原作より色々と緩い風鳴家にクリスちゃんが嫁いだ話 作:とりなんこつ
潜水艦に行こう
「どうやら、キミたちは錬金術となんらかの関わりを持っているようだな?」
そういった弦十郎の後頭部を、クリスが盛大にハリセンで叩く。
「今さらなにアホくさいこと抜かしてやがるッ! こいつらの見た目を見りゃあ当然だろッ!?」
「むう。それはそうだが…」
「いいからとっととヘリコでも呼んで来やがれッ!」
弦十郎の尻をハリセンでまた叩き、クリスはエルザとミラアルクへと向かいあう。
「…わたくしめらをどうするつもりでありますか?」
怯えた瞳でエルザ。
「ん? 別にとって喰いはしねえよ」
「はッ! ウチらが悪さをしないとでも思ってんのかッ?」
睨んでくるミラアルクに、クリスはスミレ色の瞳を丸くする。
「なんだよ、悪さをするつもりなのか? 少なくとも4号、じゃなくて、エルザの方は食っちゃ寝ばっかしてたぞ」
言われて赤面するエルザに、それを横目で睨むミラアルク。
「まあ、悪いようにはしないからよ。だから、ちいっとばっか大人しくついてきてくれるか?」
そういってくるクリスの表情を、エルザはおそるおそる伺う。
「…わたくしめらを怪しいとは思わないのでありますか?」
「そりゃ見るからに怪しいだろ」
正直すぎるクリスの返答。しかしすぐに照れ臭そうに笑って付け足してくる。
「けどよ、うちらの身内に、どんな相手にも手を差し伸べなきゃ気がすまないってバカがいてな。
…はは、あたしも知らねえうちに感化されちまったのかもな」
「………」
考え込むように黙り込むエルザと、いまだ疑わし気なミラアルク。
そんな二人の前に、間もなく一台のヘリコプターが降下してくる。
「ほら、乗った乗った」
クリスは二人を急かす。
同時に、訃堂がのそっと身を引いたが、どっこいクリスは逃さない。
「なにしてんだよ、爺様も一緒に行くんだよッ」
「ぬうッ?」
「もともとが爺様が拾ってきたんじゃねえか。
それに、餌を上げたら最後まで面倒を見なきゃ駄目だって、口を酸っぱくしていっておいたろ?」
もっぱら餌を上げていたのはクリスだったにも関わらずこの言い草である。
「………」
しかし訃堂は激昂することはなかった。
ずずいっとヘリコプターに乗り込めば、その重量で一瞬機体は沈む。
かくして、特異災害対策機動二課の元司令とS.O.N.G.の現司令を乗せ、ヘリコプターは真夜中の空へと飛び立つのだった。
夜明け前にも関わらず、S.O.N.G.本部である次世代潜水艦は、異様な緊張感に包まれていた。
総司令である風鳴弦十郎宅がパヴァリア光明結社の錬金術師たちに襲われてからではない。
特異災害は日時を選ばないため、詰めている防人たちはみな常在戦場の心構えである。
彼らが、常ならぬ緊張を強いられている要因は、ひとえに部屋の壁際に座している風鳴訃堂の存在であった。
愛刀群蜘蛛を鞘ごと床に突き立て周囲を睥睨する眼差しと、職員は誰も目を合わせられない。
「司令。オレ、はっきりいってチビりそうなんですけど…」
藤尭朔也などは、膝を震わせて訴えてきたほどである。
「そうか?」
鷹揚に首を捻る弦十郎。かつての彼をしても、モニター越しの実父に凄まじいまでの圧迫感を受けていたのは事実だ。
しかし、引退してからの訃堂は、睨みつけるだけで悶絶死させるような威圧力は明らかに減退していると思う。
まあ、常人が1とすれば、相対する1000が900に目減りしたとて、あまり印象は変わらないのかも知れないが…。
ともあれ、生身の訃堂が乗り込んできたことのインパクトが強すぎて、エルザとミラアルクの風体が大した注目を浴びなかったのはもっけの幸いか。
いま現在、二人は尋問室のような部屋へと通されていたが、彼女らの異形に対して驚きはしても恐怖を抱く職員は存在しなかった。
ゴツイ電磁ロックを両手に嵌められた二人に対し、弦十郎は椅子を勧める。
総司令直々に尋問をするつもりだ。
「仮にも対特異災害特殊部隊を標榜する以上、パヴァリア光明結社と関わりのあるキミたちを野放しにはできなくてなあ」
弦十郎は人懐っこい笑顔を浮かべて、
「何かしらの事情があれば、俺たちに話してみてくれないか?」
対して、渋面を作りそっぽを向くミラアルク。
しかしエルザは、自分たちの身の上に起きたことをポツポツと語りだす。
自身の家族からの監禁と虐待。ズタボロになって山中に捨てられ、死を迎えるばかりのところを結社の錬金術師に拾われたこと。
もちろんそれは善意からではなく、錬金術の実験材料として扱われたこと。
様々な伝承の再現実験の果てに、今のような異形の身体を手にいれたこと…。
「…ざっけんなッ!」
大声を上げたのは、同じ室内の壁際で腕を組んでいたクリス。
「おまえの家族もッ! 結社の連中もッ! 一体なにを考えてるッ!? 人様の命をなんだと思っているんだッ!」
叫ぶクリスの目元には涙が滲んでいて、その剣幕にエルザは呆気に取られてしまう。
