宇宙戦艦ヤマト2202 If 猛虎咆哮す   作:モアンゴル

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寒いですねェ~~ッ

ボラー連邦は2205後編で出番もらえるんですかね?


第三十七話 雛鳥の(そら)

 

【第37話】

 

 

 

 

広大な、黒みを帯びた青空に、疾駆する鏃のような影がひとつ。

超音速で飛行するそれは、地球連邦防衛軍隷下地上軍が誇る最良の迎撃戦闘機(インターセプター)

コスモファルコンこと99式空間戦闘攻撃機(SF/A-99)である。

機体は熱圏付近を飛行しており、雲海も、数千メートル級の山脈も遥か眼下だ。

 

そのコックピットでは、軽装宇宙服でもあるパイロットスーツに身を包んだ男性搭乗員が

計器をにらみつつ操縦桿を握っている。彼の、気密ヘルメットのバイザーから覗く顔の肌には、

うっすらと汗が滲んでいた。戦慄と焦燥の冷や汗である。

 

コックピットの中は不気味なほど静かで、薄い空気の層をかっきる音、

宇宙空間での飛行も可能なエンジンの推進音、計器の動作音、そして自身の呼吸音のみが響く。

静寂が永遠に続くのかと思われるほど長く続いた状態は、突如として破られる。

 

「“エディソン!気を付けろ、上から来る!!”」

 

「!!」

 

ヘルメットに内蔵された通信機に僚機からの悲鳴じみた声が入る。

エディソンと呼ばれたSF/A-99搭乗員(ファルコンドライバー)は、声が耳に届くと同時に

操縦桿を倒し、機体を翻した。直後に、別の声が通信機に入ってくる。

 

「“クリムゾン4、撃墜(キル)だ”」

 

先ほど通信をよこした僚機の若い声とは打って変わった落ち着いた壮年男の声で、

エディソンの別の仲間が撃墜された旨が告げられる。

()()が襲い掛かったのは、エディソンの駆るコスモファルコン『クリムゾン1』の

後方に位置していた僚機だった。

 

「クソッ!グレッグが墜とされたぞ!クリムゾン2、無事か!?」

 

自機のレーダー画面に映る敵機___

訓練教官が操縦する機体の光点(フリップ)の姿を忌々しげに見、ペアを組む僚機の安否を確認する。

 

「“何とかな、二機がかりで行くぞ!”」

 

「了解!」

 

幸い、エディソンの僚機は生きていたらしい。

2機のコスモファルコンは高空からの一撃でクリムゾン4を葬った教官機に挑む。

 

 

 

 

 

 

 

エディソンらクリムゾン飛行隊(チーム)が再会したのは地獄……

……ではなく、航空基地の駐機場においてだった。

結局、教官に挑んだ二人は相手に翻弄されて連携を断たれ、各個撃破の形で

返り討ちにあったのである。これにより、錬成飛行隊クリムゾン飛行隊(チーム)全8機は

たった一機の教官機に全滅させられたことになった。

若き訓練生らは、相手との隔絶した実力差を思い知り愚痴る。

 

「……流石は北米管区きってのトップガンだな、俺達じゃ相手にもならねぇ」

 

「遊星爆弾で基地がやられた際に、遊星爆弾症候群にかかって退役していたそうだが……」

 

「病み上がりのブランクありであの腕かよ、おっそろしいぜ」

 

「ここまでやられちゃあ、俺達と同じファルコンに乗ってるのかも怪しいな。

 特別にチューンされてんじゃあねぇのか」

 

 

航空機搭乗員たちの養成が行われているここは、北米管区の旧アメリカ合衆国領域で

かつてコロラド州と呼ばれていた地域にある、地球防衛軍デンバー地上軍基地だ。

北米管区でも最大級の基地で、地下都市デンバーとその地上復員拠点都市の近郊にある。

巨大な滑走路が切り開かれた原野に幾本も走り、付随する格納庫や駐機場には

多数のコスモファルコンやそれ以前の戦闘機、100式偵察機と極東管区で呼ばれる機体に

コスモシーガルなどの機体が練習機として置かれている。

これらには、北米管区が遊星爆弾の直撃による自管区基地壊滅に伴う喪失を免れたか、

軽微な損傷で済んだ機体を整備・修理して再使用可能にしたものに、他の管区の部隊から

移されたものを加えていた。既に極東管区から各管区には99式戦闘攻撃機の設計データが

送られており、各地でコスモファルコンの運用が進んでいる。

こうしたことから、現在のデンバー航空基地には他管区からも航空機搭乗員候補生らが集結し、

一大教練場と化しているのだった。

 

