【第14話】
「……最初の議題は、地球統一政府の基本的な構築方針について、です。」
議長から告げられる第一の議題。
その内容から芹沢は国連総長を務める黒人の老爺の意思を慮る。
(……成程、まずは特に波風の立ちそうにない決まりきったところから始めるか)
第一の議題である新政府の建設方針はほぼ各管区の間で暗黙の了解として、
現体制の発展・延長線上にあるものの地球を一つの国家として各管区を州または県のように
扱える規模のものに形成を行うというふうに決まっていた。
その議題を持ち出すということは、まずは各管区の首脳陣に話を交わさせる雰囲気を作り、
議論の滑り出しを成功させようと議長は考えているのだろう。
この激動期に国連総長のポストにある人物だけあり、よく考えられた手を繰り出した……
「……北米管区政府首班、ダグラス行政局長。意見がおありですか?」
……そして、最初に発言したのは現北米管区行政局長である栗毛色の頭の初老の白人男性だ。
彼はエイブラハム・ダグラス。旧アメリカ合衆国の元判事で司法長官を務めたこともある。
ヤマトのイスカンダルへの出発時点ではまだ彼は行政副局長であった。しかし、
出港後の2199年5月に前行政局長がストレス性の心疾患にかかって職を辞したため
No.2のポストにあった彼が後任として局長職を引き継いだのである。
判事、司法長官、副局長時代において思慮に富んだ判断を下すことで定評があり、
ヤマトの帰還および波動エンジンによる北米管区へのエネルギー供給までの間
北米管区の諸問題と対決し、同管区を維持しぬいた男であった。
芹沢は、彼のことをよく知っている。ただし、北米管区のリーダーとしてではない。
(……やはり、主導権を押さえにいきますか。
そう、モニタに映し出された白人の初老男性こそ後の地球連邦初代大統領なのである。
芹沢が視た記憶の対ガトランティス戦争において芹沢は大統領の隣で指示を飛ばしていたが、
大統領も戦況を観察しつつ油断なく関係各所へ連絡を行い防衛軍をよくサポートしていた。
彼のリーダー、統率者としての才覚は十分に芹沢は知っていた。
そして、ガトランティスの降伏勧告に対して行った、あの演説。
エイブラハム・ダグラスは能力のみならず責任感や使命感、なにより地球人類に対する愛着と
この上なく地球連邦の大統領にふさわしい人物であるということを芹沢虎鉄は知っていた。
そのダグラスは今、地球連邦大統領としてではなく北米管区行政局長として発言する。
「……はい、北米管区としましては新たな地球統一政府の建設方針として、
あくまで地球という惑星を一つの国家として統治する機構であるべきと考えます。
それは、これまでの国連のような管区群の寄り合いではなく管区を一つ下の
地方行政体として制御できる、より高位の政体ということです。」
重厚な声が電波に乗って各管区の首脳陣の耳に届いている。
内容自体は首脳たちにとってわかりきっているものではあるが、ダグラスの重く
響く声によってそれが音声化されたため、その言葉が耳を支配する。
後の大統領:エイブラハム・ダグラスはその声色でモニタ向こうの相手を圧倒し、
他管区の代表者より存在感を強め主導権を掴みに来たのだ。
(……確かに先制の一手は効いているようですが、そう簡単にはいきませんぞ)
その上で、芹沢は画面向こうの未来の大統領に対して内心呟いた。
彼ら北米管区が、そして自分たち極東管区がモニタの向こうに回した相手は
このガミラス戦争を生き残った歴戦の猛者たちだ。
まず、欧州管区。
同管区の政府首班をブリテン分管区の行政局長と兼務する、メアリー・ピット女史。
彼女は元経済アナリストで、対ガミラス戦争中期において配給部長を務めた際に
非凡な手段を発揮し現在は三人の分管区局長と共同で欧州管区を運営している。
次いで東亜管区。
同管区の要注意人物は
東亜連邦時代からの叩き上げで、国土及び資源開発で鳴らした優秀な官僚だった。
対ガミラス戦争の際は万難にぶち当たりつつ多くの市民を救うべく奮闘した。
さらに、そんな彼のバックにいるのは企業家
一部門と化した建設・重工業グループを率いていた小柄で穏やかな表情を崩さない
禿頭の中年男性だが、その正体は東亜連邦設立時にも暗躍した台湾系マフィア組織の
李行政次長とは学友だった彼は、グループ解体後も健在な情報ネットワークを駆使し
李行政次長を助けていた。
北ユーラシア管区にもアングラ関係の注目人物がサミットに参加している。
ミハイル・スヴォーロフ工業生産部長。マフィア系化学企業の経理畑出身の彼は、管区の
行政組織崩壊時に現地の国連軍地上軍指揮官と前管区行政局長とともにマフィアが前身と
なった同地の困窮者互助組織に協力を要請し支配機構の再建と治安の回復に奔走、
北ユーラシア管区の壊滅を防いだ功労者である。
中東管区からは、もともと現地の長老たちとの交流も深く、行動力もある産業部門長が
このサミットに参加している。名前をハサン・アル=アディーブといい、商科大学主席卒業後
軍の補給科部門のエリートとして活躍したが、退官して軍に物資納入する会社を起業、
この際に長老たちに目をかけられたこともあり対ガミラス戦争勃発後産業部長に推された。
現在彼は長老たちの恩に報いるべく軍時代に親しかった者たちと政治派閥を作っているようだ。
