宇宙戦艦ヤマト2202 If 猛虎咆哮す   作:モアンゴル

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第四章 烈動の星々
第四十一話 バレラス宣言


 

【第41話】

 

 

西暦2201年 10月2日。

 

地球連邦首都の置かれる極東管区地下都市から、連邦の全管区の地下都市、復員拠点都市、

連邦防衛軍の各基地など地球人類が所在するであろうあらゆる場所に対し重大な放送が行われた。

 

事前に連邦隷下の各管区行政府からの要請・勧告を受け放送を映すモニターの前に集まった

地球連邦市民たち。彼らの視線と同義である放送スタジオの撮影カメラの前に

地球連邦大統領を務めるエイブラハム・ダグラスが現れ、中央の演説台の後ろに立った。

 

『ーーー私は、地球連邦大統領エイブラハム・ダグラスであります。

 本日、地球連邦市民の皆様に放送を視聴していただくよう事前要請を行ったのは、

 これより公表する事実が極めて重要なものであることを意味します。

 皆様、どうかパニックにならず、落ち着いてこの放送を最後までご覧いただきたい。』

 

大統領が語る事前の注意に画面の前の市民たちは一様に緊張し、

一層大統領の一挙一投足に眼を見張る。

そして肝心の、地球連邦大統領直々による公表放送が始まった……。

 

『……本年の8月、連邦政府は連邦防衛軍、宇宙海軍極東管区艦隊に所属する、

 宇宙戦艦ヤマトが"地球連邦の安全保障に関する重要任務に就くため"に、

 地球を発った旨を市民の皆様に報告いたしました。

 

 報告自体に、訂正点はありません。報告内容の詳細については当時、

 "安全保障上好ましからざる影響を与える"として伏せさせていただきましたが、

 この度、詳細の公開に問題がない時宜に至ったと連邦政府は判断し、

 市民の皆様に改めて報告させていただく次第であります。』

 

 

大統領の口にした、「宇宙戦艦ヤマト」の単語に市民はどよめいた。

無理からぬことである、地球人類を救った船の記憶は2年を経過した今でも鮮烈だ。

2ヶ月前の政府発表に、市民の多くは(専門家の見解公表も功を奏し)ヤマトが

太陽系の外縁において対外宇宙警戒任務に就いていると考えていたのだが、

今日、公表にわざわざ地球連邦の大統領が出張って来たことで、市民たちは

ヤマトが就いた任務内容が予想を上回る重大性を有していたことを察したのだ……。

 

大統領の会見放送は続き、肝心のヤマトの動向が語られた。

 

『……連邦防衛軍・宇宙海軍極東管区艦隊所属の宇宙戦艦ヤマトは、2201年7月18日より

 地球連邦の友好国となった、共和政ガミラス国内における政治的混乱の収集、

 治安回復の支援任務に従事すべく地球ならびに太陽系を出動、

 共和政ガミラスが所在する大小マゼラン銀河へと派遣されました。』

 

瞬間、地球上各所のモニター画面前に集った人々に激震というべき衝撃が走った。

それは、イスカンダル遠征時のヤマトクルーである加藤三郎と加藤真琴が住まう

極東管区の地上復員都市の一室でも同様であった。

尤も、ヤマトクルー以外とは大きくことなる反応を示した訳だが。

 

「おいおい嘘だろ……ヤマトはまたマゼラン銀河に行ったのかよ……!?」

 

「でもさぶちゃん、まだ出発して2ヶ月しか経ってないなら、到着はしてない筈だよ……!?」

 

「あぁ……。一体どんな魔法を使ったってんだ……!?」

 

モニター画面には、ガミラス星に到着したヤマトの記録カメラが写した、バンパレラ基地にて

ガミラスの民衆たちがヤマトを歓迎する映像が写し出されている。

とても合成映像とは思えない。が、自分達の経験から2ヶ月という短時間でヤマトが

イスカンダルと双子星のガミラス星に辿り着けるとも考えがたく、二人は首を傾げるばかりだった。

 