クリムゾン飛行隊(チーム)が愚痴をこぼしているのはデンバー航空基地の滑走路群の

一つ、第21滑走路(ランウェイ)とそれに付随する駐機エリアである。

そこに、彼らが話題とする人物が足を運んできた。

 

 

「おいおい、ダニエル訓練生。俺が乗っているのはまったく同じファルコンだ。」

 

「げ、教官。聞いてらしたんですか」

 

模擬空戦で自分達を容易く葬り去った国連軍からのエースパイロットの登場に

候補生らはビクリと反応し、愚痴を聞かれていたことに冷や汗を流した。

教官は候補生らの萎縮を慮ったのか、軽く流した。

 

「……まぁ、強いてお前たちとの機体の違いを語るなら、

 機首に描いた『青いガラガラヘビ』ぐらいだろうな。」

 

候補生らが駐機した場所と滑走路を挟んだ向こう側に駐機されたその教官機には、

幸運を呼び込むという青い蛇が牙を剥いている様がペインティングされている。

それを見遣っていたクリムゾン錬成飛行隊の専属教官である、

ドナルド・C(チャック)・カーティス3世少佐は候補生らに振り返り、明朗な笑みを見せた。

 

「さぁ、お前たち。空戦を省みるぞ!

 経験豊富なエースであるこの私に負けるのは当然として、

 個々の課題は今回の模擬空戦でしっかり見えたはずだ!」

 

「「「ハッ!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2201年、暦では夏から秋へと移ろう頃合いの9月10日。

宇宙戦艦ヤマトがもたらした異星のオーバーテクノロジー、CRS(コスモリバースシステム)

効力によって、地球が在来生命の生存に適した環境へ戻ったことは周知の事実であるが、

同装置は遊星爆弾による汚染のみならず人類による環境破壊の痕跡も帳消しにしていた。

そのため2201年 9月の地球表面は、これまで人類が経験してきたものと異なる気候を展開する。

 

……ただ、その違いがわかる人類はあまり多くはなかった。

人口が1/3になったことは元より、長い地下都市での生活で感覚が麻痺し微小な変化に

気づかなくなった、あるいは忘れてしまった人間が多数だったからだ……。

 

 

そんな地下都市に居を構えるのは、地球連邦の統合政府とその直轄組織の

地球連邦防衛軍である。並立する二つの巨大な本部建造物は、周辺の建設物が地上の

復員拠点都市建設のために移設、または資材として解体される中でも

いまだにその威容を保っていた。地球連邦防衛軍の総司令部庁舎内に存在する

会議室では、地球の防衛を担う部局の要人が集い、意見の擦り合わせを行っている。

 

コの字に置かれたテーブルに国防局の次官、防衛軍統括司令・副司令、参謀総長、

宇宙艦隊司令長官、地上軍司令長官などが座っている。

彼らは、コの字の開口部の方向の壁一面を使用した大型モニタービジョンに眼を向け、

あるいはデータパッドに送付された会議用資料に視線を落としている。

 

だが、両者の内容は同一だった。

『防衛軍新規人員確保』。

これが今回の会議の議題であり、同時に防衛軍の目下最大の課題である。

 

報告と説明を行っていた、東南アジア管区出身の地球連邦防衛軍・地上部隊司令官

プラヤー・パノムヨン大将はお世辞にも明るいとは言い難い表情で受け持つ説明箇所の

締め括りに入った。

 

「……まとめますと、現在のところ北米管区デンバー航空基地に地上軍防空隊及び宇宙海軍の

 各種航空隊が集結し、合同での人員育成に取り組んでおります。

 しかしながら、やはり航空機と搭乗員候補生の絶対数が不足しております。

 特に戦闘機部隊は、艦載航空隊と地上防空隊の並行して人員配置をするのは

 極めて難しいと考えます。」

 

パノムヨン大将は、地上軍の指揮官の職務の一部として防衛軍航空部隊の再建を牽引する

プロジェクトチームの指導者である。人員育成のため、各管区からの航空部隊の移動を

大過なく成功させたのは、彼の篤実な人柄と確かな手腕によるものだろう。

 

「……艦上機については、現在科学局と軍の開発本部が進めている無人航空機である程度の

 補いがつくにせよ、有人機はやはり今後も必須だ。育成具合について、確認したいのだが…」

 

神妙な顔つきをして質問したのは、国連北米管区軍出身の参謀総長デューイ・ジェファソン大将。

これに、パノムヨンと共に航空部隊の再建計画運営を担っている人的資源担当の国防局官僚が

応じた。

 

