宇宙戦艦ヤマト2202 if 猛虎咆哮す   作:モアンゴル

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いよいよ、2205の胎動が聞こえてくるようになりましたね(本作とは関わりありませんが)。



第十一話 猛虎越年せり

【第11話】

 

 西暦2199年 12月27日。

 

極東管区本部ビルでは今日も職員たちが忙しく作業にあたっている。

もうすぐ年が明ける時期だが地球がこんな情勢である以上、彼らには盆も正月も存在しない。

それはこの男とて例外足り得なかった。芹沢虎鉄。

 

彼は今、極東管区本部ビルの司令室にて藤堂、土方、他各部門責任者たちとともに

今後の行動計画について話し合っていた。

 

「諸君、人類の運命を左右したといっても過言ではないこの2199年も間もなく終わる。

 我々が生きて年明けを迎えることができるのは宇宙戦艦ヤマトの活躍と、何より

 我々自身が自らの職務に勤しんだ結果であることは疑いない。地球のため励んだ諸君らには

 労いの言葉もない。だが、いまだ地球の市民の大多数は困窮している。彼らを救うため

 いま少し諸君らには頑張って頂きたい。」

 

藤堂による開会の挨拶が終わると、会議は情報整理からスタートした。

 

「ではまず、現在遂行中の宇宙戦艦ヤマトの主機による各管区地下都市へのエネルギー供給

 支援任務について情報整理を行います。」

 

「現在、ヤマトは旧ロシア・北ユーラシア管区において給電作業にあたっています。

 同管区は、本年1月下旬の時点で地下都市の70%において各種機能が停止しており

 8000万人の人口を養うのに苦慮している状況に追い込まれていましたが、統治機構は

 辛うじて維持されていました。」

 

担当の職員がモニターに同管区の画像を写しつつ説明する。

 

「同管区の統治機構は非合法組織とも手を組み、困窮した中で効率的かつ公正に物資が

 行き渡るようにし、横領など不正を働いた者に厳罰を与え規律を保っていたようです。

 通信不能になるぐらいに同地のエネルギー残量は減少していましたが辛うじて

 持ちこたえていたとのことです。」

 

続いて、別の職員が現在の給電作業について説明を始めた。

 

「本日1100時の時点で、北ユーラシア管区へのエネルギー供給作業はまだ未着手です。

 長らく整備・点検が行われていなかった蓄電施設の復旧修理は完了したようですが

 給電機材群の接続などに1日ほど要するとヤマトから報告されています。」

 

地球の地下都市の中で特に困窮していたもののひとつである北ユーラシア管区地下都市。

ウラル山脈の下に建設された同都市は一刻も早い電源の供給を待っている。

待っているのは北ユーラシア管区の人々だけではない。世界中の地下都市は今、

軒並みエネルギー不足に陥っているのである。とある幹部がその事について言及する。

 

「給電に要する時間も加味すると年が明けてしまいそうだ。その間に他の管区の

 地下都市の窮状はより深刻になりうるが、何かその辺りの対策はあるのか?」

 

質問に答えたのは、国連宇宙海軍所属で航空部隊の運用を束ねる部局の責任者、

井上玄三宙将補。

 

「現在のところ、我が管区と東亜管区の地上・宇宙両軍の輸送機部隊がOMCSで生産された

 食糧・医薬品を支援物資として特段の困窮が認められる管区を中心に空輸しています。」

 

彼の言葉を継ぐのは芹沢軍務局長だ。

 

「空輸しているのは消耗品だけではない。太陽光緊急発電システムなどの機械及び

 それらのための整備用部品並びに整備用具も含んでいる。さらに、ヤマトによる

 給電作業が円滑に進むように配電機材や技術者を海外管区へ送り出しておる。」

 

給電のための機材・人員は作業完了後、他管区支援のため空路で海外へ渡っていた。

ヤマトが北ユーラシア管区での作業にてこずる間にインドやアフリカ、南アメリカなどの

管区での給電受け入れ体制を整えてしまおうという目論見であった。

再び井上宙将補が発言。

 

「……なお、この空輸作戦には我が管区と東亜管区の保有するほぼすべての輸送機を

 投入し、搭乗員も軍民問わず採用しております。あの加藤二尉も軍務に復帰し、

 本作戦に参加してくれています。」

 

加藤はあの後、妊娠中の妻・真琴の入院を見届けると真琴本人の後押しもあって

間接的にヤマトの任務を助けることになる、この空輸作戦への参加を軍に希望したそうだ。

 

「……現在、海外管区への空輸支援作戦はエネルギー供給に余裕のできた二管区が

 自管区の復興と並行しながら他の管区に対して行える最大限の支援になっている。

 これ以外の方策は現在の市民生活に支障をきたすことや物資的に無理があることから

 非現実的だというのが結論になる。」

 

芹沢が会議参加者たちに語る。いかにヤマトの波動エンジンが極東管区、東亜管区に

巨大なエネルギーを与えたとしても、それで補えないものはいくつもある。

鉱物系資源、機械、そして人命。ガミラスとの長い戦争がもたらした被害は甚大である。

 

と、ここで藤堂行政局長の補佐官が立ち上がり、話題を変える。

 

「……ヤマトによる北ユーラシア管区への給電作業は予定では極東管区時間にて

 2199年12月29日の午前中に開始され、12月31日の夕刻に完了する見込みとのことです。

 しかし、何らかのトラブルが発生した場合年をまたいで給電作業は続くと見られます。」

 

