間もなく、拙作も一周年を迎えます。
読んでくださった方々には、「感謝の極み」でございます。
今後とも、芹沢さんの活躍をお楽しみください!
で、今回は芹沢さんが出ません。申し訳ない……
【第35話】
虚ろな海原に、星々のそれとは趣を異にする光が灯る。
一刹那の間をおいて、青白い光は超空間と3次元空間を結ぶ扉となり
天の川銀河系の宇宙空間は、超空間から帰還した巨大な鋼鉄の船を迎えた。
2201年8月3日。再度のマゼラン銀河遠征への旅路についた宇宙戦艦ヤマトは、
太陽系からおよそ6000光年の宙域に進出した。同艦は2199年のイスカンダル遠征時を
大きく上回るペースで進行している。その背景の一つとしては、
当然ながらガミラスとの戦争終結があった。先の航海で多発した戦闘行動や、
それに伴う必要となった修理活動・休息が不要になったためである。
加えて、ガミラスによって整備された超空間通信網によって、ヤマトには前回の
外宇宙航海時に得られなかったガミラス側による銀河間航路の天体観測の結果など
航路上の障害・状況の詳細なデータがリアルタイムで送られてくるため、
手探りで航海を行わざるを得なかった2199年次と違い、最適なルートで進行できたのだ。
ヤマトのハイペースは、この艦を「救世主」として迎えるガミラス側の
手厚いサポートに拠るところが大きく、更なる支援がヤマトに対し行われようとしていた。
「ヤマト」第一艦橋にて。
すっかり懊悩から吹っ切れた同艦の戦術長、古代進大尉ら艦橋メインクルーこと
各部門責任者がが一堂に会するシフトがこの時に組まれていたが、その理由には
ガミラス側が「ヤマト」に対し行う新たな種類の支援方法が起因していた。
「……前方30000、デストリア級重巡洋艦「リヴルムⅤ」、「スクードⅢ」確認!」
レーダー手を担うヤマト船務長・森雪大尉が報告する。
ヤマトのワープ明け地点付近では、2隻のガミラス重巡がヤマトと同航するように展開し
ヤマトを待ち受けていた。無論だが、彼らは敵ではない。共和政ガミラスの正規軍が
太陽系防衛派遣艦隊とは別に、天の川銀河方面へ送り出した部隊であり、
その情報はヤマトにも通知されている。しかし、念には念を入れたのか……
「相原通信長、符号を送れ」
「了解。「ヤマト」より両艦へ、『YAMA』」
あらかじめ、ヤマトと合流する予定のガミラス艦隊には、正規軍の派遣艦か
分離勢力の襲撃艦かを識別するための符号が設定されていた。
「ガミラス艦より返信、『KAWA』です。正規軍の艦と判別しました。」
「うむ。……ガミラス艦の間に入り、併進せよ。」
目前の艦がガミラス正規軍所属の艦艇であるとわかると、
山南は速度を落としつつガミラス艦への接近を命じる。
2隻のデストリア級重巡の間に割り込む形で、並走する「ヤマト」。
3隻が横縦陣になると、ガミラス艦のうち1艦からヤマトへ通信が入ってきた。
ガミラス重巡の艦長(兼分隊指揮官)からのそれは、ヤマトへの挨拶と謝辞であり、
山南艦長も義務的に挨拶を返した。そして……
「……では早速、『トランスワープ』の準備を開始しましょう。」
「そうですな。こちら側の準備については、問題ありません。
これより貴艦に接舷し各種連動作業を開始します。貴艦も、準備をお願いします。」
ガミラス側からヤマトに行われる新たな形での支援とは、ガミラス艦艇を
ブースターとしてヤマトにトランスワープを連続させて行わせるものであった。
既にガミラスでは確立された技術である、複数の波動機関を同調させ牽引物または
接続した大質量物を移送するトランスワープは「ヤマト」自身のワープと
併用することによって、倍以上のペースで航海することができるのだ。
ヤマトの日ごとのワープ回数限度はおよそ3回、ガミラス艦による
トランスワープも同様の回数だが、ガミラス巡洋艦2艦は一日4、5回の
トランスワープを実行することになっていた。
これは波動エンジンへの負荷を強め、ともすればその寿命を縮めかねないのだが、
マゼラン銀河での混乱を一刻も早く終息させるための緊急措置であった。
しかも、ガミラス側はブースターとして使用する巡洋艦群をヤマト航路上の
複数の地点に分かれて配置させており、ブースター役巡洋艦への負荷が一定になると
