ハーメルンよ、私は帰ってきたぁ!
春になりましたので、投稿を再開します。
また読んでいただけましたら、無上の喜びです。
世を見渡せば辛い悲しい事ばかりですが、挫けず頑張ろうと思います。
【第40話】
西暦換算にして、2201年 9月30日のことである。
宇宙戦艦ヤマトは、共和政ガミラスが派遣した護衛艦隊の厳重な警護のもと、
彼らの首都であるサレザー恒星系第4惑星ガミラス近傍空間へとワープアウトした。
ヤマトは、ガミラス星の地上にある宇宙艦船航路管制局からの誘導を受けて、
ガミラス星の内殻へと通じる外殻の大穴へ針路を向けていた。護衛艦隊もそれに追随する。
速度を落としつつあるヤマトは、森の星の双子星である海の星を左舷に望んだ。
二つの星の中間にはかつて、空間機動要塞都市「第二バレラス」が存在していたが、
去る2199年7月17日、宇宙戦艦ヤマトがガミラス本土を強襲した戦いの際に破壊された。
その残骸も、バレラス攻防戦から2年余りがたった今日では既に大部分が除去されている。
ガミラス共和政府による喧伝では、ハイドム・ギムレー長官率いるデスラー親衛隊が
この要塞に本物のデスラー総統を監禁していたとされている。
ヤマトはガミラス星への降下軌道に入るため、
船体を横倒しにロールさせ艦底を惑星地表へと向けるのだった。
「ガミラス管制局からの誘導ビーコンを確認しました。」
「よろしい、本艦は只今からガミラス星へ降下する!」
ヤマトと護衛のガミラス艦隊の前面下方には、惑星ガミラスの特徴的な外殻の穴が広がる。
外殻を覆う巨大な森林の緑がサレザーの光に照らされ鮮やかに浮かび上がる。
穴の向こうには無数の人工光が煌めいており、首都惑星の繁栄を伺わせた。
複殻惑星の特異な構造は巨大な都市と自然の共存を許しており、緑に黄色の斑を
有する惑星として宇宙に浮かぶことでその事を示していた。
ヤマトは未明の空を緩やかに降りる。かつてのバレラス強襲作戦時とは大きな違いである。
乗員たちも降下中の船窓から、元敵国・現友邦の街並をじっくりと観察していた。
「……それにしたって、何てでっかい都市なんだ……」
「戦前の地球のビルの、数倍はあるな……」
「これが星間国家の都市と言うもんなんじゃろうかのぅ……」
ガミラスの都市を形作る巨大な土筆や茸のようなシルエットの建造物群や、縦横無尽に
地上を走る浮遊自動車用の高速道路網などを見下ろしてヤマト第一艦橋のクルーは唸る。
首都惑星の光景はガミラスの絶大な国力を物語っており、このような大国と絶滅戦争を
繰り広げ、多大な犠牲を払ったとは言え地球人類が存続し主権を守ることができたのは
奇跡のようなことなのだという思いを新たにした。
やがてヤマトは都市を望む空域から遷移し、舳先には巨大な湖沼の姿が見えてくる。
湖沼の沿岸の一画には広大な舗装地が存在しており、かつてのガミラス冥王星基地などに
存在したような建造物が各所に建設されている。一帯は市街地ではなく、基地のようだ。
「バンパレラ湖貨物港湾基地からの誘導指示をキャッチ。
第4水上区画の東2番埠頭に接岸されたし、とのことです!」
「了解。これより本艦は誘導に従い、バンパレラ湖へ着水します!」
ヤマトが向かう巨大湖(地球・北米大陸の五大湖並み)の名は、バンパレラ。
惑星ガミラス内でも屈指の水産資源量を誇っており、湖の北岸に位置する漁港には
数億人もの首都惑星市民の食卓へ魚介を送り出す巨大水産市場が置かれている。
現在、宇宙戦艦ヤマトが着水せんとしているのはバンパレラ湖の南東岸にある、
ガミラス国防軍の貨物港湾基地だ。湖岸の広い土地にまたがる上に
湖上にも貨物船用の荷役用フロートが浮かび、長大な橋で接続されている。
惑星ガミラスの赤道に近いこの基地は、元々は第二バレラスの建設資材を集積し、
軌道上へと移送するための中継点として建造されており、第二バレラスの工事が
一段落したあとに国防軍用の補給物資貯蔵・流通施設へと転換された。
