前回の話を読んでくださった方、有難うございます。
今回も楽しんでくれれば幸いです。
では!
「三日月」
時刻は夕方。太陽はだいぶ傾き始め、一日の終わりを示すかのように空を赤く染め上げている。
今は何をしているかというと、授業が終わり、子供達と遊んでいるところだ。
赤く染まった空を見上げて、もうそろそろ帰るかな、なんてことを考えていたら横から慧音の声が三日月を呼んだ。
「あ、はい。なんですか?」
「すまない、この後時間はあるか?」
慧音の口から発せられたのは予想外の言葉だった。帰ろうとしていた三日月だったが、別段今帰ってやりたいことがあると言うわけでもない。もちろん時間などいくらでも有る。
有るのだが……
「大丈夫ですよ。どうかしました?」
「いや、夕食でも奢ろうかと思ってな」
これまた予想外、珍しいこともあるものだ。
淡々と口にする慧音に、三日月は驚きを隠せなかった。
しかし、急にどうしたのだろう。何か相談事、はなんとなく違う感じがする。なら…
「別に、ただ今日のお礼と言うだけだよ」
慧音はまた三日月の心を読んだように言う。心を読まれたことと、予想外の立て続けに少し驚きながらも、その理由に納得する。
納得はするが、
「お礼されるほどでもないですよ。最後の方なんて、結局僕が楽しんでましたし」
授業終わり。毎度合例のお遊びタイムだ。子供達と一緒に、半強制的に遊んだりお喋りをする。
全くもって子供の活力とは計り知れないもので、それまで勉強で疲れていたはずなのにいつのまにか元気になっている。
そして今回も例外はなく、授業終わりなのにやけに元気な子供達と戯れていただけだ。お礼されるほどのことはしていないと思う。
「そういう問題ではないだろう。迷惑かけたからな、このくらいはさせてほしい」
「本当に大丈夫ですよ。まぁそこまで言うのなら、ご馳走になります」
三日月は慧音の誘いに甘えることにした。まぁ帰っても待っているのは質素な料理だ。それなら誰かと食べる方が良いだろう。自分に変な心の傷を負わなくて済む。
というわけで、今後の方向性が決まったのであった。
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日は完全に沈んでいた。
寺子屋の後片付けやその他雑用を手伝っているうちにいつのまにか暗くなっている。
冬は日が沈むのが早いと言うのもあるかもしれない。まぁ今は冬というより春に近づいてきているが。
「片付け終わりましたよ」
「あぁ。悪いな、最後の最後まで手伝ってもらって」
「いえ。自分が使ったものは自分で片す、常識ですから」
三日月は慧音を真似て言った。それに気が付いた慧音は小さく笑う。
「全く。生意気だな」
「っはは。すみません」
そんなどうでも良い会話を、三日月も慧音も楽しんでいた。
「さてそろそろ行くか」
「あぁ、そうですね」
忘れていた、夕食を奢ってもらうんだったか。あの後色々とやることがあり、すっかり忘れていた。
そうか、今日は一人悲しく食事をすることはないのか。
なんてことを思う三日月の横で、慧音が寺子屋の鍵を閉めた。
「じゃあ、ついて来て」
「はい」
歩き出す慧音について行く。三日月はスタスタ歩く慧音の横を歩いた。向かうのはどうやら人里の中でも比較的賑わっている場所のようだ。
その周辺には居酒屋などが多いため、夜は特に賑わう。冬だというのに薄着の男がほれ酒だ、ほれ焼き鳥だ、などと騒ぎ立てている。そんな場所だ。
「ところで、どこのお店に入るつもりなんです?」
「どこかの居酒屋にでも適当に入ろうと思っている」
「え」
…さいですか。
今から三日月はあの男どもが騒ぎ立てている本拠地に足を踏み入れようとしていた。
まぁ別に嫌というわけではないが、変に絡まれたりすると慧音が心配だ。
彼女は話し方はこんなだが見た目は立派な女性、もとい少女なのだ。必要であれば美をつけても良い。そんな彼女を酒に酔って理性を失っている獣の群れに放り投げていいものなのか……
そんな心配をよそに、慧音はつかつかと歩いて行く。
「ねぇ、慧音さん」
「何を心配しているのか知らないが、無用だぞ」
もしかして、僕って結構顔に出やすい?