「……現地の部隊からの報告を参照しますと、候補生たちは長らく訓練用シミュレータのみでの

 経験をしていた者が大半のため、実際の操縦・模擬戦闘訓練での感覚を掴めていない者も

 多いものの、かなり早く経験を積んで実力をつけている、とのことです。

 また、予備役の人間や戦傷・病疫からの回復を果たした者も戦闘に適するレベルまで

 戻りつつあるとの事。訓練部隊の現地司令部では、来年初頭までに数千人が

 任務に服せる状態となる見通しであると報告されています。」

 

列席した軍人・官僚らの一部から勘案するような唸りが聞こえてくる。

航空部隊については、2202年半ばまでには一応の水準に持ち込めるかもしれない。

ここで、軍人出席者のうち最も高位のブルーノ・プリエーゼ統括司令官は挙手し質問する。

 

「……航空機搭乗員、その中でも戦闘機パイロットについてだが、

 現在のところCT計画で開発中である新世代戦闘機が生産されるのであれば、

 パイロットたちは新鋭機への機種転換訓練を重ねて行わなければならない。

 そうなると、一概に航空部隊の人員が回復したとは言えなくなるのではないだろうか?」

 

プリエーゼ統括司令官は、現在CT計画で開発が進んでいるとされている新鋭戦闘機、

計画名の頭文字からコスモタイガーと呼称される高性能汎用機の投入に際して、

訓練を行った人員が再調整のため戦列を離れる可能性を指摘し、危惧した。

これに反応したのは、国防局の研究開発と調達を担当する官僚だった。

 

「ご指摘の通りですが、コスモタイガーはコスモファルコンなどから改良しながらも

 さほど乖離していないインターフェースを実装しており、ある程度の操縦感覚が

 引き継がれるよう設計されています。これにより短期間で、コスモファルコンなどからの

 機種転換が行うことができるようになっています。」

 

「……新人が多くを占める分、コスモファルコンに乗りなれたベテラン搭乗員よりも

 早期にコスモタイガーに馴染むことができるかもしれませんね。」

 

会議室のメインモニターには、コスモタイガー()()()銘打たれた

新型宇宙戦闘機の設計図が表示され、参席者の視線を集めている。

その中での官僚によるCT計画機の機種転換における優位性の説明を引き継ぐように、

パノムヨン大将は自身の所感を述べるのだった。

 

 

航空部隊については、ある程度のパイロットの数を確保できる見通しと、

時間断層の工場で多数生産されるであろう新鋭機と加えて実用化の試験が進む無人航空機の

存在から、人員補充・再建については順調に進行中とされ一端話題から置いておくことになる。

 

続いて、宇宙艦隊での勤務者における人員問題を議論することになる。

嚆矢として発言を行ったのは、宇宙艦隊の運用を引き受ける役職である宇宙艦隊司令長官。

日系南米管区出身者の猛将、パウロ・D・タナカ提督だった。

 

 

「……ご存じのとおり、艦艇は航空機よりも多くの人員を要し、その再建は容易ではありません。

 去るガミラス戦役により宇宙艦隊は壊滅状態に追い込まれ多数の戦死者を出しました。

 地球の人口減から申しまして、往時と同様の人員配置を行っていては艦隊の再建は

 まず不可能です。そのため、可能な限り省人化と無人化を進めることが肝要であります。」

 

こうして、地球連邦防衛軍が現在進めている戦力再整備計画を人員面から見ていくことになる。

 

「……改設計・新設計型の艦船群は、AUユニットやガミロイドを参考にしたアンドロイドを

 多数統括運用することに加え、艦そのものも自動化を進めることで従来の1/3程度まで

 運用に必要とする人員を抑えています。」

 

そう発言するのは、極東管区からの出身で統括副司令の座につく芹沢虎鉄大将だ。

彼こそ、地球の軍備を現在の形に整えてきた首謀者と言って差し支えない。

 

「……加えて、人工知能が制御する無人戦闘艦の開発・設計も進行しつつあります。

 これらの計画により、往時の地球艦隊を上回る戦力を少ない人員で保有・運用することは

 不可能ではないと言えるでしょう。

 これは同時に、少なからぬ人員を必ず無人艦や自動化が進む艦艇に配備せねばならない

 という事実の裏返しでもあります。

 皆さんも理解されている通り、最終的に戦闘というものは人間の判断の下でなされねば

 なりません。巨大な戦力を運用するというならば尚更です。」

 

