鈍感な彼氏と直接言えない彼女の物語 完結   作:月島柊

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今回の登場人物
影山蒼
大島茜
以上2名


第20話 嫌……

 俺たちは途中から4号路に入った。吊り橋があり、そこまで下がっていた。

 

「蒼く~ん、まってぇ~」

「茜?速いか?」

「下りだから膝が……」

 

そういうことか。というか、下山するとき大丈夫か?

 

「俺の背中のっていいから。吊り橋の前で下ろすからな」

「ありがと~」

 

茜は俺の背中に乗った。茜は俺の首に捕まる。

 

「……茜は、なんか嫌な思い出とかない?」

「嫌な思い出?」

 

茜は無さそうに言った。嫌なことなんて、一瞬で忘れるか。

 

「あぁ、ごめん……ないよな、茜になんて──」

「あるよ?」

 

茜はその事を話し始める。

 

「すっごいいじめがあって、私の中学校とかすごい荒れてたの。運動部の子達が文化部の子達を弱者扱いしたりとか、放送で呼び出して屋上で突き落とされそうになったり」

「結構あったな。けど、俺は思いすぎだったのかもな」

 

茜はその過去を話し始める。

 

「私は、一応屋上の呼び出しは断って、部活は運動部に入ったの。でもね、ここであることが起こったの」

「立場の逆転、か」

「分かってるんだ。そう。立場の逆転が始まって、運動部に入部した子達に、文化部の人たちが、避けてるんだろ、とか、弱者扱いされたくないからだろ、とか言ってたの」

 

俺のところだと、それで軽い戦争みたいなのが起こった。

 

「私は女子バスケット部だったんだけど、コンピューター部から標的にされて、私たち1年生を思いっきり叩いたりしてたの。それで、20人いた部員はいつの間にか6人まで減っちゃったの。1年生が2人、2年生が3人、3年生が1人でね」

「辞めたってことだよな」

 

茜はうなずいた。

 

「そういうこと。そのあとは、私に標的が向いて、傷つけられることはたくさんあった。水をプログラムで落とされたり」

 

ひどい奴らがいるもんだな。けど、俺は違う。

 

「もう、そんなことにはなりたくないな」

「あぁ……」

 

俺が、いじめていた側になっていたなんて、言えない。

 

「蒼くん、いじめてる側じゃない?」

「っ!」

「分かるよ。そんな分かるはずないもん。蒼くん、降ろして」

 

茜は先に走っていく。俺から離れたかったんだろう。しかし、俺は追いかける。最悪な人間がやることは百も承知だ。

 

「茜」

「なに」

「俺は誰」

 

俺は「殺人鬼」や「罪人」「悪人」とでも言ってほしかった。

 

「殺し屋」

「……そうだ。ありがとう」

 

俺は下山し始める。駆け降りた。誰も追い付けないほどに。駆け降りた。

 

 気付くと、俺は高尾駅まで走っていた。もうどこにいるのか分かっていなかった。

 

「……帰ろう」

 

俺は家に帰った。

 

 

 

 家に帰ると、母さんが言った。それは、今の俺を1番傷つける言葉だった。

 

「おかえり、蒼。早く帰ってきたわね。さすが、()()()だわ」

 

うるさい。喋るな。口を塞げ。消えろ。

俺は心のなかでそう思った。しかし、これら全て、俺が言ったことだ。

 

「ありがとう……」

 

俺が言った言葉にイラついて、なんで自分で自分の首を絞めてるんだ。

 

「今日、夕飯いらね」

「あらそう?どこかで食べてくるの?」

「あぁ」

 

俺は嘘をついた。息を吐くように。

部屋に入ると、写真が大量にあった。そのほとんどに人が写っている。俺は、人が写っているもの全てをクローゼットの中に入れた。

 

「もう、俺は変わってしまったんだ」

 

いじめていた側なんて、非常識で、ヤンキーっぽくて、ガキなんてことは、よく言われる。しかし、嘘じゃない。事実なんだ。

 

「事実に怒っても仕方ないよな」

 

俺は家から出る。夕飯を食いに行くと思っているんだろう。止めもしなかった。

 

「今度の電車は……というか、行くところすら決めてないな……」

「あ……」

 

後ろにいたのは茜だった。そうか、北野まで行くから京王片倉に来るんだ。

 

「なんで降りた」

「ごめん」

 

俺は次の質問に移る。

 

「なんで来た」

「ごめん」

「答えられないか」

「ごめん」

 

れは何故かイラつかなかった。普通だったらイラつくに決まってる。なのに、なぜだろう。

 

「なんで答えられない」

「ごめん」

「……なんで謝ってる」

「ごめん……」

 

茜は謝るうちに泣き出す。俺の方が身長が高く、上から威圧をかけているみたいだ。周りからも、恐喝じゃないかと言われている。

 

「……来いよ」

「ごめん……」

 

茜は俺について来た。

 

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