半端者と幻想と   作:あざね

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どうも、あざねです!
あぁ、異変が終わらない…


救いの手

そこは冥界の入り口。

時間にしてほんの10分ほど前、先ほど作ったスキマから霊夢と魔理沙が飛び出していった後だった。

飛び立つ2人を背に、「私はここで待っているわ」と言い残し、今はただただ立ち尽くしている

薄暗い景色の中で、少女は一人、この風景を傍観する。

例えば、暴走する者。例えば、守ろうとする者。例えば、救おうとする者。例えば、崩れゆく世界の光景。

 

例えば、咲くことのない桜。

 

この異変の危険性を、未だ誰も知り得ぬ結末を、彼女は知っている。

この異変が待つ終わりを、誰よりも知っている。

そして、その結末は、彼女にとって喜ばしくないものだった。

何がって?そんなの決まってる。

 

''目も当てられないほど醜い''からだ。

 

結局のところ、呆れている。

呆れ果てているわけだ。

 

薄暗い冥界。

焼けるような濃い霊気。

度重なる爆発音。

そのどれもが彼女にとっては有象無象。

 

少女は、心底つまらなそうに、空を見る。

 

ふと、視界の端に映った桜の木を憎々しげに見つめる。

 

そしてまた、心底つまらなそうに

 

「幽々子。貴女にこの場所は、少しだけ暗すぎたのかもしれないわね」

 

立ち込めた暗雲を握りとるように、空を仰いだ手のひらに力がこもる。

その手の中には何も無いのだと知りながら、彼女は遠い記憶に、思いを馳せていた。

 

手を開く。やっぱり、何もない。

 

 

 

 

 

==============

 

 

 

 

「待って」

 

決意を固めた矢先、声がした。

今まさに踏み出そうとした足が止まる。

振り向いた先には、呆れ返った霊夢の顔があった。

 

「どうした?」

「どうしたって、あんたねぇ。どうやってあそこまで行くつもりよ。飛べないでしょあんた」

「あ…」

「あ…ってねぇ」

 

見事に失念していた。

そうだった。三日月にあそこまで行く手段が、同じ土俵に立つ手段がない。

式神に乗って行こうにも、あいにくあれは自立型。命令は守るが操作をすることはできない。

そもそも、特段心得があるわけではない三日月にとっては燃費が悪すぎる。

 

「どうしよう…。思いっきり忘れてた」

「そんなことだろうと思ったわよ。…はいこれ、貸したげる」

「これは…札?」

 

どこからともなく霊夢が徐に取り出したのは、一枚の札だった。

霊夢に「ほら」急かされ、されるがままに手に取る。

札からは、たしかに妖力を感じた。

 

「私の能力を詰め込んでおいた。とりあえず、空を飛ぶことはそれでできるはずよ」

「…!ありがとう」

「別に。こういう時のあんたは割と行き当たりばったりで行動するから、念のために作っておいたのよ。ただし、一枚しかないから、それ。破くなんて言語道断、無くしたりしても、もう無いからね」

「了解。使い方は?」

「とりあえず身につけてるだけで使えるわ。後は意識の問題、進みたい方向に意識を向ければ勝手に動くから。まぁ、最初は難しいかもね」

「…なんか適当だな」

「そりゃ、特別意識して使ったことなんてないもの。呼吸の仕方を聞かれるのと一緒よ」

 

なるほど、と納得する。

たしかに、三日月も自分の能力を特別な意識を持ってやったことはなかった。

ということは、やはり最初はどうにかコツを掴むほかないらしい。

不安要素は拭えないが、仕方ない。今のところ他に方法があるとは思えないし、こうしている間にも魔理沙が時間を稼いでくれているのだ。時間はかけられない。

 

「とりあえずやってみる。正直不安しかないけど」

「そう」

 

霊夢の適当な返事をよそに、三日月は意識を空に向ける。

空を飛ぶなんて初めてで、なんだか男心がくすぐられる。

 

霊夢に言われたことを思い出す。

大事なのは感覚だ。空を飛んでいると言う感覚を、掴む。

 

