【第10話】
西暦2199年 12月23日。
年明けまで一週間ほどになったこの日、国連極東管区の司令部にはある連絡が入ってきた。
「……では、東亜管区の電力供給は本日1900時に完了するのだな?」
「はい。なんとか見通しがつきました。」
司令部の大モニターには、ヤマト第一艦橋の映像が映されており、真田艦長代行が報告している。
宇宙戦艦ヤマトは現在、国連東亜管区の旅順宇宙軍港にて同管区への給電作業に従事していた。
地球上の管区の中でも屈指の人口を持つ東亜管区への支援は喫緊の課題であったが
諸問題のため作業の予定日数を超過しており、一刻も早い完了が望まれていた。
いまだ、支援を必要とする管区は数多く存在するのである。
「東亜管区の現状について、詳細の報告も受け取っている。悪条件の中、ご苦労だった。」
「ありがとうございます。本艦は給電作業終了後点検を行い、
完了次第次の目的地に向け発進する予定です。
その点で、司令部にお伺いしたい。」
「うむ、次にどの管区へ向かうか、だな。
我々はヤマト発進のすぐ後に窮乏が予測される各管区に調査隊を送ったが、
その報告では旧ロシア、北ユーラシア管区が危機的状況らしい。」
「では、本艦は北ユーラシア管区に向かうことになりますか」
「左様。だが現地の準備部隊による設営は遅れているようだ。
東亜管区のように到着してすぐ給電とはいくまい」
「はい、本艦の乗員を一部作業に従事させましょう」
「よかろう。では詳細は今夕1900に送る。引き続き、頼むぞ」
「はっ」
真田三佐が敬礼したのち、モニターは暗転。
藤堂と芹沢は東亜管区における任務の一段落に安堵の息をついた。
「ヤマトが北ユーラシア管区に着くのはだいたい24日あたり、
向こうの人々にとってはさながらサンタクロースですかな」
「そうだな、もっとも向こうではクリスマスを冬祭り、
サンタクロースをマロース爺さんと呼ぶらしいが…」
「……そういった伝統も戦災により絶えて久しい。
…だからこそ来年の今頃には世界の人々が、
子供たち全てが、穏やかに過ごせるようにせねばなりませんな」
「その通りだな……」
藤堂行政局長は芹沢の言に頷き、瞑目した。
……それから少しして、芹沢軍務局長執務室。
芹沢はヤマト艦内の下村汚染調査隊長に連絡をとっていた。
「……ということで、次の行き先は北ユーラシア管区に決まった。」
「はい、真田三佐から説明がありました。調査チームにも準備をさせています。」
「よろしい。………で、例の件についての報告を聞きたい。」
「は。秘匿調査を行ったところ、ニ項一条に該当する結果が得られました。」
芹沢は執務机に下村の映るモニターともども置かれている冊子に目を落とした。
冊子をめくり、2ページ目の記述を黙読し再び下村に向く。
「……了解した。詳細については他の結果と併せて極東管区帰還後に受領する。
貴官には他管区にて任務を継続してもらう。」
「了解。」
「苦労をかけるが、よろしく頼む。」
「ありがとうございます。」
通信が終わり、回線が閉じられた。
ヤマト通信個室に座していた下村ニ佐は立ち上がり個室外へと出る。
彼は調査隊の臨時詰所になっている区画へと向かうがその道中に思わぬ人物に遭遇した。
「っ!……君は。」
「お時間、ありますでしょうか?下村ニ佐。」
「………。」
下村の前に現れたのは、ヤマト情報長・新見薫だった。
下村は彼女に従う形で人気のない一角に移動することになる。
「さて、何用かな?新見情報長。」
「お覚えないかもしれませんが、貴方がイズモ計画の会合によく出席なさっていた事を
私はよく記憶しています。」
「……ほう。」
「連絡を取っておられたのは、芹沢軍務局長ですね?」
「そうとも。軍務局長は汚染調査計画の責任者の一人だ。報告義務がある。」
「……本当に、汚染調査の結果だけ、でしょうか?」
疑いの目を向ける新見に対し、下村はしらを切る。
「では君は、我々がヤマトの武力制圧を密かに企んでいるとでも言いたいのかね?
