半端者と幻想と   作:あざね

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どうも、あざねです。
もうそろそろ異変も終わるかなといったところになります。多分。
では!


きっと仲良く

こんな言葉をご存知だろうか。

 

『桜の木の下には死体が埋まっている』

 

物騒な言葉で、気味の悪い話であると思う。あんなにも綺麗に咲く桜の前でそんなことがあってたまるものかと言いたくなるほど。けれど、今回の異変で、僕はその物騒で気味の悪い話を頭の片隅に覚えておく必要があったのだ。不思議に思う必要があったのだ。もちろん、通常は信じられるような話ではないし覚えておかないといけないような言葉では全然ないが、それも状況を考えるべきだったろう。

 

ーー冥界という死にまつわる世界で、死にまつわる話のある花が一つだけあるとすれば、それはきっと気にしないといけなかったことなのだ。

僕が異変というものをあまりに楽観視し過ぎていたせいで、後戻りできないところまで行ってしまうところだった。

そんなことになっていたら、僕はきっと自分を許せなかっただろう。

僕はきっと、自分を呪い殺していただろう。

 

 

 

=========

「あなた、お名前は?」

「あっ…と、三日月です」

 

ぺたぺたと廊下を歩く。

 

「三日月君ね。遠かったでしょう、よく来てくれたわねぇ。ほら、此処ってお客さんとか全然来ないから退屈なのよねぇ」

「は、はぁ」

「まぁ冥界なんだしそれは仕方のないことなのだけどね…だから嬉しいのよぉ〜、こうやって誰かが来てくれるの」

「なるほど…」

「あ!そうだ、ちょっと庭を見て行かない?」

 

幽々子が三日月の返事を待たずにスタスタと先を行く。我慢できない子供のようにはしゃいでいるのがなんだか見ていて微笑ましく感じる。

廊下を歩いていくと縁側に出た。三日月がまず目に写ったのは綺麗な庭だった。日本庭園のような素朴な美しさで、見ているだけで癒されるような風景だ。耳からは水の心地よい音色が流れ込んでくる。

 

「これは…!……凄いですね、とても綺麗です」

「でしょう?私もすごく気に入ってるのよ。見ても綺麗で、聞いてるだけでも癒される。すごく素敵な場所でしょう?」

「はい。こういうのってなんだか心が洗われる気がしますよね」

「そうなのよぉ〜。これ全部、妖夢がやってくれてるの」

「え!?」

 

あっやば。大きい声が出てしまった。

幽々子が口にした聞き覚えのある名前、妖夢とはあの門番少女のことではないか。

三日月は目の前の景色が頭に入ってこなくなるほどに混乱した。

 

「あら、もしかしてもうどこかで会ったの?」

「あ、いや、えっとぉ…」

 

すみません、その子、今気絶してます。急に罪悪感が津波の如く押し寄せ、三日月の良心を握りつぶした。

三日月が無意識に腕の傷跡をさするのを見て、幽々子はそれを見て面白そうに少し笑いながら会話を続けた。

 

「そういうことね。気にしなくて大丈夫よ、あの子とっても仕事熱心だから突っ走っちゃうこともよくあるの」

「そうなんですか…あの、お二人はどのようなご関係で?」

「んー、そうねぇ…従者と主人、みたいなものね。家事とかも妖夢がやってくれるの」

「なっ!」

 

だったらそうだと言って欲しかった。それを知っていれば妖夢もあんなところで寝かせたままにしないでしっかり連れてきたのに……

だが言い訳もさせて欲しい。三日月は二人が主人と従者であることを知らなかったわけだ。もちろん連れて行こうと考えたが、もしもどちらかがそれを拒んだらどうしようとか、これから戦いが起きるかもしれない場所にわざわざ連れて行けないとか、三日月的にも色々考えるところがあったのだ。変な汗をダラダラと流す三日月を見て、幽々子はより一層面白そうにして言葉を続けた。

 