まず初めに、視覚を遮るために目を閉じた。次に、聴覚を防ぐために意識を追いやった。

重力に逆らう感覚。釣り針で持ち上げられるような感覚。足が地面から離れていく感覚。

感覚。感覚。感覚。

感覚。感覚。感覚。

感覚。感覚。感覚。

 

 

目を開けた。足元に地面はなく、自分を支えるものは無くなっていた。

あるのは浮遊感。重力との乖離。

空が近くなったわけではないが、地面はたしかに遠ざかっていた。

 

「これが、空を飛ぶって感覚なのか」

 

無論、言うまでもなく三日月は今まで空なんて飛んだことはない。

ついさっきまで魔理沙の箒で飛んではいたが、それはそれ。

やはり自分で飛んでいると言うことへの優越感は、それまでにないものだった。

 

「急ごう」

 

だが、そんな感情は二の次だ。

今はただ自分のするべきことを考える。さっき霊夢に言ってもらっただろう。

守り切るんだ。幽々子も。妖夢も。冥界も。

 

思って、少しだけ。

強欲にも程があると、少しだけ笑った。

 

それでも僕は、全部守りたい。

強欲かもしれないけれど、自業自得かもしれないけれど、それでも。

そうだ、守るといえば、だ。

 

「約束だって、守らないとな」

 

思わず握った拳に力がこもる。

動機は十分。足を動かす理由も十分。命をかける理由も、自分のしでかしたことへの後始末も。

とんだエゴイストだ。でも、それでいい。

今は自分を奮い立たせられれば、それで。

 

恐怖はもちろんある。あの霊夢があれほどまでにボロボロになっている姿を見て、事の大きさを悟った。

自分が行ってどれほど役に立てるだろうか、なんて無責任な考えさえ出てしまった。

 

でも、それも過去の話。

気がつけばもう、身体は幽々子へ向かって飛んでいた。

 

 

 

 

==================

 

「魔理沙!」

「三日月!?お前なんで飛んーー」

「それはいいから前!前見て!」

 

桜の木から数キロ。

先ほどとあまり変わらない位置に、幽々子と、それに対峙する魔理沙の姿があった。

薄暗い空に灯る弾幕は、イルミネーションのように輝いていて、気を抜けば見惚れるほどだった。

 

そんな中、状況は芳しくない。

魔理沙は、遠目から見ていても防戦一方。流れの速い弾を避けるのに精一杯で、反撃も碌にできてはいなかった。

そろそろ無理が生じてくる時に、この男はやってきた。

 

「ったく、タイミングだけは良いな!」

「そうか、それは良かった。でも、2人になったからって何かをひっくり返せるわけでも無さそうだ」

「そんなのは重々承知だっての」

 

弾幕を避け切り、近づいてきてニンマリ顔を向けてくる。

楽観的なのか冷静なのか、よくわからないのはいつものこと。

かと思えば、今度は心底真面目な顔で。

 

「三日月、10秒だけあいつの意識を私から外せるか?」

「……やる、できる。でもなんで10秒なんだ?」

「私の最大火力を喰らわせてやる。そうすれば、血の上った頭も冷めるだろ」

「了解。!くるぞ!」

 

必要最低限の会話を済ませ、2人は左右反対に飛行する。

習得したばかりの飛行に少しばかりの不自由さを抱えながら、三日月は出来うる限りの全速力で右側に飛ぶ。

一箇所に集まってしまってはまずい。行動が制限されるばかりか、幽々子の攻撃範囲まで絞られてしまう。

だからまずは気を引くことよりも弾幕を分散させることを意識する。

不自由に飛んでいる三日月とは対照的に、箒に跨り悠々と飛ぶ魔理沙。

しかしあくまで攻撃はせず、幽々子の視界の端から端へと飛んでいく。

おそらくは自分から意識を外させようとしているのだろう。

だがーー

 

(まずいな)

 

そんな程度では無意味。

幽々子はもとより魔理沙を意識などしていない。

ただ機械的に排除していたに過ぎない。

 

だとしたら、まずは意識させることから始めないと。

どうにかして僕に意識を持って来させる。そのためには何が必要だろうか。

魔理沙から課せられた時間は10秒。それだけでも、なんとか…。

 

「三日月っ!ぼさっとすんな!」

「っ!!」

 

