いやあ、
早いもので2205も公開間近ですね!(そんなことはない)
しかし、本作では2201年の地球をお楽しみください(無情)
【第23話】
火星圏での接触からおよそ3日が経過した。
宇宙戦艦ヤマトに先導され、フォムト・バーガー大佐が率いるガミラス外交団先遣隊の
巡洋戦艦「バーゲルスト」と軽巡洋艦「リドールⅨ」「スタールⅦ」の3隻は地球へ降下。
地表の復員拠点に入植する市民や職員はガミラス使節団について何も知らされておらず、
彼らがガミラス艦隊を見てパニックを起こさないように、ガミラス艦隊は復員拠点群から
遠く離れた南太平洋の島嶼群の一画、チューク諸島へと誘導され着水した。
喫水などの理由からチューク諸島のモエン島とデュブロン島の間の海面に
ヤマトやガミラス艦隊は投錨している。
このチューク諸島は旧名をトラック諸島(またはトラック環礁)と言い、20世紀半ばには
大日本帝国海軍の海軍拠点が置かれていた。ヤマトとガミラス艦隊の投錨地である
モエン島やデュブロン島も、当時は春島や夏島と呼ばれており、
その近隣海面には日本海軍の主力艦隊が停泊していた。
当然、日本海軍最大の戦艦「大和」もその例外ではない。
丁度「ヤマト」は「大和」が係留されていた地点に停泊しているのである。
このことに、シャンブロウにてバーガー大佐(当時少佐)と交流したヤマト技術科員など
因縁めいたものを感じている者は少なくなかった。
2201年2月6日(現地時間)現在、チューク諸島にはヤマトやガミラス艦隊以外に
地球連邦防衛軍最高司令部、そして地球連邦大統領から特命を受けている
オセアニア管区の輸送艦「オーウェンスタンレー」と
東亜管区の特設工作母艦「キールン」が入泊しており、宇宙戦艦ヤマトと共に
ガミラス艦隊のホストシップとして活動している。
……尤も、バーガー大佐などのガミラス将兵が主に来訪するのはヤマトのみであり、
「オーウェンスタンレー」は貨物区画に積んできた、オセアニア管区の地下都市工場で
製造された大型のOMCSを使いガミラス先遣艦隊の乗組員に食事を生産・提供している。
「キールン」は武装を撤去し貨物区を増設した元村雨型巡洋艦で、チューク環礁へは
東亜管区駐留地上軍の設営隊や物資・機材を運び入れてきた。
設営隊は、来るガミラス外交団本隊を迎え入れるに足るように礁湖内の浚渫や
島嶼群の調査・整地・施設の建設など各種作業を行い最大限の体裁を整えんとしている。
……ガミラス先遣部隊は、地球軍艦(ヤマト)との接触を目的として外交団本隊に先駆け
太陽系内へとやってきたが、その最大の任務は外交団が終戦・条約締結に際し
地球に対して要請したいことやそれに付帯する情報群を記した外交文書(物理的)を
地球の指導者層へと渡すことだった。
幸いなことに、バーガー大佐ら先遣隊は無事にヤマトの指揮官へ文書を渡すことに成功、
文書はヤマトの艦載航空隊によって厳重な警備の元 地球連邦の暫定首都となっている
極東管区地下都市の政治中枢へともたらされることになった。
因みに、外交文書の内容については厳重機密とされ文書を運んだバーガー大佐はもとより
その上官であるシー・フラーゲ中将もその内容については知らないようだ。
異星からの外交文書という地球人類開闢以来最大級の重要書類は、
極東管区時間の2月6日1000時現在、同管区の地球連邦政府の諸部局の入る
旧国連極東管区軍司令本部庁舎の大会議室に置かれている。
大会議室に設えられた会議テーブルの席上で、
地球連邦大統領エイブラハム・ダグラスはこれから行う会議についての所信を語る。
その内容は列席する高官たちの共通認識でもあった。
「……地球連邦の、地球人類の復興と発展には、敵手であったガミラスの
助力・協力が不可欠であることは諸君も知る通りだ。
だが、そのために地球人類の自由と財産、権利が損なわれるべきではない。
その事を念頭に置き、会議に当たって欲しい。」
大会議室には逆U地形に長机が並べられ、最上席に大統領や補佐官などが座していた。
長机に座る面々のうち何人かは大統領の言葉に賛意を示して頷く。
高官たちの顔ぶれはそうそうたるものと言えた。まず、外務局長官のエバット、
