宇宙戦艦ヤマト2202 If 猛虎咆哮す   作:モアンゴル

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遅くなりましたが、第四話です。


第四話 猛虎傾聴せり

 

 【第四話】

 

 西暦2199年 12月9日 午後二時前。

極東管区の地下都市の住民は、揃ってそれぞれの家の、あるいは公共施設にある大型の、

テレビモニターの前に集まっていた。

彼らは、数時間前に政府から重大な発表があるため、午後二時に始まるテレビ放送を

必ず見るように通達されていたのである。

 

 

……そして午後二時、“しばらくおまちください” の文字が表示されたテレビ画面が

切り替わり、映し出されたのは国連軍・極東管区の司令部ビルにある、会見室である。

地下都市の住人には見覚えのあるものだ。

このまま、国連軍に所属する広報官が登壇するものと思われたが、

予想を裏切り登壇したのは、極東管区の行政の最高責任者である、藤堂平九郎だった。

 

 

「画面の前の皆さん、私は極東管区行政局長を務めさせていただいております、

 藤堂平九郎です。事前の予告通り、極めて重大な発表をこの場を借りて

 行わせていただこうと思います。」

 

画面の向こうの市民たちは息を呑んだ。事前に予告をし、住民たちを集めたうえ、

行政のトップがみずから登壇したのである。ただ事ではない、そう察知したのだ。

市民は、辛い現状を鑑みて発表の内容を悲観した。

食糧・衣料・医薬品などの物資、エネルギーは枯渇寸前で、生活は困窮している上、

すでに毒性物質を放出する敵の植物兵器は地下都市の浅層部を侵し尽くしている。

それよりさらに深部に建設された、大深度地下都市にもそれが及び始めたのだろうか。

彼らの多くは、何か月も前に地球を飛び立った戦艦の帰投など絶望視していた。

そして、藤堂は再び口を開いた。

 

「今年の2月11日、地球を発進した国連宇宙海軍所属の宇宙戦艦ヤマトは、

 ヤマト計画に則って友好的な異星・イスカンダルへの航海を行い、

 同惑星において特殊な環境再生システムを受領、昨日、地球へ帰還いたしました。」

 

モニターの前で一斉にどよめく市民たち。とっくに沈んでいたとばかり思われていた、

地球の戦艦が任務を終えて帰ってきていたのである。彼らは、画面の藤堂を凝視し、

次の発言を息を呑んで待った。

 

「ヤマトの地球帰還と同時に、イスカンダルより受領された環境再生装置が発動、

 地球の環境は人類が生存可能な状態へと戻りました。」

 

さらに市民は騒然となる。中には嘘だ、でたらめを言うな、と喚く人々も現れた。

大半の市民も、とうとう政府もおかしくなったのかと半ば呆れ顔でモニターを見やる。

だが、藤堂は真剣そのものの表情で、証拠をお見せしますと市民たちへ語った。

映像が切り替えられる。

 

映像は最大級の驚きとともに市民たちに受け止められた。

青い、森林。そして、極東管区の地下都市住民には見覚えのある形をしている、山。

 

「こちら、富士宇宙軍港です。ただいま中継で映像をお送りしています。

 これは、CGではありません…!

 我々は現在、地下都市と同じように、ヘルメットを脱ぎ、地球の地表に立っています!!」

 

そして現れたのは、宇宙服に身を包みながらもヘルメットを外し、

カメラに向けて話す国連宇宙海軍の士官と思しき人物だった。

彼は、伝えるべき内容を感動に震えた声に乗せて発していく。

自分が立っているのは、夢でも作り物の映像でもない、本物の地球の大地であると。

地球の再生は、真実である、と。

 

彼はカメラを持った同僚を連れて、森林の深部へと入っていく。

植物の枝葉をカメラへ引き寄せ、見せる。

樹の幹についた虫を見つけると、カメラを寄せて、映す。

鳥の鳴き声を聴くと、急いでカメラを回し、追いかける。

懐かしく、信じがたい光景の細部を映し出し、その真実性を証明していくのだ。

その挙動一つ一つに、はちきれんばかりの歓喜をたたえた叫びを伴っていたが、

映像を見守る市民たちがそれを鬱陶しく思うことは皆無だった。

何しろ、市民たちも名も知れぬ士官と全く同じ心理にあり、狂喜して叫んでいたのだから。

 

まぎれもない、地球の自然。永久に失われたはずの、遊星爆弾に汚染される前の自然。

目にする機会は記録映画・写真だけで、実物を見ることは二度と叶わぬと思われた、

青く美しき世界。

画面越しとはいえ、再会できたありし日の光景に、誰が心動かされぬものか!

