宇宙戦艦ヤマト2202 If 猛虎咆哮す   作:モアンゴル

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皆さん、メリー・クリスマス!


第三十八話 ガミラス沖の「ヤマト」

 

【第38話】

 

 

 

 西暦2201年 9月20日。

 

宇宙戦艦ヤマトは、もう何度目かも分からぬほど繰り返したトランスワープを終え、

ガミラス式のワープアウトの特徴である回転と共に超空間から解放された。

ヤマトと、同艦の側面に船底を当て、重力アンカーで掴まっている2隻のガミラス軽巡洋艦

ケルカピア級の遥か後方には、タランチュラ星雲と呼ばれる色鮮やかな天体群が見える。

ここは既にガミラスの庭先というべき領域、大マゼラン銀河臨海宙域であった。

 

太陽系、即ち地球からの距離で数えるとおよそ15万5000光年の場所に位置する。

ガミラス星の存在するサレザー恒星系からは1万3000光年、既にヤマトは

旅程の9割近くを消費したことになる。史上類を見ない速度での激走中、

ヤマト及びワープブースター役を務めたガミラス艦を襲撃するガミラス反乱軍艦や

マゼラン銀河への侵攻軍を再編中とおぼしきガトランティス艦艇による襲撃はなく、

ここまでの航海では損害をゼロに留めていた……

 

短期間に連続ワープを行ったことで機関に負担が掛かっていたガミラス軽巡は、

ヤマトとの重力アンカーによる固定を解除し、左右へ離れていく。

その様は、ヤマト第一艦橋からも望むことができた。

 

「軽巡「ケレーヌⅦ」より入電、「貴艦の航海の安全を祈る」とのこと。」

 

「「謝す」と伝えておけ。」

 

ほとんど定型化したヤマトとガミラス艦の分離時のやりとりが艦橋内で行われる。

ヤマトから返信を受け取ったガミラス艦隊は、機関の整備と乗員の休養のため、

近隣星系にある自軍の補給基地へと向かっていく。その姿が宇宙の闇に溶け込んで

完全に見えなくなる頃、艦長席の山南少将は、艦内放送のマイクをとり告げるのだった。

 

「"これより本艦は、ガミラスの護衛艦隊と合流し共和政ガミラス首都、

 サレザー恒星系第4惑星、ガミラス星へ向かう。

 それに際する最終確認会議を0900時に行うため、各科責任者は会議室へ集合せよ。"」

 

放送での通達を終えると、彼はふぅ、と息をついた。

それは「ヤマト」を無事にここまで進ませたことへの安堵であると同時に、

この後自らが、ヤマトに乗艦している使節団のもとに赴き会議の場へ連れていかねば

ならないことへの嘆息の溜め息だった。

 

 

 

 

 

地球(極東管区)時間換算で、9月20日0900時。

定刻通り、呼集されたヤマト艦内各科の責任者と山南が案内してきた使節団の

ロドニー・ムベキ団長、クロード・ヴェルニー副団長が大会議場に集まっていた。

 

「……では、共和政ガミラス・サレザー大管区への進入前の最終確認・調整会議を開始します。」

 

進行役の真田副長が、会議の開会を告げる。

最初に現時点までの「ヤマト」の状況が各部門の責任者によって報告されていく。

艦の艤装や武装・機関の稼働状況や、各科乗組員の体調・精神状態が明らかになる。

その結果、ヤマトはハード面でもソフト面でも万全の状態にあることが分かった。

一昨年の航海で往路にかかった時間の半分、それも戦闘を伴わないものだったため、

ヤマトは地球から遠くマゼランへと到達したにも関わらず出発時と大差ないままだった。

 

「……次に使節団副団長から、共和政ガミラス内部の状況及び、

 今後の航海における留意点の説明をお願いします。」

 

「はい。」

 

地球連邦外務局のヴェルニー次官はガミラス政府との連絡役で、相原通信長の補助のもと

ガミラス側窓口との情報提供を受けていた。彼は、咳払いのあとに説明を始める。

 

