回帰する英雄   作:瓶ラムネ

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実技試験と在りし日の光景

「それでは実技試験を始めるわよ。全員一列に並びなさい!」

 

グラウンドに集合した全員を見渡してサラ教官が号令を掛ける。

 

前回は確か戦術殻相手にガイウスとエリオットと一緒に戦ったはずだ。

黒の工房製の戦術殻を相手の試験。全く面倒なことだが、機械人形相手であれば楽で良い。

 

この世界でも前回同様の相手が用意されているとは思わないが、まぁ見てみないことにはどうしようもないと頭を振って無駄な思考を叩き出す。

 

座学ならともかくびゅうびゅうと風がふくグラウンドでは考え事も覚束ない、とまでは言わないが、こちらを睨み付けているサラ教官をみて肩を竦めて諦める。

普段は適当な授業ばっかりしてるくせに無視されるのは嫌、と言われるのは正直それはどうなのだろうか?と思わなくもないが、こちらは学生の身だ。

 

フィーをちらりとみてサラ教官に視線を戻す。

 

こちらの意図を読んだのだろう。サラ教官はビキリと額に血管を浮かべた。

 

「・・・まぁ、いいわ。まずはガイウス、エリオット、フィー前に出てきなさい!」

 

やはり前回とは流れが違うようだ。

 

一人でやれと言われるのか、また別の相手が用意されているのか。

興味はあるが、やはりどうしても現在帝国中に散った分身体(わけみ)の様子が気になるし、()にどうやって話を持っていこうかと言う悩みに思考が奪われる。

 

だから、感覚としてはあっという間だった。

いつの間にか他の全員の試験が終わり、自分の番になっていた。

 

予想通り残ったのは自分たった一人だけ。

やはり余程目をつけられているようだ。こんなに目をつけられるほどか?とは正直思うが。

フィーはもちろん、この時期のクロウなど授業をサボりまくっていたはずだが......

 

いや、彼らと同レベルの扱いになるのは嫌ではあるのだけれど。

 

アリサやエリオットなどのリィンだけ特別に目をつけられていて大変だね?と言う視線が痛い。

 

「じゃ、次はリィンね。相手は私が務めるわ」

 

「自分一人ですか?ここは士官学校で軍人を育てる場所だったと思いますけど。」

 

おいっちにーさんし、と準備運動をし始めるサラ教官に苦言を呈する。

軍は団体行動こそが要で、軍人育成学校なのだからチームワークを活かすような試験にするべきだと強く思う。

具体的には戦術殻相手の(ぬる)い試験に変えて欲しい。

 

一部の理級の武人なんかは戦略兵器扱いだから別なのだろうけれど、一士官学院生を相手にその対応はどうなのだろうか、と言う苦言。

サラ教官はそれを華麗にスルーした。

 

「リィンに戦術殻をぶつけても意味ないでしょ?試験なのだから生徒の上限を測るようなものにしないと意味ないじゃない」

 

「はぁ……わかりました」

 

何を言っても無駄のようだ。

まぁ正直戦術殻相手だろうがサラ教官相手だろうが、こちらとしてはどちらでもいい。

 

こんな時間のもったいないイベントはさっさとスキップすべきだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リィンとサラ教官がグラウンドの中央で対峙し、剣を構える。

 

方や東方由来の武器である太刀を両手で構えるリィン。

方や右手にブレード、左手に導力銃を構えるサラ教官。

 

リィンが強いのは既に誰もが理解している。

だからこそ全員が興味を持ったのはサラの方だった。

 

これで両者がどの程度の強さを持っているのかがわかるのではないか?

 

そう思いながら眺めていたⅦ組の面々は、だから驚愕することになった。

 

 

「紫電一閃!!!」

 

「弧月一閃」

 

脚に気を注ぎ込み、グラウンドを盛大に陥没させるほどの爆発的な踏み込みからのブレード一閃。

文字通り閃電の如き速さでリィンの懐に飛び込んでのブレードによるなぎ払い。

開始の合図もなくいきなり仕掛けたサラに観客の面々は驚くが、それを涼しい顔をして納刀状態から余裕を持って防ぐリィンに更に驚愕する。

 

「鳴神!!」

 

「螺旋撃」

 

間を置かず即座の銃撃。

ブレードでリィンの刀を押さえ込んでいるからこそ出来る追撃はしかし、気による肉体強化で突如爆発的に増大したリィンの膂力でサラは弾き飛ばされ、そのままコマ回しのようにリィンは太刀を振るう。

 

太刀にまとわりついた気が瞬時に炎に変換され、瞬く間に炎の竜巻となり飛来した銃弾を弾き飛ばした。

 