市民たちは感動にむせび泣き、万歳三唱、胴上げ、ありとあらゆる形で喜びを表現した。

異星の機械がなぜ地球の自然を修復するのか、どうやって修復したのかは、

彼らにとっては至極どうでもいいことだった。重要なのは再び地表に戻れるかもしれない、

その希望があるということ、滅亡を免れたということだけなのだ……。

 

そして十分ほど後、映像は会見室の藤堂のものに戻される。

同時に、熱狂のさなかにあった民衆も次第に落ち着きを取り戻していった。

 

「……皆さん、これで地球環境の再生について信用いただけたと思います。

 遊星爆弾により破壊された()()は修復され、毒性物質を散布する、

 異星の植物は大部分が駆除されました。

 ……しかし、この環境再生が行われたのはつい昨日のことであり、

 極東管区の全地表における環境状態が確認されたわけではありません。

 現在我々が把握できているのは、地下都市から地上への出口の周辺地域のみなのです。

 ……それ以外の地域では、いまだ異星由来の植物、またはその毒性物質が

 残留している可能性があり、大変危険であると考えられます。

 また、地上の人工物は異星の装置による復旧対象とはならず、

 現在のところ、地上には皆さんが生活するのに不可欠なインフラが皆無といえます。

 …したがって、現状皆さんを地上へ即座に戻すことは不可能であります。」

 

瞬間、テレビモニターの前の民衆はふたたびざわめきだした。

無理もない。あのような光景を見せられてなお、この困窮し逼迫した地下都市から

出ることが許されないというのだ。たちまち不満の声があがる。しかし、藤堂の話は続く。

 

「……皆さん。この決定についてご不満があるのは理解できます。

 かくいう私も、青い姿を取り戻した地表の景色をこの目に焼き付けたい。

 燦然と輝く太陽の下に再び体を置きたい。……ですが、私はそれを行わない。

 行うことはできないのです、()()

 私は、この極東管区における行政局長です。しかしそれ以前に、地球人類であります。

 この、長く、苦しい戦いを生き延びた地球人類なのであります。」

 

市民たちはまたもモニターを見入り始める。彼らは、映像に映る藤堂の顔に変化を見出した。

藤堂は、大衆への演説の中、その険しい顔の双眸から涙を流し始めていた。

だが、彼は流れるそれを拭わない。意にも介さない。いや、むしろ

()()()()()()()()()()かのように毅然とした態度で、モニター越しに市民へ語りかけていた。

 

「……皆さん。われわれは長きにわたる戦いの中でかけがえのないものを失いました。

 ……故郷。

 ……家。

 ……財産。

 ……そしてなによりも大切な人。」

 

「……それは家族。

 ……それは恋人。

 ……それは友人。

 ……どんなに嘆いても、彼らが帰ってくることは、もう、ありません。

 それは我々が一番よく知っていることのはずです。

 ……我々は戦いを生き延びました。では、いなくなってしまった人たちに我々ができることは、

 果たしてなんでしょうか。

 ……答えは一つではないでしょう。しかし、その答えの前提には必ず自分自身が生きることが

 あるはず、と私は確信を持って言えます。

 われわれ人間は、生きてこそいなくなってしまった他者を思い出し、弔うことができるのです。

 ……生き延びた人々は生きねばなりません。今日を、明日を、明後日を。

 昨日いなくなってしまった人を忘れないために、

 今日いなくなろうとしている人を助けるために。

 生きる義務があるのだ、と言えます。

 ……地表の環境は美しい。しかしそれが人間の生存に適した環境であるかと問われれば、

 否であります。…だからこそ、今日の日は皆さんに地下で耐え忍んでいただきたい。

 極東管区行政府は、皆さんに一日も早い地上への復員に全力を尽くすことをお約束いたします。

 その日まで、どうかその日まで、引き続き落ち着いて行動していただけるよう、

 なにとぞよろしくお願いいたします。」

 

