そこからは、特に変化もなく順調にジュエルシードを回収することができていた。
今日はなのはちゃんはすずかちゃんのお茶会に招待されていた。こっちも誘われはしたが、さすがに女の子の中に一人だけいるという状況が生まれるのでご遠慮させていただいた。
ユーノが少し助けを求めるような視線をこっちに向けてきていたが、諦めろと伝えてその場を後にした。
―ふぅー、ティル今大体何キロくらい走った?
『十キロ程です。どうします?続けますか?』
―そうだな。後、二キロくらい走ったら切り上げるか。
『了解です。しかし、マスターも体力は人外ですね。負荷かけてるのに十キロも走って、息一つ切らさないでいるんですから。』
―ああ、そうだな。…だけど、こんぐらいじゃなきゃやっていけないよ。
お茶会の誘いを断ってから、町内を走り回っていた。前述の特訓の成果で並大抵のことではまず体力切れ等起こさない程度にはなったが、それでも指導を終えると息切れしてしばらく動けなくなることから、そのハードさは伝わるだろう。だから、こうして自主トレを欠かせないのだ。
『マスター、二キロに達しましたよ。あとどうやらこれから雨が降るようです。』
―マジかー、なら急いで帰らないとな。
ある公園前につくと二キロに達した。日が大分落ちてもうすぐ暗くなるうえに雨まで降りそうになっていると聞いては帰らなきゃいけない。家の方に足を向けると車いすに乗った少女が目に入った。
膝の上には買い物を終えた帰りか大量の食べ物が入った袋が置かれている。それを落とさないようにしてるのかとても進みづらそうだ。
―ティル周辺にあの子の家族らしい人影あるか?
『いいえ、ありません。そろそろ日が落ちる頃にあの子一人だけですと、危ないですね。』
―手伝ってくるか。ティル、家への連絡頼むね。
『さすがマスター、優しいですね。』
確認の連絡をティルにまかせて件の少女に歩み寄る。
「持つよ。そんなにノロノロ動いてたら日が暮れちゃうよ。」
「え?」
流れるような動作で買い物袋を手にかけ、車いすを後ろから押してあげる。
一連の動きに少女は、その顔をポカンとさせながらすぐに顔を上げてあたふたとし始めた。
「いやいや、大丈夫や!これくらいわたしでもどうにかなるから!」
「いいからいいから。俺が勝手にやってるだけだから」
「いや、でも…」
「それにそろそろ暗くなるよ。そんな中、君一人で置いていけるわけないじゃん。」
「……ふふ、そういう君も足して変わらないやん。」
「はっは、これは一本取られた。」
軽く冗談を交えてみると思いのほかウケがよく、家まで案内してもらうことになった。
「ありがとな、わざわざ」
「別にいいよ。放っておけなかったからね。」
買い物袋は少女が持つにはとても重かった。買い溜めするからだろうがこれをこんな時間にこんな少女一人が、しかも車椅子で行っているのを見るにかなり複雑な家庭事情がありそうだ。
『どうでしょうか、マスターみたいに親がいないのではないですか?』
―それは聞かない限り分からないけど、俺にはマリアナ達とティルがいるから一人じゃない。
「ああ、ここや。」
しばらく歩くとどこにでもありそうな家の前で止まる。表札には八神と書いてある。
「そういえば、まだ自己紹介してなかったね!…俺は横山将暉。君の名前は?」
「わたし?わたしの名前は八神はやてや!」
……としばらく呆然としてしまった。
ーティル、この子多分主人公の一人だ!
『はい?……それは間違いないんですか、マスター。』
ーああ、顔も一致しているし名前まで一緒となれば間違いない!お話だともう少し先の登場だけどな。
さすがに現実のことだけあって、物語と違ってこんなことが起こるのも当たり前かと改めて思った。
「将暉。今日はホンマにありがとな!」
「い、いや俺が勝手にやっただけだから気にしなくていいよ」
「でもキミも親が心配してるんやないの?」
「え、俺親いないから大丈…あ」
自分の発言に聞くと途端に顔を暗くするはやてちゃん。ヤバい、話題を変えないと考え言葉を紡ぐ。
「いや!えっ「なぁ!」…ん?」
「ご飯…食べてかん?」
ーーーーーーーーーーーーー
「さぁ、たくさん食べてってな!」
目の前に並ぶ料理はとても同い年の女の子が作ったとは思えないほどに高い完成度を誇っている。家庭料理としては百戦錬磨の主婦のそれを思わせる程だ。
『なのはさんと言い、この方と言い、どうして私たちの周りにはこんなに優秀者な人が多いんでしょうね』
試しにから揚げを一つ箸でつまんでみる。
唐揚げを口の中に入れ、咀嚼してみる。しっかり中まで火が通ってるし、肉汁もあって衣はパリッと中は柔らかく、旨味が口の中に広がっていった。
「…うん!美味しい。」
「よし!」
俺の言葉に花が咲いたように笑う少女。その眩しさはなのはちゃんと同じものを感じるが、こっちはさらに活発さを感じさせるものだ。
「いや〜わたし、人に料理を食べさせるの初めてでな?味覚合うか結構心配やったんや」
「そうかな?そんな心配する必要ないと思うけど。もっと自信持っていいよ、はやてちゃん。」
「ほんまか〜?えへへへ…あ、はやてって呼び捨てでええで!」
はやてちゃんは俺が無言でパクパクと食べてるのをニコニコとしながらこちらを見ている。
「…♪」
その光景は母親の眼に見えた。
「ごちそうさまでした。」
「お粗末さまでした。」
あっという間に平らげてしまった。なんでこんなに美味い料理を小学三年生が作れるんだろう。
「将暉はたくさん食べるんやね。」
「まぁ育ち盛りだしね。」
普通に考えてみると、小学三年生が食べる量ではないがあの特訓の影響というか運動量に対応するためにこんなに食べられるようになっていったんだと思う。
「洗い物は俺がやるよ、貰ってばっかりじゃ悪いし」
「へぇ、将暉は小学生なのにしっかりしとるなぁ」
「それはお互い様だな」
食器を一つに重ねて運んでいく。台所には大きめの椅子があり、はやてちゃんがそれに座って洗い物をしてるであろうことが見て取れた。台所は俺の場合は背伸びすれば問題ないが、車椅子に座った状態でやるには少し高すぎるようにも思える。
「……将暉はさ」
「ん?」
「自分の親がいないのって寂しくないんか?」
…反応に困る質問が飛んできた、確かに親はいないが姉がいるから独りってわけではないからなあ。
「姉六人といるから、全然大丈夫だよ。」
「あ、そうなんや。…家族、いるんだ」
答えに窮して正直なことを口にしてしまった。あきらかに会話の選択を間違ったことがうかがい知れる。
洗い物をしながらのため背中越しでの会話になるが明らかに向こうの雰囲気が暗くなるのを感じた。
―ティルこの状況の打開策…ないかい?