国防局長官のペリー。この二人を中心に外務局と国防局の高官が多数参加している。
加えて、地球防衛軍の芹沢副司令、ジャーベル首席参謀、タナカ宇宙艦隊司令が列席。
また、オブザーバーとして藤堂平九郎極東管区行政長官やその他省局の部長クラスが
この"御前会議"に参列していた。
肝心のガミラスからの外交文書は、大統領らが座る長机の正面に配された台の上の
防護ケースに入れられて置かれている。
「……ではこれより、およそ5週間後に地球へ来訪するガミラス外交団との
地ガ戦争終戦・国交条約の締結に関する会議を始めたいと思います。」
「うむ。」
新任の大統領補佐官が会議進行役として、大統領へ確認をとるように会議の
開幕を宣言した。大統領も小さく頷き、腕組みをする。
「ガミラスの外交文書は、外務局の言語翻訳部門が既に地球言語への
訳を完了させ、エバット外務局長官が内容を確認しております。」
「……外務局長官のエバットです。現在、翻訳に当たった人員は情報漏洩防止のため
本人の同意を得た上で周囲から一定期間隔離、監視下に置いています。
また、作業中の監視、作業後の人員からの説明で翻訳に意図的な改竄が
存在しないことは保証させていただきます。」
白髪を生やし、顔の深い皺に外交分野での熟達を感じさせる老紳士、
チャールズ・コーネリアス・エバット外務局長官はガミラスの外交文書翻訳に
関して予想される懸念の意見に予め対策を立てていたことを述べていく。
予想は当たったらしく、数人の高官は質問をしようとしていたが
説明を受けてその姿勢を解いていた。
「ガミラスの外交文書の内容に関しては後程議論していただこうと思います。
その前に、ガミラスとの外交交渉に有用であると思われる事象について
各部局より発表して、纏めていただきたい。」
エバットが話し終わると、大統領補佐官は会議を次のフェーズへと進める。
大統領や外務局員たちの視線は防衛軍所属の参加者やオブザーバーらに向けられた。
そんな中で、最初に挙手し発言回線を回されたのはハサン・アル=アディーブ、
資源生産局の計画部長である。彼が語ったのは、来るべきガミラスとの交易で
地球からの輸出品となることが期待できる各種奢侈品・嗜好品の試験生産が
始まっていることについてだった。一部の管区に資源生産局の農業部門が設置した
試験農場で茶葉やコーヒー豆、煙草の再生栽培が開始されていること、
更に生産局が主導し、繊維製品や陶芸品を始めとした地球の工芸品を
集めた元職人たちの協力の下で製造再興が試みられていることも報告される。
(……順風満帆、とはいかぬようだが、確実に進んではいるようだな。)
物資配給局や資源生産局の長官に、この事業を始めるよう進言した元凶の一人である
芹沢虎鉄は、アル=アディーブの報告を聞きながら満足げにうなずいた。
将来的なガミラスとの結びつきを強めるにはビジネスだけでなく、文化単位での
交流が不可欠であることは明白だ。ヤマトの航海記録から、ガミラスが体制ゆえに
食文化など娯楽方面で地球よりも遅れていることが分かっている以上、
これを活かさぬ手段はない。ガミラスの市場に食い込むのは難しくないはずだ……。
そう芹沢が考えていると。
「……副司令、我々も。」
「……うむ、そうだな。」
隣の席にいたパウロ・D・タナカ宇宙海軍艦隊司令長官が小声で話しかけてきた。
芹沢は彼の意を察し、アル=アディーブ部長の次に発言権を得る。
国防局・防衛軍の担当者たちは、地球の軍備と防衛状況の現状を大統領らへ報告する。
……防衛軍高官陣が報告を終えると、続いて回線を回されたのは国土開発局だった。
だが、一部の回線はいまだ国防局や防衛軍の人間に繋がれたままだ。
今から発表されるのは、地球の建設部門と防衛部門の共同の案件なのである。
「……我々から報告させて頂くのは、時間断層の外交利用の可能性についてです。」
「あんなものが、使えるのかね!?」
担当者が話し始めた思わぬ内容に、大統領は目を丸くした。
発言していた担当者は恭しく「はい」と答えると、部下に目配せし
室内の大統領らが座る上座と反対側の壁に設えられた大型モニターに
反重力特異点・時間断層の画像データや各種数値が記載されたグラフなどを映し出した。
