少し期間が空いてしまい申し訳ございません。引き続きお楽しみいただければ幸いです。
では!
「乗り込むっつったってどーすんだよ、スキマが作れないんだろう?なんか別の方法でもあるのか?」
何を言っているんだという風で魔理沙が紫に尋ねた。
「乗り込みましょう」とおもむろに立ち上がった紫の言葉に疑問をぶつける。しかしその疑問も至極真っ当で、霊夢も魔理沙と同じことを思っていた。魔理沙が質問していなければ、きっと霊夢がしていただろう。
紫はさっき、なんらかの妨害によってスキマは作れないと言っていた。だというのに、ここに来ての乗り込み宣言だ。疑問を抱かないはずもない。
二人からの疑問の眼差しを前に、紫はのうのうと答える。
「いいえ、別の方法じゃないわ。普通にスキマを開くのよ」
「あんた、さっきと言ってることめちゃくちゃよ。確かスキマを開くのは無理なんじゃなかったの?」
「そうね、さっきは無理だったわ」
「『さっきは』ってことは、今はできるってこと?」
紫は短く「えぇ」とだけ言うと目の前にスキマを開いた。
「さっきまでは『妖術結界』が張られていたの。多分、生者の侵入を拒むというものね。そのせいで、内につながるスキマが開けなかったのよ」
妖術結界とは、妖力で、ある一定の空間を覆う術だ。その効果はさまざまで、侵入を防ぐもの。はたまた、外に出ることを防ぐものなど様々だ。
「うへぇ、これまた面倒な術をやってくるもんだな……結界を張れるってことはそこそこの実力を持った奴がいるってことだろ」
「いえ、それがそういうわけでもないのよ」
「え、そうなのか?」
「えぇ。多分これ、呪符に妖力を流すだけの簡易的な結界なの。向こうで三日月が妖力源になっている人物を、供給が不可能な状態…そうね、気絶でもさせたのでしょう」
「ほーん、なるほどなぁ」
紫と魔理沙の会話をじっと聞いていた霊夢も納得する。
紫の言っていることはもっともであり、そこに嘘はないだろう。しかし、霊夢にはひとつだけ気になる点があった。
「じゃあ紫、あんたの言ってることはわかるけどさ。でもそれっておかしくない?」
「おかしい?どういうことだ?」
魔理沙が霊夢の意見に首を傾げる。
「あんたが言うにはこの結界はそこまで高位のものじゃないんでしょ?」
「そうね。この結界は結界と呼ぶにはあまりに不恰好な出来ね」
「……じゃあなんであんたのスキマが弾かれるのよ。あんたのそれは、その程度じゃ意に介さないでしょ?」
「あぁ!たしかに」
再び紫が二人の疑問の眼差しを集める。
紫は「そのことね」と一呼吸置き、少女たちに説明した。
「たしかに結界だけで見れば、私のスキマを防ぐには意味を成さない程のものよ。でもね、それでも私がスキマを開けなかったのは環境要因が関わっていたの」
「かんきょーよーいん?」
「えぇ。冥界のそもそもにおける生者を拒むシステムが、結界そのものの力を底上げしていたってわけね」
あぁ、納得だ。今度こそ本当に疑問がなくなった。
なくなったのだが、紫にしてやられた感に霊夢が顔を顰めた。
「説明はこのぐらいでいいかしら?それじゃあそろそろ、行きましょうか」
目の前の魔理沙が立ち上がるのを見て、ふと思った。
ーーあれ、なんで私まで異変を解決しに行く流れになっているんだろう。
はぁ、と深いため息をついた。
どうせ今から「私は行かない」とか言ったら、きっと魔理沙がうるさくなる。それはめんどくさい。すごくめんどくさい。
霊夢は部屋の端の方で横たわる三日月の顔を見てもう一度深いため息をつくと、その重たい腰を上げるのであった。
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「パチュリー様、お紅茶が入りました」
「あら、ありがとう、咲夜」
カタッと音を鳴らし、パチュリーの目の前に紅茶と昨夜手製のクッキーが置かれる。
「ねぇ、咲夜」
「はい、なんでしょうか」
「外ってまだ雪降ってる?」
唐突なパチュリーの質問に、昨夜が目を丸くする。
それもそのはず、パチュリーが外のことに興味を示すなんて、いったいいつ以来だろうか。パチュリー自身、その自分らしからぬ発言に口馴染みのなさを感じたほどだ。
咲夜は、椅子に座って本のページをペラペラめくるパチュリーの横に立って「そうですね」と相槌を打ち、言葉を続けた。
「まだ雪は止みそうにありませんね。三日月さん達の言っていた異変が、まだ解決していない、ということでしょうね……ところで、パチュリー様は何か調べ物ですか?」
「まぁね。ちょうどそのことについて調べてたのよ」
「そうだったんですか。何か分かりそうですか?」
「分かりそう、というかもう分かったんだけどね」
