回帰する英雄   作:瓶ラムネ

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最後の一日

ケルディックに朝が訪れる。

 

夜中、なんだかんだ熱くなって語ってしまった自分が恥ずかしくなって、逃げるように外に修行に出た自分は朝食の時間ギリギリになって帰ってきた。

今日は帰りの列車で爆睡しよう。そう考えを巡らせる。

 

その反面修行は(すこぶ)る順調だ。

おそらく以前よりも大分強くなれそうな感覚がある。理の地平に曲がりなりにも到達したからか、やけに自分の肉体状況と足りないところが把握できていた。

いや、それで聖女に勝てるかというと多分無理だが。

 

確か今日はケルディックの大市で盗難事件が発生するんだったか。

 

そのせいだろう、朝っぱらから大市が騒がしい。

 

貴族派の面々の面の皮は非常に厚く、領邦軍の面々が平気でそこら辺をいつも通り巡回しているのを窓から見かける。

まぁ彼ら領邦軍の面々の大半は平民階級な訳なのだが、しかし面の皮が厚いなぁという感想は出てきてしまうものだ。

 

ちょっとどこかぎこちない朝の挨拶を交わす。

3人ともどこか精細を欠いているが、まぁ一方的に色々とぶちまけたから処理に困っているのだろう。

多分困ったら似たようなことをまたするけど。

 

今日のところは自分がフォローに回ることにする。

それでもおずおずと話しかけてくるのはアリサだ。

 

「それで、リィン。今日はどうするの?」

 

「依頼は落とし物の財布と手配魔獣一件だよね?」

 

「あぁ、それなんだが先に大市に行ってみないか?随分と大市が騒がしい。ちょっと様子をみてからでも遅くはないだろう」

 

「うーん、そうね。ちょっと気になるくらいには騒がしいし、落とし物の依頼でどうせ大市に行くしね」

 

「うん、僕も賛成。……えーっと、ラウラは?」

 

なんだかんだで図太いエリオットもいつもの調子がだんだんと戻っている。

問題はラウラだが、まぁいいか。時間が解決してくれるだろう。

 

コクリと頷くラウラ。

どうにも調子が狂うなぁなんて言っているエリオットにラウラのことを押し付けることにリィンは決めた。

 

「じゃぁ早速行動を開始しよう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とんとん拍子で依頼を片付けていく。

 

落とし物と手配魔獣はあっという間に片付け、大市での窃盗事件の調査に本格的に乗り出す。

それも、リィンのさりげない誘導であっという間に事態の究明にまで至ってしまった。

 

だからこそ、異常なまでの早さで真実に到達したからこそ、面倒な状況に陥っていた。

 

「手を上げろ!」

 

こちらに銃口を向けるのは領邦軍兵士たち。

我々の動きを嗅ぎ回っていたのは知っていたし、追ってを放っていたのは把握していたがしかし。

 

()()()()()()()()

 

普段の領邦軍の態度なら、おっとり刀で駆けつけてくるものだと思っていたが、やはり自分たちの責任問題と進退が関わってくるともなると動きが早くなるようだ。

全く普段からそのくらい職務に熱心なら良いのだが。

 

ラウラが自分の身分を明かし、威嚇するが領邦軍の面々はにべもない。

何せ彼らの背後にいるのは公爵だ。

確かに帝国で二大武門と言われるアルゼイドを敵に回すのはアルバレア公爵的にはよろしくないが、そんなことは一介の下っ端にはわからない。

公爵からいくつも位階が落ちる子爵の家の娘。

そんな程度の女に彼らの掲げる美旗が霞むはずもなかった。

 

至極当然のように我々を取り囲み、拘束しようと試みる。

こうなってはもう、仕方がない。

TMPを待とうとも思っていたが、こちらにつくのにはもう少々かかりそうだ。

 

「……もし、我々を無理にでも拘束しようとするのであれば──」

 

「なんだ?今更命乞いか?」

 

こちらの状況を見て煽る盗賊ども。

随分と自分たちの状況がわかっていないようだ。

 

いや、俺の様子の異常性に気づいたのはエリオットとアリサ、そしてラウラだ。

 

丹田に力を込め、気を急速に練り上げる。

言葉でわからない人間に言葉をぶつけても無意味だ。

この手の手合を相手にするのであれば、その身でもってわからせるしかない。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

瞬間、リィンの全身から極光が溢れる。

 

それは瀑布のような極大の気の流れ。

人間の姿をした気の塊と言える何か。

 