そんな彼女の視線に気づいたのか、クリスはグシグシと目尻を拭った。
されど、興奮は冷めないままに強く訴えてくる。
「そんなの、おまえは完全な被害者じゃねーかよッ!」
「…で、ありますか」
詰め寄られ、思わずコクンと頷いてしまうエルザ。
「うむ。クリスの言う通りだと思うぞ」
激昂している妻を愛おしげに眺め、弦十郎も同調を示す。
「だからって、ウチらは怪物と同じなんだ! 人間とは相容れない生き物なんだゼッ!」
いきなり口を挟んでくるミラアルク。
「どうせおまえらも、ウチらを利用したり、実験材料とかに…ッ!!」
焦り顔で訴える彼女は、エルザを掛け替えのない家族と認識している。
この世界で唯一お互いだけが分かり合える孤高の存在。
にも拘わらず、彼女にはエルザが言葉巧みに篭絡されようとしている風に見えた。
結社の構成員たちに騙され続けてきた過去が、ミラアルクを頑なにさせている。
「生憎と、そんな非道な行為に手を染めるつもりはないぞ」
大人の余裕で弦十郎は断言する。
「キミたちが、人様や世間に害を及ぼさないというのであれば、俺の一存で解放しても良いと考えている」
「…本当かッ?」
疑心の塊を瞳に浮かべるミラアルクに、弦十郎はあくまで優し気な言葉を向けた。
「だが、仮に解放されたとして、キミたちに行く宛てはあるのか? そもそも、キミたちの目的はなんなのだ?」
「それは…ッ!」
息を呑んだのはエルザ。
しばしの沈黙。
それから彼女は、ミラアルクの無言の制止を振り払い、願望を口にした。
―――元の人間に戻りたい、と。
「分かった」
確約するような声を上げたのは、弦十郎ではなくクリス。
あまりの即答に目を白黒させるエルザとミラアルク。
そんな二人に向かいクリスが見せた表情は、誇らしさと照れくささが混在した、なんとも心がくすぐったくなるような笑顔だった。
「それに、あたしがいくら無理だってつっても、無理くりなんとかしちまうヤツももうすぐやってくるだろうしな」
「………?」
お世話になります
「錬金術による人間の
呼び出されたエルフナインが、エルザとミラアルクを目の当たりにした開口一番の台詞はそれだった。
「人道的なことはさておけば、非常に興味深い観察対象だと思います」
慎重に言葉を選ぶエルフナインに対し、クリスは屈託がない。
「なあ。いっちょミキサーみたいなものにぶち込んで、一気に分離みたいなことは出来ないのかよ?」
あまりにも直截な提案に、エルフナインは目を丸くして、それからクスクスと笑いだす。
「…どうしたんだよ?」
「すみません。なんだかクリスさんも響さんみたいに大雑把な提案をしてくるようになったなあ、って思って…」
この言に、さすがに憮然とするクリスがいる。
「と、ともかく! こいつらを元の人間に戻すことは出来るのかッ?」
「…不可能ではない、とボクは考えてます」
「! だったら!」
クリスが意気込んだその時だった。尋問室の入口から、新たな人影がドヤドヤと飛び込んできたのは。
「だ、大丈夫だった、クリスちゃん!?」
立花響を筆頭にした装者の面々。
時刻的にはまだ早朝だというのに、全力全開のテンションで響は心配顔。
「なんだか錬金術師たちに襲われたって聞いたんだけどッ!」
「ああん? 襲われたのはあたしたちじゃなくて、こっちの方だよ」
クリスが親指で指し示す先。
そこにエルザを見出して、響は一瞬で相好を崩す。
「うわ~! フワッフワッの毛並みに、え? この耳は自前なのッ!?」
満面の笑みを浮かべる響は、誰とでも手を取り合える、誰とでも分かり合えるという信念に磨きをかけていた。
そこにはもはや距離などという概念は存在せず、いつの間にかエルザは響の腕の中。
唖然とした表情を浮かべるしかない獣耳少女を、響は全力で掻い繰り攻撃。
「かっわい~♪ あったか~い♪ で、どうしたのこの子?」
「何もわっかんねえで触ってんのかよ、おまえは…」
呆れ顔を浮かべるクリスだったが、エルザの件を掻い摘んで再説明。
彼女の過去の悲惨な体験はさすがにぼかしたが、錬金術で他の生物と融合してしまったという説明を聞き終えた響は、難しい顔で考え込んでいる。
だが、すぐに顔を上げると、エルフナインへ向けて言った。
「ねえ! エルフナインちゃん! こう、ミキサーみたいなものに入ってもらって、パパっと分離できないかな!?」
この発言に、室内にいた全員の目が点となる。
しかし間もなく肩をくっくっくと震わせるエルフナインに、真っ赤な顔で響の頭をひっぱたくクリスがいた。
「いたッ!? なにするの、クリスちゃん!?」
「…うるせぇッ!」
そして、響の腕の中のエルザの瞳からは、さめざめと涙が溢れ出す。
「お、おい、どうしたんだよ?」
「ご、ごめんなさい、痛かった?」
響とクリスが慌てて声をかけるも、エルザは泣き止まない。
その光景を、ミラアルクが複雑そうな表情で眺めている。
???
「…ここにエルザちゃんたちが捕まっているのね。
待ってなさいよ。絶対にお姉ちゃんが助け出してあげるわ…ッ!」