半端者と幻想と   作:あざね

16 / 19
どうも、あざねです。
大変遅れました!失踪とかではありませんよ。はい。



わがままでも

息が詰まるのを感じた。

立ちくらみのような目眩が、視界の先の幽々子をぼかす。

 

「どうして…。どうして、そんな話を僕にしたんですか……」

 

幽々子の意図が掴めない。なぜ今急に、無関係な三日月にそんな話をしたのかが。

そんな話、三日月には重すぎる。まだ大して知りもしない相手に話す内容では無いはずだ。なんせそれは、今の妖夢が形成されてしまった

ーー笑わなくなってしまった少女の根幹だ。

目を伏せていた幽々子の瞳が、三日月を映した。

 

「貴方には、話しておきたくなったの。あぁ、勘違いしないでね?別に同情して欲しいわけじゃないの。この異変を止めるのをやめてくれって言っているわけじゃない。ーーこれは私の問題。私がそうしたかったから話したの」

「幽々子さんの…問題…?」

「えぇ、私の身勝手な願い。そして貴方なら、その願いは果たせるはずなの」

 

意味がわからなかった。幽々子が何を口にしているのかも、なぜそんなにも優しい目をしているのかも、三日月には理解ができなかった。

 

「あのっーー」

「さぁて!」

 

その言葉の意味は、その優しい目の行く末は、いったい何なのか。三日月がそれを聞こうと口を開くと、幽々子がそれを遮った。

 

「三日月君は異変を止めて欲しかったのよね?」

「あ、あぁ、はい」

 

空気を変えるかのような幽々子の調子に、狂わされる。

どうやら彼女は、なんでこの話をしたのかまでを語るつもりはないらしい。

しかし、そんな三日月の落胆も、次の言葉で打ち消されることとなる。

 

「ごめんなさい。それはーーできないの」

「……!」

 

幽々子は笑顔を崩さない。

 

「私にはね、どうしてもやりたいことがあるの。それがどんな悪であれ、仕方ないなって思えちゃうくらいに」

「ーーそれは、いったい…」

「ごめんなさい、それも今は語れない。ーーいいえ、語りたくない、というべきかしら」

 

幽々子は「ま、どっちでもいいかしら」と、はにかんだ。

どうやら、彼女は本気でこの異変を遂行する気だ。でもそれは。

 

「だったら、幽々子さん。これだけは教えてください。あの桜を咲かせるために、春を奪っているんですね」

「えぇ。アタリよ」

「そして、今のあの桜の咲き具合からして、それだけでは足りないのでは?」

「それもアタリ」

「じゃあ最後。これが一番大事です。幽々子さん、その足りない分を''どうやって''補うつもりですか」

 

あぁ、やめてくれ。

こんな時までその笑顔は。

ーー最悪の事態しか、想定できなくなってしまう。

 

三日月はただひたすら、待っていた。

一言でいい。一言「違う」と、「そうではない」と言ってくれれば、それはどんなにか。

でも知っている。

わかっている。

それがどんな夢物語で希望的観測かなんてことは。

 

ーーだから、彼女の言葉は分かりきっていただろう、三日月。

 

「そうね、ごめんなさい。それもきっと、あなたの想像通りよ。きっと」

「ーー」

「私、意外と冷たいのかもしれないわ。私の周り以外どうでもいいって、そう思っちゃうんだもの」

 

 

正直な話、きっとただただショックだったんだろう。

思わず思考を止めてしまうほどには。

彼女は言外に、今こう言ったのだ。

「人の命を吸ってでも、この桜を咲かせる」と。

彼女はそれを悪と分かっていながら、遂行しようとしている。

けど、一致しない。

彼女の言動は全く一致していない。

 

「話は終わりかしら。……ごめんなさい。三日月にそんな顔させたくなかった。けど、これはもう、決めたことなの」

「あの、幽々子さん」

「貴方に何を言われても、やめるわけにはいかない。わがままよね、わかってる。でもごめんなさい。貴方に理解してもらえるだなんて思ってないし、思えない。これは私の問題」

「幽々子さん」

「本当に悪いと思っているの…!けどこうするのが一番いいの。それで全て元通りになるの。だからお願い、貴方はこのまま帰ってーー」

「幽々子さん!」

「ーー!」

 

三日月の声に幽々子がはっと顔をあげる。

幽々子らしからぬ独白は、三日月には理解できなかった。しかし、それでもおかしいと思う。

 

「どうして、そんなに謝るんですか」

「ーー」

 

あぁ。やっぱりきっと勘違いだ。

この人は悪い人なんかじゃない。

だってーー

 

「そんなに苦しそうに、何度も、何度も……。幽々子さん、貴女本当は、やめたいと思っているんじゃないですか」

「違うわ」

「違わないです。だって幽々子さん、さっきから目を合わせてくれないじゃないですか」

「……違う」

「本当は後ろめたさを感じているんじゃないですか。いけないことだってわかっていても、そうするしかないからわざと目を逸らしているんでしょう」

「……そうじゃない!」

「なら何でっーー!」

「うるさい!」

 

 

 

幽々子は俯いたまま。

 

 

三日月は戦慄した。

幽々子が声を荒げたことにではない。

爆発するように発生する濃い妖力が辺りを包んでいることに。

いつからかはわからない。ただこれほどの濃度に気が付かないわけがない。

だとしたら考えられるのは、幽々子が今、感情に身を任せて妖力を放出しているのだろう。

そしてそれは弾幕へと変化していきーー

 

