宇宙戦艦ヤマト2202 If 猛虎咆哮す   作:モアンゴル

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各話タイトルの「猛虎○○せり」のせりは芹沢のせりです。


第三話 猛虎始動せり

【第三話】

 

 地下都市にある、極東管区司令部庁舎ビル。その一画の作戦会議場。

誰もおらず、暗い議場で佇むのは、軍務局長・芹沢虎鉄。

無言で壁に描かれた国連宇宙海軍のシンボルマークを眺めていると、

突然会議場の照明が点灯した。芹沢は驚きつつも電源スイッチのある方へ向く。

 

 

「芹沢君」

 

「…!

 …藤堂長官。」

 

スイッチを入れたのは彼の上司、藤堂平九郎だった。

彼は極東管区・行政局長を務めており、第三者からは

両人が対立しているものとして見られている。

藤堂は先ほどまで司令部でヤマトの帰還を観測しており、

芹沢がその場を去ったことには気づいていなかった。

相対する二人。先に口を開いたのは藤堂だった。

 

「君の執務室に行ったのだが、どうも不在のようだったのでね。

 聞いたら作戦会議場へ向かったと聞いたが。」

 

「はッ、お手数をおかけしました。申し訳ありません。」

 

「いや、いい。……それより君に、重要な話がある。」

 

「………誠に失礼ながら長官、私からもお話が。」

()()()()と聞き、息を呑んだ芹沢。だが彼は気圧されず藤堂へ視線を向けた。

 

「……いいだろう、先に君の話を聞かせてもらおう。」

芹沢の真剣な表情に思うところがあったのか、藤堂は芹沢に発言を許した。

 

「ありがとうございます。

 ……長官、どうか私を軍務局長職に留任させていただきたいのです。

 地上への復員が完了するまでは、私を現職に留めていただきたい。」

 

 

彼が藤堂に乞うたのは、更迭の回避であった。

いくら未来の知識を得たとはいえ、それを活かす立場になければ意味がない。

未来の記憶では自分は高官としての立場を維持していたが、

視た未来の通りにいく保証はどこにもないのだ。

ここはなんとしても更迭を回避し、保身を行わなければならない。

自分自身のためのみでなく、地球の未来のためにもだ。

 

 

「君の行ったこと、その結果ヤマト艦内で起きた事態については、

 星名准尉からの報告で聞き及んでいる。」

 

「……。」

 

 

瞑目し、威厳ある声色で語る藤堂。芹沢の額に冷や汗がにじむ。

 

 

「一歩間違えれば、ヤマト計画は頓挫していた。

 その後にイズモ計画が再発動され、ビーメラ4を新天地として

 移住を進めたとしても、結局ガミラス軍の勢力範囲に同星系は

 存在していた。結果論ではあるが、有効な手段とは言えなかっただろうな。」

 

 

芹沢は押し黙る。彼も、イズモ計画立案グループも、

ガミラスの母星が銀河系内に存在するものとばかり思い込んでいた。

遥かマゼラン銀河から遠征軍を送り込んでいるとは思いもしなかったのだが、

芹沢は知っている。惑星ガミラスが天体としての寿命を終えようとしているため、

ガミラス人は生存に適した環境に移住すべく地球へ侵攻していたことを。

だが、それをいま語っても詮無きことだ。芹沢は黙して藤堂の言葉に耳を傾けた。

 

 

「……だが。」

 

藤堂は重厚な声のトーンを少し和らげ、目を開き芹沢を見据える。

 

「……。」

 

冷や汗を流しつつその目に応え見つめ返す芹沢。

「少なくとも君が地球人類を守ろうと、懸命に職務に当たったことも、

 まぎれもない事実。その点については誰にも異論は許さんよ。

 ビーメラ4の一件も、地球人類を救う手段についての

 方向性のズレが、起こしてしまったものだろう。」

 

「……長官……。」

 

「…何より。地球は長い戦乱で人材が払底した。今の極東管区に君以上に

 軍務局長職を預けられる人間はおるまい。

 土方君とて、現職を離れるつもりは毛頭ないだろうからな。

 将来を見たとしても、君の能力を喪うのは非常に惜しい。

 疲弊した人類にとって、人材資源を無為にするのは許されることではない。」

 

「……長官……!!」

 

藤堂は微笑し、芹沢は目を見開いた。

 

「…とはいえ、だ。君を批判する勢力は間違いなく出てくるだろう。

 なるべく私のほうでなだめようとは思うが、

 君自身が現職に留まるに相応しい能力を周囲に示さねば納得はするまい。」

 

「は!持てる力の限りを尽くし、今後の職務に当たらせていただきます。」

表情を引き締め、頷く芹沢。藤堂も目を伏せて頷き返し、芹沢の肩にポン、と手を置く。

「よろしい。では、今後とも頼むぞ、()()()()()()。」

 

「…長官……ありがとうございます…!」

 

深々と頭を下げる芹沢。

そこに、一人の士官が会議場の扉を開き入室した。

 

「藤堂長官、芹沢局長、ヤマトより通信です!至急司令部へお戻りください!」

 