新たなブースター艦と交代させるという策まで採っていたのである。
こうした巡洋艦群は「デスラー総統名誉回復」によって手空きになった、
デスラー総統支持派閥への抑えの艦隊から抽出された艦が主だった。
当初、ガミラス側からこれを提案された地球連邦防衛軍は驚いたものの、
トランスワープ技術への興味が勝りこれを受け入れることになったため
ヤマト乗員にはこのトランスワープに関する詳細な記録と報告が命じられていた。
ガミラス重巡2隻は、ヤマトに艦底を向ける形で90度横に船体をロールさせた。
そのまま、両舷から接近したガミラス艦の艦底がヤマトの主船体に接舷する。
「本艦及び、「リヴルムⅤ」、「スクードⅢ」、重力アンカーにより固定。」
「ワープ航法システム・機関のデータリンク開始!」
ヤマト艦橋では、島航海長と太田気象長、徳川機関長や真田技術長が中心となり
トランスワープに向けた準備を進めていく。
いくらガミラスで実用性・安全性が実証されているとはいえ、「ヤマト」にとっては
初のトランスワープである。各員の表情は、かつての火星沖で行った
地球人類史上初めてのワープテストの時と同じくらいに神妙なものであった。
一方のガミラス艦の艦橋でも、将兵が緊張の面持ちと共にデータリンクを進める。
祖国を救う切り札たる艦を移送するのだから、気楽にいくはずはない。
ガミラスが収集した航路データベースをもとに、機器へインプットが行われていく。
そうして、要することおよそ数十分。
「「リヴルムⅤ」「スクードⅢ」両艦より入電!トランスワープ準備完了とのこと!」
「うむ。こちらも問題なしと伝えろ。
……これより「ヤマト」は、トランスワープに入る!」
相原からの報告を受け、山南艦長は高らかに告げる。
第一艦橋の面々の顔つきは、ほんの少し和らいだようだった。
重力アンカーで接続された3隻の宇宙艦は、ワープへ向けて急速に動き出した。
グレーと赤に彩られた戦艦を挟む2隻の暗緑色の重巡の艦尾にあるエンジンノズルは、
放つ光を赤紫がかったそれから青白いものへと変化させていく。
やがて、巨艦「ヤマト」の舳先には暗い宇宙空間を断ち割るように鏃状に光が収束する。
そして推進力がある一点に達し、「ヤマト」の艦首に赤い縦の裂け目が現れた。
楕円状に膨らみを増した超空間への入り口は、ヤマトと2隻のガミラス重巡を迎え入れ、
3隻が超空間に進入しきると同時にその姿を消したのだった。
……それとほぼ同時刻。
大マゼラン銀河内のサレザー恒星系近傍の宇宙空間にて。
1隻の宇宙タンカーが星系外縁へ向けて進んでいく。
炉王星のガミラス派遣艦隊の中にも姿があった、3つのタンクを縦列に配した、
ガミラスでは一般的なタイプの民間船籍のタンカーだ。
この船は、ガミラス星の化学工場で精製された液状化学薬品を満載し、
サレザー星系近傍の工業惑星へ向けて航海している途中である……表向きは。
実際の船倉内には、研究所にでも置かれるような怪しげな機械が空間を埋め尽くし、
ある区画には、巨大な冷凍倉庫が備え付けられており、
また別の区画には、人間が丸々一人入る程度の大きさの水槽らしきものが並んでいる。
どう見ても、化学薬品を運ぶタンカーではなかった。
そんな謎の宇宙艦の、小さな船倉の一室には椅子に拘束されたある男の姿があった。
やつれたように痩せた中背の中年男性。生え際が後退した薄紫色の髪に、鼻の下の薄い髭。
彼は、先日バレラス近郊の監獄島から脱獄したとされる、元ガミラス国防軍少将の
グレムト・ゲールであった。彼は椅子の上で睡眠状態にあったが、姿勢のせいか否か、
うなされているような状態だった。そんなゲールのうめき声を咎めるものは、
暗く窓もない船倉にはいない。ゲールは完全に孤独な状態に置かれていた……が。
「……そろそろお起きになってはいかがですかな、ゲール
突如としてドアが開き、暗い船倉に船の廊下の光が差してくる。
同時に、廊下の照明の明かりは拘束された脱獄囚への訪問者のシルエットを映し出した。
「うぅ……」
差してきた明かりに、長時間の睡眠を強要されたらしいゲールは不快そうに瞼を開いた。
そして、胡乱げに訪問者を見る。
「……!」
するとゲールはしたたかに頬をひっぱたかれたかのように眠気を霧散させた。
