宇宙戦艦ヤマト2202 If 猛虎咆哮す   作:モアンゴル

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第四十二話 伏魔の海へ

 

【第42話】

 

後に「バレラス宣言」と呼ばれることになる、

地球連邦ガミラス派遣外交団団長ロドニー・ムベキによる

汎マゼラン連邦構想・共和政ガミラスを中心とする両マゼラン銀河の秩序再編への

地球連邦の支持表明が演説内で行われた翌々日の、西暦2201年10月4日。

 

バレラス中心部にあるガミラス最高級のホテルである

エーリク=ヴァム=デスラー記念パレスホテルのラウンジにて、

地球とガミラスの戦後友好関係を喧伝する演説をぶちあげた当人である

ロドニー・ムベキ元国連事務総長は護衛と外交団員ら数人に伴われながら、

その人物を迎えた。

 

 

「やぁ、副団長。早かったね。」

 

「いえ、お待たせしてしまい申し訳ありません、団長。」

 

その人物とは、

地球連邦のガミラス派遣外交団のNo.2である外務次長クロード・ヴェルニー。

彼も、宇宙戦艦ヤマトを下艦しガミラスへと直接足を踏み入れたのであった。

 

「いかがでしたか、ヒス首相の人となりは?」

 

「あぁ……。

 実直な印象を受けたよ。それに優しさと、為政者としての矜持と覚悟。

 同盟国の指導者としてはこれ以上ない人物だった。」

 

ムベキが座っているテーブルの対面席に腰を下ろしたヴェルニーは、

互いに昨日のことを話し合った。

10月3日、ロドニー・ムベキはレドフ・ヒス首相を始めとした

ガミラスの政財界要人を集めた外交団歓迎のパーティーに主賓として参加し、

ガミラスの政府首脳や高級軍人、経済の重鎮との知己を得たのだった。

 

「そちらはどうだったかね?」

 

「はい、ヤマト乗組員や同艦のマゼラン銀河巡行に同行する

 外務局員との調整に終始しましたが……」

 

「うむ。これからは君も忙しくなるぞ。

 昨日のようなパーティーへの出席の誘いが山程来ている。

 皆、地球に____いや、天の川銀河の市場や利権を欲しているらしい。

 今後の地ガ外交の情報を集めるにしても私だけでは心許ないからね。」

 

鋭い眼光を見せ、ムベキが言った。

これから連日、地球の使節を歓迎し、自分達に都合がいいように取り込もうとする

ガミラスの諸勢力が催すであろうパーティーに出席し、

要求や圧力をいなしつつ関係を築いていかなければならないのだ。

外交団として極めて重要な任務である。

 

「はい。

 それに、両国の継続的な外交・連絡関係の確立のための協議もやらねばなりません。

 双方への大使館設営、銀河間通信網の整備など……

 "ヤマト"の役目ほど映えませんが、今後重要ですから。」

 

もう一つの外交団に課せられた重大任務をヴェルニーは口にする。

対面するムベキもその言葉に首肯すると、苦笑を交えて副団長へと尋ねてきた。

 

「そうだな……ところで、そのヤマトのマゼラン銀河巡行だが、

 どんな感じで進むのだったかな?

 いや……ガミラスで演説をすることへの緊張が酷くてな、

 あまり説明を覚えていないんだ……」

 

「心労お察しします。改めて説明させていただきましょう。」

 

ヴェルニーも表情を綻ばせ、傍らの部下に記録デバイスを受け取り説明を始めた。

 

「宇宙戦艦ヤマトはガミラス時間の明日5時に、

 バンパレラ貨物港基地を発進し各寄港地へと向かいます。

 寄港地は分離独立運動が生起した植民惑星などで、

 ガミラスの行政区分で言うと7つの管区に跨がる全12ヶ所が予定されています。」

 

ムベキは説明を聞きながら、

ヴェルニーがデバイスで見せた宇宙地図に表示されるヤマトがたどる予定の

寄港予定地・航路を順繰りに目で追った。そこで奇妙な点に気付く。

 

「……おや?……この予定図では往路しか描かれていないのかね?」

 

「えぇ、往路ではご覧のようにマゼラン銀河外縁の植民惑星まで行くのですが、

 そこからガミラスまでの帰路は我々にも明かされていません。

 航路の設定はガミラス側との協議で決定されたのですが、

 警備の都合上、反体制派による待ち伏せの恐れが格段にはね上がる復路の情報は

 ヤマト幹部クルーとしか共有できないということだそうで……。

 しかし、おおよその日程は知らされました。

 往路で約1ヶ月、復路は最長でも1週間程度のようです。」

 

