【第19話】
2200年も暮れへと向かっていく12月の空を往く三つの機影。
芹沢次期防衛軍副司令が、各管区の国連軍の状態を視察するために
手配された輸送機と、その護衛機である。
芹沢の乗るコスモシーガル客員輸送機には現在、芹沢以外にも視察のために
地球連邦発足後に防衛軍や関係省庁入りが確定している人間が他管区から便乗している。
だが、彼らもただ他管区軍の現況を把握するためにこの機に乗ってはいない。
彼らは、所属する管区省庁あるいは国連管区軍上司によって、
芹沢軍務局長がどのような意図や計画を内に秘めているのかを探ってくるように
言い含められているのである。コスモシーガルの客室に乗っているのは芹沢を含め、
地球の各管区の中でもトップクラスの切れ者たちだ。
だが、そんな彼らをもってしても、防衛軍のNo.2になる男が
これから数年先までの未来を知っていることは、知らない。
……芹沢は、東回りで地球を巡り各管区へと降り立つ。
その中で、管区における有力者と面識を持ち繋がりが出来るように仕向けていった。
最初に訪れた東亜管区では、
軍の視察後に、地球連邦において国土開発・復興局長官に内定している
李興建 現東亜管区行政次長と会合・面談。
「……李次長、小官個人と致しましても地上都市の復興には
防衛軍の工兵部隊を始めとしたあらゆる部局は協力を惜しまないでしょう。
これは現国連軍の総意であると確信しています。
市井の人々の安寧あってこそ、軍の再編は成立しますから。」
「次期防衛副司令閣下にそう言って頂けると、
私としても復興局としても非常に心強い。感謝致します。」
「はい。
次期部局長に李次長のような、軍とも
就いていただけるのは、新設される防衛軍にとっては誠にありがたいことす。」
「………。」
芹沢と、李の対談。
李は芹沢の言葉の中に自分と、私的な盟友である元企業家にして
旧台湾系マフィアを仕切っている楊康永との関係性への言及を
含んでいることを感じ表情筋をひきつらせた。
楊は現在は配下のマフィアの表社会への復帰に力を尽くしている反面、
ここ最近の復興・再開発事業では李から自分がかつて率いていた
グループ企業を前身とする公社団体に仕事を回して貰っている状態にあり
二人の関係は他者にはあまりつついてほしくない話題なのである。
それは目前の芹沢とて人づてにでも聞いていると李は思ったが、
わざわざ触れてくるには意図があるものとも考えた。
「……えぇ、そうですね。
地球の復興・繁栄、そして防衛には軍民一体となって取り組むべきです。
ガミラスとの戦いでの教訓は活かさねばなりません。
……復興工事も次の段階に移行しつつあり、地下都市の補修拡張から
地上のインフラ・居住環境の整備へリソースを割く比重も変わっています。
我が管区の建設部門は政府直轄組織だけでなく、国連軍系や旧企業系の公社集団にも
訓示して、一部を除く大半の工事組織の使用機材や人員を
地上再開拓に振り分ける方針を採ろうと考えております。」
「……えぇ、その件なのですが、
実は一定数、地下工事用の人的・機械的リソースを
残しておいていただきたいのです。」
「……ほぅ、それはまたどういった訳で……?」
李は思いきって、更なる情報開示で芹沢の真意が何であるかカマをかけた。
すると芹沢は、李の思惑を知ってか知らずか李に依頼を行ってきたのだ。
「……次長もご存知だと思いますが、ガミラス戦争は現在休戦状態。
裏を返せばそれだけです。
ヤマトはイスカンダルを仲介に混乱状態のガミラス正規政府と停戦しましたが、
末端や非主流派までそれが行き渡っているとは到底考えられない。
彼の国は小規模とはいえ銀河にまたがる大国です。
我々の未知な部分があったとしてもおかしくはない。」
「……なるほど、そうしたガミラスの分勢力が地球を襲う可能性は
なきにしもあらず、と。」
「加えて、新たな敵勢国家・ガトランティス。
こうした外的勢力に備える必要から、地下都市整備に
降り向けられる工事部隊を留めておくべきであると考えます………が。」
「……?」
語った理由ばかりではない、と不適な笑みを浮かべる芹沢に、
李は並々ならぬものを感じ、首を傾げた。
芹沢は、北米管区においては三ヶ所の地下都市とそれに付随する国連軍基地を視察した。
中でも、二番目に訪れた地下都市デンバーに隣接された国連地上軍の基地にて、
彼は基地司令から現況を語られた。
「……このデンバー国連地上軍基地は、北米管区最大の航空隊拠点でした。
しかし2197年に、狙ったものかは不明ですが地下都市と基地の近隣の地表に
遊星爆弾が着弾。一帯に地殻変動を起こした影響から、
中深部に設けられていた格納庫を中心とした航空基地は壊滅。
同時に運用機体の大半を喪失してしまい、残存機も整備が不可能になり
北米管区航空隊はほぼ無力化されてしまいました。」
「しかし、遊星爆弾着弾時に基地要員の殆どは避難に成功しており、
貴重な搭乗員や整備員は無事でした。
彼らは、シミュレータなどでの訓練や地下都市での治安維持活動に従事し