ヤマトの北ユーラシア管区への給電のスケジュール。彼の地は特に困窮し、

機器整備の余裕も不十分であるため給電中に何が起こるか分からない懸念が大きい。

仮に給電作業が遅延するなら、その分他の海外管区の人々への支援も遅れてしまう。

 

次の議題は各管区への支援スケジュールとなった。

 

 

「……ヤマトの北ユーラシア管区に対する給電支援の終了時に、給電支援の受け入れが

 できる優勢支援管区はインド及び南アメリカの二管区となります。」

 

「では、北ユーラシア管区に続く給電支援対象は旧インド・南アジア管区で問題なかろう。

 距離的にこの選択肢の他ない。」

 

「南亜管区での給電にかかる時間が事前準備を不要としておよそ3日、その間に

 南部アフリカ、東南アジアの二管区が給電受け入れ体制が整うことになります。」

 

「そうか、では………」

 

討論を交わし、給電支援艦と化したヤマトの今後の航路を決定する極東管区の実力者たち。

結果的に、緊急性・距離・給電時間などの要素から判断し、ヤマトが今後向かう海外管区は

北ユーラシア(旧ロシア・東欧)→南アジア(旧インド)→南アフリカ(旧南ア共和国中心)→

南アメリカ(旧ブラジル中心)→オセアニア(旧オーストラリア中心)→

東南アジア(旧ASEAN諸国)という具合に決定された。

 

「……以上、五管区の給電作業終了後に比較的余裕のある管区の地下都市群への

 給電支援を行います。」

 

参謀の一人が総括する形で述べた。

ここでいう"比較的余裕のある海外管区"とは、旧アメリカ合衆国及びカナダが母体である

北米管区、スカンジナビア各国・イギリス・フランス・ドイツを中心とする欧州管区、

イタリア・スペイン・ギリシア・トルコを中心とする地中海管区、サウジアラビア・

イランを中心とする中東管区、エジプトを中心とする北アフリカ管区の五管区である。

 

いずれもガミラス戦役前は大きな力を持っており、人類が困窮した現在では他管区を

支援する余裕こそ持たないものの自管区を崩壊させないだけに自給ができている管区である。

それゆえに給電支援とはならず、今この瞬間においても自管区のエネルギーと物資で

辛うじて耐え忍んでいる。この五管区は地球の復興には不可欠な存在・復興の鍵であり、

いずれ限界も来ることから遅かれともヤマトによる給電は必要であった。

 

「非優先給電対象の管区群への支援開始は優先管区への支援完了後となり、現在の予定では

 約二週間後の2200年1月15日からとなっています。」

 

「途中のトラブルを考慮すればより後ろ倒しになる可能性はある。いずれ空輸支援を

 非優先管区に集中することにもなるだろうな。」

 

 

こうして、おおまかながら各管区への支援の予定が策定され、会議ではうまく行けば最速で

翌2200年の2月に地球の全管区の地下都市にて市民たちの生活の安定が保証されるだろう、

という結論に達した。……議長役の藤堂は結論を受けて各員に語った。

 

 

「……諸君、私は全地球人類の生活が保証された後、各管区の首脳を集めたサミットを

 開き、その席上において国際連合に代わる新たな汎地球人類統一政治行政機構の設立を

 建議するつもりだ。理由として近いうちに、いや、来年にもガミラスが地球人類に

 再度のコンタクトを図ってくる可能性がある。ガミラスに限らず地球外知的生命勢力との

 接触において、それが平和的であれ戦闘的であれ、我々地球人類の意見と姿勢は

 統一すべきであると考えるからだ。これを以て初めて地球人類は宇宙文明としての

 スタートラインに立つことが出来るのだろう。」

 

「スタートラインに立つこともままならぬ中、外宇宙勢力と接触、それも交戦的な形と

 なってしまったことは人類にとって真に不幸だったと言わざるを得ませんな……」

 

藤堂の言に対し、芹沢は目を伏せて言った。その心中は如何なばかりか、藤堂は思う。

 

 

「……長官が将来的に統一地球政府の建設を考えられている以上、我々の今日の任務は

 一層重大な意味を帯びることになる。我々は給電を行うヤマトのサポート及び、

 物資の空輸支援を通じて海外管区の人々を救援する。くれぐれも、抜かりなく!」

 

芹沢当人は目を見開いて声高に、任務に対する一層の努力を求める。

それは、言外に藤堂への賛同を含んでいた。

芹沢の言葉を機に、会議は一気に収束へと向かい、同日16時に会議は終了を迎えるのだった。

 

 

会議後、藤堂と芹沢は議場に残る。

 

「芹沢くん、私は君の言葉を私の意見への賛同と受け取ったが、各管区首脳との話し合いで

 君に手伝いを頼んでもよいかね?」

 

「はい。とはいえ、この期に及んで地球の統一政体を拒否する者がいるとは考え難いですが。」

 

「まぁ、そうなのだがな。」

 

 

 

 

明確な統一機構なき地球は外宇宙勢力との戦争で大打撃を受けた。

その教訓を元に、人類は、少なくとも極東管区は地球の統一政体を建設すべく動き出す。

 

地球は青く甦った姿で軌道を巡り、人類の歴史は新たなページ・西暦2200年を迎えるのであった。




デザリアム星人の大半がハゲな理由に説明が来るのかが楽しみです。

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