なお、大学生活再開につき更新頻度は下がるかも……(本当に申し訳ない)
【第25話】
惑星ガミラスの、首府バレラス近郊にある湾。その沖には、小さな島が浮かんでいる。
その島には、重要な政治犯を収容する刑務所施設が島の地表から地下深くまで建造されている。
かつてここには、ハイドム・ギムレー長官率いるデスラー親衛隊など警察組織により、
多数の人々が思想犯として捕らえられ、投獄されていた。
収監されていた人々のうち、冤罪とされた大多数の人々は新共和政府によって釈放され、
市井での生活へと戻っている。刑務所には、危険な思想犯や刑事犯が残るのみだった。
しかし、そんな孤島の刑務所に近年、新たに収監された人間がいた……。
「……例の囚人、あまりに煩いからと第4層に移されたらしいぞ」
「…ということは奴一人で4層を独り占めか。
収容者が殆ど釈放されたとは言え贅沢な話だな」
刑務所の地表部。惑星レプタポーダなどにある強制収容所の建造物とよく似た
ものが島の中央に建てられている。その中央区画の看守用食堂にて、二人の看守が話していた。
食堂といっても自動給糧装置が数台とテーブルや椅子が置かれているだけで、
じつに殺風景な場所だった。この場に二人の他に人影がないこともそれに輪をかけている。
この広大な監獄島にて看守の任に当たるのは、
食堂にいる彼らのような看守が十数人と数十体の軽装ガミロイド兵だけだ。
監獄島への出入りは基本的に輸送艇で物資や囚人が運ばれてくるほか、
休暇を許された看守が同じく輸送艇で湾の陸へ上がるくらいしかないため、
侵入ルートは限られている。また、首都近郊であることが作用して暴動などがあった場合
即座に首都警備の陸戦部隊が駆けつけてくる。
こうした理由が警備する刑務所員たちの少なさと軽装を許している面もあるが、
何より大きいのは新政権の発足による収容囚人の激減と、ガミラスに以前から蔓延する
人員不足の影響という二つの理由である。
デスラー独裁政権の拡大政策による内地の空洞化現象と、その終焉に伴う動乱で
人材の多くはガミラスの広大な版図中に治安維持や叛乱鎮圧に駆り出され、分散している。
軍人や技術者はもとより、刑務所員などの治安要員とてその例外ではない。
……刑務所地下区画、第4層と呼ばれる中深度地下収監ブロックは、つい先ほどに
上層の収監ブロックから移送されたある一人の囚人しかいない。
彼は事あるごとに騒ぎ立て、看守たちに鬱陶しがられるだけでなく、
同層に収監されている他の囚人たちの不満を高めることになりうる点で重大視され
特別に使われていなかった第4層区画へと移されることとなったのだ。
そんな彼のため、2体のガミロイドを伴った看守2名が食事をもって第4層区画へ降りてくる。
リフトを降りた2人と2機は、食事を積んだカートを押しつつ件の囚人の独房を目指す。
共和政府による大規模釈放により、第4層から囚人の姿は消えて久しい。
自動清掃・点検ロボットにより最低限の機能のみ保証されている同区画の通路は
暗く、不気味である。囚人たちから罵声などを浴びせられた方がまだマシだ、と
看守たちが内心思うほどに区画は静謐が保たれていた。
しかしそれも、目的地の独房が近くなると解消される。
例の囚人が放つ怨嗟や罵詈雑言の声が看守らの耳に届き、逆に彼らを安心させる。
皮肉にも、鬱陶しいと思われた囚人の声がほとんど無人の第4層区画では役に立っていた。
「……おい!囚人番号88035!エサの時間だぞ!」
看守が、囚人に聞こえるよう囚人の声に負けぬ大声で告げた。
声は遠く地下区画の最果ての壁にぶつかり、反響する。
もう一人の看守が、専用の扉からパッキングされた囚人食を独房内へと入れる。
「……相も変わらず五月蝿い奴だ。」
「これでも国防軍の将官だったっていうんだから驚きだぜ」
「人材不足も極まれり、だな。これでは未開人の船に負けるのも当然だ」
「まったくだ」
独房から漏れでる囚人の声に耳を貸すこともなく、
看守やガミロイドは再び静寂の中へ歩き去っていく。
この独房以外に収容者が存在しない第4層には、
怨みと呪詛を吐き続ける中年の元軍人だけがただ一人残された。
「……出せ……!……俺をここから出せ……!」
元は中肉中背だった体躯は、監獄生活で痩せぎすになっていた。
だが、そんな衰弱ぶりをまるで感じさせないほどに声には力が籠っている。
「……あの不忠者どもに……!簒奪者どもに……!思い知らせねば……!」
独房の扉に、握った拳を叩きつける。無論、扉はびくともしないのだが。
「愚劣蒙昧な忘恩の徒めが!ヒスの無能にディッツの老いぼれ!
