不死隊の記憶を継いだんだが 作:続かない
私は愛していた。真実を知り、焼き尽くされて尚。
私は愛していたんだ。あの時が来るまでは。
確かに愛していたんだ。ああ、きっとみんなそうだったんだ。
愛していた、筈だったんだ。玉座で真実を見たとしても。
英雄に憧れていた奴がいた。
愛する者の為に何かをしたいと願う奴も居た。
不死は呪いではなく、選ばれた証だと信じたかった奴も居た。
自分は特別なんだと思いたかった奴も居た。
ただ居場所が欲しくて、震える手で剣を掴んだ奴が居た。
この生き方を誇りに思う奴も居た。
ただ憧れて、そう在りたくて、誇りに思いたくて
不死であった事が無駄ではなかったのだと信じたくて
救われる誰かが居るのなら、生贄になってもいいと思っていた。
愛していた、筈だった。再び目覚め、世界の有様を知るまでは。
灰よ、それでも私はこの生き方に後悔はしていなかった。
夢を見ていた。狼の血の末裔であった不死隊。一度、火を継いだのにも関わらずもう一度蘇り、とある不死によって再び玉座へと連れ戻された物語を。しかし、その不死の事を恨んでなどいないのだろう。
意識が覚醒する。どこか体が重く感じ、このまま寝ていたくなる感覚。頭が余りにも痛む。理由は分かっている。不死隊の記憶を継いだ。いや、不死隊を継いだのだ。深淵を監視する役目、監視者としての役目を。それは呪い。不死という未来永劫消える事の無い呪い。それを自分の個性として継いだのが分かる。
自分のことながら馬鹿なことをしたと思う。呪いは人に移すことでしか消えない。あの時代では到底見ることが出来ない優しさから、不死の呪いを自分へと逸らしたのだ。だが、後悔はしていなかった。
自分は憧れていたヒーローになる事が出来た。不死隊からすれば傍迷惑な事だろう。自分の生き様に水を差されたのだから。しかし、自分が憧れていたのは英雄では無くヒーローだから、余計なお世話と言われてもそれはヒーローの本質、と言うだろう。何処ぞのNo.1ヒーローの様に。
目を開く。そこには白い天井、青みがかった仕切りのカーテン、11時ぐらいだろうか、太陽の光が窓からさしてくる。太陽の光を初めて見る不死隊は歓喜している様に感じる。改めて辺りを見渡すと、ここが病室だと分かる。どうも不死隊との記憶が混濁していて上手く思い出せない様だ。
体を起こしてみると、体の関節部分やらが錆び付いたロボットの様に動かしづらく、痛みも伴うのが分かる。大体体を動かし終わり、暫くの間外を眺めていると、一人の看護師が此方を見て驚愕しているのに気づく。看護師はナースコールを押し、自分に話しかけてくるが、声が出なかった。よくよく考えてみると、自分は寝たきりの状態だったため急に声を出せないのもそうだが、不死隊としての記憶も殆ど喋っていなかったから声の出し方を忘れてしまっというのもある。
「...ぁ....あぁ....」
結局出たのは亡者のような掠れた声しか出す事が出来なかった。しかし、看護師に声が出ないという意図は伝わったのか、水を差し出してくる。特に断る意味も無かったので素直に受け取り喉を潤す。そこに特別な事は無かったのにも関わらず、涙が出そうになるのを必死に堪える。
担当医と見られる痩せ気味の男が入って来た。
「まず自分の名前は分かるかな?喋りづらいだろうからゆっくりで良いよ」
「...灰...狼」
「あってるよ。それじゃあ母親は誰か分かるかな?」
「...翡翠」
「正解だ。とりあえず記憶に問題は無いみたいだね。とりあえず君の今までを説明しようか」
これも断る理由が無いので縦に首を振る。
「まず、君は8歳の時に発現した個性を使った。その結果今までずっと昏睡状態だから君が何の個性なのかも分からないんだ。だからわかる限りでいいから君の個性について話してほしい」
自分の個性。何だっただろうか?そもそも自分の個性を使ってやった事など、呪いを受け継いだぐらいしかない。馬鹿正直に不死とでも言ったとしても親を悲しませるだけだし、自分が倒れた理由にならないだろう。
「わからない」
「そうか。何か分かったら教えてほしい。それじゃあ君のこれからについて話そうか」
医者が話した事を要約すると、個性によって昏睡していたのは3年程。勉強が他の人より遅れている為、病院でしばらくの間勉強すること。それと個性の把握。それを今後やっていく予定らしい。
そこまで話が終わると、勢いよく病院のドアが開く。随分と見知った顔だ、確か母親だっただろうか。前の記憶と比べると随分と老けたように感じる。慌てた様子で此方を一瞥すると、更に慌てて自分に抱きついてくる。涙や鼻水をだしながら抱きしめてくる姿から、昏睡する前から自分を大事にしていていたのだろうと感じられる。
それはともかく、この母親をどうすれば良いのか考える。肺を圧迫されて声を上手く出せない。段々と遠のく意識の中で見たのは、やってしまったとばかりに驚愕する母親の顔だった。