回帰する英雄   作:瓶ラムネ

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早めの出会い

エレボニア帝国首都、帝都ヘイムダル。

道ゆく人々は誰も彼もが前を向いて歩いている。

 

初めての自由行動日。

リィンはある探し物をしに帝都の古本屋を巡っていた。

 

なかなか見つからない探し物に苦慮しつつも、着実に一件一件探して回る。

 

そんな悠長な時間の使い方ができるのも修行の方が(すこぶ)る順調だからだ。

 

衰えを取り戻すかのようにあっという間にかつての肉体と同程度まで力を取り戻す。

多少肉体が成長しきっていないから、2年間の分多少の扱いなれなさはあるものの、ほぼ万全と言える状態にはなった。

 

とは言え、これではまだまだ足りない。

 

かつてと同程度ではまた敗北するのがオチだ。

自分はもう二度と同じ過ちは繰り返さない。

そう決めたのだ。

 

だから、聖女も超え、黒も超えた領域に到達せねばならない。

そのために必要な道ならば、どんなに過酷であろうとも進む覚悟がある。

 

今の自分は言うなれば劣化鋼の聖女だ。

 

この劣化状態から抜け出すためには、なんらかのピースを見つける必要がある。

それが前回の人生ではミリアムと言う名の「()()()()()()()()」と仲間の存在だったわけだが、仲間の存在はともかくミリアムを今度も犠牲にするなど、容認できようはずもない。

 

しかして、黒を打倒するためであれば大地の聖獣を殺害せねばならず、そのためには根源たる虚無の剣の存在は必要というどうしようもない構造的問題。

それを解決するためのピースはおそらく魔女たちにあると思うが、自分から接触するのも難しいという状況だ。

 

自分の持っている情報を開示して、彼女たちが納得するのか?という問題もある。

そして何より、普段から偉そうなことを言っている彼女たちは、その実この800年の間に黒の騎神に対する対抗策を生み出せていないというどうしようもない事実もある。

 

だからこそ、なんなら結社に泣きつく方がまだ可能性があるとまで思ってしまう。

 

それはさながら悪魔の契約だが、必要性という神の言葉には逆らえない。

最悪の場合、そうなるだろう。少なくともその覚悟はしておくべきだ。

 

まぁ、それをしたのがどこぞの歌姫様なのだろうな。そう、思う。

それに、まずそもそもからして彼らと接触を持つための機会が欲しいところだった。

そのための策は色々と考えているが、どうせならやはり一辺に接触を持ちたいところだ。

 

()()()()()()()()()

 

一冊くらいどこかに転がってるだろうという甘い考えは、やはり甘い考えだったようだ。

こうなればさらに分け身を量産しての人海戦術に切り替える必要性すらありそうに思われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ようやく見つかったその本。その心底から望んで探していた本を抱えて噴水広場のベンチで少し休憩する。

結局温存していた気を全力で放出しての分け身による人海戦術がハマり、スラムの一角で廃品売りをしていた老人の売り物の中に見つけて購入した。

 

流石に発禁扱いになったから、本屋側もきちんと処分したのだろう。それを怠って自分がお上に睨まれたら困るだろうし。

帝都の古本屋など在庫管理も出来てないだろどうせと思っていた自分の甘さが突きつけられるようで口端が自然とへの字に歪む。

 

全く度し難い。

 

あれほど楽観を戒めたというのに、まだまだ自分は染み付いた癖が抜けていないようだ。

この程度のことならば良いが、後々足元をひっくり返されてはたまらない。予防のためにもサポートしてくれる人間が欲しいところだ。

 

心底からそう思う。

かつてならば7組の面々がサポートしてくれたが、こちらでは今それを望むのはいささか現実が見えていないと言うもの。

ならば何か良い方策を考える必要がありそうなところだ。

 

「どうしました?そんな思い詰めたような顔をして」

 

噴水広場の光景を眺め、眼前に広がる平和な光景に目を細めていた時分。そんな頃に声がかかる。

目の前には翡翠色の髪を風になびかせながらこちらを見る少女。

 

年の頃はフィーと同じくらいか。

 

いや、確か()()()()()()()1()()()()1()4()()()()()な。そう思い直す。

 

なんの運命の悪戯か、目の前にはかつての教え子の顔があった。

 

「いや、なんでもないよ。ありがとう、心配してもらって」

 

「そうですか?でしたら良いのですけど……」

 

「あぁ、ちょっと久しぶりに帝都に出てきてはしゃぎ疲れてしまってね。いや、お嬢さんに心配されるとはお恥ずかしい」

 

「……そうですか。えぇ、それなら良かったです」

 

こちらの嘘を見抜いたのだろう。だが、それでも良いとするのは彼女の優しさ故か。

昔の姿でも変わらない優しさを持った少女に少し心が軽くなる。

 

