原作より色々と緩い風鳴家にクリスちゃんが嫁いだ話 作:とりなんこつ
痒いところに手が届くエルフえもん
その日、ヴァネッサら一党はエルフナインに呼び出されていた。
到着し、それぞれに渡されたのはブレスレット。
「これはなんでありますか?」
エルザは首を傾げる。無難なデザインの、良く言えばどこにでもありそうな既製品だ。
「具体的な説明をするより、使ってもらった方が早いでしょう」
エルフナインは装着したブレスレットの手首側のボタンを押すように指示。
素直に従った三人の姿は、たちまち眩しい光に包まれる。
「え? なになに? なにがどーなってんの?」
光に手をかざしながら響の声。
だが、光が収まった後で、首を捻る三人組。
「何がどう変わったんだゼ?」
「皆さん、鏡を見てみてください」
これまたエルフナインの指示に従った三人は、揃って唖然と口を開ける。
「う、ウチの羽が…ない!?」
「わたくしめの耳もなくなっているでありますッ!」
「これは…私の素肌!?」
三人の顔は希望に輝く。だが、エルフナインは申し訳なさそうに言った。
「残念ながら、皆さんは元の姿に戻ったように見えるだけなんです…」
すみません、と前置きしてからエルフナインは説明する。
シンフォギアを纏う際のマテリアル展開能力を応用し、猫耳や蝙蝠の羽、鉄の素肌といったものを覆い隠す。
つまりは、元の人間の姿への変身だ。
「ですので、本来の耳や羽がなくなっているわけではありません。稀血の継続的な摂取も必要ですし」
稀血というだけあって、貴重かつ入手手段は限られている。
代替えになる人工血液の精製もエルフナインは検討しているが、未だ形にもならない段階だった。
「それに、変身できる時間も、せいぜい三時間くらいが限界で…」
元の人間に戻すといった手法には程遠く、小手先感が拭えない。
不本意なのか表情を曇らせるエルフナインに対し、ヴァネッサらの表情は反比例するように明るくなる。
それぞれが自分の姿を鏡で繰り返し見て、代表するようにヴァネッサが口を開いた。
「ありが…」「これでみんなして一緒に遊びにいけるねーッ!」
響の大声がお礼の言葉を遮り、エルザはあっという間に彼女の腕の中。
「お買い物でしょッ! 遊園地でしょッ! 映画にカラオケボーリング! あとは色々と美味しいものッ!!」
「は、はいッ! でありますッ!」
満面の笑みを浮かべるエルザたちは、決して街に繰り出せないわけではない。
それなりに人の集まる繁華街へと赴けば、コスプレということで通る。
だがそれはやはり普通ではなく、怪物と同じで奇異の視線を集めてしまうことに変わりない。一般的な店もなかなか利用しづらいもの。
だが、エルフナインのくれたブレスレッドを使えば、時間が限定されるとはいえ元の人間のように振舞えて、楽しめるのだ。
「それで、どこ行きたいのかなッ!? いつにするッ!?」
凄まじい勢いで喰いついてくる響に、ヴァネッサたちは圧倒されている。
だが、その表情は見るからに嬉しそうだ。
その反応にほっと胸を撫でおろすエルフナインは、ポンと頭を叩かれて振り向く。
「ありがとよ」
クリスがそういって笑っていた。
お姉ちゃんは万能選手
風鳴屋敷は広い。
都内であるにも関わらず庭には大きな池もあり、屋敷そのものの間取りも膨大である。
まともに手入れしようと思えば複数の使用人を雇わねばならないほど。
結構綺麗好きなクリスをして、最低限の使う部屋の掃除をするので限界だ。
使っていない部屋は、休日などに風を通す程度が精々の日々。
しかしここ数日、屋敷の隅々まで急速に掃除が行き届くようになっていた。
その原因は。
「は~い、全員こっちよ。お姉ちゃんについてきてー」
板張りの廊下を進むヴァネッサ。彼女の背後をぞろぞろとついてくるのは、いわゆるお掃除ロボットの群れ。
本来ならば人工知能搭載で自律機動するそれらは、一糸乱れぬ動きを見せていた。
これは、ヴァネッサ自身の拡張機能を連結して直接操っているためである。
「よーし、次はこの部屋よ」
ヴァネッサの号令一過、お掃除ロボットは使われてなかった部屋へと散っていく。
その動きも一見無秩序に見えて、その実最効率での清掃を行っている。