大戦を生き延びたのです。」
「ヤマトの帰還後、地球環境が再生し地表に再度飛行基地が建設可能となりました。
機材についても、ヤマトのエネルギー供給により小規模ながら工業生産が再開され、
機体の補修部品が納入されました。これにより一定数の機体を整備することが出来、
現在のところ北米管区航空隊は仮設基地にて久方振りに実機訓練を実施し、
練度の回復に努めております。」
眼鏡を掛けた元パイロットの基地司令からデンバー基地のあらましを聞き、
芹沢は感慨深そうに頷く。
「……ガミラスとの大戦を生き抜いたパイロットやエンジニアは貴重だ。
彼らは間違いなく将来の防衛軍の航空部隊の中核戦力を担う筈だ。
是非とも養生し、腕を磨いてくれと伝えて欲しい。
……それとだが、後々そのシミュレータのデータを供出して貰えぬだろうか?」
「はっ! それに関しては全く問題ありませんが、
およそ三年分あるため総量はかなり大きなものです。
お使いになる用途を、教えていただけませんか?」
「うむ、新人のパイロットへの教材にもなるだろうし、
何より極東管区が進めているAI制御の無人航空機の学習用データとして使いたいのだ。
そのため、データは多ければ多いほどありがたい。」
「……無人機ですか!我が北米管区でも基礎研究が行われていました。
私もオブザーバーとして参加したので、当時の研究チームを紹介させてください。」
「おぉ!!それは願ってもないことだ!」
芹沢は、降ってわいた思わぬ幸運に顔をほころばせる。
欧州管区の、バーミンガム地下都市においては実質的な行政局長を務め、
連邦における初代物資配給局長官職に就任することが決定している、
メアリー・ピットとの対面が実現した。
「……地球連邦及び同防衛軍発足の暁には、連邦物資配給局は防衛軍に対し
全力を挙げたバックアップをお約束しましょう。
……あくまで、連邦市民の生活に支障が生じない範疇で、ですが。」
「無論、理解しています。
その上で、物資配給局が防衛軍に友好的な姿勢を示していただけるのは実に有り難く、
素晴らしいことです。貴女のような防衛軍の活動に理解ある方が、配給局長官に
就かれるのは新連邦にとって幸いですな。」
「……現在、地球上の各管区が物資の面で余裕ある状況となったのは、
貴管区のヤマトの功績です。
かの艦のエネルギー供与が、復興活動の基盤となったのですから。」
「……そして、そのヤマトを起動させたエネルギーは、
あなた方の欧州管区をはじめとした地球上の各管区から提供された、
当時は何より貴重だった電力でした。結果論じみた話にはなりますが、
後方の方々が軍に、ヤマトに提供してくださったエネルギーが巡り巡って
その方々自身を困窮から救ったということになります。
この事を踏まえ、いまだ物資限りあるなかで軍に対し物的な協力を
市民にしていただくことに対しての理解を得ることにご協力願いたい。」
「えぇ。可能な限り、その宣伝にも務めていこうと考えています。
……それで、セリザワ閣下は別にお伝えしたがっていることがあるように
お見受けしますが、いかがかしら?」
メアリー・ピット 欧州管区ブリテン分管区行政局長は、
瞳に鋭い光を宿し芹沢へと問いかけた。
一方の芹沢は、感嘆の声を上げて応じた。
「おぉ…さすがと言わざるを得ない。……仰る通りです。
実は、外交的な視点から検討していただきたい案件がありまして。」
「……まぁ、外交的、ですか。……一体どういうことですの?」
芹沢から発せられた台詞は"外交に関わる"という意表を突くものだったため、
今度はピットが感嘆の声を発した。
芹沢が補足説明を始める。
「……この件に関しては連邦体制で外務局局長へ就任される
議論した話題なのですが、
「えぇ、続けて下さる?」
「……我が地球に、ガミラスが再度の外交的接触を図ってくる可能性が
極めて高いことについては、貴女もご存知であると思います。
……今後、本格的に宇宙を活動圏とする地球は、ガミラスのような巨大な星間文明との
友好的な繋がりを維持することが最重要視されるものというのが共通認識であります。
……友好的な関係は、まず交易関係であるとエバット氏は話しておられました。
小官も同意見です。
そして、交易のためにはこちらから輸出する産品が必須であります。
そう、この産品についてです。」
「……なるほど。」
芹沢の説明によりピットは、物資配給局が来るべきガミラスとの交易の折りに使う
生産物の手配をする必要があり今のうちからその点についての検討をするべきであると
いう芹沢や彼と話をしたというオセアニア管区のエバット外交部長の意図を察した。
「……しかしガミラスとの交易となると、工業基盤が大打撃を受けている上、
技術的格差から工業品の輸出は不可能で、その他の品目についてもニーズが不明です。
今から備えるにも情報が足りないと考えますが?」
そうした上で、ガミラスとの交易に備えることへの問題点を指摘するピット。
対して芹沢は明朗に答えた。
「その点においてはご心配要りません!