「あの子ったら仕事のことになるとつい気合いが入りすぎちゃうのよ。普段はいい子なんだけど、つい血の気が多くなっちゃうみたいなの。多分、あなたの話をあまり聞かずに斬りかかっちゃったんじゃない?」

「あぁー……。はい、そんな感じでした……」

「やっぱりねぇ〜。でも悪い子じゃないから勘違いしないであげて?」

 

幽々子の声色はとても優しいものだった。きっと本当に妖夢のことを大切に思っているのだろう、今さっき知り合ったばかりの三日月でも容易に見て取れた。とても良い主従関係だ、それこそどこかの赤い洋館を見ているような。

しかし、彼女の表情に翳りが見えたのは、果たして見間違いだったのだろうか。

 

「大丈夫です。少し話した程度ですけど」

 

三日月は見た。妖夢が「花が見たい」とそう言った時の、年相応の笑顔を。

奇跡だと思った。この死が連なる場所で、あんな笑顔が見られるなんて。

奇跡だと思った。まさか彼女の口から、そんな言葉が聞けるなんて。

しかし、奇跡などではなかった。きっと今目の前にいる少女が、妖夢の心を支えてきたのだ。

この二人の関係を奇跡なんて言葉で表してしまうにはあまりに惜しい。

 

「きっと、仲良くなれます。ーー僕だけじゃなく、もっと多くの人とも」

「そう。よかったわ」

 

三日月は咄嗟に目を背けたくなった。

幽々子の微笑みがあまりに嬉しそうで、あまりに美しかったから。

 

 

 

 

「それじゃあ、移動しましょうか。ずっと立ち話しちゃうのも悪いわよね」

「いえ、お気遣いなく」

「そう言うわけにもいかないわよ〜。せっかくのお客さんなんだから。……そうねぇ、じゃあとりあえず居間にいきましょうか」

 

幽々子が「ついて来て」と歩き出す。三日月もその後を追うようにスタスタと縁側を歩いた。

 

美しい庭を後にしてたどり着いたのは広い部屋。襖で遮られた各部屋の中でもここは特に広い。外からは涼しい風が入って来てどこも心地よい。和風な生りが心を休ませてくれるようだった。

 

「じゃあそこに座ってて。ようーー…むは居ないんだったわね。お茶を入れてくるから少し待っててくれる?」

「あのっ、本当にお気遣いなく……」

「良いの良いの。私も喉乾いちゃったから」

 

幽々子が部屋を出ていき、三日月だけが部屋に取り残された。この広い空間に一人というのはなんとも落ち着かない。三日月の家も別段狭くはないが、ここまで広いとなるとソワソワしてしまう。

取り敢えず、幽々子に言われたように座ることにした。あまりの緊張でどう座るか悩んだ挙句、正座で待機した。馬鹿なのか。

 

「……」

 

それにしても良い風だ。外に繋がっている襖は全開にされ、風抜けが良い。髪をサラサラと流すそれは、まさしく春風のようだった。

ほんのりと暖かな風が眠気を誘う。きっと今目を瞑ればすぐに眠ってしまうな、なんて事を考える。

三日月は当初、冥界は怖いところだと思っていたが、存外そんなこともないようだ。

 

「…………」

 

こうして穏やかな時間が流れているのを不思議に思う。

僕は異変を解決しに来たのではなかったか。決して望んでは居ないが、戦うために来たのではなかったか。

しかし、今目の前にあるのはそんな殺伐としたものではなく、ただただ美しい風景だ。

思っていたものと現実の差を見比べ、再度思う。

 

ーーこの異変は、果たして悪いものなのか……と。

 

ここで出会った二人は、本当に悪人だと言えるのか。

……否だ。思えない。

悪意をもってこの異変を起こしたなんて、そんなの思えるはずがない。

知ってしまったのだ。二人がどんな風に笑うのかを。あんなのを見てしまったら、どうしたってそう思えない。

 

「お待たせ〜、お茶入ったわよ〜。あとこれ、お菓子も」

 