普通ならただの気の放出は可視化されず、せいぜい剣に付与した気が光を放つ程度だ。

だが、あまりにも濃密に、一辺に、莫大な量を放出したリィンの気が極大の光となって溢れ出す。

 

一般人の域を出ない領邦軍の軍人ですら知覚してしまうほどの莫大な気。

それがすぐ間近のリィンから発生し、波濤のように気の波動が叩きつけられる。

 

──腰が砕ける。

 

それはまるで、目の前に神でも降臨したかのような光景。

極光を放ち、人智を超越した男がこちらを睨み付けている。

 

その事実にカチカチと歯が震えて音を鳴らし、かってに膝が地面に着く。

全身から力が抜け、武器を放棄し、衝撃で声が出ないながらも持てる全力で命だけは取らないでくれと乞い願う。

 

公爵家がどうこう、そんなことは頭からすっかり抜け落ちていた。

 

「よろしい。」

 

彼らの様子を見てとり、気を収束させる。

光を放っていたのはほんの十数秒。

 

だが、その十数秒で領邦軍の面々は既に彼、リィンに対して銃を向けることは出来ない。

そう思い知らされていた。

 

それから数分経って、鉄道憲兵隊のクレア大尉たちがこちらに到着する。

 

打ち拉がれ、泣いてリィンに許しを請う彼ら領邦軍の姿を見て、どっちが悪役なのか一瞬わからなくなったクレアだが、とはいえ盗賊が最優先として彼らを受け取ってひったてていく。

 

その後のリィン達への取り調べは本来より少し長引いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すぅすぅと静かな寝息をたててリィンが眠る。

 

その様子を微妙な表情で見ながらアリサたちは迎えに来たサラと話をしていた。

 

「教官はリィンの素性を知っているんですよね?」

 

聞きにくそうにアリサが口火をきる。

リィンが昨日話した話はあまりにも重い内容で、あの程度のいざこざでリィンが素直に話すような内容ではなかった。

だが、昨日の話があの場を凌ぐための嘘だとはリィンの様子にあまりにも凄味がありすぎてそうは思えない。

 

だから、気が付けば口を開いていた。

 

「えぇ、知ってるわよ。でも、多分君たちが知りたいことは私も知らないわ」

 

「……そう、ですか。」

 

「でもリィンは少しは事情を話してくれたんでしょう?それなら一歩前進じゃない?」

 

「それはそうかもしれませんけど……」

 

「あの話を聞いちゃうと…ちょっと……」

 

ラウラの完全に萎れた様子はともかく、なんだかんだで図太いアリサとエリオットが消沈した様子にサラも興味が湧いてくる。

生徒のプライバシーなどあってなきが如くのエレボニアだ。

良識に従えば選ぶのは沈黙なのだが、生徒のことについては知っておかないと後々困ることになるかもしれないと言う大義名分がサラの口を軽くする。

 

「リィンの目的ね。それは先生も聞いてもいいのかしら?」

 

「……」

 

「……すみません、ちょっとサラ教官でもお話しできません。申し訳ないんですが、リィンに直接聞いて下さい」

 

アリサもラウラも沈黙。だからリィンに話を聞く発端となってしまったエリオットが重々しく口を開く。

正直今すぐにでも教会の懺悔室で昨日の軽挙を懺悔したい気分だ。

サラ教官からリィンを庇うくらいはなんと言うこともない。

 

エリオットの追い詰められたよう様子に、サラとしても流石に口が重くなる。

 

「……それほどなの?」

 

「少なくとも僕としては普段のリィンの素行不良など、リィンの目的に比べればどうでも良いと思うくらいには」

 

「……そう。学院の素行調査ではなんの問題もなかったんだけどね……これは少し調査が必要そうかしら?」

 

「!!……サラ教官、流石にそれはやめて上げて貰えないだろうか」

 

サラの呟きを耳聡く拾ったラウラがバッと顔をサラに向ける。

その必死な表情にサラこそが困惑する。

 

ラウラは自分の()()()()()()行った事が他人を傷付けて足を引っ張っていたと言う事実に今にも泣き出しそうだった。

 

「ラウラ…あなたがそう言うほどの事なの?」

 

サラ教官に昨日の話を懺悔するように教えてしまいたくなる。

3人の追い詰められたような顔に、これ以上は藪蛇だと思い口を噤まざるを得ない。

 

「……まぁいいわ。あんた達がそこまで言うと言うことはリィンにもそれなりの深い事情があると言うことなんでしょ。あんたらの様子とリィンの普段の様子を見れば別に学院には問題なさそうだし、一旦この件については忘れましょ」

