原作より色々と緩い風鳴家にクリスちゃんが嫁いだ話   作:とりなんこつ

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縁側にて

こんにちはお姉ちゃん

 

 

朝の通学路に、尋常ではない物音が鳴り響く。

駆けだした友人を追って、寺島詩織と安藤創世も路地裏へと駆け込んだ。

 

「弓美さん! 大丈夫ですか!?」

 

「なんか物凄い音がしてたけど…」

 

そんな二人は、興奮気味に叫ぶ友人と、彼女の目前に横たわるボロボロの人影を見つけた。

その人影が褐色の肌を持つ妙齢の女性と認識して、咄嗟に救急車を要請しようとした詩織は固まる。

女性の傷口からバチバチと火花が散る様子は、どう見ても尋常ではなかった。

 

「さ、サイボーグだよね? 00ナンバーは何なのかな? それとも機械帝国から来たのかな!?」

 

にも拘わらず板場弓美の興奮しまくりの声。

 

「…弓美さんの言っていることがさっぱりわかりませんわ」

 

困惑した表情を浮かべ、詩織はもう一人の友人の方を見た。

創世は、携帯端末を耳に当てながら答える。

 

「こういうワケが分からないときは、ビッキーんとこへ連絡するに限るよ」

 

多少なりとも国家権力とのコネがあると認識する三人娘であった。

そして図らずもこの創世の判断は、現状における最適解となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ネッサ! ヴァネッサ!」

 

誰かが自分を呼ぶ声がする。

 

「しっかりするでありますッ!」

 

この声は…エルザちゃん?

 

そう認識すると同時に、彼女の中のシステムが再起動。

機械染みた正確さで瞼が持ち上がり、網膜に映像が浮かぶ。

視界の隅に次々と表示されるメッセージから察するに、どうやら生命活動に問題はないほど身体の修復はなされたようだ。

そこでようやく映像に焦点を絞れば、見慣れた懐かしい仲間の顔がある。

 

「エルザちゃん、ミラアルクちゃん…ッ!」

 

目前の二人を抱きしめようとして、ヴァネッサは自分の腕が持ち上がらないことに気づく。

腕にはいくつものチューブのようなものが取りつけられており、それらが感覚回路を遮断しているのだ。

だからといって拘束されているというわけでもないようで、ヴァネッサは困惑した表情を浮かべてしまう。

 

「ああッ! すみませんが、まだ動かないでいただけますかッ?」

 

現れた新たな人影に、ヴァネッサの顔は一瞬で引き攣る。

 

「キャロル・マールス・ディーンハイム…ッ!?」

 

パヴァリア光明結社の統制局長をして一目を置いていた最強の錬金術師。

結社に属することなく、たった個人で組織という集団と対等の関係を築いていたことからもその力量はうかがえる。

直接言葉を交わしたことはなかったが、過日のチフォージュ・シャトーの建設の折、ヴァネッサは機材や聖遺物を搬送したことがあった。

シンフォギアとの激戦の果てに、生死不明になったはずでは…!?

 

「…私で何の実験をするつもりなのッ!?」

 

怯えた表情で半ば叫ぶヴァネッサに、今度はエルザとミラアルクが困惑する。

 

「どうしたのでありますか?」

 

「コイツの名前はエルフナインっていうんだゼ?」

 

ヴァネッサの焦燥と恐怖は伝わっていなかった。

なぜならこの二人が強いられていた活動は、構成員としても下っ端もいいところ。どんな組織においても、末端まで機密情報が行き渡ることはない

 

ヴァネッサの剣幕に、たはは…といった表情を浮かべるしかないエルフナイン。

その隣に、のっそりとした巨大な影が加わった。

ヴァネッサの顔がますます引き攣ったのは、その佇まいにとある人物を想起したから。

だが、よくよく見れば、似ているが違う。

だいたい自分を吹き飛ばしたのは老人だ。この男はずっと若い。

 

「まずは自己紹介をさせてもらっていいか? 俺の名は風鳴弦十郎という」

 

「カザナリ…?」

 

元は光明結社の幹部候補まで至ったヴァネッサの記憶(メモリ)に、最大限警戒すべきワードとして残っている。

極東の島国を守護するサキモリを自称する異能集団。

その脅威度は、最高位魔導師(メイガス)に勝るとも劣らず。

 

となれば、自分を吹き飛ばしたあの白髪の老人も、そのカザナリの係累…?