「あぁ。心配してもらってありがとう。少し元気が出たよ。」

 

「ふふっ。お上手ですこと」

 

「いやいや。そう言えば君の制服は確かアストライア女学院だろう?」

 

「え?えぇ……」

 

自分の制服をみて何故それを今言うのか?という疑念を抱いただろう彼女に被せるように話をする。

少し、息抜きがてら今の彼女と話をしてみたい気分だった。

 

「いや、自分の妹もアストライアに通ってるんだ。妹と同じ学院の子に心配かけたとあっては家に帰ったらなんて言われるか……そう思ったらちょっと怖くなってね」

 

「あら!そうだったんですか!?妹さんはなんと言う名前なんですか?」

 

もしかしたら、私知ってるかもしれません!と腕まくりするポーズを取る彼女に相変わらずのあざとさだな、なんて思う。

こちらの視線を読み取ったのだろう。少しジトっとした視線が混じり、慌てて妹を売り飛ばすことにした。

 

「エリゼって言うんだ。エリゼ・シュバルツァー。」

 

「エリゼ先輩のお兄さん!?本当ですか!」

 

それはまるで新しいおもちゃを見つけたような瞳だった。

学院でいじられることになるだろうエリゼには申し訳ないことをした。不出来な兄で本当に申し訳ない。またやる。

実際、今目の前で爛々と目を輝かせる彼女には今のところ勝率がよろしくないから多分また似たようなことになると本当に思う。今のうちに心の中で謝っておこう。

 

「本当も本当さ。いや、挨拶が遅れて申し訳ない。リィン・シュバルツァー。今年からトールズ士官学院に通い始めた学生さ」

 

「リィンさんですね!エリゼ先輩もお兄さまが今年からトールズに進学するとそう言えばおっしゃっていた気も……」

 

「そうかい?まぁ、自分がここにいたと言うことは内緒にしておいてくれ。帝都まで出てきたのに妹を放って遊び倒していたなんて知られたら何を言われるかわからないからね。」

 

「私たちだけの秘密と言うことですね?」

 

面白がってシーっと人差し指を唇に当て、こちらを楽しそうに見るミュゼ。

やはり絵になる女性だ。

 

「そう言えばリィンさんは帝都には何をしに?」

 

「あぁ、一冊の本を探しにね。」

 

ほら、と持っていた本を見せる。

 

()()()()()()()()()、ですか?」

 

しれっとした顔で半日以上をかけて手に入れた本を見せる。

ちなみにこの本、前回は確か音楽喫茶の店員から貰ったはずだが、今回はなんのツテもない状態だ。貰えるはずがない。

 

何この本?と言う感じでこちらを見るミュゼ。

少なくとも自分では彼女が嘘をついているようには思えなかった。彼女はこの本を読んだことない?少しあてが外れたようだ。

が、まぁ良いだろう。

 

「そう。トールズでは歴史研究会に入っていてね。そこでこの本の存在を知ってどうしても欲しくなってね。」

 

「そうなんですか。そんなに面白い本なのですか?」

 

私、興味あります。と言う顔で言葉をかけてくるミュゼ。

これを肴にエリゼをからかう気だろう。ごめん本当に。また似たようなことになると思うけど。

 

()()()()()()。ちょっと帝国ではほとんど流通していなくて手に入れるのは難しい本なんだけど、広い帝都ならまだ残ってるかも」

 

「あらそうなんですか?それは、ちょっと読んでみたいですね」

 

「あぁ、なんなら自分が読み終わったら貸そうか?」

 

「……。いえ、自分で探してみますわ」

 

自分で探して読んでみると言うのも楽しそう、と言うミュゼ。

著者はミヒャエル・ギデオン、と脳内で反芻するかのように呟く彼女をみて、まず間違いなく探すのだろうなと思う。

実際帝都で探すのは相当難しいと思うけれど、貴族領域なら余裕で出回ってそうだからまぁそう言う意味では彼女にとっては難しくもないのかもしれない。そこまでここでヒントを出すことはしないが。

彼女ならそう遠くないうちに辿り着くだろうし。

 

それから彼女と2,3言葉を交わし、別れる。

 

()()1()()()()()

 

これがどう芽吹くのかはわからないが、しかし少なくとも前回とは違う流れが1つ発生しそうだ。

 

そして、この手元にある爆弾。

これをうまいタイミングで起爆できれば、さらにその流れは加速するだろう。

 

どのように盤面を動かすか。

今会った彼女の得意分野だったそれ。

 

彼女を見習い、自分も稚拙ながら盤上の差し手としてこの難解で無為に動きの止まっている盤上を加速させる一手。

それを見出して指さなければいけないのだ。

 

 

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