深く意識を沈ませ過ぎていた。

気がつけば幽々子は今までにないほどの妖力を練っている。

ひりつくような感覚に神経が焼かれる。

拒絶反応を起こしそうな体を叩き起こす。

 

そんな戦慄も束の間、幽々子が自身の周り全域に弾幕をはる。

 

(次元が違いすぎる。これが、大妖怪。)

 

避けられるか?否、教わったばかりの飛行では、繊細な動きなどできない。

 

「だったら、『氷壁』!」

 

咄嗟に札を取り出す。

三日月の声に呼応し、札は氷の壁へと姿を変える。

見た目で言えば厚さ数ミリの氷の壁でしかないが、妖力によりコーティングされ防御性能は随一だと自負している。

氷の壁は三日月を打ち落とさんとする弾幕を防いでいく。

 

(魔理沙は)

 

ふと横目で見ると、魔理沙は糸を縫うような精密さで弾幕を回避していた。

この分ならなんとかーー

 

魔理沙の安全を確認し、安堵したのも束の間、氷壁がピシリと鳴った。

 

まさか。こんな簡単に崩れるのか。

いくら大妖怪といえど弾幕を防ぐくらいできると思ったのに。

 

(やばい、あとどれくらい持つ?この後は?躱せるか、いやーー)

 

防御は不可能。避けることも不可能。ならば、残る選択肢は。

 

氷壁が崩れるまでおよそ3秒。

十分だ。

思考はここでストップした。

今、この3秒でやるべきこと。

 

「3…」

 

まず、一枚の札を取り出した。

さらにその札に、ノータイムで出来うる限りの妖力を注ぐ。

 

「2…」

 

次に標的を測る。

弾幕の中、狭まる視界に集中する。

標的確認。座標固定。火力、十分。

 

「1…」

 

最後に、魔理沙の位置。

弾幕を縫うように三日月と幽々子のさらに上空へ移動している。

もしかしたら、魔理沙は三日月が何をするか気がついていたのかもしれない。

大丈夫だ、あの場所であれば万が一にも事故はない。

 

 

 

 

「ーー0」

 

砕け散る音。

頬をかする氷と、そこから滴る血。

その全てがスタート地点。

デッドラインが表裏一体となる刹那、それを超えることなく三日月は始動する。

 

氷壁が容赦なく崩れ落ちる。

次弾の弾幕が波のように押し寄せる。

右肩を貫かれる。

構わない。

鮮血が視界を塞ぐ。

構わない。

 

ーー今はもう、そんなの視界にだって入らない。

 

「『鳴符・霹靂神(はたたがみ)』!」

 

瞬間、札は雷となり、神速を模す。

落雷のような轟音とともに、幽々子を目掛け弾け飛ぶ。

経路上の弾幕はことごとくとして打ち消され、100メートルほどの距離を一瞬で縮めた。

 

ーー防げない、避けられないなら撃ち落とす。

それが三日月が得た苦肉の策にして最善策。

そして、倒すまでは出来なくとも、霹靂神によって数秒のスタンさえ入れば後は魔理沙が決めてくれる。

 

かくして、稲妻はほとばしる。

三日月に向かう弾幕は全てが落とされ、幽々子へと伸びる。

幽々子は避けようとしていない。

やはり機械的に迫ってくるそれへと視線を向けるが、避けようとも防御をしようともしていない。

これなら当たる。

当たりさえすれば、そこからは魔理沙がーー

 

 

 

 

 

「ーーえ?」

 

当たる筈だ。

いや、もうとっくに当たっている筈だ。

なのに、おかしい。

今、見たものは、おかしい。

 

いや、おかしいのは、自分かもしれない。

だって、’’適切''じゃない。

今見たものを形容するのに、この言葉は間違ってる。

間違っている、はずだ。なのに。

 

なのに、この言葉しか、見つからない。

 

 

「死ん…だ…」

 

何がって。

三日月の放った霹靂神が、音もなく、まるで死に絶えたかのように消え失せた。

そんなはずはない。

ただの術に生命なんかこもっていない。

だというのに、今、自身の生存本能が今すぐ逃げろと言っているような気がしてならない。

棒のように固まった足が、思考が、100メートル以上も離れているはずの幽々子を、こんなにも近くに感じられる。

つまりここはまだ射程圏内。

たった100メートルなんぞ一瞬にして葬ってしまうほどの、それほどの性能差。

 