突然の声にハッとする。物思いに耽っていた脳を現実に急いで連れ戻す。

顔を上げた先にはおぼんをもって歩いてくる幽々子の姿があった。

 

「はいこれ、三日月君の分」

「すみません、ありがとうございます」

 

カタッと音を鳴らし置かれたのは、お茶と羊羹だった。

おぉ、と思わず声を上げる。

 

「その羊羹、とっても美味しいのよ?少し前に貰ったものなんだけど、美味しくってつい食べ過ぎちゃうの」

「そうなんですか。なんかほんとありがとうございます。まだ会ったばかりの奴にこんな……」

「良いのよ。私、あなたのこと気に入っちゃったから」

「え」

「妖夢みたいで可愛いもの」

 

幽々子の満面の笑みにあははと乾いた笑いが出る。

なんだろう、なんだかゾクっとした。

 

「それはなんだか、妖夢ーー…さんに失礼じゃないですか?」

「妖夢で良いわよ?それに失礼なことなんてないわよ〜。三日月君可愛い顔してるし、髪長いし。最初見た時女の子かと思っちゃった」

「あー、たまに間違われるんですよねぇー…髪切ろうかな、やっぱ……」

「えぇ〜なんでよ!もったいない!」

 

幽々子はこう言っているが、実際困ったことも多いのだ。

肩までつくかつかないか位の長さの髪は鬱陶しいことも多々ある。この髪のせいで女性に間違われることもある。

それでも三日月が髪を切らないのは理由がある。

 

ーー首元の傷。

三日月には物心ついた時から身体に幾つか傷があった。実際、いつついたものなのかは自身でも分かっていないが、それを隠すために、三日月は髪を伸ばしているのだ。別に隠しているわけではないが、見て気持ちの良いものではないだろう。

この事を知るのは、おそらく紫や霊夢くらい。霊夢には、暑さで髪を縛っている時に偶然見られてしまった。紫は、紫だからで納得していただきたい。

 

「今度、髪いじらせてね?」

「え、いや、まぁ、機会があれば……」

 

ずずっとお茶を飲む。少し怖い幽々子の提案を受け、手元の羊羹に逃げる。

小さく一口、スプーンですくい口に入れる。

 

「あ、美味しい」

「でしょう?程よい甘味がお茶に合うのよねぇ〜」

 

そう言いながら幽々子もパクりと羊羹をつまむ。

蕩けそうな満面の笑みで羊羹を食べる姿が可愛らしく、つい三日月も笑みが溢れる。

 

 

 

 

「それで」

 

突然、幽々子が話を区切る。

幽々子の先程までとは違う真面目モードな雰囲気に、三日月も身構える。

手に持っていたコップを置き、姿勢を正す。

 

「そろそろ本題に入りましょうか。ーー私に何か用があったのかしら?」

「………はい」

「そう」

 

なんだろう、この感じ。どこかで味わったことのある雰囲気だ。

この優しさを交えたピリピリ感といい、それでいてなんでも知っていそうな気迫といい……誰かに似ている気がする。

しかし今はそんなことはどうでも良いのだ。今はただ、異変と向き合おう。幽々子と向き合おう。

 

「実は、僕はここに異変を解決しに来たんです。色々地上の方を調査して、ここまで辿り着きました。……もう気がついていると思うので単刀直入に聞きます。この春を奪う異変、首謀者はあなたですか、幽々子さん」

 

たとえこの異変が悪いものだとしても、向き合わなければいけない。

無駄な言葉はいらない。幽々子は既に、なぜ三日月がここに来たかを悟っている。

幽々子は微笑んでいる。三日月の言葉を楽しそうに聴いている。

そんな三日月の簡潔な質問に返って来たのは簡潔な返事だった。

 

「えぇ」

「……」

 

驚きはしない。分かっていことなのだから。

目を細めて、それでも未だ笑みを絶やさない幽々子は言った。

 

「私が今回の異変を引き起こした張本人よ。……それで、あなたは私にどうして欲しいのかしら、三日月君?」

 

 

 

 

 

 




三日月は甘党
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