なんてことを本気で考えた。今日だけでもう何度も心を読まれた。さとり妖怪ですか、貴女は。
「あの周辺の男どもも全員顔見知りだ。変に絡まれたりはしないだろう。第一、そんなことをする奴らでもないがな」
「そう…なんですか……」
慧音が言うのだ、間違い無いだろう。さすがは上白沢慧音、顔が広い。
まぁ確かに人里唯一の寺子屋を受け持っているのだ、知り合いも多くて当然だろう。
「ほら、もう着くぞ」
他愛のない話をしていたら、ふと慧音が言った。
慧音の言葉に遠くを見やると、先程までの夜道とは違う、明るい景色が目に入った。
確かにもう賑やかな声が聞こえて来る。いつのまにかそんなに歩いていたのか。
寺子屋からここまでは遠くはないが、決して近くもない。
「賑やかですね」
「まぁそういうところだからな。とりあえず手頃な店に入るとしよう」
慧音は少し歩き、辺りを見渡す。入る店を探しているようだった。
三日月はというと、慧音の少し後ろを歩いている。なにせ夜のこういった雰囲気はあまり経験になく、あまりの活発さに気圧されていた。
そんな三日月をよそに、慧音はスタスタと歩いていく。
いろいろな店を品定めするかのように眺める慧音だったが、ふと足を止めた。
「おぉーい!慧音先生!」
男の声がした。慧音を呼んでいるようだ。
慧音は声の主の方に振り返った。三日月も慧音につられるように声の方へと体を向ける。
当の、慧音は男を視認すると、少し呆れた風に言った。
「お前、また飲んでいるのか。ここ最近ずっとだろう。奥さんに呆れられるぞ」
「いやぁ、これが生きがいみたいなもんで」
「馬鹿を言うんじゃない。この前だって奥さんから愚痴を聞かされたよ」
「あや、そうなんすか?ガハハ!参ったなぁ」
どうやらこのガハハと笑う男は慧音の知り合いだったようだ。来て早々に絡まれたかと思ってヒヤヒヤした。
話しかけてきたのは少しガタイのいい男、奥さんがいるらしい。見るからに顔は赤くなっており、もうすでに相当酔っているようだった。
…というか、あれって。
「それにしてもなんだい、慧音先生?今日は珍しく男連れじゃねぇの…ってお前三日月じゃねえか!」
あぁ、やっぱり…
「何してんですか小道具屋の旦那。店はいいんですか?」
話しかけてきたのは、数少ない人里の小道具屋の店主だった。
三日月もたびたびお世話になっている店だ。そのせいもあって、この店主とは年は離れているがそこそこ仲がいい。
今度は三日月もあきれた。
「今日は休業日だよ。って違う!お前なんで慧音先生と居るんだ?」
「訳あって、寺子屋の方を手伝っていたんです。それで、慧音さんがお礼させてくれって」
面倒なので短く伝えた。小道具屋の店主も見るからに出来上がっている、どんなに説明しても明日には忘れている可能性が高い。
「はぁ、なるほどなぁ。びっくりしたぜ。慧音先生が男連れ回して歩いてるんだもんなぁ」
「馬鹿を言うな。ただのお礼だと言っているだろう」
「あぁ、そうですかい?ガハハ!」
慧音からのツッコミが入る。やはりこの男、仕上がっている。人の話を全く聞いていない。
店の奥で一緒に飲んでいたと思われる男たちが馬鹿笑いしている。
「三日月、もう行くとしよう」
「そうですね、なんだかこっちが疲れてくる…」
なんとなく面白くて笑い返事をしてしまった。
「ここでいいか」
慧音が決めたのはさっきのところから少し離れた居酒屋だ。
こちらも賑やかではあるが、さっきほどではない。三日月を思ってか、先程よりかは落ち着いている。まぁ、それでもうるさいことには変わりはないが。
「わかりました」
「そうか」
ツカツカと店に入って行く。
三日月はそんな慧音の後を追った。
「いらっしゃいませー!」
店に入ると、中から店員の大きな声が聞こえた。
「何名様ですか?」
「二人だ」
「二人ですね〜。こちらへどうぞー!」