芹沢は宇宙艦隊の自動化を進める旨を語りつつも、その制御には必ず生身の人間を

介在させる必要性を説く。手綱というものはしっかりと掴んでおかねばならない。

いずれ地球に来る脅威・ガトランティスは人間の手綱を離れた武力であることが、

芹沢の胸中において自身の発言を裏付ける証拠となっていた。

 

では、その(比較的)少ない人員というのはどうやって補充しようというのか。

早速質問が投げ掛けられたが、これに防衛軍参謀本部首席参謀を務める、

ムアンマル・ユーニス・ジャーベル准将が応じた。

 

「現在、修理が完了した一部の宇宙艦艇による火星や木星、その衛星で採掘された鉱物資源の

 輸送作戦が行われていますが、それらの艦には士官候補生や新兵が乗艦し練習艦としての

 任務も持たせております。こうした活動を改設計艦艇の完成まで継続させ、

 完成次第将兵を新造艦に移し慣熟訓練を行わせて戦力化する段取りとなっています。」

 

「……改設計艦艇や、その先の新設計艦についての整備時期についてはどうなっているのか?」

 

長らく話を聞くに徹していた国防次官もついに口を開き、重要な事柄を訊いてきた。

軍艦は、ハードウェアたる艦とソフトウェアたる人員あるいは制御AIが揃って初めて完成する。

国防次官の問いかけには研究開発・調達担当の官僚が答えた。

 

「はっ、時間断層工廠や地表部の工場群が本格稼働できるようになるのは、

 本年10月下旬のガミラスからの賠償輸送船団到着とそれに伴う時間断層工場の整備や

 地表部工場での機器設置・工員などの慣熟が完了するとされる12月以後からですから、

 そこから建造を行う時間も加えて、時間断層で建艦する場合でもおよそ数十日はかかるので

 改設計艦艇は最低でも来年の2月以降に完成、新設計艦艇は各種試験を考えて

 来年の10月頃に完成できる見込み……というのが軍や各局の合同会議での結論です。」

 

この発言を受けて、タナカ宇宙艦隊司令長官は唸るように語った。

 

「……宇宙艦隊司令部としては、完成した改設計艦艇に新乗組員を乗せて、半年ほどは

 慣熟訓練を行いたい。だが、新設計の艦船も早期の戦列配備を希望したいところです。」

 

宇宙艦隊司令部の希望にできるだけ添えるよう、軍人や官僚が各種の案を出していき、

あるいは反論し、議論が活発に展開された。

 

「改設計艦艇が習熟完了できるのは早くて来年8月か……」

 

「しかし、試算によると改設計艦艇と並行して新設計艦艇の建造を行えば完成は早まる。

 10月と言わず、2202年の夏には時間断層から出渠できるはずだ」

 

「では、改設計艦艇における訓練を波動機関搭載艦への習熟に絞り、ある程度の技量を

 確保できた場合残りの訓練を新設計艦艇で行わせるというのはどうだろう。」

 

「しかし、それでは人員の移動が激しくどの艦も練度が不足することにはなりませんか?」

 

「AUユニットやアンドロイドの存在は前提にするとして、どの程度訓練への負担を減らせるか

 その幅は見極めるべきだ。機械化の貢献度合いで計算結果は大きく変動するだろう。」

 

 

果てしない議論を見かねて、国防次官やプリエーゼ統括司令は議論の一時中断を図った。

会議室を静かにさせると、プリエーゼ大将は纏めるように語り始める。

 

「……先のことは、今のところ置いておくとしても、宇宙艦隊でも一応の運用人員の確保は

 ある程度の見通しが立っていると判断して良さそうだ。

 

 タナカ宇宙艦隊司令長官、練習航海も兼ねた資源輸送艦隊の継続実施をお願いする。

 軍全体でこれを支援する方針だ。稼動可能な艦艇が増え次第、

 増発便や既存便への追加艦に加えていただく。」

 

「了解しました。」

 

隻眼のベテラン提督は、感謝の意を言外に含みながら了承する。

そして、付け加えて訊いた。

 

「訓練方針は、どのようなものに?」

 

この問いに、プリエーゼはしばらく考え込んだ。

会議もたけなわ、宇宙艦隊の人員問題の締め括りとなる質問である。

この議題が終われば、一挙に会議は閉会へ向かっていくことだろう。

イタリア系の防衛軍制服組トップは、2分ほど要して回答した。

 

「戦える人間にまでは育てなくてよい。だが、船を操れる人間には仕立て上げてくれ。」

 

 





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