元ヤマトクルーたる二人は、ガミラスに対する印象はかなり好転しているのだが、

他の地球人たちにとってはやはり「かつての敵」という印象が強い。

多くの同胞、親しい者を奪った敵国への遺恨が和らぐには、相応の時日が必要だった。

そんな厳しい視線が未だ向けられるガミラスに、ヤマトを派遣し助けてやるとは……

ガミラスの一般市民に非はないとはいえ地球市民からすると言葉にし難い感情が渦巻く。

怨嗟にも似た眼差しが画面の彼方のダグラス大統領に注がれた。

そうした群衆の中から、青ざめた気付きの声が上がる。

 

「ちょっと待ってくれ!いま、ヤマトがガミラスにいるってことは……太陽系は無防備なのか!?」

 

ざわめきが広がる。それが直ぐ、パニックへの急坂に進んでいくことは明白であったが、

画面の向こうからの声が寸前でそれを止めた。

 

『……この、共和政ガミラス政府からの要請に応じた宇宙戦艦ヤマトの派遣に際し、

 連邦政府は宇宙戦艦ヤマトに代替する地球の防衛力をガミラス政府へ条件として要求し、

 ガミラス政府はこれを了承しました。現在太陽系を、即ち我が地球連邦の防備の中核を

 担っているのは、共和政ガミラスが派遣した艦隊なのであります!』

 

ひときわ強い声で大統領は市民へと呼び掛ける。

同時に、映像は太陽系最果てに新たに存在が確認され、ガミラスとの条約により

地球連邦の主権が確約された炉王星を背後に遊弋するネレディア・リッケ大佐指揮下の

共和政ガミラス国防軍、太陽(ゾル星)系防衛派遣艦隊の姿に切り替わる。

稼働したばかりの人工太陽が放つ強くはない光を受けながら、舳先と砲門は太陽系外から

来るであろうガミラス反動分子か、あるいはガトランティスや未知の敵に対し向いていた。

 

『____彼らは今日までの2ヶ月間、過酷な太陽系外縁天体に駐屯し、宇宙戦艦ヤマトに

 代わって地球人類を脅かす敵対勢力に対し睨みを利かせてくれていました。

 これは、地球と共和政ガミラスの、悲惨な過去を超克した友好関係を示す

 揺るぎない事実であります!』

 

壇上にて熱弁を振るうエイブラハム・ダグラスは当然ながら、これで地球連邦市民の納得が

得られるとは考えていなかった。だが、こうした既成事実を元に連邦市民にガミラスとの

共同での国防態勢を浸透させる一助には少なくともなるだろう……要は"慣れ"だ。

 

『____このような重要な情報の、市民の皆さんへの開示公表が遅れたことにつきましては、

 連邦大統領として大変申し訳なく思います。ただし、今後の地球の復興を加速していく上で

 無用な混乱を避けるため、ヤマトの国外派遣についても、ガミラスへの国防協力要請も、

 情報の隠匿についても、やむを得ぬ措置であったことをご理解いただきたい。』

 

いまだ数十億を数える地球人類に語りかけながら、連邦大統領の肩書きを託された男は思う。

 

(政府の方策に反発の声が上がらないことはなかったし、この先止むこともなかろうが、

 何もしないよりはいい結果を呼び込めるはずだ。より良い結果は、より良い行動でしか

 もたらされないのだから。……政府(われわれ)の行動の結果が明らかになるその日までは、

 悪罵にまみれてでも進む他ない。)

 

 

 

