また少し空きましたが、どうかご容赦を。
では!
「なぁ」
こたつの中で三人、少女たちは特に会話をするでもなくその時を待っていた。
暖をとりながらただひたすらとお茶を飲んでは横になったりみかんを食べたりしている。そんなとき、ふと思いつきで魔理沙が口を開いた。
「なによ」
「ずっと気になってたんだけどさ、三日月の能力って何なんだ?」
横になっていた霊夢が身体を起こす。突然何を言い出すのかと、魔理沙の顔を伺った。
「いや、あいつがそれなりに強いのは知ってるけどさ。でもよく考えてみたら、私あいつの能力知らねーなって。陰陽術を使うのは知ってるけど、それってただの才能だろ?そういう後付けの能力じゃなくってさ」
「あー……」
魔理沙が言わんとしていること。つまりは程度の能力のことだろう。
ーー程度の能力。
幻想郷において特定の者たちが保有する、いわば異能のこと。
例えば霊夢であれば''主に空を飛ぶ程度の能力''、魔理沙は''魔法を使う程度の能力''など様々だ。
だが、程度の能力は誰でも持っているわけではない。だからこそ異能と呼ばれるのだ。それを霊夢たち同様、三日月も保有しているかと聞かれると、それはどうなのかと思う。
「どうかしらね。私もあいつが能力使ってるとこ見たことないし」
「あ、そうなのか?」
「えぇ。というか、そもそも持っているのかも分からなーー」
「あるわよ」
言い終わる前に、横から割って入ってきた。何をするわけでもなく、静かに座って霊夢と魔理沙の会話を聞いていた紫が短くそう告げた。霊夢と魔理沙の視線が紫に集まる。
「そうなの?」
「まぁ、そうね」
「……でも、三日月って元々幻想郷の人間じゃ無いじゃない。それなのに持ってるの?」
「''だからこそ''、みたいなところもあるんじゃない」
……なるほど。確かに考えてみればそうかもしれない。
三日月は元々ここの人間ではない。つまりは幻想郷にとって異端な存在と呼べる。
そんな異端な存在が、異能を持っていたところで、何もおかしいことはない…のか?
「じゃああんた知ってんの?三日月がどんな能力持ちか」
「知っているけど、本人が居ないのに話すのは少し気が引けるわね」
「幻想郷の管理者として、私はそれを知る権利があると思うけど」
「……そうね」
ふふっと紫が小さく笑う。面白そうな、何か裏がありそうないつもの笑みだ。この女が信用ならないのはいつもの事ながら、それでもやはり身構えてしまう。
「別に言ったからどうこうなるものでもないし、良いわよ」
どうやら本当に教えてくれるらしい。魔理沙が隣で興味津々といった表情でいる。
無論、霊夢もそれなりの興味がある。今更だが、本当に本人が居ないのに聞いていいのかと不安になるが、三日月ならどのみち大丈夫だろうという結論に至る。
紫が言葉を続ける。
「彼の能力はーー
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ふと思う。
人は生きることと死ぬことは、どちらに対しての執着が強いのだろう。
生きたいと思いながら生きている人、死にたくないと願いながら生きている人。どちらも同じように思うかもしれないけれど、私は少し違う。簡単にいって仕舞えば、前向きに生きるか、そうでないか。
死ぬことに恐れながらの人生よりも、生きることに期待を寄せる人生の方が良いに決まっているだろう。だって、ずっと死を考えなければいけない人生なんて、悲しいじゃないか。寝ても覚めても死が隣にある生活なんて、疲れてしまう。
嫌なものなのだ。死とは嫌なものだ。人は死ぬために産まれるわけじゃない。にも関わらず、人生の終着には必ず死が待っている。
いま、目の前にある魂はどのように亡くなってしまった魂なのだろうか。
魂魄妖夢は、いつも死が隣り合わせの場所で過ごしてきた。例えそれが自分の死ではなくとも、その事実だけで心は摩耗していく。
半人半霊の身である妖夢は自らの死を自覚している。なんせ、半分は死んでいるのだ。
だからこそ自分がやらないといけないと理解しているし納得もしている。
目の前の魂たちを行くべきところへ還すべく、一振りの刀を握り締める。
白髪を揺らす彼女の視界には、咲くことのない桜の木が力強く立っていた。
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「『幽鬼剣・妖童餓鬼の断食(ようどうがきのだんじき)』」
刀から伸びた横一文字の斬撃が目の前の青年を捕らえた。
弾幕では無い、確実に仕留めることを狙った一撃。そして今、斬撃は青年の腹部を切り裂き痛々しいほどの鮮血を散らしている。返り血がピシャリと頬に飛びつき、多少の不快感を覚えた。
ここまでする必要があったのかどうかと、自分の心に問いかける。
今、あの青年は死を全身で感じていることだろう。恐怖や絶望などで頭がいっぱいのはずだ。
いや、それすらもう考えられなくなっているかもしれない。
だが仕方がない。生きている身でありながら許可なく冥界に立ち入るなんて、死者への冒涜だ。
「でもせめて、安らかに」
妖夢は白楼剣を握り、静かに寝そべる青年のもとへ近づいた。久しぶりの戦闘、そしてスペルカードの使用により、身体もかなり疲れてきている。足も若干フラついている。
ゆらゆらと揺れながら青年に寄った。
頬を流れる汗を拭い取る。