その光景をなぎ払われ、空中で体勢を立て直しながらもみてとったサラはさらに導力銃による追撃を行う、が、全て見切られて切り捨てられる。

 

 

チッと舌打ちをしてそのまま一旦は距離を離すサラ。

 

 

リィンはそれをわざと見逃し、早くかかってこいとでも言わんばかりの棒立ち。

 

リィンの、まるでお前では相手にならないと言うかのような態度にますますイラりときたサラは、更に本気を出すことに決める。

 

全力の気の放出。

気が全身に行き渡り、肉体を大幅に強化していく。

名付けられた戦技の名は「雷神功」

 

文字通り雷神の如き速さと力強さを肉体に付与する、肉体強化系戦技の中でも随一の力を発揮できる文字通りサラの奥の手。

 

先ほどとはまるで比較にならないほどの速度と力がサラの全身に満ち、パッと雷光が(またた)いたかのような速さでリィンに切りかかっては瞬時に反転離脱する。

 

圧倒的な速さを武器にしたヒットアンドアウェイ戦法で一方的にリィンに打ち掛かっていく。

サラが攻撃を仕掛け、リィンがそれを凌ぐ。両者の戦いはそういう展開になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・サラ教官がこれほどの使い手だったとは・・・・・・」

 

ラウラの発言がⅦ組の総意だった。

普段はぐーたらな教官だと思っていたが、流石は音に聞こえしトールズの、それも特科クラスなどという前代未聞のクラスを任されるだけはある。

そう全員が理解する。

 

「だ、だがあれだけ一方的に攻撃されてリィンは大丈夫なのか?」

 

「……ふん、なんだ。普段はあれほど目の敵にしているくせに随分とお優しいことだな」

 

「なにおぅ!?」

 

「まぁまぁまぁ。マキアス抑えて抑えて」

 

なんだかんだ言ってマキアスの根の優しさが露呈したことで喜び勇んでチャチャを入れに入ったユーシスがふんとそっぽを向く。

それに怒るマキアスをエリオットが宥めるといういつもの光景が広がるがしかし、問題ないと最初に発言したのは意外にもガイウスだった。

 

「リィンなら恐らく大丈夫だろう。というよりもまず教官の攻撃を一撃も貰っていないように見える」

 

ガイウスの発言に瞠目する面々に更に追い討ちがかかる。

 

「ふん、当たり前だ。あのレベルの武術家がただの学院の教官程度にやられて溜まるか」

 

「・・・・・・意外、ユーシスがリィンを褒めるなんて」

 

「あれは別格だ。褒めるとかそういうレベルの話ではないだろう、フィー、お前もなんとなく感じているのではないのか?」

 

「まぁね。というかサラも最初からわかってたと思うよ。・・・リィンは正直、団長レベルだし」

 

団長というフィーの呟きに首を傾げる面々をしれっとスルーするフィーに詳しく話を聞こうとするが、グラウンドからの爆発音が強制的に遮った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オメガエクレール!!!!」「無月一刀」

 

気を全開にしたサラの渾身の奥義、オメガエクレール。

 

雷神功で強化された脚力を存分に発揮し、縦横無尽にグラウンドの端から端まで利用してリィンを撹乱、そうしてから全身に回していた気を剣に集約させての一撃を放つ。

文字通りサラの必殺の一撃。

 

剣に込められた気が雷に属性変換され、それによって発生した莫大な(いかづち)がグラウンド中を閃くように荒れ狂う。

 

まさに紫電の呼び名に相応わしい、苛烈極まる一撃。

 

 

迎え撃つのは最新の()()

 

放つのはただの抜刀術。

 

しかし、その太刀に込められた気は尋常ではない。

 

サラの一撃同様、可視化され光を放つレベルに練りこまれた気が構えられた太刀に収束していく。

 

莫大な気が練りこまれた電気の塊が文字通り稲妻の速さで飛来するのに合わせて、一閃──

 

腰だめに構えた太刀を一振り、

──それが稲妻を真っ二つに斬り裂いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

実技試験が終了し、今日の修行も一段落ついての帰り道。

真っ赤な夕日が落ちていくのを横目に近く迫るケルディック行きの

 

「よ、後輩くん」

 

そう言ってアッシュグレイの髪を風に靡かせ、 こちらに歩いてくる()()()()()()()()()()()()()

音符マークでもついてそうなその口ぶりに思わず吹き出してしまいそうだ。

 

今回の世界は前回とは随分と違う流れにあるが、自分にとって大事な一幕がこうして忘れた頃にやってくると言うのは、存外悪い気分ではない。

まぁ今回の世界では自分でいうのもなんだが、自分が現時点で武術家として相当な域に達しているからか、クロウの表情には少しばかり警戒心があるように見える。

のだが……このくらいの時期のクロウは元々こんなだったかもしれないか。

 