かつての君のように!」
「……!!」
下村は新見の痛い過去を突いた。
一瞬押し黙る新見だが、彼女は引き下がらなかった。
「……イスカンダルへの航海中ならともかく、現在のヤマトに占拠するメリットなど
ないでしょう。ましてや地球に対する忠誠心の高いあなたに。」
「……。」
「……真田艦長代理から言い含められているわけではありません。
あくまで個人的な興味本位で質問します。あなた方は、何を企んでいるの……!?」
きっ、と下村を睨みつける新見。下村は表情を変えずに呟く。
「……軍務局長は貴女をこのフネから降ろしておくべきだったようだ。
我々イズモ派によく通じている上、科学者故か探求心もある。」
「……!」
彼の言葉に警戒し、後ずさる新見。
「……今後の活動をするうえ、監視されているのは厄介なのでね。
……いいだろう、私の知りうることのみだが話そう。ただし、内密にだ。」
肩をすくめて、息を吐く下村。意外にあっさり話をすることに新見は戸惑った。
「……いいのかしら?私に話して……。」
「まぁ、大丈夫だろう。閣下もあまり強く念押しはされていなかったからな。
だが、この話をしたらあとはこの件について嗅ぎまわらないことを約束してもらおう。」
「……わかりました。約束しましょう。」
「よろしい。」
新見の同意を取り付け、下村は語り始める。
「……まず断っておくが、私も閣下から詳細を聞かされていない。
この任務が何を意味するかについては、だ。
それに、調査隊の部下たちは皆ただの汚染調査と思って作戦に従事している。」
「……二佐も、肝心な内容はお聞きになっていないんですか……。」
「……知る人間を少なくするのは情報管理としては理想的な手段だよ。
もしかすると知る人間は閣下しかおられないのかもしれないが…。」
「……汚染調査の裏で、何を行っているの……?」
「地理及び地質調査だ。……個人的な推測にすぎないが、
コスモリバースで復活した鉱物資源、それもこれまでの人類の活動で採掘されたものの
存在を確認・把握しそれを活用するための布石としてこの任務を命じられたのではないかな。」
「……。」
下村の発言に新見は考え込む。下村の推測は秘密任務の活動内容と矛盾はしていない。
仮に、芹沢の思惑が別のところにあったとしても
それを知る手掛かりの下村も情報を与えられていないのではどうしようもない。
そんな彼女に、下村は軽い調子で言った。
「……まぁ、芹沢閣下がどんなことを考えておられようが我々が案ずる必要なぞあるまい。」
「え?」
突然のことに戸惑う新見。彼女に対し、下村は打って変わって真剣な調子で続ける。
「……君も知っていると思うが、あの人は地球の、
人類の為にならないことは一度としてやったことはないからな。」
そう言うと、彼は踵を返して調査部隊の待機室へと去っていくのだった。
その一方、極東管区司令部ビル・軍務局長執務室において。
その男・芹沢虎鉄は下村の報告の際に見た書類を手に思案していた。
(……やはり、これこそが地球を守るうえで切り札になるだろう。様々な面で、だ。)
書類冊子の2ページ目、第一条。そこにはこういった記述がある。
【地下・あるいは海底深部に異常な重力源反応が存在する場合】
(……やはり、
芹沢が下村に行わせた秘密任務の目的。それは鉱物資源の確保の布石ではなかった。
実際のところは、時間断層の存在確認にこそあったのである。
(……まずは全人類の地上への復員と、生活インフラの整備が急務。
そして、来るべきガミラスとの講和及び友好関係の確立……
その上で一年、一月、一日でも早く時間断層における生産工場を開設する必要がある。
さらに先の対ガトランティスを見据えてな……!)
芹沢は、自身の脳内のビジョンの実現に向けて静かに情念を燃やす。
全ては母なる星に住む同胞のため、自らの大義のため。
彼は着々と準備を進めている……。
ちなみに下村さんは芹沢さんから詳細こそ話されていませんが、
渡された命令書を読んでいるうちにある程度事情を察しています。
そして彼が新見さんに伝えたのは嘘です。