「現時点において、共和政ガミラス領域内各惑星での分離運動、民族主義反乱は

 沈静化の傾向に向かっています。また、故デスラー総統崇拝派閥や旧ガミラス貴族層の

 基盤領域となっている各惑星においても、交渉中の一部を除くほぼ全てが共和政府への

 帰属を宣言しており、全体的に見てマゼラン銀河における情勢は安定しつつあります。」

 

ヴェルニーは、タブレット端末を操作しガミラス側から提供された写真画像を会議場の

モニターに写し出した。それらは、植民星の民族主義団体代表がガミラス人総督と

大衆が集まる広場に設けられた壇上で握手しているものなど融和式典の写したものや、

民主制の名のもとにこれまで虐げられてきた「二等ガミラス人」が青い肌をした

ガミラス人の間に混じって新体制を構築しつつある様を捉えたものであった。

 

これらの写真がヤマト艦内会議で初出したのは、今を去ること2週間前の会議だ。

この会議でヤマトのクルーからは、ガミラス政府による検閲と隠蔽を疑う声があがったが、

ヴェルニーは"一部の過激派を除く大多数は融和に向かっている"とし、

乗員側の主張に一定の理解をしつつも反論。この期に及んでガミラス政府が

情報を隠す意味がないと主張し写真がマゼラン銀河情勢を正確に表すものだとした。

 

「……こういった状況の中でなお、ヤマトがマゼラン銀河での治安回復に協力すること、

 地球の使節団がガミラス星に派遣されることが帯びる意義は非常に重要です。」

 

ヴェルニーは()()という言葉に力をこめて言った。

 

「この派遣行は、快方へ向かいつつあるマゼラン銀河情勢を決定的にするだけでなく、

 地球とガミラスの友好をガトランティスなど敵対勢力に喧伝する絶好の機会です。

 使節団が地球と民主化したガミラスの友好を広く知らしめ、その物理的な証として

 宇宙戦艦ヤマトがガミラスの各地を親善巡航することにより、ガミラスの国民は

 人種・階級の差別なく民主共和政府を支持し、中央への帰順に動くでしょう。」

 

雄弁を振るうヴェルニーに、ヤマト船務長の森大尉が挙手して、質問した。

 

「……つまり、ヤマトは地球政府がガミラス共和政府を支持することを伝える、

 広告塔の役目を担えということでしょうか?」

 

「その通り。」

 

ヴェルニーは我が意を得たり、と言わんばかりの微笑を浮かべ再度舌を回し始めた。

 

「……ガミラス共和政府によると、いまだ恭順を拒否している民族主義武装組織の多くは

 この「ヤマト」を解放とガミラス打倒の象徴と位置付けてプロパガンダを行っているようです。

 それに対して「ヤマト」が、ひいてはヤマトを擁する地球連邦政府がガミラス共和政府への

 支持・友好関係を宣伝することによって、反抗する民族主義組織の正当性を無くします。」

 

「……分離運動参加者の心を折る、ってことですか。」

 

太田気象長が明け透けに言うと、外務次官も気にした素振りを見せず頷いた。

 

「言ってしまえばそういうことです。」

 

「……でもそれじゃ、「ヤマト」が幻滅されませんか?」

 

ヴェルニーの言を受けて、南部砲雷長が「ヤマト」による影響力が低下するのではないかと

危惧を口にするが、ヴェルニーは黙って頷き、語った。

 

「……これを差し引いても、ヤマトが()()()()()()独裁強権体制を打倒した事実は

 残るので、大した影響はないというのが外務局による分析結果です。」

 

さすがに専門家により専門機関が出した結果を述べられると、

それ以上追及の声は出なかった。

その一方、新たな問いが戦術長の古代進により挙げられた。

 

「親衛隊の残党については、情報がありますか?」

 