いままで自身に起きたことを一気に思い出したのである。
あの監獄島の地下独房にて、いつものように恨み節を口にしていたところに
突然刑務所内に警報が鳴り響き困惑していたのも束の間、巨大な地響きが聞こえてきて
直後に独房のドアが爆発、何者かが独房内に入ってきて自身に麻酔ガスのようなものを
吹きかけてきたのだ。
それ以来、どうにも自身はこの椅子に拘束され、眠っていたようだが……
脳裏で記憶が再生されても、それがいったい何だったのかはゲール自身にはわからない。
だが、現れた訪問者はこのことについて答えを持っているに違いなかった。
「……ごきげんよう、グレムト・ゲール閣下。手荒な真似をして申し訳ない。
何しろ、送り込んだ機械兵士には手早く貴方を回収するよう申しつけた物でして。」
訪問者の男は、慇懃な口調で挨拶した。
ゲールは男に対し、かつての任地で見た獰猛な爬虫類を連想する。
民間の船員服に包んだ体は細身で、同じく細い顔立ちの、眼光が鋭い男だった。
「……何者だ。」
ゲールは絞り出すような声で言った。拉致のような形で監獄を出てから今まで、
椅子に備え付けられた栄養剤の点滴装置でしか養分補給をしていない。
固形物はもちろん、水も口にしておらず口内は乾燥しきっていた。
「これはいけませんな。きみ、水を持ってきて差し上げろ。」
「はっ!」
男はゲールの問いにはすぐに答えず、廊下に立っていた部下と思しきものに声をかけ、
水を持ってこさせる。どうにも、男はゲールと語らうつもりのようだ。
そして、水の入ったコップを載せた盆を持つ男の部下の姿を見てゲールは絶句した。
「……!」
畳みかけるように、遅れながらゲールの質問に答える形で男が自己紹介した。
「……小官はナッター・ネルゲ。デスラー親衛隊大佐であります。」
「……貴様ら、親衛隊か!」
ゲールは目をむいた。
水を持って入ってきた兵士の青灰色の制服と、親衛隊所属を表す腕章。
今しがた名乗った男の、「ネルゲ」という姓。
ゲールを監獄から拉致し、ここまで連れてきた者たちが、旧デスラー親衛隊だと
判断するのには十分すぎる内容であった。
ゲールはかつて、次元断層に落ちて行方不明になった(後に自身で撃沈した)、
巡洋戦艦「EX178」の監視役として乗り込んでいた親衛隊士官、パレン・ネルゲと
会ったことがある。
ガミラス語で「忠誠」を意味する「ネルゲ」を冠した親衛隊士官用クローンである
ネルゲ・シリーズの一員が、ゲールの目前の男の正体であった。
しかし、ゲールはある疑問を浮かべた。
親衛隊のクローンというのは、軍人として活用できる程度の思考能力などは
付与されているが、立場で紐づけされた直属の上官の命令なしには活動できない。
ナッター・ネルゲと名乗ったこの男は大佐という高階級だ。
そんな男を下における
ゲールは親衛隊兵士によってコップの水を飲ませられながら思った。
「……貴官の上官というのは誰か?
……誰の命令で私を脱獄させたのだ?」
ゲールはコップの水を飲み干すと、細身の親衛隊士官に訊いた。
「小官の上官は、ゴロラー・ケス親衛隊中将であります。」
「……ケス?……聞いたことがない名だな……。」
ゲールはかつて、国家元帥ヘルム・ゼーリックの腰巾着として働いていた頃、
ガミラスの中央に戻ったあとの栄達の為に各組織の人間関係について調べていた。
自分が銀河方面軍に飛ばされて長かったとはいえ、情報は仕入れていた。
現在の状況下で混乱している親衛隊残党組織の中でクーデターを起こして
成りあがった人物だというにしても、ゲールのかつての調査網に引っかかっているはずだ。
にも拘わらず、ケスという親衛隊高官の名前は聞いたことがない……。
「ケス将軍は、主に諜報関係の職務に当たられていました。
そのため名が人前に出ることは少なく、閣下がご存じないのも無理からぬことでしょう。
しかし、亡きギムレー長官が信頼された人物で、優れたお方です。」
ゲールの疑念を察知したのか、ネルゲは説明した。
それに対し、ゲールは少々の疑いを残しつつも納得したようだった。
「……それで、私を攫ったのは何が目的だ?」
そしてもう一度、自分の一番の疑念をぶつけるゲール。
なぜ、親衛隊の残党勢力が一介の抗命軍人の自分を脱獄させたのか……?