ヤマトの航海において、ガミラス人の味覚は地球人類のそれとほぼ同一であり、
嗜好品についても共通することが判明しています。
丁度、このイングランドのようにかの星では喫茶が流行しているのです。」
「……それは……驚きね。まさかあのガミラスにも……お茶の習慣があるなんて。」
芹沢の答えに、とりわけガミラスでも茶を嗜むことがあるという事実に
あんぐりと口を開けるピット。
そんな彼女だったが、すぐさま芹沢の言わんとすることを理解した。
「……では、我が地球はガミラスとの貿易に際して地球産の茶葉を、
いえ、茶葉だけでなくコーヒー豆やタバコなど嗜好品を輸出品として
据えるのが最適であり、
その生産を資源生産局と協同して行うべきだ、と言いたい訳ね?」
「はい、その通りです。」
「……歴史の皮肉ね。
このイングランド、20世紀までの大英帝国が植民地に課していた
プランテーション政策を地球が、外宇宙の国家から課されるなんて……」
ピットは、こめかみを押さえて嘆息した。
地球が置かれている立場を噛みしめて忸怩たる想いに駆られたのだ。
だが、そんな彼女に芹沢は胸を張って説いた。
「……それは違いますぞ、ピット女史。」
「え?」
「……歴史において植民地とされた国々は、
かつての列強からプランテーションを強制されましたが、
我々は自民族の生存戦略として自主的に行うのです。
直接的な制圧を受けたわけではないのにも関わらず!
……これが何を意味するかというと、単なるプランテーション惑星で、
地球は終わらないということです。」
「……!」
芹沢の力強い演説に思わず聞き入るメアリー・ピット。
「初めのうちこそ、植民地のような扱いを受けるかも知れませんが、
ガミラスやその他宇宙文明の技術力を吸収し工業を進化させ、
20世紀の日本国や21世紀の中華共和国の如く一層洗練された製品を
マゼラン銀河へ送り付ける!
農産品を輸出の主軸とするのはその前段階に過ぎないのです!」
「……ずいぶんと遠大な、でもロマンのある未来図ね…。」
芹沢の言を受け、顔の強ばりが少しづつほどけていくブリテン分管区行政局長。
彼の言葉が実現するには何年・何十年とかかり、
実現の頃には自分達はこの世の住人でないかもしれない。
ピットはそう理性で考えつつ、芹沢の目が語った未来図が只の幻想でないことを
確信するように燃えていることに感性で惹き付けられていた。
尤も、芹沢の瞳の輝きは、
未来を視たことで得た知識で全く別のファクターから地球がガミラスにとって
重要な星になることを知っているからこそあるものなのだが、ピットはそれを知らない。
時間が近づき、芹沢とピットの対面はここまでとなる。
別れ際に、カップの紅茶(OMCS製)を飲み干した芹沢に、ピットは興味本位で質問した。
「……ところで、貴方くらいに上位の軍人となると、
こういったことまで考えを広げないといけないのかしら?」
この質問に芹沢は感じ入るように唸ったあと、苦笑したような調子で返したのだった。
「……いいえ、とんでもない。
こんなことまで気を回しているのは私くらいなものでしょう。
お陰で肩が凝って仕方ありません。これはどうも、
芹沢は世界を駆け巡り、自身の目的に向け各地へ『種』を蒔いてゆく。
西暦2200年・12月。地球連邦誕生の時は近い……
前回の反動から長くなったようですね。
・李 興建
東亜管区行政次長、地球連邦 国土開発・復興局長官(予定)。
清濁併せ呑めるベテラン。イメージcv.故・渡部猛 氏
・メアリー・ピット
欧州管区ブリテン分管区行政局長、地球連邦 物資配給局長官(予定)。
夫はOMCSの保守点検業務を務める現場の男。イメージcv.一城みゆ希 女史
追記・2023年1月17日位置変更。