原作より色々と緩い風鳴家にクリスちゃんが嫁いだ話   作:とりなんこつ

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懐かしいものをどうぞ

懐かしいものをどうぞ

 

 

 

エルザとミラアルクは長椅子のようなものに寝せられていた。

彼女らの腕には、細い血管チューブが繋いであり、そこに着々と血が注がれつつある。

 

『わたくしめらの身体の維持には稀血が必要なのであります』

 

正直にエルザがそう申告した後。

エルフナインと名乗った少女から何やら問診と検査を受けた。

その横で総司令風鳴弦十郎と名乗った大男が、どこかへと電話をかけていたのを覚えている。

 

手枷はとっくに外されて、そこから医務室のような雰囲気の部屋へと誘導。

寝台に横たわった途端、押されてきた点滴棒には吊られているのは血液製剤のパック。

 

「取り合えず準備はしてみたのだが…」

 

あっさりと弦十郎に言われて、異形の二人も目を白黒させずにはいられない。

 

「こ、こんな都合の良い展開があるわけないゼッ!」

 

ミラアルクが叫ぶ。

 

「…どうしてここまでわたくしめらに親切にしてくれるのでありますか?」

 

さすがのエルザも、この手回しの良さは一周回って不気味に思えた様子。

 

「と言われてもなあ」

 

困ったように弦十郎は顎先を掻く。

 

「俺たちは国連直属組織だ。国連の掲げるところの人道的支援というやつで納得できないか?」

 

「………」

 

戸惑った瞳で見返してくる両名は、実際になんと言ったらいいか分からないよう。

それを見て取った弦十郎は、事実でなく真実を伝えることにする。

 

「というのは建前というやつでな。本音を言えば、俺の女房がキミたちに確約してしまったからだ」

 

『元の人間に戻りたい』というエルザの切実な願いを、クリスは二つ返事で引き受けている。

 

「そして俺は、恋女房に頭が上がらないと来ている。だったら従うほかないだろう?」

 

分厚い胸を張って、恥ずかし気もなく笑う弦十郎。

 

「おいッ、誰が恋女房だって!?」

 

顔を真っ赤にしたクリスが弦十郎の尻を蹴り上げている。

これには弦十郎も苦笑しながら退散。

 

「はい、あったかいものどうぞ~♪ クリスちゃんちより熱々だから気をつけてねッ」

 

エルザ、ミラアルクにお盆に載せたコーヒーカップを手渡す響がいる。

この物言いに、クリスは「あ゛ッ!?」と一瞬牙を剥きかけたが、結局黙って自分のカップへと口を付けた。

 

「これは…?」

 

エルザが、生クリームがたっぷりと浮かぶカップに驚いてる。

 

「これって…アインシュペナー? でもグラスじゃなくてカップに注がれているゼッ」

 

ミラアルクは目を見張っている。

 

この双方の反応に、響の顔に驚きが浮かぶ。

 

「あれ? 二人とも、ウインナー・コーヒーを飲んだことないの?」

 

「ウインナー・コーヒー…?」

 

オウム返しで言ってくるミラアルクの反応を、響は全力で誤解した。

 

「ねー!? ウインナーっていったら普通はソーセージとか入っていると思うよねーッ?」

 

「そんなのおめえだけだッ」

 

ぺしっとその頭をクリスが叩く。

 

「いいか、ウインナーってのは『ウィーン風』って意味なんだよッ!」

 

「へー。ところでウィーンってどこ?」

 

「オーストリアに決まってるだろッ! おまえ、本当にそれで高校二年生かッ!?」

 

ぎゃいぎゃいと言い合う二人を余所に、ミラアルクはカップの表面に視線を落とす。

 

「ウィーン…。オーストリア…」

 

吸血鬼になってしまった瞳に郷愁が滲む。

 

「…あれ? ミラアルク、泣いているでありますか…?」

 

「な、泣いてなんかいないゼッ! ちょっと湯気が目に染みただけだッ…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

潜入

 

 

 

海中を進み、巨大潜水艦の側面にとりつく影がある。

 

「…待っててね、二人とも…」

 

呟いた女性は、赤いカチューシャを付けた長い髪の先端を頬に張り付けている。

褐色の肌に理知的な瞳をもつ彼女のフルネームはヴァネッサ・ディオダティ。

しかし、とある事情から姓は捨てていた。

 

常人なら取りつくことが不可能なほどの滑らかな壁面を、ヴァネッサはするすると昇っていく。

彼女の頭部を除く全身はサイボーグ化されており、電磁石を応用した機能を駆使すれば、このような芸当は朝飯前である。

また、S.O.N.G.本部である次世代潜水艦には最新鋭のセンサーが稼働しているのだが、ヴァネッサはボディーから全く同系統の波長を発することにより、無類のステルス性を発揮すること可能だ。

 

潜入するにはまったくうってつけの能力であるが、潜入したあとのことは深く考えていない。

取り合えず、二人を救出して脱出する。

あまりに漠然としたプランは、それだけ彼女が焦っている証拠。

 

