【第39話】
西暦2201年、10月初旬。
地球連邦及び同防衛軍は、戦力再建に向け加速ギアをいれた。
連邦政府及び連邦議会では、今後10年に渡り引き続き旧大企業群を半官半民の組織として
共同運営を行う法案を賛成多数で可決させていた。成立させるに至った背景としては、
「未だ攻撃性・侵略性が高い敵性宇宙国家が存在し国防状況が予断を許さない点」、
「星間貿易を今後開始するにあたり、ガミラス企業群に比べ競争力などが大きく劣るため、
連邦政府と一体になって事業規模・内容を拡充する必要がある点」が挙げられる。
この決定には、旧大企業の法人側から若干の苦言が呈されたが、法案のお題目は
至って正当なものであり長期的に見ても企業側に利益をもたらすため、程なく収まった。
これにより軍は、国連時代から継続して企業群を強力な後方支援に据えられることになる。
さらに、地上に移設された工場群のいくつかは試験操業を開始した。
これら地表の工場には、今後到着するガミラス船団により賠償物資として供与された
先進式の製造機器を組み入れることになっていたが、船団の到着までは地球式の
在来機械で各種物品の生産を行うと同時に、新たな技術者・工員の養成のための
基礎教育の現場とするため船団の到着に先駆けて稼働を始めたのである。
また、再生された各地の鉱山でも応急修理・改造を施した掘削装置や工業施設が
稼働し始め、工場群へと資源を供給していた。
防衛軍においては、新たに宇宙艦隊の人員補充計画が練り直され、その統率役には
元国連極東管区の軍士官候補生学校で教鞭を振るい、人材育成に精力的姿勢を見せる
土方竜宇宙艦隊副司令長官が就任した。「鬼」とかつては渾名された彼の下で
人材面からの再建は進行し、急ピッチで訓練や講習計画が立てられていく。
加えて、過日の会議で明らかになった新型艦艇の戦力化が遅れかねないという課題を
解消すべく、防衛軍の調達部門では時間断層に建設する工廠を利用した建艦計画を見直した。
結果、当面の繋ぎになる改設計型艦艇を一定数揃えつつ、新型戦闘艦の竣工時期を
前倒しにする整備計画を確定させることに成功し艦隊の再建へ向けて大きく動き出す。
急激な宇宙艦隊戦力の復興に呼応して、地上軍(航空部隊は独立再編され、
水上艦艇部隊は機材壊滅のため宇宙軍と半ば統合、主力は陸戦部隊)においても
ガミラスから反射衛星砲のシステムを応用した惑星防空ネットワークを導入する予定な上、
宇宙海軍麾下の宇宙海兵隊と共同で、AUユニットの機能拡張ユニットをベースとして
歩兵に空挺飛行能力と装甲車並の防御力、相当の携行火力を付与する重パワードスーツ、
「試一式機動甲冑」の開発が進行している。これには在来の技術に加え、ガミロイドや
ガミラスの警備大型ロボットに使われている技術が利用されるという。
因みに、ガミラスの機密である反射衛星砲のシステム導入が成功したのには、
芹沢防衛軍統括副司令(の一派)とガミラスの参謀本部を中心とする秘密組織間の密約が
作用している。時間断層によりいつの日か来るガミラス星崩壊に向けたガミラス人の
天ノ川銀河系移住計画を支援することを条件に、ガミラスから大量の軍事技術や資源の
提供を引き出すことに成功した、あの密約である。
密約の成立によって、反射衛星砲の技術移転に難色を示していた軍の開発部門が
ガミラス側組織関係者の高官によって説き伏せられ、合意に至ったのである。
もしもこの取引が成立していなかった場合、地球側が兼ねてから研究し用意していた
「惑星を丸ごと取り囲む戦闘衛星を連ねたリング型防空システム」の建造に踏み切っていた
と考えられるが、ガミラスなどの星間国家の艦艇や遊星爆弾、惑星間弾道弾の阻止には
疑問符がつく性能であると噂されており、開発リソースをドブに捨てていたかもしれない。
……こうして、ガミラス由来の技術や資源を利用しながら地球人類は急速な再軍備を整えつつあった。
そうした動きの一環として、極東管区のかつて愛知県と呼ばれていた領域に築かれた
地球防衛軍の航空基地において、ある一団が活動している。