 

 

ーー爆発音と共に砕け散るのであった。

 

 

 

 

================

 

「……ん」

 

不思議な感覚で目が覚めた。

ふわふわと揺蕩うような感覚と、それに似つかわしくない感覚過敏。

なんというか、いつもより少しだけ重力を感じる気がする。

そのせいで、脳が覚めきってないのがわかる。

 

「お、起きたか?」

「……うん。…………うん?」

「おはよーさん。意識は大丈夫か?」

「ーー魔理沙?」

「あぁ!大丈夫みたいだな!」

 

なんだこの状況。

魔理沙に肩で担がれて箒で空中浮遊?どんな寝起きドッキリだ。

 

「どうしてここに」

「詳しい話はあーと。今霊夢が幽々子を止めようと頑張ってるけど、しょーじき時間の問題だ。何がどうしてあんな暴走してるのかは知らんが、考える時間ももったいない。今はさっさと脱出することを考える」

 

「ーー!」

 

そうだ。

何を悠長なことを思っていたんだ。

三日月はおそらく、幽々子の触れてはいけない地雷に触った。

あれはどう考えても百ゼロで自分が悪い。だって、三日月は幽々子のことは何も知らない。

異変の目的も、それどころか彼女自身のことすらも。

 

「脱出するのか?」

「あぁ。それしかないだろうな。……全く驚いたぜ、屋敷が見えたと思ったらえげつない妖力が溢れ出てきて。フツーに怖かった。そっから全速でお前を救出。今に至る」

「簡潔な説明どうも。それより」

「止めないのか、なんてことは聞くなよな」

「ーーえ?」

「え?じゃない、無理だわあんなの。ただでさえ八雲紫クラスの化け物が大暴れしてるんだぜ?死にに行くようなもんだ」

 

魔理沙は呆れるように語る。

尚も全速力で空を走る箒に揺られながら、ここまで届くほどの妖力を感じた。

魔理沙は言った。

幽々子は八雲紫クラスの妖怪であると。

だとすれば勝ち目なぞないに等しい。

 

「けどそれじゃあ、冥界はどうなるんだ!」

「無事じゃ済まないだろうな。ていうかそっちも時間の問題。あの調子で行けば幽々子は自分であの桜を壊すだろうぜ」

「ーーなっ」

「でもそれは悪いことじゃない。異変を防ぐということならそれで万々歳だ」

 

「けど、それだと困ったことに、冥界が機能しなくなっちまう。しばらくの間、魂たちが下界を彷徨うことになるだろうな。ただまあ、それは八雲紫がなんとかするさ」

「……」

 

こんな時に思考停止する自分が憎らしい。腹立たしい。

手の打ちようがないのは、そんな状況にしてしまった自分のせいだというのに。

 

「ここじゃ紫のスキマは開けないらしい。それも幽々子の妖力の濃さが原因だろうな。スキマを開いても、すぐに上書きされるとのことだ。もう少し離れたところで待ってるからそこまでは我慢しーー」

「魔理沙、下ろして」

 

自分でも驚くほど、冷たい声だったと思う。

きっともう、自分に腹が立って気が動転しているんだ。

だからこんなバカなことを考える。

 

「我慢しろ」

「下ろして」

 

魔理沙の目つきも鋭いものに変わる。

聞き分けのない子供を諭すような、いや、そんな優しいものではなかったかもしれない。

 

「聞こえなかったか?我慢しろ」

「無理だ」

 

自分の命を大事に考えてくれる言葉も、今は届かない。

使命感などではなく、ただのわがままだった。

子供のように泣いて喚くような、振り絞るような切望だった。

 

「…この異変はさ、きっとこんな終わり方でいいものじゃないと思うんだ」

「話になんねーよ。いいから行くぞ」

「それにさーー約束しちゃったんだ」

 

魔理沙の動きが止まる。

ぴたりと擬音を立てるように、三日月の言葉に耳を傾ける。

 

「桜を見せるって、約束したんだ。約束は、破れない」

「ーー」

 

魔理沙は何も言わない。

ただなんとなく、落胆するように、というか呆れたようにため息をついた。

 

「はぁ。わかったよ。ていうかわかってたよ。三日月がそういうだろうな、なんてことはさ」

「うん、ごめん」

「謝んなよ。…わかった、私も付き合う。どっちみち後で霊夢の方に戻る予定だったんだ。けど無茶はだめだからな?」

「わかってる」

 

わかっていなかった。

 

「わかってねーな」

「……」

 

おまけにバレていた。

 

「もういい、好きなようにやってこいよ。私もカバーしてやるから。でも間違っても勝とうなんて思うなよ?無理だから」

「それは本当にわかってる。紫レベルの人に勝ち目がないのは痛いほど知ってる」

「なら良い。そうと決まれば善は急げだ。飛ばすぞ」

「あぁ」

 

許せない。このままでは、自分を一生許せない。

こんな結末は嫌だ。

誰も幸福になれないのは。

それに、聞いてしまったんだ。

妖夢という少女のことを。

それを見捨てるなんてできない。

 

ーーたとえこれがわがままでも。

 

 

数分後、三日月は目の当たりにする。

目前に控える桜の木。

そして、霊夢と対峙する我を失った幽々子だった。

 




戦闘力的には、冥界での幽々子はどうあがいても倒せません。
死者であるから殺せない。
冥界の主人であるから倒れない。
つまり、三日月たちが冥界に居る幽々子を倒すのは不可能です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。