 

ヴァネッサの心中を、絶望感が支配する。

 

キャロルだけでも大概なのに、そこにサキモリが加わってしまえば、一兵卒の自分に太刀打ちできる道理は存在しない。

 

「…エルザちゃん、ミラアルクちゃん。死ぬときは一緒よ。そして、きっと来世では…ッ」

 

本来往生際の悪いヴァネッサも、さめざめと涙を流すのみ。

 

「なにやら愁嘆場のところを申し訳ないが…」

 

弦十郎が割って入る。

 

「キミはキャロルを知っているようだが、この子はキャロルではないぞ」

 

エルフナインの両肩に手をかけて、そっと押し出すようにする。

 

「はい! ボクの名前はエルフナインと言います! 初めまして!」

 

「………」

 

「…ボクをキャロルと見間違えるのも仕方ないことかも知れません。なぜならボクは…」

 

―――キャロルの肉体を借りさせてもらっているだけですから。

そう続けようとしたエルフナインだったが、肩を掴む弦十郎の手から伝わってくるものが、台詞を変節させた。

 

「キャロルが自分に似せてつくったホムンクルスですから」

 

「…キャロル本人ではないの?」

 

「はい」

 

そう答えることに躊躇はない。

 

「とまあ、キャロルとの決戦後、彼女の身柄をうちで保護してな。現在は協力してもらっている」

 

弦十郎が力強く補足すると、ようやくヴァネッサの瞳が柔らかくなる。

 

「…ということは、ここはS.O.N.G.の中なの?」

 

一転して彼女が自嘲したのは、潜入を試みようとして失敗した場所へ、結果として入ってしまっている皮肉に対してだ。

しかし、動けない格好のまま、慌てて仲間二人に対し問い掛ける。

 

「二人とも、ひどい目にあわされなかった!?」

 

「温かいご飯とお風呂に入れてもらったであります」

 

ややきょとんとした顔でエルザ。

 

「…稀血も入れてもらったばっかだゼ」

 

いかにも不本意そうな顔でミラアルク。

 

「良かった、二人とも…」

 

今度こそヴァネッサの顔に安堵が浮かんだ。

 

「エルフナインくんに頼って、キミの身体の修復にも手を貸してもらっている」

 

弦十郎の言に、改めてヴァネッサは自身の身体を見下ろす。

落ち着いて見れば自分が繋がれているのはベッド型の治療装置で、今もナノ単位で修復が行われているよう。

 

致命傷を負って機能停止していた彼女が板場弓美らに発見されたのは先述した通り。

そこから響経由でS.O.N.G.に伝わったのはいわば当然の流れで、特異な存在と目された彼女の身柄は速やかに回収されるに至る。

エルザとミラアルクの面通しを得て、こうやって修復を受けている状況であるが、であればこそヴァネッサは浮かんでくる疑問を口にせずにはいられない。

 

「…どうして私たちに親切にしてくれるのかしら?」

 

S.O.N.G.とパヴァリア光明結社は不倶戴天の敵同士だ。

下っ端構成員のエルザとミラアルクが稀血の輸血を受けるのはともかく、元幹部候補の自分がこうやって厚遇を受ける理由が思い浮かばない。

 

「それはなあ…」

 

総司令と名乗った弦十郎が、意味ありげな視線を転じる。

その隣のエルフナインも笑顔でそれに倣った。

 

エルザは感謝と嬉しさを込めた柔らかい瞳を向けて。

ミラアルクは頭の後ろに手を組み、「けッ」と言いながらも横目を向けた先。

 

彼、彼女らの視線は、壁際の一人の人物へと集中していた。

もちろんその人物とは―――。

 

「な、なんだよ、どうしたんだよ、おまえらッ!?」

 