地下都市から移設された資材を用いて建設されたであろう比較的簡素な造りの航空管制塔で、
数人のオペレーターが一機の航空機を基地へと誘導していた。管制室内には、
元からこの基地に配属されたであろう管制官たちの他に、技術者の出で立ちをした
数人のスタッフがおり、オペレーターが誘導する機体の状況を知らせる機械のスクリーンや
機体がやって来るであろう方向の空を管制塔の窓越しに見上げているのだった。
しばらくすると、基地上空には一機の機影が現れる。
それは既存の機体とは大きく印象を異にするデザインだった。
旧世紀の大気圏内戦闘機を思わせる紡錘状の機首と胴体に、円筒型の噴進ノズルが
並列に2つ繋がり、そこから短めの主翼と逆ハの字の尾翼、さらに下部にも
垂直尾翼が延びている。管制塔の計器のモニター画面には、機体には「XP-1501」という
仮称が与えられていた。
問題の航空機は、しばらくすると降下し航空基地の滑走路へと迫った。
下方に延びる垂直尾翼を縦に上げる形で収納し、代わりに着陸用車輪が機体から現れ、
整地され、綺麗に舗装された軍用機用滑走路をしっかりと踏みしめた。機体は減速し、停止。
危なげない着陸実演であった。
機体コード「XP-1501」、いまだ地球防衛軍で他に類を見ない航空機に、
先ほど管制塔でこの機体を見守っていた技術者たちが乗る車と、機体を格納庫へと
つれて行くための牽引車がやってくる。それに反応したようにコックピットの風防が
開放され、軽装宇宙服に身を包んだパイロットの上半身が見えた。
パイロットはフルフェイスのヘルメットを脱ぎ、顔とセミロングの白銀の髪を露出させる。
謎の機体のパイロットは、女性だ。彼女は疲れたように息を吐き、苦笑する。
「……我ながら、扱いにくい子を造ったものね……」
「お疲れさまです、椎名博士。」
機体から降りて、後を牽引車に任せた彼女はやってきた技師の一人に上着代わりに
彼女の白衣が手渡され、それをパイロットスーツの上から羽織った。
10月初旬でも気候が大きく変化した地球では寒さが厳しい。
そんな寒風にシルバーの髪をなびかせる彼女こそ、地球防衛軍の無人機研究の中心人物、
椎名冥博士だった。
椎名は、他の技師と共に車に乗り込み基地の一角にある建物へと向かう。
その車中で件の機体について議論が行われる。
「……で、地上から試験機はどう見えた?」
「流石は博士の腕前です。コスモファルコンやコスモゼロと大差無い…
…いや、それ以上の動きでした。」
地球連邦防衛軍の航空技術者の少なくない割合が、研究開発に役立てるため
航空機の操縦資格を持っている。その中でも椎名は、軍の戦闘任務につく搭乗員に劣らぬ
操縦技術を持っている。……車内の彼女は、称賛に笑みで返しつつ、淡々と語った。
「そうでしょうね。あの機体の機動力は今の地球で最高クラス。
でも、操縦性は最悪の一言に尽きるわ。ピーキー過ぎて乗れる人間を選ぶ機体よ」
「……人間ならば、ですか。」
「ええ。アレは無人機用のテストベッド、技術実証機だもの。
あれの延長線上にある奴なんか、AIでもなければ運用不能よ。」
開発機体コード「XP-1501」、今後の防衛軍の無人機の礎となるデータ収集用有人実験機。
椎名は、自らが主導して開発する無人機のための実験機パイロットの一人に自身を数えていた。
暫くして車が目的地である建物、防衛軍無人機研究開発前進拠点につくと、
技師たちは椎名と別行動をとった。彼女は先ほどまでパイロットとして機体を操り、
地上に貴重な実験データを提供しており、研究室に入るに当たって、パイロットスーツから
研究員の服装に着替えねばならない。
研究所建屋に入った技師たちは今回の飛行実験のデータが収められたパッドデバイスを
見ながらあれこれ議論し、半ば研究開発チームの詰め所にもなっている会議室へ踏み入れる。
彼らの視界に最初に入ってきたのは、部屋のホワイトボードに貼り付けられたとある機体、
これから造り上げる予定の無人機の、試製段階の設計図である。
図面自体が大きいため、いの一番に目を引くそれに描かれている機体は、技術実証機の