「ふむ……無理からぬことだが……。我々には無事を祈ることしかできんな。

 ……それで、ガミラス星にヤマトが戻ってきたら私も、君も外交団全員を収容して

 地球への帰路に?」

 

視線をデバイスから移したムベキの問いに、ヴェルニーは肩を竦めて返した。

 

「……そこなんですが、外務局本部から協議や交渉の都合如何で

 外交団との別行動も視野にいれるように申し渡されておりまして、

 私ども外務局員の数名は途中から同道できなくなるかもしれません。」

 

「おや、それではガミラスに残ることもあり得ると?」

 

「現時点では、何とも言いがたいですね……」

 

ヴェルニーは質問に対し、言葉を濁すに留めた。

それに対し、ムベキはさして気にした様子は見せずに微笑するのだった。

 

「まあ、構わんさ。

 お互い外交団としての職務を果たそうじゃあないか。地球のため、人類のために。」

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、ガミラス国防軍バンパレラ貨物港基地では。

ヤマトが停泊する埠頭の向かって西側の隣設埠頭に、新たな艦影が着水・入港していた。

 

その艦はメルトリア級巡洋戦艦「バーゲルスト」。

ヤマトのマゼラン銀河巡行に同行する護衛艦隊指揮官となったバーガー大佐の乗艦で、

護衛艦隊の旗艦である。

 

しかし、当のバーガーの姿は同艦のどこにもない。

彼は護衛艦隊の責任者として宇宙戦艦ヤマトに赴き

山南艦長や、バーガーと親しい間柄の同戦術長古代大尉らと巡行中の行動について

説明や議論を行っていた。

 

バーガーが留守にしている「バーゲルスト」艦内では、

出撃前独特の穏やかさの中にぴりついたものが含まれた雰囲気が漂っている。

本人の強い希望のもとで空母「ランベア」から特別に異動してきた年少兵、

ミルト・エヴァンスもその空気を感じ取っていた。

 

「……皆さん、緊張してますね……。……七色星団の時を思い出すなぁ……」

 

彼は空母「ランベア」の伝令兵として七色星団海戦に参加、

さらにシャンブロウ海戦を生き延びた男だ。

あれから1年弱ほど経ったが、何とか故郷に帰りついた彼はその後も軍務を継続し、

転属の際に自身ら「ランベア」の少年兵を生きてガミラスまで帰してくれた恩人である

バーガーの下で働きたいと希望、

折からの人員不足も手伝って希望が受理され、今に至る。

 

彼と同じように、ドック入りした「ランベア」から

バーガー麾下の部隊への異動を希望し配属された年少兵は少なくない。

彼らは、栄光あるドメル軍団の一翼を担った第7駆逐戦隊のベテラン兵たちによる

愛ある()()()を受け、宇宙の戦士として確実に成長を遂げつつあった。

 

「おぉ、坊主。次は艦橋の掃除を頼めるか?」

 

「あっ、艦長!りょ、了解であります!」

 

そこに、巡洋戦艦「バーゲルスト」艦長のエルート・リデム少佐が現れ、

エヴァンスに次なる任務を申し付けた。

エヴァンスは掃除用具を抱え、艦長に続いて「バーゲルスト」艦橋へと足を踏み入れた。

 

年少兵が一通り掃除を終えた頃、再び艦橋のドアが開き誰かが入ってくる。

エヴァンスが振り返って見やると、入ってきた人物はバーガー大佐だった。

 

「お、エヴァンス。掃除ご苦労!

 ……で、悪いんだがこいつを温めておいてくれないか?」

 

バーガーはエヴァンスに気付くと、地球製の液体容器を手渡した。

どうやら「ヤマト」でもらってきた地球の飲み物らしい。

運んでくるうちにぬるくなったから、

温め直してカップに注いで持ってこい、ということだった。

 

エヴァンスが命令に従って艦橋から出ていくと、

バーガーはリデム艦長の傍に歩み寄ってきた。

 

「……どうでした?護衛の計画の方は」

 

「あぁ、特に問題なくってところだ。

 ヤマナミって艦長、ぽやっとしてるが相当のキレ者だな、ありゃ。」

 

バーガーはヤマト艦内で行ってきた説明を思い返しつつ、リデムと語らい始める。

 