ロボットたちの手の及ばない天井や鴨居の埃などには、ヴァネッサの手が変形して掃除機のノズルが飛び出す。
元々屋敷にあった普通のコード付き掃除機をアタッチメント化することにより、コンセントに付けなくても使用可能。
電力はヴァネッサの身体から供給され、ヴァネッサ自身は屋敷内であればほぼリモート充電範囲内なので無限に稼働させることが出来る。
お掃除ロボ軍団の稼働と効率性を最大に高めることにより、ほぼ彼女一人でも屋敷の掃除は完璧だ。
加えて。
「ミラアルクちゃん、そろそろ洗濯機が止まるころだから乾燥機に移してもらえるかしら?」
「合点承知だゼッ!」
「エルザちゃん。あと二分でオーブンのレモンパイが焼きあがる頃ね。テーブルの上にお皿を出してくれる?」
「ガンスッ!」
独自のLANを構築したヴァネッサの支配能力は、もはや屋敷内の全ての家電製品へと及ぶ。
「はい、これでおしまいッ」
パンパンと手を叩いていると、廊下をクリスがよろめきながら歩いてくる。
「…悪ぃな。家事全般を任せちまってよ」
クリスの顔色は冴えない。
悪阻の真っ最中である彼女は、今も洗面所で吐いてきたのだろう。
「構わないわ。あなたはゆっくりと休んでいてちょうだい」
「本当にありがてぇんだけどよ…」
礼を言ったクリスだったが、ポチポチとスマホを弄って申し訳なさそうな顔つきになる。
画面に表示された数字をヴァネッサへと向けて、
「今月の電気代が、既に半端ねえことになってるんだってばよ」
「……あらら」
3月
「は~、無事に卒業式も終わったぜ。悪阻もどうにか治まってくれたしよ」
卒業式後のリディアン音楽院の中庭にて。
クリスはしみじみといって胸元のタイを緩めている。
そこに。
「ク゛リ゛ス゛ち゛ゃん゛、そ゛つ゛ぎ゛ょう゛お゛め゛て゛と゛う゛~!!」
号泣しながら飛びついてくる響をどうにか牽制しつつ、クリスはがなる。
「卒業するのはあたしなのに、なんでてめぇが泣いているんだッ!」
「だって~、もう学校では会えないんだよ~!!」
この響の訴えを鬱陶しく思いつつ、あれ、コイツ先輩の時には泣かなかったよな? とクリスも満更ではない。
「もう! 響! いい加減にしなさいッ! さすがに先輩方に迷惑でしょッ!」
未来がそう言って無理やり響を引きはがしていったのは、決してクリスに対する妬心からではない。
クリスへ向かって、それぞれが花束を抱えた女生徒たちがやってくる。胸に卒業生を示す花のバッチを付けている、クリスのクラスメートたちだ。
「風鳴さん、身体、大丈夫だった?」
「ああ、おかげ様で無事乗り切れたさ」
変わった姓で呼ばれることはまだ慣れず、そしてちょっぴり嬉しいものだ。
「子供、生まれたら見にいってもいい?」
「もちろん。いつでも遊びに来てくれよ」
結婚したと告げても、揶揄するでも茶化すでもなく、素直に祝福してくれた級友たち。
いろんな紆余曲折を経てこの学院へ編入できたことを、クリスは本当に幸運だったと思う。
思い出を思い返して言葉を重ね、しかし楽しい時間にも必ず終わりがくる。
「それじゃ、みんな元気でなッ!」
名残惜しいけれど別れを告げてクリスは校門を出る。
校門の裏には既に弦十郎が待ち構えていた。
「か、身体の方は大丈夫か?」
式にも身内として参列していたくせに、なんとも心配そうな物言いである。
歩く憲法違反とも呼ばれる夫が、自分の妊娠が発覚してから折に触れて狼狽する様子を見せてくるのがクリスには面白く、そして嬉しい。
「大丈夫さ」
笑ってクリスは弦十郎の腕を花束と一緒に抱え込む。
「だいたい、アンタとあたしの子だぜ? よっぽどのことでもなきゃビクともしねえって」
「そうはいうが…」
「いい加減、落ち着けってば」
言い合う二人の背中は、吹き付ける桜吹雪の中へと包まれていく。
4月
「クッリスちゃ~ん! 遊びに来たよ~!!」
「卒業式の余韻もへったくれもねえな、おい!」
8月
「あ~、ちくしょー、みんなして海だ夏まつりだと遊びまくりやがってよ~」
「仕方なかろう。そんな腹で人込みの中に出歩くわけにもいくまい?」
「わーってるよ。せいぜい来年の楽しみにしておくさ。そんときゃ、一緒に子供の面倒も頼むぜ、パパ?」
「む…」
10月
クリス、健康な女児を出産。
同月。米国にてシェム・ハ復活。