『マスター、あなた鬼ですか!こんな難題ふってくるなんて』
―そこを何とか頼む!俺はなんにも思いつかないから。
『それじゃー、足のことを聞いてみてはいかがですか?』
「はやてはなんで車椅子なの?」
ティルに頼んで半分思考が止まっていて気が付かなかったが、今の質問は大きな地雷を踏んでいる。
「……実はな、わたしの親はわたしが物心つく前に亡くなってな。この足はそれが原因で歩けなくなったらしくてな」
「……ごめん。」
「うんうん!わたしの方こそ辛気臭い話してごめんな!」
―おい、ティル丸投げしたことは悪かったが、この仕打ちはないじゃないか!
『ふむ、なら彼女をここまで育てたのは誰でしょうか?』
―冷静に考察するな!そのことなら後で説明してあげるから。
とにかくこの状況を打開したい一心であれこれ考えた。
「そうだ!じゃあはやてちゃんに足が治るおまじないをしてあげるよ」
「そんなんあるんか?」
『そんなのありましたっけ?』
―おいおい、回復魔法があるじゃないか!補助を頼む。
洗い物を中断して手を拭いたらはやてちゃんの手を取り、念じるふりをする。
「け、結構本格的やな」
『治癒魔法開始』
体に魔力を巡らせてはやてちゃんが足が動かなくなった原因を探る。
―ん?なんか魔力的なの感じない?しかもなんか黒めの
『は?は?は?は?は?は?は?』
―おい、どうしたんだティル?
『マスター、この娘とんでもない爆弾抱えています!』
―爆弾?……あっ、そう言えばそうか!
あまりにてんぱりすぎて大切なことをすっかり忘れていた。八神はやての足が動かない原因が闇の書であることを。
「な、なぁもうええやろ。さすがに恥ずかしくなってきたわ」
『とにかく一旦終わりましょう、このことについては後で話しましょう。』
「あ、ごめん」
「あ……うん」
手を離し、洗い物に戻る。
「おまじない、効くとええな」
「俺のおまじない、結構効くんだよね」
後ろからはやてちゃんの声が聞こえる。その声はさっきよりは明るくなっていたので取り敢えず目標は達成したからよしとしよう。
お手洗いを借りて、説明した。
―それで、さっきの件についてだけど、てんぱりすぎて忘れてたんだが、はやての爆弾はロストロギアの[闇の書]ってものだ。足の原因もそれだろう。
『そのことを忘れますか!?私、すごいびっくりしたんですけど!』
―悪い悪い。…それで、お前でなんとかできそうか?
『今は、なんとも言えません。もう少しデータが必要です!』
―おい、それはどう意味だよ。
『泊めてもらってください。』
―え、嫌だよ!色々と問題があるでしょ!
『いいから、やりましょうね!それとも何か疚しいことでも?』
―なあー、ティル。さっきの件で怒ってるんなら勘弁してくれよ。
『とにかくやってください!』
―……はい。
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「不思議な子やな…」
公園の近くでいきなり声をかけられたと思ったら凄いカッコよくて最初はビックリしたが話してみると大人びているが、所々子どもっぽくて自分でもびっくりするぐらい気付いたら気を許していた。
お互い親がいないもの同士で親近感もあったが、どうやら向こうは家族がいるようだ。それでもあの子は明るく、元気で、そしてこっちを励まそうとしてくれた。
「あかんな、こりゃ」
急に静かになった家を見て、いつもより広く感じるのは気のせいなのだろうか。きっと気のせいではない。
だって自分の目からは自然と涙が零れてしまってるのだから。
「寂しいなぁ…」
誰かと食事をするという温かみがここまでだとは思いもよらなかった。将暉が自分が作ったご飯を美味しそうに食べる姿を見るのはこの上なく幸せだった。
将暉が自分の料理を褒めてくれるだけで舞い上がりそうなほど嬉しかった。
「おまじないか……」
将暉が握ってくれた手を見る。きっと本人は思いつきでやってくれたのだろうが、今の自分には本当に効いてくるのではというどこか確信めいた謎の自信があった。
「ホントに不思議な子やな〜」
一緒に過ごしたのはたった数時間もない僅かな間。でもそんな短い間でもここまで自分の心が揺さぶられるとは思わなかった。
後、少しでこの時間が終わってしまうそう考えるとまた涙が浮かんできた。
将暉が戻ってくると何か申し訳無さそうにこっちに向かって
「……あの、暗くてどっちの道から帰ればよかったか分からないから今日だけ泊めてくれない?」
「………ええで!」
本当に……不思議な子や。