ただ、それでもこうして律儀にも話しかけてくるクロウ。

それがなんだか、リィンにはおかしくて仕方がなかった。

 

「……なんだよ?人の顔を見て笑いやがって?」

 

「い、いえ…お気遣いありがとうございます。クロウ・アームブラスト先輩?」

 

「あん?なんだお前さん俺のことを知ってんのか?」

 

少し警戒されてしまったか。

クロウの顔色は微妙に、しかし明らかに色を変えている。

この辺のポーカーフェイスはやはりこちらに一日の長がありそうだ。

何せこちらは今から2年以上未来から来ている。それを加味すれば本来であればこちらが先輩と言われるに相応わしい。

 

クロウがリィン先輩、などと話しかけてくる光景にはゾッとするものがあるが、それはそれとして。

 

「そりゃ知ってますよ。2年の問題児、クロウ先輩は有名人ですからね」

 

「チッ1年の問題児代表のお前に言われたくねーっつの……」

 

「あはは…問題行動を起こしているわけではないのですがね……」

 

「グラウンドをめちゃくちゃにしといてよくもまぁ抜け抜けと言えたもんだな、オイ」

 

サラとの勝負の話は2年でも噂で持ちきりだったんだぜ、と大仰に身振りしながらこちらにジト目を向けるクロウ。

 

サラ教官との1回目の実技試験、あの最後にサラ教官が放ち自分が切り捨てたオメガエクレール。あれの余波がグラウンドの端にあったサッカー部の部室を木っ端微塵に粉砕したのだ。

そのせいでサラ教官は今頃職員会議でこってりと絞られている。

 

ちなみに自分も厳重注意はされたが、早々に解放された。

何せ自分はサラ教官の戦技を迎撃しただけで、非はほとんどない、──はずだ。

 

「あれはほとんどサラ教官が悪いじゃないですか」

 

「んなもんは同罪だ!同罪!!……ったく今時の若者ってのは随分と先輩に対する口の利き方がなってねぇようだな」

 

「あれ?でもクロウ先輩は確か留年間近でしたよね?」

 

「グエッ」

 

喉を叩き潰されたかのような変な声をクロウは上げた。随分と芸達者なものだなと思う。

 

「来年から同級生としてよろしくお願いしますね」

 

「待て待て待て待て!誰が留年するっつったよ!ちゃんと卒業するわ!!」

 

「出来るんですか?トワ会長は随分心配してらっしゃったと思いますけど」

 

無論、前の世界での話だ。

こちらの世界ではほとんど関わり合いがない。

 

「トワの野郎……」

 

「まぁまぁ。で、先輩はなんの御用ですか?」

 

いつまでもクロウとプロレスを繰り広げているわけにもいかない。

話を戻す。

 

「ったく、可愛くねぇ後輩だなオイ」

 

「可愛さを求めるならトワ会長にでも会いに行った方がよろしいと思いますが?」

 

「小言はごめんだぜ」

 

やっぱりロクな性格をしていない。

あんなにも得難い良き同級生がいてのコレだからなぁ、と内心で呆れる。

 

「はぁ……まぁ、なんでも良いです。用がないなら行きますけど?」

 

「まぁそう慌てなさんなって。」

 

「いや、そこまで自分も暇じゃないんで……」

 

「お、そうだ。お近づきの印に手品を見せてやるよ。50ミラコインあるか?」

 

──()()

 

「えぇ、ありますよ」

 

「お、サンクス。……そんじゃ、よーく見ておけよ」

 

そこからは、いつかの光景の焼き直し。

あまりにも懐かしく、自分にとっては大事な光景を噛み締めながら言葉を紡ぐ。

 

「そんじゃあな、後輩くん。明日からの実習も頑張れよ!!」

 

しれっと50ミラを持って行ったクロウを眺めながら見送る。

結局リィンは50ミラをクロウに預けた。

 

違う未来も見てみたかったが、どうにもやはりこのやりとりだけは残しておきたかったのだ。

 

クロウを見送り、寮へと足を向け直す。

今回の利子は十一(トイチ)ということにしよう。

莫大な利子で首が回らなくなったクロウの顔を想像して、どうにもニヤニヤと笑うのをごまかせそうに無かった。

 




トイチで50ミラを借りた先輩、莫大に膨れ上がった借金に首が回らなくなる。
そんな彼に灰の英雄が突き付けた示談の条件とは──

内戦の終わりとかに多分こんな事になる。

(と言うか戦闘描写が難しすぎてもう戦闘書きたくないわ)
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