次に、南アジア管区では福祉・医療政策で人気を集めた厚生部長上がりの管区行政局長の
Mr.ルビーことジャワハルラール・デーサーイーがサミットに参加する中での注目すべき人物だ。
医者の跡取りとして生まれた彼は大病院で内科医をしていたが経理・問題把握の能力にも優れ
若くして現南アジア管区の前身、インド亜大陸連邦共和国の衛生部門へ栄転、
ルックスも優れていたためMr.ルビーとして親しまれ、対ガミラス戦争中は厚生部長として
地下都市での防疫・衛生に力を尽くし、一昨年に前任者に後継政府首班に指名された。
また、このサミットを仕切るロドニー・ムベキ国連総長を輩出した南アフリカ管区の
注目人物には、フレデリック・ボガンダ情報部長とアルフレッド・カビラ配給部長がいる。
30代前半の若手ながら部長職に就けたのは、単なる人材不足だけではなく能力が申し分ない
ものであるためであり、今のところ管区内外から密かに数十年後の管区局長であると目される。
彼らは先進の管区の意向が強い国連について苦々しく思うところがあったらしい。
南アフリカ管区の二人と異なり、オセアニア管区の要注意人物は芹沢らと同じベテランだ。
チャールズ・コーネリアス・エバット外交部長。御年64歳でオセアニア管区の前身にあたる
ANP共和国連合の外交官から勤続しており、隣接するASEAN共同体(東南アジア管区前身)との
友好関係維持や、太平洋島嶼各国を包括するMPM(ミクロネシア・ポリネシア・メラネシア)
経済協定を含めたポートモレスビー条約の締結に心血を注いだ観察眼のある人物である。
そして、警戒すべき優良な人材は何も行政関係者だけではない。芹沢と同じように、
ガミラスとの激闘を生き延びた国連軍の誇る優秀な将兵たちも一部サミットに参加しているのだ。
その第一人者に、地中海管区の軍務局長ブルーノ・プリエーゼ国連宇宙軍大将がいた。
面長で眼鏡をかけた65歳の彼は、宇宙海軍と地上軍の折衝役として働き、所属する地上軍のみ
ならず宇宙海軍からの信頼も厚く、それを見込んだジュゼッペ・フランコ前行政局長に
軍務局長に抜擢された。行政局長がタイイップ・オクタイ元建設部長に交代した後は
行政局長をよくサポートし地中海管区第一の実力者と見られている。
現年齢62歳の南米管区宇宙海軍中将、パウロ・ドミニコ・タナカは第二次内惑星戦争に
巡洋艦リオデジャネイロ艦長・少佐として参加し火星宙域で哨戒任務中に火星独立軍の
戦闘艦と交戦、自艦も中破しタナカ自身負傷し隻眼になりながらも敵艦を撃沈した猛者で、
対ガミラス戦争においては第一次火星沖海戦参加部隊の後備部隊指揮官・少将として
整備中の戦艦1、巡洋艦1、駆逐艦3を指揮下に置いて地球に留まったため命拾いした。
現在は生き残った同管区唯一の宇宙海軍実働部隊(ただし整備・燃料不足で出撃不能)の
司令官と南アメリカ宇宙艦隊司令長官のポストにある。
東南アジア管区・国連地上軍所属のプラヤー・パノムヨン大将は高齢のグエン・ヤン大将に
指名された次期軍務局長であり、就任すれば41歳と現職では二番目に若い軍務局長となる。
砲術士官上がりで防空ミサイル部隊の指揮官を務めており、対ガミラス戦争の際は遊星爆弾の
迎撃を成功させている。この功と人材不足で部長級へ駆けあがった。就任後は戦局悪化の為
民衆の地下都市避難へと全力を挙げようとしたが、遊星爆弾迎撃の成功が逆に民衆の足を
止めてしまい、その結果大きな犠牲を出してしまう。この責任を感じたパノムヨンは自殺を図るも
グエン・ヤンに慰留されて思いとどまった過去を持っている。
北アフリカ管区の国連軍ムアンマル・ユーニス・ジャーベル大佐は地球各管区の中でも
早急な地下への避難と避難先の地下都市拡張を提唱した人物であった。だが彼の考えは
当時の戦局もあり参謀本部でも管区内でも臆病・怯懦と揶揄された。しかし、遊星爆弾の
落着など戦局の目に見える悪化後は左遷先から呼び戻され参謀本部主席戦略策定委員となり、
市民の保護と治安の維持に力を注いだ。現在では管区内外からその先見性を評価する
声が上がっており、北アフリカ管区軍の至宝とまで呼ばれている。
そして、極東管区。
土方竜中将・空間防衛総隊司令(他管区における管区宇宙艦隊司令長官に相当)は、
あのヤマト艦長で「英雄」である沖田十三元帥(死後贈位)の盟友であり、その能力は
折り紙付きで国連宇宙海軍で一、二を争う切れ者である。
行政局長・藤堂平九郎は長きにわたって極東管区を平和裏に運営してきた功労者であるうえ、
的確な指示のもと短期間で異星の技術を基にした宇宙戦艦ヤマトの建造・イスカンダルへの
遠征計画を成功させたまさに人類を救った救世主である。
こうした面々がそろうサミットにおいて、思い通りに話を持っていくことはまず考えられない。
たとえ、極東管区のヤマトが人類を救ったという事実を以てしても。
それはあくまで
重要なのは手持ちのカードをいかに有効活用して議論を望む方向へと進めるかだ。
相手の思惑をいかに察知し、対処するか。
芹沢はこの個性豊かな猛者たちを相手に立ち回らねばならない。
すぐそこの明日だけではない、遠く2年後を見据えて_____!
舞台は、新世界の秩序を決めるに等しい会議である。
会議編だけで何話とられるのだろうか?(戦慄)
早く本編に入ってくれよぉ!(他人事)