「わかった、すぐに行く。芹沢君。」

「はっ。」

 

 

 

 司令部は、ヤマトの帰還、地球の自然環境復活のときと打って変わって、

否、通常通りの態勢に戻り、情報処理や連絡を行っていた。

また、空間防衛総隊司令、土方竜宙将も姿を見せている。

藤堂、芹沢の両人が入ると数名の幕僚が敬礼しようとして藤堂が手で制する。

芹沢にとって何百回と見た光景だが、また違う光景に思えるようになったのは、

更迭を回避し懸念を乗り越えた心境変化故か…などと考えているうちに、

ヤマトの第一艦橋からの映像がモニターに映し出された。

 

しかし転送された映像に映るのは、ヤマト副長の真田三佐を始めとした、

ヤマト各部署の責任者たちのみで、艦長たる沖田宙将の姿は見えない。

藤堂たちは眉を顰め、重苦しく彼らに確認した。

 

「沖田宙将はいま、どこに?」

 

モニターの向こうにいる真田副長が一瞬目を伏せ、粛々と報告する。

 

「沖田十三艦長は遊星爆弾症候群により、地球帰還直前に……

 ……亡くなりました。現在ヤマトは、副長の私が指揮を執っています。」

 

やはり、と沖田をよく知る藤堂は思った。

帽子を目深にかぶり、表情を窺い知らせない土方も同様だろう。

病の身を押して彼は航海に出たのだ。こうなることを覚悟していたはずだ。

沖田も、土方も、藤堂も。

 

他方、芹沢はそっと目を伏せた。

あの記憶で沖田の死はわかっていたはずなのに、喪失感が胸に湧いた。

 

だが、芹沢は思った。もしかしたらあの未来の記憶は、

沖田が自分にもたらしたものではないか?

 

そんなはずはない。

 

少なくともあの男はそんなことをするような男ではないのだ。

こういったことをするにせよ、奴が目をかけたヤマトのクルーの若者だろう。

年長者に後進を守り導け、などと言うにしても

自分ではなく藤堂長官に未来の記憶を見せるだろう。

したがって、この未来の記憶は沖田がやったものではあるまい。

 

いや、もうよそう。誰かが故意にやったものでもないし、

何のためということでもないだろう。ただの、偶然だ。

重要なのはどう用いるか、すなわち未来を知る自分がどう行動するかだ。

 

今はとにかく、『地球を救った英雄』という大層な肩書がつくに違いない、

一人の男に哀悼の意を示そうではないか……。

 

 

 

そのすぐ後、ヤマト側が暫しの沈黙を破り、通信を入れた理由を示した。

今後のヤマトをどう運用すべきか指示を仰いできたのだ。

それは芹沢らが考えていたことと一致している。

 

「可能であれば、沖田艦長のご遺体も設備の整った場所へお送りしたいのですが…」

 

真田副長が司令部へ打診する。

艦長を自然の回復した母なる地球へ帰したいのは乗組員全員の願いだろう。

 

「長官、ヤマトに人員を送り、協議すべきです。」

 

芹沢が藤堂へ進言する。また、土方も賛同した。

 

「軍務局長の仰る通りでしょう。ヤマトが現在、どういった状態にあるかを

 把握せずして今後の運用を考えることはできません。」

 

CRS(コスモリバースシステム)がヤマトの艦体などにダメージを

 負わせていないかも気がかりです。工廠・整備部門からも人員を乗艦させ、

 乗組員と共同で艦の状態を調査しましょう。」

 

それに同意の意を示し、藤堂はモニターの真田たちへ伝える。

 

「…真田三佐、聞いての通りヤマトの今後の運用は艦の状態の精査後に協議、決定する。

 明日の0800時までに工廠部門の人員をそちらへ乗艦させるので受け入れの準備を。

 それまでは乗員にしっかりとした休息を与えてほしい。

 ……重ねて言うが、イスカンダルまでの旅、本当に、本当に、ご苦労だった!!」

 

モニター越しに、ヤマト艦橋の面々、司令部の面々が互いに敬礼を送る。

通信はそこで打ち切られた。

 

「芹沢君、工廠員乗艦のための準備を進めてくれ。」

 

「了解いたしました。」

 

藤堂から芹沢に、ヤマト帰還後最初の指示が下った。

彼の今までにやってきたことに比べれば造作もないことだ。

彼は藤堂たちの前を辞し執務室へと戻っていく。

 

 

 

 かくして国連軍 極東管区 軍務局長 芹沢虎鉄は、

当座の最大の懸念であった更迭を免れることに成功した。

そして未来の戦役に向けた準備のさらに下準備を行うべく、行動を開始するのである…。

 




 芹沢さんに送られた毒電波は、テレサ由来のコスモウェーブとは一切関係なく、
帝星ガトランティス側に察知される可能性はないものとします。
また、アケーリアス文明や死者の残留思念みたいなものも関係ありません。
そういったオカルティック味のあるものではなく、単純に量子力学だのなんだの
といった純科学的なファクターの産物と考えていただければ結構です。
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