自分の執務室で放送を見守る防衛軍統括副司令官・芹沢虎鉄大将もまた、

経緯は違いながらも似たような覚悟を胸に今日まで根回しをしてきた。

そんな彼の前には、同じく防衛軍の最高級軍人であるデューイ・ジェファソン参謀総長の

姿があった。副司令官執務室のソファに腰掛ける彼は、いまだ画面上で演説を続ける大統領に

感謝の念を込めた会釈を送る。芹沢もまた、ダグラス大統領に視線を送りつつ、

参謀総長へ話しかけた。その口調は、芹沢が指揮系統上立場が上ながら、大将としては

ジェファソンが先任のため丁寧語である。

 

「……参謀総長、確かこの後でしたな?」

 

「ええ。」

 

参謀総長は含意ありげな笑みを芹沢に見せた。

 

「エバット外務局長からの受け売りになりますがね、先人はこんな言葉を残したそうです。

 『反発を伴う改革は一時に進めてしまうべし』と。」

 

「その通りですな。大統領閣下を批判の嵐に晒す時間はできる限り短くしたいものだ。」

 

「同感ですな。……こちらの仕込みは万全ですが、そちらはいかがです?」

 

ジェファソンは副司令官に向ける眼光を鋭くする。対する芹沢は口元を緩めた。

 

「大方の取りまとめは終わりました。渋っている方も、順次切り崩しています。」

 

「結構。」

 

すでに、地球連邦政府と防衛軍は次なる動きを進めつつあった。

だが、その発火点となる場所は地球上のどこでもない。

執務机の椅子に身を沈め天井を仰ぐ格好となった芹沢は、瞳を閉じて心眼で

幾多もの人工と天然の天蓋により遮られた、星の世界を凝視した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同日__地球(テロン)暦換算 2201年 10月2日。

 

地球連邦大統領、エイブラハム・ダグラスが宇宙戦艦ヤマトが何処に在るかを全世界に

知らせているのと平行するように、宇宙の彼方の惑星ガミラスにおいても演説の準備が

進められていた。

共和政国家と化した星間帝国の首都バレラスにある、各所の集会場やモニターの前には

老若男女・人種を問わず多数の民衆が集まり、政府からの放送が始まるのを待っている。

 

彼らの関心事はただひとつ、遥か地球からやってきたガミラスとその隷属惑星にとっての

"救世主"である宇宙戦艦ヤマトが乗せてきた、地球の使者についてである。

ガミラス社会に激変をもたらした船は、今度は何を運んできたのか……

彼らなりに、その性が禍福どちらか見極めようとしているのだ。

 

果たして、放送が始まる。

共和政府庁舎内の、厳重に警備・隔離されたスタジオから送られてくる映像が映したのは

黒褐色の肌と白髪の頭髪・髭を有する整った身なりの老爺の姿であった。

 

『……ガミラス市民の皆様、初めまして。

 私は地球連邦の遣ガミラス使節団代表、ロドニー・ムベキと申します。』

 

深い皺が刻まれた顔の中で、柔らかくかつ確かな眼差しを光らせる地球側使節団代表が

ガミラス製の同時翻訳機を介して放送を見るガミラス市民たちに挨拶し、語りかける。

その様を使節団を出迎えた現・共和政ガミラス政府首班であるヒスは執務室モニタから見つめていた。

 

 

 

 

『……我々地球人類は、悲惨な過去の遺恨を乗り越え、復興とさらなる発展に向け、新たに友邦となった

 共和政ガミラスの皆さんと協同していくことを強く希望します。……』

 

惑星ガミラスのバンパレラ湖に停泊中の宇宙戦艦ヤマトでも、当然放送は受信されている。

その第一艦橋では山南艦長をはじめとした艦の各部門責任者や、ムベキに同行しなかった副代表の

ヴェルニーら数人の使節団メンバーが放送が映し出される天井パネルに視線を向けていた。

 

ヴェルニーは視線をそのままに、芝居がかった口調で弁舌を振るい始める。

 

「……素晴らしいことです。一時は地下深くへと押し込められ、死を待つのみだった地球人類の代表が

 今、かつてその苦境を強いていた国家の首都に立ち、あまつさえその市民に手を携えようと

 呼び掛けている。この光景は、地球とガミラス、双方の歴史に永久に刻まれることでしょう!