そう、マゼラン銀河においてヤマトを襲撃してくる可能性が一番高い勢力の一つ、

旧デスラー親衛隊の残党。地球=ガミラス間の密約によってデスラー政権時代の負の面

すべてを押し付けられ、ほぼ全てのガミラス国民から敵視されている組織だ。

これまでの会議では、親衛隊艦隊はヤマトが(第二バレラス破壊の余波で)壊滅させた、

ギムレー親衛隊長官直属の総統近衛艦隊だけでなく各管区に懲罰や治安維持を目的とした

駐留艦隊が置かれていることと、それらのうちデスラー体制崩壊後にヒス政権の下で

ディッツ元帥が掌握した正規軍が捕縛・制圧し損ねた多数の部隊が反政府勢力と

化して行方不明になっていることが確認されている。

それらについての続報は入っているのか。ヤマトがマゼラン銀河に来航するにあたり

襲撃を企んでいるのではないのか___戦術科としては情報収集は喫緊の課題だった。

 

「……現在のところ、ガミラス政府からは新たな情報はもたらされておりません。

 しかし、未確認情報ですが旧親衛隊艦隊は辺境宙域に集結しているようです。

 これらが集結した場合かなりの戦力になるということで、ガミラス側が派遣する

 ガミラス艦隊は直接護衛と間接護衛に各一個艦隊を配する旨は、既にお伝えした通りです。」

 

ヴェルニーは、難しい顔をして答える。

外交関係者ゆえある程度軍事における情報の重要性への理解はあるが、

ガミラス政府も把握が難しい状況なのだそうだ。その中で、彼は自身の見解を述べた。

 

「……しかし、大艦隊が行動を起こす場合、少なからぬ兆候が周囲に把握されるため

 中小の部隊単位での襲撃が予測されるということです。

 サレザー大管区進入後に注意するべき箇所はそこではないでしょうか。」

 

 

 

使節団副団長であるヴェルニー外務次官からの一連の話が終わると、

団長を務める元国連事務総長、ロドニー・ムベキが山南艦長に今後のスケジュールを確認した。

 

「……ヤマナミ少将、ヤマトの航海日程に変更はありませんか?」

 

「はい。予定している通り、地球時間9月30日に「ヤマト」はガミラスに到着します。」

 

山南は淀みなく明朗に答えた。

必ず無事に、ヤマトをガミラスへ辿り着かせるという、彼の確固たる自信が垣間見える。

 

「その前に、ガミラス艦隊と合流する必要があります。」

 

ヤマト情報長の任にある新見薫が留意を促すように具申した。

艦長も同意の頷きを見せ、相原通信長に護衛艦隊がどこまで進出しているかを訊くと

ガミラス艦隊のうち「ヤマト」の直掩を担う部隊が先行しており、

既に会合地点へ到着しているという。護衛艦隊主力もそれに続いているそうだ。

山南艦長の安堵の呟きに、応じるのは真田中佐。

 

「……では、合流も予定どおりになると見て良さそうだな。」

 

「はっ、「ヤマト」は明朝0600にガミラス護衛艦隊と会合、

 同航してガミラス星に向かいます。」

 

ここまで、宇宙戦艦ヤマトは順調に航海を進めてきた。

同艦はマゼラン銀河派遣行・往路最後の行程に入りますます慎重に、かつ船足を速め、

サレザー恒星系へと進んでいくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

その一方。

ヤマト艦内で最後の確認会議が行われているのとほぼ同時刻、9月20日午前。

極東管区地下都市、地球連邦防衛軍司令本部庁舎内。

同ビル内の司令室には、

マゼランへ向かうヤマトを管制する特別編成部隊が置かれていた。

太陽系内でのヤマトの航路誘導と航海中のヤマトからの報告受領を任務としている。

その部隊の最高指揮官は、防衛軍宇宙艦隊副司令長官・土方竜大将だった。

 

だが、このとき土方は指令室には姿を見せていない。

ヤマトからの定期報告は午前0時と午後0時。

報告時刻でないことも一因だが、それだけが要因ではなかった。

 