そして、途中から演説と化した政府発表は終わりをつげ、藤堂が降壇すると、市民たちが見慣れた

国連軍の広報官が代わって登壇し、今後の復員計画などの詳細は後日発表すると告知し、放送は終わる。

放送後の地下都市では暴動も、騒ぎもしばらくの間なく、沈黙が市民を支配したのだった。

 

 

 

 

 この放送は極東管区の地下都市においてのみ放送されていたわけではなかった。

日本列島の湾の一つに投錨していた宇宙戦艦ヤマトにはもちろん、近接する管区にも多少傍受されている。

あの男も、当然ながら放送を視聴していた。

 

「……さすが、藤堂長官だ。言葉の重みが、違う。」

 

その男、芹沢虎鉄。

彼は地下都市の一角、地表へつながるエレベータの基部近くにあるどこかの部屋で、

台に置かれたタブレット型デバイスにより発表の終了を見届けたあと、重々しくため息をついた。

 

「……あの人は奥方を失った。自殺という形で、な。」

 

語りかけるように芹沢は言うが、返ってくる言葉はない。

芹沢は、藤堂平九郎の妻、千晶が自殺したことは知っていたが、

上司の家庭事情ゆえ踏み込もうとはしなかったし、その権利もなかった。

だが、彼が得た未来の記憶では藤堂夫妻の間に生まれた一人娘・早紀が、

母親の自殺を機に過激な思考に走るようになり、自分がその一助になってしまったことも知った。

それゆえ、彼は早紀があまり極端な道に走らぬようにせねばと考えていた。

 

芹沢は、藤堂が演説で口にした言葉を思い出す。

 

(……われわれは長きにわたる戦いのなかでかけがえのないものを失いました……)

 

…そうだ。多くのものを失った。だからこそ、これ以上失わせるわけにはいかない。

この地球から、地球人類から、奪われるのを許してはならない。

そう、芹沢は考える。

 

彼は視線を、放送が終わり電源も切られたタブレットから別の方向へ移す。

その先にあったのは、低温保存カプセルに入れられた、ヤマト艦長、沖田十三の亡骸だった。

芹沢虎鉄は、いまは亡き沖田へと語っていたのである。

 

沖田の亡骸が入れられたカプセルの前に立ち、芹沢は言う。

語ったところで沖田が答えるわけもないため、一方的な死者への宣言だ。

 

 

「……沖田。儂はお前が嫌いだったよ。死中に活を見出すだの、僅かな希望に賭けるだの、

 博打打ちで理想主義者なお前が大嫌いだった。

 ヤマト計画も、運よく賭けに勝っただけなのだぞ。……結果論とは承知しているがな。

 しかし、死んじまうとはお前、無責任だとは思わんのか。

 しかも波動砲を封印する条約なんぞ結びおって……。

 まぁ、いい。……お前が地球を救ったのは事実だ。認めるのは癪だがな。」

 

 

「……沖田。お前が救って見せた地球を、今度は儂らが救う。

 お前はお前の弟子たちを、あの世で見守っておればよろしい。」

 

 

 

 

「……後は任せておけ。……さらばだ、沖田。」

 

 

芹沢は、沖田の亡骸が安置された部屋を出ていく。

彼は、自分が嫌い、妨害しようとした男に振り返ろうとはしなかった。

去ってゆく者には、はなむけを。だがその任を為すべきは芹沢ではない。

芹沢は、歩んでいく。

 

 

 

 芹沢虎鉄と、沖田十三。

 考えは違えど、地球を救わんと努力した共通項のある二人の男。

 これが、最後の別れとなった。

 

 西暦2199年、12月9日のことである。

 

 




早めの更新を心がけます。
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