「一刻も早く、二人に稀血を補充しなきゃ…ッ!」

 

当座の三人分の血液製剤を、ヴァネッサ一人が管理していた。

これは、彼女の身体に物理的な収納スペースが存在することに由来する。

だがこんな風に離れ離れになってしまうとは、少量ずつでも各人に持たせていなかったことが悔やまれて仕方ない。

 

ヴァネッサにとっては、エルザもミラアルクもこの世で唯一お互いを理解できる同志だ。

家族とも呼べる彼女たちを失ってしまったら、この世界を生き抜く意味を欠いてしまう。

ゆえにヴァネッサは必死だった。結社の首魁であるアダムを斃したというS.O.N.G.など何するものぞ。

 

不退転の意思で甲板へと辿り着いたヴァネッサは、濡れ髪を跳ね上げた格好のまま凍り付く。

広い甲板には、先客がいたのだ。

 

白い総髪に羽織りと袴という古風な格好。

腰には愛刀を携え、常人を凌駕する巨躯の持主といえば風鳴訃堂でしかありえない。

 

もっとも、訃堂がこの場に居合わせたのは偶然の意味合いが大きい。

先ほどまでいた室内の若い女の子ばかりの空気に居たたまれなくなった訃堂は、散歩と称して甲板へ。

朝の海風を胸いっぱいに吸い込み―――何やら異様な気配を感じ取ったのはさすがとしか形容できないだろう。

 

結果として、ヴァネッサは訃堂と鉢合わせる羽目に。

 

「…そこをどきなさいッ」

 

「狼藉ものか?」

 

この一言を交わしただけで、互いに敵と認識している。

 

ヴァネッサが宙へ飛ぶ。

そこから滑空して放たれる蹴りは、収納された電磁コレダーを展開する稲妻キック。

常人であれば躱せるスピードではなく、直撃すれば消し炭と化してしまうまさに初見殺し。

 

しかし生憎、訃堂は軽々と常人を超越する。

腰だめに構えた刀を、目にも留まらぬ踏み出しとともに一閃。

神速の斬り上げは、逆袈裟斬りとなってヴァネッサの胴体へと炸裂する。

 

「ぬうッ!?」

 

訃堂が唸ったのは、その手ごたえのせいではない。

彼の手に握られていた刀は群蜘蛛ではなく、竹光だったのだ。

 

おそらく真剣であれば、ヴァネッサの身体は切断されていただろう。

だが、竹光で鈍った切れ味は、そのまま衝撃力へと転化。

ヴァネッサの身体は凄まじい勢いで吹き飛ばされ、みるみる甲板から遠ざかっていく。

 

「…ちッ」

 

珍しく訃堂が舌打ちする。

狼藉ものを打ち取れなかったことに対するものか、またもや真剣を竹光と摺り替えられたことに対するものか。

 

 

 

 

 

 

ヴァネッサの受けた一撃は尋常ではなかった。

あまりの衝撃に空中制御もスタビライザーすら展開できない。

 

長大な放物線を描き、海面へ衝突。そのまま水切りのように移動。

陸に達しても勢いのまま道路を抉り、ガードレールを突き破り、ビルの壁面を盛大に削り取った挙句、路地裏の最奥へと突き当りようやく止まった。

潜水艦から吹き飛ばされた距離は、直線距離で実に10㎞ほどに及ぶ。

 

全身をサイボーグ化しているとはいえ、ヴァネッサの負ったダメージは深刻に過ぎた。

ほとんどのシステムがダウンし、脳内ではひっきりなしにアラームが鳴っている。

ある程度の自己修復能力もあったが、とても追いつきそうにない。

 

「…なんだったの、あれは」

 

 

無意識で呟いてしまったが、それすら勿体ないと思えるほどエネルギーは枯渇していた。

もはや唯一の生身である頭部だけでも保護すべく、彼女の全身は次々と機能を停止させていく。

セーフモードを選択すれば完全に無防備になってしまうが、このままでは本当に死んでしまう。

 

苦渋の決断に至ったヴァネッサの視界に、人影が動く。

今にも休眠形態へ移行しようとする瞳は、それは制服を着た女の子であると認識。

 

「あ、あ、あ…」

 

驚いた声を上げるツインテールの少女。

全身の傷から回路を覗かせ、コードの火花を散らせる自分に驚いているのだろう。

 

―――この姿を一般人に見られてはならない。消さなければ。

 

そんな物騒な思いも、ヴァネッサは一瞬で諦める。もはや実行するだけの機能は残されていなかった。

 

(ごめんなさい、エルザちゃん、ミラアルクちゃん…)

 

無念のままヴァネッサはまぶたを閉じる。残された全ての機能は、彼女の生命を最低限維持するためだけに弱々しく稼働するのみ。

だけに、ヴァネッサの耳に、女の子の絶叫にも似た声が聞こえたかどうかは分からない。

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あ、アニメエエエエェェェエエエエエエッッッ!!?」

 

 

 

 

 

 

板場弓美とヴァネッサ。ある意味、運命の出会いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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