おお、なんだか慣れてるな慧音さん。
三日月だったら間違いなく面食らっていただろう。活力と声量に。
店内は客も少なくない。むしろ多いと言ってもいいのに、こんなに声が通るものなのか。
そんなことを思いながら、誘導された席についた。
「ご注文は」
「酒とそれに合うものを適当に」
「かしこまりましたー」
それで通るのか。なんというか、自由すぎないだろうか。
居酒屋の仕組みがよくわからない三日月は心底困惑した。もしかして慧音は常連なのでは、などと考える始末。
「なんか、すごいな」
「何がだ?」
「あ、いえ。こっちの話です」
つぶやいた程度なのに、今の聞こえるのか。すごいな地獄耳。
慧音は不思議そうに首をこてんと傾げる。
「まあいい。それよりも、今日は本当にありがとう」
今日何度目かのお礼をされた。
「いや、本当に大丈夫ですから。…どうしたんですか?今日はやたらと感謝してきますね」
「感謝するのは当たり前だろう。いやなんだ、ふと思ってな。最後にちゃんとしたお礼をしたのはいつだったかと」
なるほど。
今日こそこうして夕食を共にしているが、普段は手伝いを終えたら帰っていた。
だからといって、感謝されなかったなんて記憶はないが。
「だからこうしている。今までの分も諸々含めてな」
「じゃあ慧音さんの手伝いをすれば今後も夕食を奢ってもらえるんですかね」
「気が向けばな」
三日月の冗談に慧音は少し笑って返す。
「ところで」と慧音は話を変えた。
「最近、調子はどうだ」
「…」
その一言だけで何が言いたいのか分かった。
慧音が敢えて言葉を濁した理由も、分かる。話が重くなってしまうのを、彼女なりに避けたのだろう。
だから三日月は出来る限り明るく話した。
「大丈夫ですよ。最近は本当に何もありません」
「そうか」
この言葉に嘘はない。嘘を言っても見抜かれる自信があるから。
「私とお前は似ているが、根本的に違っているからな」
「…」
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「あぁ、美味しかったなぁ」
夕食を終えた二人は、それぞれ別の家路へとついた。
久しぶりにあんなに食べた。遠慮したのだが、慧音が次から次へと注文するせいで食べざるを得なかった。
本当に感謝しかない。
「涼しい」
店内の熱気で熱った体には外の空気がちょうど良かった。
家に戻るため帰路に着くが、体が自由に動かなかった。まぁ色々あったし仕方ないか。
時刻はすっかり真夜中だ。月が綺麗に輝いている。
人里からは見えなかった星たちも、ここからならよく見える。
あぁ、こんなにも綺麗に輝いていたのか。気づけなかった自分が情けなくなってしまうほど、光り輝いている。
その中でもとりわけ強く輝く星を見つめた。いや、見惚れていたのかもしれない。
ふと、今日あったことを思い返した。
子供達と遊び、勉強し、あとは。
慧音と話した。久しぶりにあんなに長々と。
居酒屋も数える程度しか行ったことがなかった三日月には新鮮だった。
そこで慧音と話したことを思い出す。
最近あった面白いこと、怒ったこと、他愛のない取るに足らない話ばかりだ。
またも、楽しかったなぁなんて感想が出てきた。
そんなくだらないことを考えるなかに、慧音の言葉が再生された。
「似ている」
ーー呟く。
慧音が初めの方に言っていた言葉だ。
なんとなく、頭で何度も繰り返す。
似ている。似ているのだ。
三日月と慧音の在り方は。
「でも」
ーーでも…
「根本的に…違う」
違う。
当たり前だ。
なんせ僕は。
どうしようもない、半端者なんだから。
「あ、服屋行くの忘れてた」
いかがでしたか?
楽しめていただけましたか?
1話をどのくらい長くすればいいのかわかっていないですが、しばらくはこんは風になりそうです。
では次回もよろしくお願いします。
では!