を組む弦十郎たちに向かい、エルザは震えながら声を出す。

 

「そ、そいつらはきっと(わたくし)めらを追いかけてきたのでありますッ!」

 

対して弦十郎は軽く目を見張った。しかし、声を放ったのは訃堂のほう。

 

「親父。数日前からうろついていたと言っていなかったか?」

 

「おう。そういえば、既に捕らえた連中は土蔵に放り込んであるぞ」

 

「!!」

 

その返答に血相を変えた弦十郎は、クリスを伴い敷地内の土蔵へと走る。

薄暗い土蔵の中には、訃堂の言明したとおり、同じ風体の男たちが何人も縛られて転がされていた。

が、季節は既に12月。この外気に加え、飲まず食わずとあっては、奥の方に押し込められた男など半死半生の体となってしまっている。

 

「…クリス! 至急本部へと連絡してくれッ!」

 

「あいよッ!」

 

間もなく幾つもの車が駆けつけてきて、閑静なはずの住宅街は時ならぬ喧噪に包まれる。

このどさくさにエルザもミラアルクも逃亡を試みようとしたが、背後に訃堂に立たれてはいかんともしがたく。

仕方なく抱き合う格好で見上げた寒空には、強力なライトを注ぐヘリコプターが舞っていた。

機体の横に描かれたロゴを読み上げて、エルザとミラアルクの表情が固まる。

 

「S.O.N.G.…ッ!?」

 

逃亡生活の道々で耳にした。

かのパヴァリア光明結社の統制局長であるアダム・ヴァイスハウプトを屠った、シンフォギアを擁する特殊部隊。

 

硬直する二人の前に、もう一人の巨漢がやってくる。

 

「どうやら、キミたちは錬金術となんらかの関わりを持っているようだな?」

 

「………」

 

弦十郎と訃堂という二人に挟まれ、エルザもミラアルクも全てを諦めて観念するしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 





これは……クリスちゃんのおはな…し…?
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