「……」

 

声が枯れる。

喋ろうとしたのか、思わず漏れ出た言葉なのかもわからない。

まずい。

ここにいてはまずい。

もし先程死んだのが、殺されたのが、弾幕ではなく自分だったら。

そんな想像が、どうしようもなく駆け巡る。

 

 

 

 

「ぼさっとすんじゃねぇ!」

「ーー!」

 

ゴッと重い衝撃。

弾幕とは違う鈍い感触に頭が冴える。

いつの間にか止まっていた呼吸を再開し、状況を把握する。

 

気がつけば幽々子からはさらに50メートルほど離れている。

どうやら、魔理沙が全速力で体当たりをして強引に引き剥がしたらしい。

 

「魔理沙!」

「一旦距離取るぞ!お前の腕も少しぐらい応急手当てしねぇと、出血死すんぞ」

「え…っーー!」

 

見れば、右肩から大量に出血している。

気が付かなかった。いや、どうせなら気づかないままの方が楽だったかもしれない。

先頭から離れた頭では、痛み以外に考えることがない。

 

「うん、ごめん…」

「仕方ねーよ。あの威力の攻撃をあんなあっさり破られたんだ、私もびっくりしたさ」

「幽々子さんは?」

「わかんねーけど、今は落ち着いてる。追撃の様子もないし、私たちを見ている風でもない。立て直すなら今しかないだろうな」

 

見ると、幽々子はどこか朧に虚空を見つめている。

ただ無機質に立ち尽くしているだけだった。

 

ふわりと地上に着地する。

石垣に背中を預け、治療を始める。

 

ひとまず止血だ。切れている血管を繋ぎなおし、筋系を再生させる。

これら全て妖力によって編み出しているものなので効果は薄いが、血を止めるくらいなら問題はない。

あとは人間の再生力に頼るしかないというのが、やはり器用貧乏を極めている。

 

「大丈夫か?」

「なんとかね。魔理沙の方こそ、怪我は無い?」

「こっちもなんとか。お前が幽々子を引きつけてくれたおかげで、比較的楽だった。…けど、やっぱ反撃は無理だなありゃ」

 

魔理沙は不甲斐なさげにぽりぽりと頭をかく。

 

「威力はともかく、物量が違いすぎる。2人でどうこうなる相手じゃないのは確かだな。例えるなら…連射式のショットガンーーみたいな?」

「…ちなみに聞くけど、幽々子さんがその基準なら僕たちはどうなるんだ」

「ハンドガンも良いとこだろ」

「さいで」

 

ともかく現状の悲惨さがわかった。

少しばかり言い過ぎな気がするが、実際気がするだけで本当なのだろう。

そして加えるなら、きっと三日月はハンドガンではなく盾の部類だろう。それも木製の。

 

「そんで、そんな人間凶器みたいなやつと対等に戦うなんて無理、無駄、無謀。お分かり?」

「丁寧な説明のおかげで身に染みたよ。少しばかり滲みすぎな気も、しないでもないけど」

「お前みたいな生き急ぎにはそんぐらいがちょうど良いだろ。…さて、ここからは少し真面目な話だ。いや、今までも大真面目だったけど」

 

パンと魔理沙が手を叩く。

さっきのヘラヘラした様子はもう無かった。

魔理沙もドスンと三日月の前にあぐらをかくと、真剣な顔で覗いてくる。

 

「ともかく、私たちに必要なのは人数だ。2人でどうこうしたところで、結局お墓が増えるだけだしな。目には眼を、物量には物量だ」

「だとすると、今度僕たちがやるべきは、霊夢が回復するまでの時間稼ぎーーってこと?」

「まぁそうなるな。ただしこれは結構な無理筋だ。多分、霊夢が回復するのにも30分ぐらいはかかるだろうな」

「30分…今僕らが稼いだ時間は10分もいかないぐらいか」

 

ということは、今までの約三倍。

その事実に軽く絶望する。

 

「あぁ。だから、これは本当に最終手段だ。他に手があるなら越したことはない」

「他って、言っても…」

 

 

 

「その話、私では務まりませんか」

 

 

 

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