奴らだけは許さん!ありもしない
皇女という傀儡をたてガミラスを乗っ取った!
必ずやここを出て、裏切り者どもを誅殺し!あのお方の凱旋に備えるのだ!」
「……あのお方が、総統閣下が野蛮な
絶対にガミラスへとお戻りになる!それまでに逆賊を討ち、でっちあげの汚名を雪がねば…!」
囚人は心から前ガミラス指導者、アベルト・デスラーに心服している。
彼は、狂気と憤懣を目一杯湛えた形相で扉の向こう、首都バレラスにいるであろう
ガミラス新共和政府の指導者たちを睨み付け、再び扉を殴り付けた。
「……開けろ!!俺を誰だと思っている!
俺はゲールだ、
その男、元ガミラス銀河方面軍副司令官。
辛うじて沈没する座乗戦艦「ゲルガメッシュ」から逃げ延びた、
グレムト・ゲールの怒声は、地下監獄に虚しくこだまするのみだった。
ーーーーー同刻、銀河間空間。
戦艦「シャングリ・ラー」をはじめとするガミラス外交団艦隊は、銀河系方面へ
繋がる亜空間ゲートを通過し、天の川銀河への突入を目前に控えていた。
そのことに伴い、ガミラス遣
国交条約締結交渉に備えた幾度目かの調整会議を開いていた。
会議は「シャングリ・ラー」艦内の作戦会議室にて行われる。
作戦会議室にはガミラス戦艦では標準的な投影パネル付き天板のテーブルが備えられ
外交団の人員や、外交団護衛艦隊司令官フラーゲ中将など警護に当たる将官が着席している。
会議の口火を切ったのは、外交団団長を務める、共和政ガミラス外務次官、
ヤヒメル・ドロッぺだった。
「……本日未明に、バレラスから届けられた定期伝達の内容は諸君らもご存じだろう。」
重々しく口を開いた彼の表情は険しい。テーブルを囲む青肌の外交団員も、
その護衛を担う軍人たちも深刻な顔で次々に頷き、同意した。
「……ヘゼン大管区の惑星ダムルの首都で発生した過激派オルタリア人の叛乱は更に激化し、
ガミラス人や他民族は元より穏健派のオルタリア人たちまで攻撃対象としている。
ザグテン大管区の工業惑星では、航宙機部品工場で労働者のストが起きており
長期的に航宙機の生産、ひいては国防軍の軍用機配備計画にさえ影響を及ぼすそうだ。
アルゼス管区の首府惑星ジュトラズにおいては、暴徒が総督府を包囲し
同地の治安軍が解囲作戦に動いているほど危機的情勢だとある。
……他にも、属州惑星や空間入植地などでの暴動やサボタージュは枚挙に暇がない。
……我々が本星を発ってから、いや、それ以前からずっとこの調子が続いている。」
ドロッぺは額に手を当て、疲れたような口調でガミラス共和政府から送られてきた
最新の国内状況を他の会議参加者と共に再確認する。
ガミラス星を発進してからはや3ヶ月、この間ガミラス本星から送られてくる情報は
叛乱、暴動、テロ、ストライキ、破壊工作、サボタージュ。末端から中枢近くまで
片寄ることなく旧帝国の全域においてガミラスへの反抗、分離独立運動が盛んに
行われているという頭を抱えるものばかりであった。
このままでは、遠からず国家としてのガミラスは消滅してしまうだろう。
否、それだけにはとどまらない。ガミラスという覇権国・即ち枷が消えたことで、
マゼラン銀河中の星系、惑星同士が血で血を洗う争覇戦の坩堝へと堕ちてしまうのは
想像するに容易い。こうした最悪のシナリオは、なんとしてでも避けねばならないという
