怪獣8号の二次創作   作:多田七究

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後編

 響き渡るサイレン。

「フォルティチュードは6・5程度と推定されます。この怪獣による津波の心配はありません。住民の皆様はすみやかに――」

 ビルディングに設置された巨大なモニターから、ニュースの音声が流れてきた。

 蜘蛛の子を散らすようにその場を離れていく、街の人々。

 そのなかで立ち止まる三人の姿があった。

 カフカと市川(いちかわ)とキコルだ。

「防衛隊はまだか!」

「そんなすぐにはムリですよ。先輩(せんぱい)

 防衛隊の到着までには時間がかかる。

「私の出番みたいね」

 おもむろに、少女が上着を脱ぎ始める。下には肌着ではなく、防衛隊で使っているのと同じような対怪獣用のプライベートスーツを着込んでいた。

「キコル、いつも着てんのか? それ」

「なわけないでしょ。今日はたまたまよ」

 本当にそうだろうか。

 市川(いちかわ)がいぶかしみながら、別のことを気にしている。

「それにしても、怪獣はどこなんでしょうか?」

「ん。そういえば姿が見えないな。余獣(よじゅう)か?」

 余獣(よじゅう)とは、基本的に大きな怪獣が現れたあとに現れる小さな怪獣のことである。姿が見えないため、カフカはこれを疑ったのだ。

 しかし、最近この辺りに怪獣が現れたことはなかった。

「違うわ。これは」

「空からだ!」

「何?」

 見上げるカフカのすぐそばに、巨大な顔が落ちてきた。

 幅が10メートル近くもある巨大な頭の落下。衝撃で吹き飛ばされるカフカと市川(いちかわ)。すでにほかの人たちはいないため、人的被害はない。

「来なさい、顔だけ怪獣」

 スーツの効果で体勢を保っていたキコルが応戦するも、怪獣が巨大なため効果が薄い。ツインテールが(むな)しくたなびく。そもそも、武器を持っていない。

先輩(せんぱい)、起きてください!」

「ああ。寝てる場合じゃねえな」

 控えめに言って、大ピンチだ。

「ダメですからね。って……あ!」

 男の制止を振り切り、もう一人の男が走った。

 電話ボックスは、ない。だったら。

 カフカが、ゲームセンターへと向かう。自動ドアが開くのも待ちきれない様子で、中に入る。写真を撮るブースへと行き、カフカは服を脱ぎだした。

「あのバカ」

 青い瞳が動く。怪獣のかみつき攻撃をかわしながら、キコルはあきれている。戦いながらも周囲の状況把握をしていた。

 カフカの身体(からだ)が、黒く変貌していく。一回り大きくなったようだ。

 ゲームセンターの自動ドアが再び開くと、禍々しい黒色の人型怪獣が現れた。

 にらみ合う二体。骸骨(がいこつ)のようなドクロ(づら)の怪獣のほうが先に動いた。躍動する、発達した黒い筋肉。

 怪獣8号と巨大な顔怪獣との戦いが始まる。

 

「さて、どうすっかな」

 普通に戦うと被害が拡大してしまう。

 怪獣8号に変身したカフカは、悩んでいた。とはいえ、長々と考える時間はない。

「力任せに殴らないでください!」

「こいつに加減ができると思う?」

 市川(いちかわ)とキコルの言葉を聞いて、カフカは何かを閃いたような表情になる。

「わかった。殴らなけりゃいいんだな!」

 パンチよりもキックのほうが威力は上。

 襲いかかる顔怪獣を正面から受け止め、カフカは巨大な怪獣を真上に蹴り飛ばした。

 血しぶきとともに打ち上げられる顔怪獣だったもの。

「相変わらず、とんでもないわね」

「はっ。先輩(せんぱい)! すぐに元に戻ってください!」

「いや、まだだ」

 巨大な骨すらもバラバラに砕け、天へと昇っていく怪獣の(むくろ)。わずかに砕ききれなかった骨のかたまりが混じっていることを、怪獣8号の視覚がとらえていた。

 空を見上げ続けるカフカから察したキコルが告げる。

「もう防衛隊員が来るから、あとは任せればいいでしょ」

「そうですよ。早くしないと、バレちゃいますよ!」

 二人の言うとおり、すぐ近くまで防衛隊員が迫っている。怪獣8号の聴力がそれを察知した。

 つまり、ジャンプして骨を砕けば銃で狙い撃ちにされてしまう。

「わかった」

 短くそれだけ告げたカフカは、ゲームセンターへと向かった。

 変身を解除してそそくさと服を着る姿を、キコルが見ていなかった。

 カフカの姿は見られていない。間一髪のところで、防衛隊員がやってくる。

「貸して、早く!」

 現場に到着した防衛隊員からむりやり銃を借りるキコル。天に狙いを定め、小さい骨を吹き飛ばした。

 おおきな解放戦力のなせる(わざ)。武器の威力が増していた。

 まだ、大きな骨が宙を舞っている。

 それを見ている人物が、現場から遠く離れた場所にいた。亜白(あしろ)ミナだ。ベランダに出るとおもむろに銃を放つ。

 残る大きな骨が吹き飛ばされた。

 被害はおさえられたものの、血や臓物、その他が降り注いでくる。ゲームセンターの中でそれを見つめる三人。

 後処理で業者が必要になった。

 

「おもろいことになっとるようやな」

 血を踏みしめながら関西弁を放ったのは、糸目の男。年齢は20代に見える。

保科(ほしな)副隊長? なぜ、現場に?」

「とりあえず、出るわよ。アンタはここにいて」

 市川(いちかわ)とキコルがゲームセンターから出るのを、カフカは黙って見ていた。

 二人は、ぐうぜん現場に居合わせたと説明する。

「へぇ。僕も偶然いただけで。私服やろ?」

 確かに、第3部隊の隊員でスーツを着ている者はいない。いや、いるにはいる。キコルだ。しかしそれは自前。今日は、第3部隊のほとんどの隊員が休みらしい。

 べしゃべしゃと血を踏む音がひびいてくる。

 カフカがやってきた。

「バッ……」

 あわてて口をふさぐキコル。怪しいそぶりをしてはいけない。

 カフカが怪獣8号だと、正体を悟られてはならないのだ。

「奇遇です。副隊長。わはは」

 カフカの笑いがぎこちない。

 馬鹿正直に出てくることはなかったのに。

 と思う市川(いちかわ)。声には出せない。

「ちゃんと身体(からだ)を休めるんも仕事のうちやで」

 保科(ほしな)副隊長は去っていった。

 安堵する三人。

「バレたらどうすんのよ!」

 どうやら心から怒っている様子のキコル。

「後先考えずに変身しないでください」

 市川(いちかわ)も怒っていた。

 立ち止まらずに、保科(ほしな)が考える。

 何かがおかしい。

 目をすこしだけ開き、振り返ろうとしてやめた。前へと歩みを進める。

 おかしい“何か”の正体は、いまはまだ分からなかった。


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