【第二話】
その男、芹沢虎鉄はヤマトの帰還と、
地球環境再生の奇跡に湧く、司令部要員たちには目もくれずに極東管区司令部ビル内をいずこかへ
歩いていく。その道程で、彼は自分に起こった不可解な出来事について思索を巡らせた。
(先ほどの
…原因は見当もつかんな。だが、やることは変わらん…!)
失意にうなだれていた彼に起きた出来事。
突然倒れたあと、芹沢虎鉄は自分の脳内に全く未知の知識が入ってきたのを感じ取った。
それは、2202年の暮れから数か月間にわたり繰り広げられた復興を果たしつつある地球と、
その同盟となったガミラス、そして芹沢にとって全く未知の敵であるガトランティスとの
一大星間戦争。しかも、敵であるガトランティスは想像を絶する戦力と残虐性を秘めた
規格外の敵性存在であり、根拠地はわけのわからない古代星間文明の天体級移動要塞だという。
それが復興を遂げている最中の地球へと進行してきたのだ。
迎え撃つのは量産された波動砲を搭載した新型戦艦群。
時間断層という
果てしなき消耗戦。その知識の中で自分が提唱した人類保全計画。
生き残った人類の生命が再び奪われていく。それは芹沢にとって断じて容認できるものではない。
敵は圧倒的だ。危機を脱したばかりの人類は今度こそ滅んでしまうのだろうか?
そうはならなかった。
ヤマトだ。
かの宇宙戦艦が、謎の超常存在とともに戦争を終結に導いたのだ。
むしろ、かの艦を中心にして歴史は展開されていたようにも思えた。
結果として、最終的に地球は救われていた。
だが。
それでよいのだろうか。
ヤマトが敵を倒し、地球を救うまで、地球人類はどれほどの犠牲を払うのだろうか?
復興が相成った地球にとって再度の大戦争によりもたらされる被害。
未来の記憶で、敵と対峙した艦隊は大半が無人艦隊だった。とはいえ、
あれほどの艦隊を完全に人工知能や遠隔操縦で操作するのは無理だということは
門外漢の自分でもわかる。必ず一定数、人員が戦場へ出ているはずだ。
事実、未来の歴史の中で犠牲になる将兵の姿を、芹沢は見てしまった。
第二次火星沖海戦に参加し、ガミラス戦役を生き延びた航空戦のプロ、安田俊太郎。
空間騎兵隊の月面駐留部隊で生き延び、今は地下都市で治安任務にあたっている、斎藤始。
現在ヤマトの航海に参加しており、通信で生存を知ったものも複数名いる。
国連軍のトップエース・加藤三郎をはじめとする、航空部隊の者。
戦艦キリシマ機関長を務め、ヤマトの機関科を任せられた熟練の機関士、徳川彦左衛門。
そして、沖田十三の親友であり、今は国連軍の空間防衛総隊司令官の土方竜。
彼が顔を覚えているだけでもこれだけの人間が生命を散らしている。
見知らぬ人間はどれほど戦火に消えていくのかは数える術がない。
彼らが去り、地球はどれほどの被害を受けるのか。甚大に過ぎる、と芹沢は理解している。
それでも、彼は傍観者たることを余儀なくされた。視線を逸らすこともできなかった。
目の前で消えていく生命に対し彼は完全な無力であった。
だからこそ。
目が覚めたときに彼は、あの未来に対し自分がまだ三年前の過去にいることを
この上なく喜んだ。
そして決意する。
備えなくては、と。
未来の記憶を知ったのだから、活用しないわけにはいかない。地球の未来のために。
幸い、自分は三年後も失脚してはいないようだ。
最も、それは各管区にいた有能な人員が失われたことの証左でも
あるため手放しに喜ぶことはできないだろうが。
懸念はある。自分の見た未来は果たして本当に起こりうるものなのか、と。
それでも止まるわけにはいくまい。できる限りの準備はするべきであることに変わりはない。
倒れていたとき、無意識のうち流していた涙をカーキ色の制服で拭い、彼は呟いた。
「…これは償いではない。私は私の正義で行動していた。これまでも、
…そして、これからもだ!
『地球人類の平和と繁栄を守る』
私は私の正義の為に、この記憶、この知識、この好機を使うとしよう!」
彼は歩みだす。
そしてようやくたどり着いたのはビル内の作戦会議場。
この部屋には地球降下後の宇宙戦艦ヤマトについて検討が行われていた。
詳しい検討内容はむろん
発動方法が地球ではよくわかっていなかったため、ヤマトの技術責任者・真田三佐と
協議し速やかな稼働が行うことがヤマト帰還後に予定されていた。
が、それはヤマトが地球に降下したとたんに起きた地球環境の劇的な回復によって
事実上の立ち消えとなった。
最も、司令部要員たちは歓喜に湧いている。覚えていたとて脳内の彼方へ追いやっているだろう。
しかし問題はここからだ。地球人の手で
思わぬうちに遂行されてしまったものだから、
自動的に国連軍とヤマトは次の課題に取り組まねばならない。
それは、地下都市にいる市民にしっかりとエネルギー、食糧を提供し、
地上に戻れるまでの時間を稼ぐことだ。
いくら環境が回復したといっても、それは表面的なことに過ぎない。
遊星爆弾が残したであろう敵性植物やそれがもたらす有毒物質が完全に除かれたとは
確信を持って言うことはできない。まずは調査隊を地上に派遣し人間の活動できる範囲を
策定しなければならないのだ。それが完了しても、地上で再び生活できるインフラを
整えねば地上への復員など到底不可能である。
そのため、最低数か月は市民に地下生活の継続をしてもらわねばならない。
だが、地下都市では物資、エネルギーともに事欠いており、
今もなお地下都市では暴動が起こっている。
政府は警察、空間騎兵隊を動員し抑えているが限界は近い。
報告では彼らの中から職務を放棄するものや暴動に加わる者さえ出る始末らしい。
この問題が長期に及ぶと、現在の統治体制はが瓦解し、せっかく窮地を脱した
地球人類は内紛により滅亡する、ということになりかねない。
否、すでに他管区の地下都市ではそうなっている可能性とてある。
エネルギー不足で各管区同士の連絡も満足にとれない状況に陥って久しいのだ。
まず、芹沢は未来の知識に関係なくこれらの問題へ対処していかねばならないのである。
西暦2199年12月8日、地球は青い姿を取り戻したが、
人類が救われるにはいましばらくの時間を要することとなった。
毒電波を浴びて、芹沢さんが知っているのは基本的に2202本編の設定です。
また、小説版やシナリオ集などからネタを拝借する都合上、それらについても
断片的に知識を持っているということにしております。ご理解のほどお願いします。