ふと違和感が走った。
頬を拭った手元を見てみた。手には先程の返り血が付いている。
視界では、手は血に染まっている。
ーーしかし、その手には血が付いている感触が一切としてなかった。
「天つ風っっ!!」
「っっ!!!」
瞬間、右から声がした。
その声に応えるかのように突風が発生し、妖夢の身体を軽々と持ち上げた。そのまま石垣に背中から強打し、へたりと座り込んだ。
「どう…して……」
「少し、ズルさせてもらったんだ」
妖夢は青年の体を見た。さっきあったはずの傷が綺麗になくなっている。
次に辺りを見回した。さっきまであった青年の死体が、それどころか飛び散っていた血さえ無い。
「''視界を操る程度の能力''」
「ーーっ!」
彼は短くそう言った。視界を、操る。
「君の視界を操作したんだ。君は僕を狙ってあの技を打ったつもりだったと思うけど、実際は僕は逆方向に走っていた」
「なるほど」
してやられたという訳だ。
どうやらもう妖夢には立つ力が残っていない。先程の衝撃で身体がまだまともに動かない。気絶していないのは不幸中の幸いだ。ただそれも時間の問題か、瞼が重くなってきた。
「ーー名前」
「…え?」
「君の名前、教えてもらっても?」
青年は疲れ切ったような笑顔でそう聞いてきた。
「……妖夢です。魂魄妖夢」
「妖夢…か。ありがとう」
三日月はスタスタと妖夢の近くに寄ってきた。
自分を殺そうとした相手だ。そのままにしておくはずが無い。
あぁ、死ぬんだろうなと覚悟を決める。それはきっと半分ではなく、本当の死。
もういいかと目を瞑る。
……どうせなら一度くらい見てみたかったなぁ。桜ーー
「ごめん」
「…………は?」
素で声が出た。
ごめん、と言ったのか?なぜ?自分を殺そうとした相手だというのに。
驚きで顔を上げると、三日月はバツの悪そうな表情を浮かべている。
「なんというか、此処って生きている人は本来来ちゃいけない場所だから。こっちにも都合とか色々あるけど、それにしたって少し周りに気がつかえてないなって、今更ながら思ってさ」
「ーー!」
三日月はそう言いながら、へたりと座る妖夢の目線に合わせるように妖夢の前へ座り込んだ。
「軽い気持ちで来ちゃいけない場所だって、反省してる。殺されたって文句は言えない」
妖夢は静かに三日月の話を聞いていた。彼の目を見て、じっと続く言葉を待っている。
三日月もそれを見て、もう一度決意するように、そして気を引き締めるように告げた。
「けど、今は地上のみんなが困ってるんだ。だから、異変は解決しないといけない」
「ーー桜」
「え?」
妖夢の口から言葉が溢れた。
「桜が、見たいんです」
「桜…?」
「はい、桜です。気付きました?此処って、花が咲いてないんです」
あっと三日月が声を上げた。どうやら気が付いたらしいその表情は、未だに疑問が残っている。
「花は命があるものでしょう。…命があるものは、此処には咲きません。だからですかね、なんというか、命が芽吹いているものを見たかったんです。隣の芝生は青く見えるものですよ」
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なんと言ったらいいのだろう。
三日月はかける言葉を探していた。彼女はこの冥界で十数年過ごしてきたのだろう。その毎日が死で塗り固められていたかと思うと、少女の体には重すぎるだろう。そんな人に対して、知ったような口を聞くべきでは無いし、言いたくも無い。
そして、なんとなく紫が言っていた意味がわかってきた。
春といえば桜、なら桜といえば…
とどのつまり、そういうことだ。
芽吹かない命を芽吹かせるには、周りから集める他ない。
三日月が階段を登ってきて周りを見た時、一番初めに大きな木が目に入った。
立派でありながら、花どころか葉の一枚も付いていない。どうやら、あれは桜の木だったらしい。妖夢たちはこの桜を咲かす為に春を奪っていたのか。
「異変が終わったら、地上で宴会をやろう」
「……宴会?」
「そう。満開の桜の木下で、みんなで馬鹿騒ぎするんだよ」
「楽しそうですね。ーーでも、私は行けません。私の身体は半分死んでいます。…死人は地上には行けない」
「でも、半分生きてるでしょ?」
「ーー!」
妖夢が目を見開く。心底驚いたように、三日月を見る。
「半分は死んでるって言っても、もう半分は生きているんでしょ。じゃあ別に大丈夫でしょ。それに、その理論でいくなら君が此処にいるのもダメになるよ」
「ふふっ。それって屁理屈じゃないですか」
「あー…やっぱり?」
「えぇ、そうです。…………一番死に執着していたのは、私だったんですかね」
「?どうしたの」
「いえ、なんでもありません。それよりも三日月さん、異変を止めたいんでしたよね?でしたらこの道をまっすぐ行ってください、しばらくしたら屋敷が見えます。そこで、幽々子様がお待ちです」
「!…ありがとう」
予想だにしていなかった言葉に驚きつつ、次の目的地が与えられた。そのことを教えてくれた妖夢に感謝しつつ、先へ向かおうとする。
立ち上がろうとした三日月の手を、咄嗟に妖夢の手が取った。
「それと。ーーさっきの、楽しみに待ってますからね」
「あぁ」
そう言い残し、妖夢は意識を手放した。
気絶してしまった彼女の身体をゆっくりと横に倒し、三日月は次の目的地へ向かった。
三日月
視界を操る程度の能力