鈍感な彼氏と直接言えない彼女の物語 完結   作:月島柊

22 / 27
今回の登場人物
影山蒼
大島茜
市野穂花
影山蒼
影山柚葉
以上5名


第21話 不幸を忘れず、楽しく……

 ……ごめんだけじゃ分からない。普通は怒るはずだ。しかし、俺は無言だった。何も言わなかった。

 

「あ……蒼くん……」

「……うっせ……」

 

俺が連れてきた場所はホームの死角になる場所。誰にも見えないところだ。

 

「え……」

「……バカだな、俺」

 

茜は「だったら」と言い欠けたが、俺は茜が話す前に言った。

 

「結局、追っかけてくるんだろ、茜が」

「……ごめん……」

 

茜は謝った。

 

「もういい──」

 

俺がそう言うと、俺の手首がどんどん切れてきた。

 

「蒼くん……!」

「痛っ……」

 

茜は俺から出る血を止める。しかし、それでも血が止まることなく、ただ、切れるのが止まっただけだった。

 

「茜……もう、このお願いを聞いたら、近づかなくても、いいから……俺を、助けて……」

 

茜は泣き出しそうな声で言った。

 

「いいよ……助けるから……ずっと、となりにいさせて……」

 

茜は俺の血をタオルを使って止める。

 

「……茜」

「なに」

「俺を助けていいのか」

「……今はしないんだし、いい」

 

茜はタオルを俺の手首に巻く。なんで切れたんだ……

 

「蒼くん、キツくない?」

「あぁ、大丈夫……」

 

しかし、何となく嫌な予感はしていた。こんなことが起きて、ただじゃ済まないことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何があったか。それは、バイト先が潰れた。というか、マスターが亡くなってしまった。死因は、心不全による急死だったらしい。関係者のみで式は執り行い、俺もその内の1人として行っていた。

 

「あ、影山先輩……」

「穂花……」

 

バイトで働いていた人たちは全員来ていた。さらに、その大半はバイトを失い、無職になっていた。

 

「マスター、突然すぎましたよね」

「あぁ……マスター、もう少しでも居てくれて良かったじゃないですか」

 

俺は遺影があるところに向けて言った。

 

 終わったのは14:20。場所が目黒だったこともあり、鉄道に詳しい方である、俺に帰り方を大勢が聞いてきた。

 

「家十条なんですけど、どうすればいいですか」

「だったら、新宿まで山手線で出て、そこから埼京線で帰れます」

「俺中野坂上なんですけど、どう帰れば……」

「そこの女性の方と、一緒に代々木まで出て、大江戸線ですね」

「ありがとうございます!」

 

みんな聞いてくる。俺は片倉だから比較的簡単だ。家からは、JR片倉駅まで徒歩10分、京王片倉駅まで徒歩5分だ。

 

「穂花は家どこだっけ」

「東小金井です」

 

東小金井かぁ。だったら新宿でお別れだな。今日行く予定だった瑞浪との高尾山も、俺の事情でなくなった。まぁ、そのせいで早く帰らないとなんだけど。

 

「そうか……新宿でお別れだな」

「そうなんですか」

 

残念そうに言った。けど、しょうがない。

14:17発で新宿に移動した。新宿から京王片倉まで準特急に乗る。だからお別れだ。

 

「穂花……またいつか」

「はい…また……」

 

俺は京王線の入り口に向かった。

 

 家に着いた俺はもうすぐ来る予定の俺の従妹を待った。俺と同い年で、双子の女子だ。

 

「母さん、どうしてこういう日に限って家空けるんだよ」

「いいでしょう?あの2人だって料理は上手よ」

 

そう、母さんと父さんは今日から1週間家を空けるのだ。だから従妹が来たと言ってもいいんだが。

 

「言ってくるわね」

「はいよ」

 

母さんと父さんは出ていってしまった。

すぐに従妹が来てくれて、俺は2人の頭を撫で回した。

 

「よしよし、よく来たな、(かえで)柚葉(ゆずは)

「えへへー、ありがと~蒼くん」

「くすぐったい……」

 

楓は遠慮気味に言う。そんなに好きじゃなかったか。

 

「俺と部屋を共用するからな」

「うん。私、隣がいい」

「あれ?楓が隣なの?」

「いいでしょ」

 

俺はいいから、もう自由でいいんだけど。

 

 柚葉は走ってくると言って、外に出ていった。俺と楓だけの2人きりになる。

 

「蒼くん、写真撮って」

「いつものだな。いいぜ」

 

俺は楓と肩を組んで自撮りした。すると、写真ファイルが見えた。

 

「あれ、残してあるんだな」

「……うん」

 

楓が残してくれてると嬉しいな。

 

「楓、俺、トイレ行ってくるから待ってて」

「うん」

 

俺は部屋から出た。

楓って、すごいクールで、落ち着いてるから好きだな。早く戻るか。

 

 俺が戻ると、楓は何か独り言を言っていた。俺はドア越しに耳を済ませた。

 

「しゅきぃ、しゅきぃ、蒼くぅん……はぁ……」

 

俺は少しだけドアを開けてみる。楓の声はまだ聞こえる。隅っこでやっているんだろう。俺は静かに入った。

 

「好き……蒼くん……」

「俺のどこが好きなんだ」

 

俺は楓の横に行った。楓は普通に答えた。

 

「優しくてぇ、気が合うとこぉ…………ふにゃっ!?」

 

楓は焦って変な声が出る。

 

「何言ってるんだい、楓」

「はうぅ……」

 

楓は壁に向かって暗い声で言った。頭を壁にぶつけている。

 

「死にたい……」

「あのなぁ……そんな隠さなくてもいいだろ」

「本人の前では言いたくなかった……」

 

なんか、俺が悪いことしたみたいになってる……

 

「あぁ……悪かった……」

「……好きでいたい……」

「従妹としてな。いいよ」

 

俺は楓の頭を撫でた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。