皮肉なことにこの基地は、誕生理由であった第二バレラスを破壊した「ヤマト」が
今次航海で惑星ガミラスにて最初に迎え入れられる地となったのである……。
宇宙戦艦ヤマトは、航海長の島大介大尉の操縦により何事もなくバンパレラ湖へ
降下着水し、ガミラス貨物基地の指定された埠頭へと向かっていた。
ヤマトに随伴している護衛のガミラス艦隊は二群に分離し、一方はヤマトと共に
着水して並走し、もう一群は空中に留まり頭上をカバーしている。
水中に対しても着水したガミラス艦がソナーを効かせて監視し、ヤマトの上下左右
全方位に対し鉄壁の守りを敷いているのだった。
前進するヤマトの第一艦橋の天井モニターには、間も無く寄港する貨物基地の湖岸側、
陸揚げされた物資・コンテナの保管ヤードにあたる場所の拡大映像が映し出されていた。
通常ならば、軍需物資のコンテナなどが積み置かれているはずの区画にあるのは、
鉄骨組みの階段状をした台場のようなものであり、それらが広大なコンテナヤードに
ところ狭しと並べられており、台場の段数は6列にも達していた。
しかも、そこには多数の民衆が詰めている。
彼らの目的はもちろん、ヤマトをおいて他ならない。
「……すげえな、ありゃあ……」
「……何千……何万か……?」
拡大映像に映し出されている無数の民衆の姿に圧倒されるヤマト艦橋クルー。
艦橋の窓からも、遠い湖岸を埋め尽くす大衆の帯が見えている。
帯の所々にある派手な差し色の部分は、映像に映っているガミラス語で「ヤマト」と
書かれた横断幕に違いない。艦橋の最前列に座る戦術長の古代大尉はふと空中を見る。
護衛のガミラス艦の向こう側、群衆がヤマトの姿を見るために詰めかけた台場の上空に
多数の飛行物体の影が見える。間違いなく、ヤマトのガミラス訪問を報道している
メディアのチャーター機だ。きっと、ヤマトのガミラス内殻への進入や着水の場面も
彼らのカメラによって遥か遠くから撮影されており、惑星中に生中継されているだろう。
今この瞬間、コンテナヤード特設のあの台場のみならず、おそらく惑星ガミラス地表の
全市民の耳目は、地球からはるばるやって来た宇宙戦艦ヤマトに注がれているのである。
ガミラスの市民にとって、宇宙戦艦ヤマトとはかつて敵国の船でありながら
初めて星間帝国ガミラスの首都へ到達した恐るべき戦闘艦であると同時に、
強権的な
近頃の帝国内での分離運動などの報道で鬱々していたガミラスの市民大多数は、
ヤマトの訪問を好意的な目で見ているどころか、お祭り騒ぎの状態で迎え入れたのだ。
国防軍は、ヤマトの訪問を知ったガミラスの観光・放送業界からの熱烈な要求を受諾し、
わざわざ訪問での初入港先を観覧ステージの設置に適した巨大コンテナヤードを備える
貨物港湾基地へと設定し、メディア機の(遠方からの)撮影飛行も許可していた。
この動きと連動し公共交通各社は観光列車・バスを大幅増便。宿泊業界は各地から来る
見物客を捕まえるべく近隣都市のホテルの宿泊費を割安にしたり、宇宙客船を借りて
バンパレラ湖の基地周辺湖岸に着水させ臨時ホテルとした。飲食企業も近隣の店舗に
大量の客に対応するため人員を増強したり、期間限定で見物用台場への配送サービスを
実施したり、台場周辺に屋台や調理販売車を展開するなど、完全にヤマトの訪問を
お祭りムードにしてしまう。
これに認可などを出して対応する官公庁はヤマト訪問直前の期間に労働量が激増。
このため、これらの関係省庁の公務員は、旧体制派などの反発分子を除いた市民の中で
唯一、ヤマトに対して怨み節を述べていた。
こうしてヤマトのガミラス訪問は、惑星経済を動かすレベルの巨大イベントと化していた……
「……まったく、これじゃまるで見せ物だな……」
「おい、流石に言葉が過ぎるんじゃないか……?……否定しがたいが……」
湖岸にて"救世主の船"のお出ましに熱狂するガミラス市民たちの姿に言い表しがたい