「……本年の1月21日に存在が確認された、反重力特異点及び時間断層は
国防局と防衛軍が主導で調査活動を行っていましたが、これに復興・国土開発局から
機材・人員面での協力が得られるようになりました。
これについてはこの場を借りて、改めて御礼申し上げたい。」
「こちらこそ、地球の安寧を守る活動に携われて光栄です。」
短い時間にも関わらず、時間断層を使用する提言ができるようになるほどに
データを得ることができた理由として、国防局の高官は国土開発局の支援があったことを
明かし、公然で礼を述べた。対する国土開発局も国防局へ返礼する。
(うむ。こうした部局を越えた協力体制の必要性は今後強まる。
いい前例になったと言えるな。)
国土開発局の高官に、人員や機材を一定数待機させるように陰で働きかけ、
結果的に遊休の建設部隊を時間断層の調査部隊へのバックアップに導いた張本人の芹沢。
彼は、先程の資源生産局と物資配給局の合同事業の件とも併せ、こうした部局を横断した
取り組みが現段階で行われることが今後によい影響を与えると考え内心でほくそ笑む。
その最中にも、担当者らの説明は続けられた。
「…調査と解析の結果、時間断層内における引力の流れは一定の深度まで降下せねば
内部に侵入した物体に影響しないことが判明しました。
超重力の影響により時間が歪められ、なおかつ無重力状態になっている第一層と呼ばれる
比較的浅深度の空間には無人実験フロートを置くことも成功しました。」
「……現在、地球の地下・海中には大小30あまりの時間断層が確認されており、
うち7ヶ所は超大型と判定できるサイズであります。
断層そのものの大きさに伴い、遠隔ではありますがある程度の作業が行える第一層空間も
相当に広大であることが確認されています。」
「……もしガミラスの協力が得られ、この空間に無人浮遊工場ステーションを置くことが
可能になれば、断層内外の時間の流れの違いを利用して10倍の生産速度を持つ
生産拠点を地球人類は得られることとなるのです!」
徐々に声の色に熱を帯びてゆく担当者の説明内容に、会議場内は騒然となる。
事実であれば、地球は復興や再軍備にとんでもない切り札を手に入れたことになるのだ。
大統領も思わず席から立ち上がる。
「……すばらしい。
時間断層は潜在的な脅威とばかり思っていたが、我ら地球人類の味方のようだ。
……ありがとう、国防局・国土開発局の諸君。現場の部隊員にも深く感謝する。」
異星がもたらした救済装置の思いがけぬ副作用。
いまだ再興半ばの地球人類にとり、それが福音となったことに会議場の人々は
驚きつつも内心で歓喜に湧く。
が、この男は違った。
「……お言葉ですが、時間断層が生産拠点として利用可能になるのは
ガミラスの支援が前提にある、ということには留意しておくべきと存じます。」
「……確かに。尤もな意見だ、統括副司令。」
芹沢が、過剰な沸き立ちを諫めるように発言すると
大統領をはじめとした多数の参席者は冷静さを取り戻していく。
「……副司令の仰る通り、同断層の工場化にはガミラスの援助が不可欠です。
工場となる空間建造物や人間に代わる労働力となるガミロイドを
ガミラスから提供を受ける必要があります。」
熱に浮かされたように力強く時間断層について語っていた高官も、
落ち着きを取り戻し説明を補足していく。
これを受けて、大統領は呟いた。
「……問題は、そうした支援を受ける見返りをどうするかだな。
時間断層の使用権は一部認めるとして……」
「……では、そろそろガミラスからの外交文書についてを始めさせていただけますか?」
……ここが最も話題の切り替え時であると踏んだ、進行役の大統領補佐官は
大統領や周囲の列席者に伺う。
先程からの会議の流れから、発言を挟むのは憚られるのか、反対意見は出ない。
補佐官にたいし、大統領エイブラハム・ダグラスは言った。
「問題ない、始めてくれ。
私も、彼の国が我々に何を求めているかが知りたい。」
遂に、16万8000光年彼方の交戦相手から送られてきた外交文書が開かれんとしていた。
チャールズ・コーネリアス・エバット外務局長官は、
外見がエヴァの冬月先生のイメージです。
イメージcvも、もちろん清川元夢氏です。