認識は、場の
「……どれもこれも、元はと言えば前政権の無茶苦茶な拡大主義と……」
「……我らが交渉先、
外交団の一員で、経済顧問である帝国銀行副頭取エゼフ・ドルジと、
産業顧問でゲルップ重工業社相談役のアレート・ゲルップが吐き捨てるように呟いた。
彼らは特別に差別主義者というわけではないが、ヤマトが間接的に引き起こした
ガミラス中の叛乱や離脱運動で自社に損害を受け、ヤマトにも地球にも好印象は抱いていない。
「……時間をかけて、各惑星での暴動を武力鎮圧することは不可能ではないでしょうが
こちらが受けるダメージも計り知れない。しかも、そうなれば我々共和政府に
迎合する可能性がある民衆からも信用を失ってしまうでしょう。」
腕を組んで悩ましげに宣ったのは、民生省(国民管理省より改編・改名)所属の
外交団の民政顧問である。
これに同意を示したのは内務省や労働省、行政省(支配統治省より改編・改名)など、
主に属州惑星や植民惑星での実務を担当する省庁から派遣された顧問たちだった。
彼らの部局は立場上、社会的弱者である入植民や被支配民族と現地の担当者が接する機会が
比較的多く、民衆に理解・同情を示す報告が多く上がってくる。
そしてこうした版図内惑星での実情をよく知っていた。
「……しかしあまりに対応が遅くなれば、彼らの勢力は拡大します。
現に、今でさえ国中を覆わんとする規模なのです。
駐留軍や治安機構は自制に務めていますが、いつ大規模衝突が起きてもおかしくない。
有効打が出せねば、彼らは武器を取り一層先鋭化します。」
発言したのは参謀本部のキーリング参謀総長の下、植民惑星駐屯の陸戦部隊を統括する
部局に所属するダークナス少将。卓上で両手を組み、苦々しげに語った。
「……だからこそ、我々は有効打を求めに
再び、ドロッぺ外務次官が口を開いた。先ほどとは打って変わった毅然とした面持ちだ。
「……次官閣下、本当に
ダークナスは、ドロッぺへと確認するように尋ねた。
ドロッぺは未練に溢れた顔でかぶりを振る。
「……ヤマトは彼らにとって希望の象徴だ。……無論、我々にとってもだが。
最強の自衛戦力をむざむざ委ねようとは思うまい。」
「……軍部としましては、ヤマトの代替足り得る艦隊戦力を
「……休戦状態になってまだ1年と少しだ。彼らがかつての敵国の庇護を受け入れると思うかね?」
「……それは。」
ダークナスの反論に、丁重に返していくドロッぺ。
ついにダークナスも言葉に詰まり、それ以上の論議を諦めた。
ドロッぺはダークナス以外の面々の顔を見やり、半ば決定事項という体で告げた。
「……
工業力を必要としている。我がガミラスであれば、その需要は満たせるはずだ。
彼らがいかなる要求をしてこようが、可能な限り我々はそれを呑む必要がある。
だが、その代わり何としてでも
恭順と同盟を促させる使者を送らせるのだ。
反発する民衆たちに我々ガミラス政府の声が届かずとも、叛乱を起こさせる
原因となったヤマトを擁する
どのような対価を支払うことになろうと、ガミラス版図内の安定を回復させる鍵を
このことこそが、我が外交団に課された至上使命であることは各々方、お忘れ無きよう。」
ガミラス外交団を載せた「シャングリ・ラー」以下ガミラス艦隊は、