感情を吐露する島や古代。山南艦長も感想は共通していた。
(……見せ物というよりは、寺社参拝のようなもんだろうなぁ……
……『ヤマト詣で』と言ったところか……)
地球軍人たちの微妙な想いも載せつつ、ヤマトは波静かなバンパレラ湖の水上をゆく。
一方、バンパレラ湖基地から数千キロ離れたガミラス星首都・バレラスでは。
「
「「
「「「
旧バレラスタワー前広場。バンパレラ湖沿岸の観覧用台場にも劣らぬ人数の市民たちが
押し寄せ、モニターで映し出されるかつての敵艦の姿を讃えていた。その情景は、
広場の監視カメラによって記録されており、現在共和制ガミラス新政府の行政庁舎が
置かれているビルにある、会議場のモニターに映されていた。映像を眺めているのは
共和制政府首班であるレドフ・ヒス首相と数名の閣僚だ。
「
……しかも、青い肌の一般市民がそれを連呼しているとなれば。」
とある閣僚が嘆息するような、あるいは揶揄するような口調で映像の内容を評した。
これが呼び水となったのか、会議場のあちこちからぼそぼそと呟く声が聞こえてくる。
「……ヒス総理、確か……」
ある高官が、隣の席に座るヒスに恐る恐るというように訊いた。
対するヒスは、渋面を作ってそれに応じる。
「……ヒルデ嬢のことかね。」
「……はっ。」
高官が気にしていたのは、レドフ・ヒスが後見人となっているかつての地球侵攻部隊
ザルツ義勇兵旅団の指揮官ヴァルケ・シュルツの遺児、ヒルデ・シュルツのことだった。
「……懸念はわかる。」
ヒスは絞り出すような声で云った。
彼の脳裏には、哀しげな表情を浮かべたヒルデの姿が投影される。
それは、忙しい間を縫いヒルデと会った中で、最後に見た彼女の表情だったのだ。
(……あの娘は、ヤマトに救われたと同時に、
ヒルデ・シュルツの母、ライザ・シュルツも今年の半ばに心労から病に倒れ、
この世を去っていたのである。夫を奪った仇の船が賛美されるという情勢には
精神的に堪えがたいものがあったのだろう……ヒスはそんな思考を巡らせた。
「……だが、彼女は強い。
私は必ず、彼女が辛さを乗り越えて前に進んでくれると確信している。」
共和政府首相は気遣うような閣僚たちの視線に気づき、その懸案を払拭するように
柔和な微笑と共に彼らに向け語った。無論ながら、ヒスの本心でもある。
現在のところ、ヒルデはヒスの勧めによりザルツにて静養している。
ライザに加え、戦死したヴァルケもバレラスの軍人墓地からザルツの墓地へ改葬された。
この手続きはヒスが済ませている。ヒルデが侍従として仕えていたユリーシャ皇女も
イスカンダルに戻ったこともあり、自由になったヒルデは精神的な回復のため故郷へ
戻っていたのだった。ヒスとしては、ガミラス本星の喧騒よりはザルツの風土の方が
彼女を立ち直らせるには適していると考えたようだ。
「……念のため、ヒルデ嬢には護衛をつけておりますが……」
硬い表情で閣僚が言った。政府首班の養女に身辺護衛をつけるのは当然と言える事柄だが
それが「ヒルデ・シュルツ」という個人の事情から、別に護衛をつける必要性があった。
「……さすがに、ザルツ義勇旅団将兵遺族全員への護衛や監視は行き届いておりません。
バラン星や七色星団でのヤマトとの交戦で戦死した将兵の遺族に対しても同様です……」
「そうだろうな……」
ヒスは嘆息する。少なくともガミラス国民の中にもヤマトに対する復讐の芽は存在するのだ。
ヤマトがマゼランにとどまる間は、その成長を防がねばならない……
そんな中、会議室に事務官の一人が入ってきた。
「首相閣下、ただいまヤマトがバンパレラ基地の埠頭に接岸したとのことです。」
「うむ、そうか。
予定どおりヤマトに専用便を飛ばせ。こちらでも使節団を迎え入れる準備を。」
「ハッ!」
慌ただしく共和制ガミラスの政治中枢は動きだす。
宇宙戦艦ヤマトのガミラス派遣行は、いまだ始まったばかりであった……。