「XP-1501」に似ている。実験機を各方向に引き延ばし拡大したものに、ミサイルポッドや
ビームガンなど各種武器の懸架ポイントを多数つけた複葉が生えた大型の航空機だ。
「……こいつが真の意味で生まれるのは、いつになるだろうな。」
とある技師は、誰にともなく呟く。
彼らは知る由もないが、大きな設計図に描かれた航空機は、防衛軍統括副司令芹沢が
垣間見た未来の世界では主用途を有人戦闘機として生を受け、2201年現在の現代世界において
「コスモタイガー」として開発が進んでいる機体との次期主力戦闘機の座を争い敗北、
少数生産されたうちの一機がヤマト艦上機として活躍した「コスモタイガー
機体だった。
しかし、紙の上に存在しているのは、防衛軍が次期主力として採用を決定した
コスモタイガーとはコンセプトを争わない無人高速重戦闘機だ。
試作された設計図の端に刻まれている開発仮称コードは、「レイブン」。
オオガラスを表し、正式採用されれば「コスモレイブン」と名付けられる。
この機体こそ、同時に開発されている部分的制空・迎撃・防空を主任務とする
小型の無人戦闘機・開発コード「クロウ」と共に、防衛軍の航空戦力回復のための秘策、
無人戦闘機開発計画・ブラックバードの中心に位置付けられた機体なのである。
「……上からは、ガミラスの輸送船団が連中の軍用機の設計資料を持ってくるのが
10月半ば以降だと言われていますが……」
技師の呟きを質問と解釈したのか、下位の技師が情報を再確認する。
連邦が把握しているガミラス賠償物資輸送船団の到着予想次期に変化はない。
無人機開発で一日の長があるガミラスからの技術導入は研究チームにとって必須事項だ。
特に、ガミロイドを始めとする人工知能部門での先進技術はなんとしてでも習得したい。
ガミラス側でも、小型防空機(開発中の「クロウ」が該当)の調達が検討されており、
開発を地球側に肩代わりさせたいらしく資料公開に同意してくれた。
資料の到着が予想から遅れることがなければ、来年初頭までには開発が完了できる___
それが技師たちの共通見解である。
そこへ、シャワーと着替えを終えた椎名がやってきた。
「お待たせ。」
「……では、得られたデータの分析を行いますか?」
主任技師である椎名に、部下の技官が訊いた。
椎名は、会議室のテーブル席に座りながら応じる。
「あーー、それなんだけどねぇ、ちょっと後にしようかと思うの。
さっき、シュローデル博士から連絡があってね。」
椎名が口にした名は、欧州管区出身で、研究への協力のため極東管区に入っている科学者だ。
ヘルマン・シュローデル博士、自動航空機の研究開発の道に進んだ椎名の先達で、
航空機用AI、インターフェース方面に明るい。研究チームの外部顧問についており、
椎名とは懇意にしている。彼からの連絡とは一体何か……技師たちが興味深げな顔をすると
椎名は実に嬉しそうに語り始める。
「シュローデル博士のAI開発チームに、飛行データ提供のための専属パイロットとしてね、
『ヤマト』航空隊隊長!彼の操縦技術が人工知能にフィードバックできれば、
「レイブン」も「クロウ」も大きく強化されるでしょうね。」
おぉ、と技師たちの間で明るいどよめきが起きた。地球、とくに極東管区で名高いパイロットが
研究に協力してくれるとなれば、開発陣としては心強いことこの上ない。
さらに、「ヤマト」の航空隊隊長という肩書きも、響きがよい魅力的なものだ。
AIによい印象を持たないか、性能に疑念を抱く政治家や現場の将兵にも、
なぜ協力してくれることになったかは知る術はないが、彼の研究チーム加入は
ブラックバード計画の産物、宇宙を翔ぶ二羽のカラスに福音をもたらしてくれるだろう……
そんな心中を表情に湛えて、椎名博士は並み居る技師たちに向かって言った。
「今度、加藤中尉に「
地球屈指のエースが、あの機体をどれだけ動かせるかとても興味があるの。
開発計画を大きく動かすかもしれないわ……!」
☆地球社会民主主義人民共和国連邦☆
リメイクボラーの政体はどうなってるんでしょう?
個人的にはC国みたいな……おや、こんな時間に誰だろう(テンプレ)