クリスが顔を真っ赤にして叫んでいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

縁側にて

 

 

 

 

「平和ですなあ…」

 

風鳴屋敷の庭先の縁側に腰を下ろし、エルザはしみじみと呟く。

同じく隣に腰を下ろしたミラアルクは、細い指を空に翳した。

 

「今頃連中は南極だっけ?」

 

「ええ、そのはずよ」

 

お茶道具一式を持って、ヴァネッサも縁側へと腰を下ろす。

そんな彼女は、割烹着が似合い過ぎていた。

そのままコポコポと急須から湯飲みへお茶を注ぐ姿も嫌に所帯じみている。

 

「はい、エルザちゃん、ミラアルクちゃん」

 

「あ、ありがとうであります」

 

「さんきゅだゼ」

 

二人に湯飲みを渡したヴァネッサは、それからおそるおそるもう一つの巨大な湯飲みを運ぶ。

 

「…どうぞ」

 

「む」

 

同じく縁側の少し離れた場所には、風鳴訃堂が座していた。

渡すヴァネッサの手が震えているのは、つい先日重傷を与えてくれた対象だからではない。

あの時は切羽詰まって我を忘れていたが、本来なら相対することすら無謀と思える相手だ。

もはや恨み辛みも超越して、ただひたすら畏怖するべき存在でしかない。

 

そんな超級の脅威と、ヴァネッサ一党は風鳴屋敷へと押し込められている。

本来的に彼女らの自由は疎外されていなかったが、当人たちはそう認識していた。

 

結果として無聊を囲う形になっていたが、不満を漏らすのは筋違いだと思う。

かつての逃亡生活に比べ、屋敷暮らしは雲泥の差だし、稀血だってしっかりと準備されている。

何も心配することのない生活。退屈を感じることが出来るのは贅沢であると認識を新たにする日々。

 

「一服が済んだら、ウチはまた掃除でもするゼ」

 

お茶を啜りながらミラアルクが宣言する。

匿ってもらっているお礼ではなく、あくまで暇つぶしであると彼女は主張して譲らない。

 

「あ、ツバサさんの部屋をするなら、わたくしめも手伝うでありますよ」

 

「あん? ウチ一人でも大丈夫…」

 

「先日、倒壊してきた洗濯物をよけようとしてオープンバットをしたところにタンスまで倒れてきて死にかけたのを忘れたでありますか?」

 

「…いっちょ手伝いを頼むゼ、エルザ」

 

「ガンスッ!」

 

二人のやり取りを微笑ましく眺めるヴァネッサの目前に、何かが飛んできた。

咄嗟に受け止めれば、それは子供の頭ほどの大きさのあるリンゴ。

飛んできた方向を向けば訃堂がいるわけで、無言で顎をしゃくる様子からは剥けということだろうか?

 

逆らわず、ヴァネッサは手刀を振動させた高周波ブレードでリンゴの皮を剥く。

切り分けたリンゴを大皿に乗せて訃堂へと持っていけば、一切れ取った訃堂から皿ごとずずいと押し返される。

…残りはこちらで食べろということなの?

 

質問どころか逆らう気力もないヴァネッサは、リンゴを仲間へと振舞う。

 

「おッ! 美味いリンゴだゼ!」

 

「蜜もたっぷりでありますッ!」

 

喜んでシャクシャクとりんごに齧りつく二人。

笑顔を浮かべてその光景を見守るヴァネッサだったが、ふと異質な視線を感じて振り返る。

だが、そこには全く同じ態勢で庭先を見つめ続ける訃堂がいるだけ。

 

(…気のせいかしら?)

 

いや、きっと気のせいだろう。

あんな怪物が、こちらを気に掛ける視線を向けてくるはずなどあるわけがない。

 

 

 

時は師走の昼下がり。

寒空のもと、風鳴屋敷の縁側には、まるで長年連れ添った老夫婦のように枯れた、それでいて穏やかな時間がゆっくりと過ぎていく。

 

 

 

 

 

 

 




クリスちゃんの出番が一行のみ…。
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