16万8000光年の宇宙の彼方の惑星、地球にガミラスの運命を背負い
はるばる望もうとしていた。
ーーーーー同刻、惑星・地球。
南溟の島・トラック(チューク)の空は、鮮やかなオレンジと薄まった蒼に分かたれ、
二色の間の帯はえもしれぬ色彩に染まっている。
その空を流れる雲は、圧倒的な光に触れられて神々しい姿に映っていた。
夜の帳が降りゆく天の様を、鏡のように映し出す環礁内の内海。
そこには、浮かべる城とも形容できる地球人類史上最大の宇宙戦艦が錨を降ろしている。
その前部甲板上には、二つの人影があった。
ひとつは、白を基調とし所々に赤い部所が配される軍服をまとった茶髪の青年。
その横に立つのは、緑を基調に様々な差し色が入った軍服姿の、紫髪の青年。
かつて敵として相見え、後に戦友として強大な相手に立ち向かった間柄の男たちだ。
「……悪くねぇ。
「気に入ってくれたか。」
紫髪を七三に分けた、頬に傷跡のあるガミラス士官、フォムト・バーガーの感嘆に、
茶色の収まりの悪い髪型をしたヤマトの戦術長、古代進は微笑した。
礁湖内に吹く穏やかな潮風が、一日の終わりを告げるように二人を包む。
「……これから来る、外交団護衛艦隊のフラーゲ中将が俺を副官に選んでくれたのは
やっぱりシャンブロウでの一件からだ。ヤマトと面識がある貴官なら最初の使者に
丁度いいってな。……だが、コダイ。先遣隊が俺じゃなかったとしても
お前は、ヤマトは使節が本物と信じてたんじゃねぇか?」
「……そうだな。シャンブロウでお互い学んだ通り、地球もガミラスも、同じ人間の星なんだ。」
国も、階級も、様々な面で異なるが似ている二人。
大切な者を戦災で喪った者達。
「……人間にも、色々いる。俺やお前みたいにうまく噛み合えばうまく行くが……」
「…全部が全部うまく行かないから、戦争は起こる。
ガミラスと地球のように。」
不意に、海鳥が二人の頭上を過ぎて影を落とす。
「……認め合い、許し合い、愛し合うのは難しいが……必要だろうな、前に進むには」
「ああ」
二人の表情は、決して暗いものではない。
地球とガミラスの橋渡しは、先例を作った自分達が成し遂げて見せるーーー
そんな期待と、意欲が滲んでいる。
「……オキタ艦長も、今頃ドメル司令と一杯やってるのかねぇ?」
「あのお二人なら、呑んでいそうだな?」
今は亡き互いの尊敬する上官を思い浮かべ、苦笑する二人の青年士官。
バーガーは、これ見よがしに古代を誘う。
「明日は非番って聞いたぜ、コダイ。
俺の『バーゲルスト』に来いよ。いい酒をもってきたぜ」
「いいのか?……なら、ご相伴に預かりますよ、バーガー
「こいつぅ!」
シャンブロウの戦闘の功で昇進していた異星の盟友をからかう古代。
バーガーはお返しとばかりに肩を組んでくる。二人は笑いながら甲板から艦内へ戻っていった。
赤い夕陽により、彼らの影は長く長く延びている。
西の水平線へ太陽は去っていく。代わりに来るのは星々の煌めき。
太平洋に、夜が訪れようとしていた。
バーガーの第6空間機甲師団・第7駆逐戦隊時代からの旗艦であるメルトリア級巡洋戦艦は、
本小説では「バーゲルスト」と艦名をつけさせていただきました。
由来はもちろん"バーガー"と、妖精バーゲストからです。
随伴の軽巡の艦名はPS2版ヤマトの登場艦を参考にしました。