ナッター・ネルゲは目を細めて語った。
「それは、閣下にご協力を仰ぐためです。」
「協力だと?」
ゲールは目を丸くした。今の自分に、何を協力しろというのだろうか。
親衛隊残党が指揮官不足で、自分をスカウトしようとでもいうのか。
思考するゲールに対して、ネルゲは更に告げた。まるで、吐き捨てるように。
「……我がガミラスから、偉大な指導者を奪った「ヤマト」が、
不敵にも再びこのマゼランへと訪れんとしています。」
「………!」
ゲールは、ピクリと反応して硬直した。
「ヤマト」。
自分の凋落のあらゆる原因であり、しかも目前でとり逃した上に
アベルト・デスラー総統を破ったとされる因縁の船。
獄中ではレドフ・ヒスら現ガミラス首脳陣と同じく必ず葬るべき対象と目した宿敵。
それが再び、恐れしらずにもガミラスの領域へ侵攻せんというのか……と、
ゲールの心中に忸怩たる思いが湧いた。
「……我々親衛隊は、憎き「ヤマト」を討滅すべく策を立てております。
そのための情報を持つのが、閣下なのです。
我々は閣下をガミラスを真に愛する、デスラー総統の忠実なしもべであると
目し、作戦への参加を要請したく、お迎えしました。」
ナッター・ネルゲは嫌味なのか、はたまた性分なのか、仰々しく慇懃な口調で
ゲールに対し親衛隊残党の
ネルゲの背後では親衛隊兵士がホルスターに手をかけ、今にもピストルを
取り出そうとしている。万一ゲールが断った場合は、銃で脅して
聞き出して撃ち殺そうというのだろう。だが、万一は万一のままで終わった。
「……よかろう、貴様らの計画に協力する。
私とて、総統閣下の忠臣が一人だ。いずれご帰還なされる総統閣下の御為に、
総統閣下に仇なす「ヤマト」めを生かしておくわけにはいかん!!」
ゲールは瞳に復讐の炎を滾らせ、力強く言い放つ。
彼自身は、あまり親衛隊に好感は抱いていない。高圧的な態度は気に食わないし、
恐るべき所業には戦慄する。だが、ヒスたちが簒奪した政権が喧伝している、
「親衛隊により立てられた偽物の総統論」には到底賛同しえない。
自身が見送ったあのデスラーが、偽物だなどとは思いもしなかった。
だからこそ、ゲールは親衛隊に協力しどこかで存命しているであろう
ネルゲは、薄く笑いながらゲールの拘束を解く。
彼は、このまま親衛隊残党が集結する拠点までゲールを連れていき、
そこで彼に作戦内容と必要とする情報を話すという。
……斯くして、ガミラスの地下に燻っていた残り火は、
ガミラスと地球の和平をも焼き尽くしかねない大火の火種となったのである。
ゲールらを乗せた、民間タンカーに偽装した親衛隊の移動クローン製造工場船は
大マゼラン銀河の星々の煌めきの中に紛れるように消えていった……
漆黒の宇宙に赤白い閃光が現れ、閃光を中心に青い螺旋の光が伸びる。
渦の中からは、一つの巨大な影が回転しながら飛び出してきた。
宇宙戦艦ヤマトと、両舷に接続した2隻のデストリア級である。
「……「ヤマト」、ワープアウト!!」
「船体・艤装に損傷認められず!」
「機関、異常なし!」
「「リヴルムⅤ」・「スクードⅢ」、艦に異常なしとのこと!」
ヤマト艦橋では、クルーが安堵の息を漏らした。
ヤマトとガミラス重巡による初のトランスワープは成功裏に終わったのである。
ここからガミラス艦とヤマトは、交互にワープと機関の休息・整備を行い、
第一のチェックポイントである天の川銀河からバラン星へ連絡する亜空間ゲートまで
類を見ない超ハイペースで進撃することになっている。
頼もしいガミラスの助けを得たヤマトだったが、
その果てに何が待つのか、予想しえぬまま地球最強の戦艦は銀河航路を征くのであった……
寒さも厳しくなるので、投稿ペースが落ちるかもしれません(もう落ちてる)
あしからず。