彼は今、司令室とは別の階層にある地球連邦防衛軍の参謀本部の一画にある部屋にいる。

そして、とある高官と小机を挟むソファに座り対峙していた。

 

「うむ、確かに()()()()にあたって必要な資料は受領した。

 ご苦労だったね、ヒジカタ大将。」

 

「いえ。……10月以降は、どうぞよろしくお願いいたします。」

 

極東管区出身者の防衛軍高官では、芹沢に次いで二番目に発言力がある土方竜が

向き合っていたのは、防衛軍参謀総長の位に就くデューイ・ジェファソン大将。

彼の手元には、これまで土方麾下のヤマト管制任務部隊がまとめてきた報告資料などがある。

 

じつは、ヤマトがガミラス星に到達するとされている9月30日より後は、

土方は管制部隊の指揮官から離れることになっていた。

理由として、宇宙艦隊再建計画のさらなる推進、特に人材面での強化を進める上で

上級指揮官が行うデスクワークの量が飛躍的に増加したため現在そうした事項を

統括処理しているパウロ・タナカ宇宙艦隊司令長官だけでは手が回らなくなったので

土方がその補助に回ることになったのである。

 

白みがかった灰色の頭髪と口髭の一見厳つい表情を好好爺のように崩している、

ジェファソン参謀総長は土方に代わり、マゼラン銀河におけるヤマトへの管制や連絡、

太陽系最果ての炉王星に駐屯するガミラス派遣艦隊との折衝の大任を引き継ぐことになっていた。

……だが、実のところ土方は彼に苦手意識を持っている。

 

彼がタカ派で、防衛軍発足後に参謀総長の座についた頃から芹沢現防衛軍統括副司令と

懇意にしていることだけが原因ではない。ジェファソン自身は、人当たりのよい人間で

子飼いの部下も多いのだが、融和な表情から内面の真意は読み取れない。

 

「……では、これで失礼します。」

 

「ああ、わざわざ来てくれてありがとう。

 「ヤマト」については任せておいてくれたまえ。」

 

宇宙艦隊副司令としての目的を果たして、ジェファソンの執務室を後にするその時、

参謀総長が向けてきた笑顔にも、なにか含みがあるのではないか……

歴戦の勇将・土方は、胸中のどこかにそんな引っ掛かりを覚え、司令室への帰路についた。

 

 

 

そして、時は流れ______

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

西暦2201年、9月30日。

 

 

太陽と同じ規模を持つ恒星サレザーから注ぐ光を受ける宇宙空間に、幾つかの輝きが生まれる。

それは、二つの国の艦艇の、ワープアウト時に起きる特有の現象だった。

ある輝きからは、大量の氷粒を散らしながら重厚な濃灰色と紅に上下を塗り分けた

巨大な宇宙戦艦が現れ、螺旋に似た輝きからは深緑色に染まり、目玉のような部位を

黄緑色に灯らせる海棲生物にも似た姿をとる艦艇群が次々に飛び出してくる。

 

巨大な宇宙戦艦を守るように、中小の宇宙艦艇が取り囲み、同じ方向へと向かっていく。

その先には、サレザーの放つ光と双子星___ガミラスとイスカンダルが見える。

 

かつて、双子星の青い片割れ・イスカンダルを目指し、もう一方の緑の星・ガミラスと

血で血を洗う激闘を繰り広げた船、宇宙戦艦「ヤマト」は、今度はガミラスからの

招きに応じ、再びサレザーの陽光(ひかり)のもとに足を踏み入れた。

それが母なる星・地球の、同胞たち・地球人類の、未来のためになると信じて……

 

この日の午後0時(地球・極東管区時間)、「ヤマト」から地球へ、

超空間通信で送られた定時報告は以下の通りだった。

 

 

 

『宇宙戦艦ヤマト、「ガミラス」へ到達セリ』

 

 

 





辛いこともありましたが、来年も頑張っていきましょう!
よいお年を!
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