 

「はい、そうしていただけると本当に助かります」

 

「ったく、エリオットまでそんな事を言うとはね。このクラスは問題児が多すぎて困っちゃうわ」

 

「はは……でも、リィンが問題児と言うのはちょっと疑問が残る気はします」

 

「随分肩持つじゃない。……まぁ良いわ。少なくともB班のあの馬鹿達よりはマシと考えておくわ」

 

マキアスとユーシスのせいで崩壊したB班に比べれば実際マシだと毒づく。

まだ最低限他人と合わせる事ができるリィンの方が比較すればの話だが、彼らよりはまだ扱いやすいと言える。

 

「教官の苦労は想像できます。こっちもリィンが居なければたぶん今頃領邦軍に捕まって牢屋の中でしたけど……」

 

「そういえば、それよそれ!私も報告で読んだしTMPからも聞いたけど本当なの?」

 

思い出したくもないB班の悪夢から、これ幸いと話題を変えるが実際驚きではあった。

 

正直そこまでの存在だとは思っていなかったというのが本当のところだ。

話に聞く全身が光り輝き、極光を放った姿。

 

そのレベルの気の放出を十数秒持たせる?さらにその後も平気な様子で動き回り続ける?

しかもそれが徹夜明け?

 

──どういうことよ。

 

サラは本気で疑問に思う。

そんな事ができる人間がどれほどいると言うのか。

 

自分の雷神功だってせいぜい暴風と雷を起こし多少発光する程度のものだ。

全身が完全に光り輝き、あの憎たらしい領邦軍の連中をして神とまで言わしめるなど、普通ならあり得ない。

 

「もちろん本当ですよ!!」

 

「私たちも見てたけど、本当に光の神かと思っちゃう姿だったわよね……」

 

ラウラまで同意の頷きを返すところに凄味がある。

 

「まぁあんた達がいうなら信じるし、TMPと領邦軍の有様を見ちゃうとね……」

 

お互い頷き合う。

 

そう、もちろん、あの領邦軍の有様は自分も確認した。

 

あれほどの畏怖をいつも居丈高で高慢ちきな領邦軍の面々に抱かせるなど、自分では到底無理だ。

それこそ人死にを出して何人かの首を跳ね飛ばさねば出来ない芸当だ。それだって彼らの心をああまでへし折れるかというと怪しいものだ。

 

それを無傷で、ただの気の放出で成し遂げる?

 

それはもう、奇跡と言って良い。

 

あのクレアをして、遠くで感じた気の放出の波動だけで発狂しそうだったというのだから彼らの言っていることが正しいのだとは思う。

だが、それを素直に認められるかは微妙だった。

 

本当に剣聖級ね。

 

それは、ストンと腑に落ちる言葉ではあったが、しかし理性が全力で拒否反応を起こす言葉でもあった。

 

おそらく彼の全力を引き出すにはそれこそ光の剣匠や雷神、黄金の羅刹などの帝国最高峰の面々でなければならないだろう。

だが、彼ら人外の化物どもが本気で戦ったりしたらトールズはあっという間に崩壊する。

 

まだまだ道半ばで修行中で未熟なサラが挑んだアレでさえグラウンドの地形を変形させ、余波で部室を一つ消し去ったのだ。

 

それ以上の化物どもの真っ向勝負など、いかに頑強なトールズといえども半壊は免れないだろう。

 

だが、嫌な予感だけはした。

いつの日か、血気盛んで同クラスの武芸者に飢えた力の申し子どもがリィンを求めて学院に来る。

そんな未来を幻視してしまっていた。

 

「あーまぁ、リィンのことは忘れなさい。正直理に至った化物レベルのことを考えても意味がないわ」

 

「もちろんですよ。士官学校で求められているのがあのレベルというなら直ぐに退学届を叩きつけてます」

 

「全く同意ね。そんなの冗談じゃないわ」

 

「それなら私は教師失格ね。だって出来ないもの」

 

アッハッハと3人で笑い合う。

ここでもう一人のラウラが明らかに消沈しているのがどうにも目についたが、まぁリィンに無駄に突っかかって行かないだけマシになったことだろう。

 

「ま、焦らずあんた達はあんた達のペースで強くなって行きなさい。学院での強化トレーニングはきついけど、少なくとも理不尽ではないはずよ」

 

「えぇ、それはもちろん」

 

「きついのは嫌だけどなぁ、僕」

 

朗らかに笑う夕方。

トリスタに向かう列車の中は行きよりは明るい様子だった。

 

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