 私は、両国の人々の融和と友好に彩られた未来を確信しております!」

 

艦橋内には、微妙な雰囲気が漂う。

 

「……随分と得意気だなぁ……」

 

「そりゃあ、自分たちが作った原稿がこのガミラスで読まれてるんだし……」

 

ひそひそと艦橋クルーの一部が囁くが、ヴェルニーが気にした様子は見えない。

 

(……ま、あれがヴェルニー氏の本音な訳がない。

 どのみち地球でもガミラスでも火種のくすぶりを完全に消すことはできんだろうさ。

 そのことを理解していないわけがない。)

 

シートに身を沈め、冷ややかな思考を巡らせる山南艦長。

だが当然、自身の言葉にはもとより素振りにも表出を許さない。

その間にも、パネルの向こうで進むムベキ団長の演説は新たな話題に差し掛かっていた。

 

 

『……我々地球人類は、ガミラス政府が主導し推進する民族間融和・汎マゼラン連邦構想に対し、

 全面的な賛同と協力を惜しまないことをここに宣言いたします。

 地球連邦政府は、大小両マゼラン銀河における政治的安定をもたらす姿勢を重視する共和政府と

 あくまでも協調していく立場をとらせていただくものであります!……』

 

ガミラス政府が展開する、植民星などに対し政治的帰属を求める圧力の根拠・名目となっている

民族間の融和による両マゼラン銀河での連邦共同体構想による秩序と安定の維持。

ムベキの演説により、地球連邦は同構想に全面的な賛同を向けていることをマゼラン全域へ示した。

それ即ち、2199年のヤマトのイスカンダル行と伴発したガミラス軍との戦闘に触発され

生起あるいは激化した民族主義に依拠する過激な分離独立運動に対して拒絶することと同義であり、

分離運動側からすれば宣戦布告と言い換えることも可能だった。

 

 

そのことを踏まえ、冷静なトーンに口調を切り替えたヴェルニー外務局次官は語りだす。

 

「……皆さんもお分かりかと思うが、ここからはこの"宇宙戦艦ヤマト"によるパフォーマンスが

 ガミラス派遣行において最重要の事項となってきます。

 地球連邦のメッセンジャーとして、くれぐれも宜しくお願い申し上げる。」

 

「……よく、存じ上げております。副団長。」

 

山南艦長が、威儀を正しヴェルニーへ返答した。

 

スケジュールではヤマトはガミラスでの仮泊ののち、分離独立運動が発生した植民星、

あるいはその周辺の星々に寄港し地球連邦と共和政ガミラスの友好関係を喧伝することになっている。

言うまでもなく、勝手に過激民族主義分離運動の旗印や口実とされた宇宙戦艦ヤマトが

ガミラスに与する地球連邦の尖兵であることを見せつけ、分離独立派の心を折ることが目的だ。

それこそが、両マゼラン銀河における治安回復、またはガミラス主導政治体制の再構築のための

トドメの一手となるのである。

 

ヤマトのクルーの中には思うところがある人間も少なからず存在することをヴェルニーは

当然ながら理解していたため、山南艦長や幹部乗組員に対し釘を刺しておくこととしたのだ。

 

「……ところで、マゼラン銀河内の巡航において別途、ガミラス側の護衛艦隊が

 新編されることはお伝えしましたが、その指揮官が決定されたようです。」

 

副団長は艦橋内の空気が冷え込むのを察したのか、最後に新たな話題を持ち出した。

山南や各クルーはヴェルニーから視線を外し、自分達のコンソールやデバイスで情報の確認に動く。

 

「……!」

 

そして、一部の幹部クルーは目を見張ることになる。

画面に映る、新編ヤマト護衛艦隊の指揮官たるガミラス人の名は「フォムト・バーガー」。

ヤマトにとって、最も頼もしい異邦(ガミラス)人であった。

 

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