パチュリーの言葉に咲夜が驚く。
「え!?」とらしからぬ大声を出すと、すみませんと小さく謝ってきた。
まぁ、咲夜の反応も仕方のないことだろう。それもそのはず、三日月たちが去ってからまだ数時間しか経過していないのだ。
「それって三日月さん達に言わなくてよろしいんですか?必要でしたら、私がお呼びして来ますけど」
「いや、いいわ。多分もう八雲紫に会えてる頃だと思うし」
「そうですか、わかりました」
三日月たちが去ってからもう数時間ほど経過している。流石にまだ八雲紫に会えていないなんてことは無いだろう、わざわざ咲夜の手間を取らせる必要はない。
ただまぁ…
「はぁ…」
ため息を一つつき、手元の紅茶を啜る。良い香りが脳まで広がり、疲れた頭が安らぐのを感じた。
あぁ、本当に疲れる。というか頭が痛い。全くもって彼は、三日月は面倒事を引き寄せる体質らしい。いや、引き寄せるというのは少し語弊があるかもしれない。どちらかと言えば巻き込まれている感じだ。今回の異変もどうやら、かなり面倒なもののようだった。私の言えたことではないが、前回の異変だってかなり面倒なことになっていた。この屋敷の主人とその妹の姉妹喧嘩に巻き込まれるなんて、彼は本当についてない。しかも、今回の異変も、前回私たちが起こした異変も、外から来た三日月には全くもって関係がないと来た。
ーーにも関わらず、彼は全力でそれを解決しようとする。
私からすればそんな生き方は不可解でしかない。なんだってそんな善人のような行動ができるのだろう。否、彼のそれは善人のようなどではない。善人そのものだ。自己犠牲に似たその優しさは、私のような自分の興味にしか関心のない奴には理解できない。
……まぁ、だからこそ私は彼に興味があるのだろう。
「あなた、見る目あるわよ」
「?えっ…と、すみませんパチュリー様、何のお話ですか?」
困惑した表情で咲夜がこちらを見てくる。普段なかなか見れないその表情に、パチュリーは思わず微笑んだ。
「いいのいいの、何でもないわ」
「……そうですか?」
どうせ言ったところで顔を真っ赤にして逃げていくだけだ、別段言う必要もない。咲夜はなおも困り顔だが、ここは華麗にスルーするとしよう。
さて、調べ物も終わったし、今度は自分の研究にでも没頭するとしよう。確かまだいくつか読んでいないのが残っていたはずだ、それでも読んで一日を終わらせるとしよう。咲夜もそろそろ自分の仕事に戻りたいだろうし、長居させるのも悪い。
「あら?」
そんなことを考えていたら、コンコンと扉が鳴った。誰かが外からノックをしたらしい。
「どうぞ」
パチュリーの声に反応し、ガチャリと扉が開かれる。
スタスタと入ってきたのは幼い少女、もとい我らが主人のレミリアだった。見た目とは裏腹な高貴な足取りで、パチュリーに近づいてくる。
「失礼するわ。少し暇しちゃって、いくつか本を借りて行ってもいいかしら、パチェ?」
「珍しいわね、レミィが読書だなんて」
「藪から棒に失礼ね……私だって本くらい読むわよ。ーーあぁ、咲夜。ここに居たのね」
探してたといったニュアンスでレミリアが咲夜を呼んだ。
「悪いけど、紅茶を淹れてもらっていい?」
「はい。かしこまりました、お嬢様。どちらに運べばよろしいですか?」
「あぁ…」と唸り、レミリアが考え事をするように虚空を見つめた。
その様子に、パチュリーが提案する。
「どうせだったら、ここで飲んでいけば」
「あら、いいの?」
「いいわよ別に。ーー咲夜、私ももう一杯お願い」
咲夜は「かしこまりました」と言うとスタスタと部屋を出て行った。
その様子を見守り、昨夜が完全に部屋を出て行ったのを確認すると、パチュリーが質問を投げかける。
「それで、本当は何の用なの」
「あら、バレてた?」
「そりゃあね。わざわざここに来るくらいだもの、疑って当然よ」
「その程度で疑われるのは何だか癪ではあるけど、まぁいいわ。それよりパチェ、貴女今面白そうなことやってるんでしょう?」
面白そうなこと……
はて、何かあっただろうか。新しいスペルカードの研究ーーは、いつもやってるし……
「この季節外れの雪と何か関係あるんでしょう?」
「ーーあぁ、その話ね。別段面白いなんてことはないわよ、私はただ調べただけだし」
「それでも良いわ、暇つぶし兼茶飲み話くらいにはなるでしょう」
「そう、分かったわ。じゃあどうせなら咲夜も混ぜて話しましょうか。あの子も気になっているだろうし」
かくして、パチュリーによる参加者二名の説明会が、紅魔館で開かれることとなった。
冥界という単語と、三日月がそこに乗り込んでいる可能性が有ると聞いた咲夜の気が動転していたのは、語る必要のないことだろう。