バーガーがヤマトクルーの面々に説明したところによると、

ガミラス側の護衛艦隊は二手に分かれてヤマトに同行することになっていた。

一つはバーガーが率いるヤマト直衛部隊で、旗艦「バーゲルスト」、

巡洋艦6隻、駆逐艦8隻の少数精鋭の陣容である。

 

もう一つの部隊はかつての地ガ和平交渉の際にガミラス外交団を地球まで送り届けたシー・フラーゲ中将が率いる間接護衛艦隊。

バーガー艦隊の3倍近い艦を擁する大部隊であり、

目立つ分こちらが陽動を引き受けることになっていた。

 

「封印の件の反応は?」

 

「ま、予想の範疇だったが大分突っ込まれたよ。

 最後にゃ仕方ねぇって折れてくれたがな……」

 

リデムは前々からの懸案であった事項について尋ねる。

それは、マゼランの植民星各地への巡行を行うにあたり

ヤマトの大半の武装に封印を施すというガミラス側からの要請だった。

 

「無理もないでしょうねぇ……艦をほぼ無防備にしろって言ってるようなもんですし」

 

艦と乗員の生命を預かる身として、

リデムはヤマトの幹部乗組員への同情の念を込めて嘆息する。

分離独立運動側などを過度に刺激しないよう、ガミラス政府から出された要請では、

宇宙戦艦ヤマトは全主砲・副砲の装填部・エネルギー流路に栓が施され、

各部空間魚雷発射管やVLSからはミサイルが抜かれることになっており

その状態でヤマトが使用可能になるのは近接対空火器(パルスレーザー)のみであった。

 

当然ながらこれに対し地球側、特に矢面に立つ張本人であるヤマト乗員は反発した。

いくら民族主義独立派に砲を向ける意思がないことを

明確に示す必要があるとはいえ、やりすぎだ、と。

 

旧デスラー親衛隊残党など強力な反体制勢力が跋扈するマゼラン辺境方面に向かう上で、

ここまで武装に制約を受けることは自殺行為に等しい。

護衛がついたとしても、万一の事態が生起する可能性が高い以上、

相応の自衛手段は有しておかねばならない……実に、真っ当な主張だった。

 

とはいえ巡行任務が高度な政治的案件である以上、独立派を刺激することや、

武装蜂起など過激な手段をとらせる口実を与えてはならない。

解決には慎重さが求められた。

 

そして、度重なる事前協議の結果、反体制派による襲撃の危険性が増す

ガミラス星への復路に限り各空間魚雷発射管へのミサイル装填が認められた。

ショックカノンへの砲栓は要請通り

ガミラス星帰着後に解除されることとなっている。

バーガーは力を籠めて拳を握り、誓うように呟いた。

 

「今回ばかりは、あのヤマトも無敵という訳にゃあいくまい。

 その分、俺達が死力を尽くしてヤマトを守らなきゃあなんねぇ……。

 艦長、窮屈な役回りだが宜しく頼みたい……!!」

 

バーガーの言葉に、リデムは不敵に口端を吊り上げて返す。

 

「……この艦は、カレル163で一時はヤマトを追い詰めたんです。

 そのヤマトを守るに、これ以上の適任はおりますまい……!」

 

そうしてバーガーとリデムは互いに手を組み、獰猛な笑みを交わすのだった。

 

「失礼します!バーガー大佐、艦長、お飲み物をお持ちしました!」

 

そこに、先ほどバーガーがヤマトの土産として持ってきた地球の飲料を

温めに行っていたエヴァンスが戻ってきた。

バーガーやリデム、艦橋にいた士官などに飲料が入ったカップが配られる。

リデムはカップに注がれた黒い液体を覗き込み、バーガーに訊いた。

 

「……大佐、こいつはどんな飲み物なんで?」

 

地球(テロン)の"コーヒー"とかいう煎った豆の抽出液だそうだ。

 ヤマトの船務長が作ったやつらしくてな、

 コダイの野郎、宇宙一だと惚気てやがったぜ」

 

「へぇ~、ま、確かに匂いは芳しいですな」

 

カップからあがる湯気を嗅ぎ取り、怪訝だった表情を緩めるリデム。

バーガーの盟友コダイ大尉が絶賛した、ヤマト船務長特製のコーヒーが入ったカップが

持ってきたエヴァンスを含め「バーゲルスト」艦橋に詰めていた全員に行き渡ると、

バーガーはカップを掲げ声を張り上げた。

 

明日(みょうじつ)5時!俺たちはヤマトを護衛しこのガミラスを発つ!

 行き先は何が待つか分からねえマゼランの外縁だ!

 だが、俺たちはヤマトを守りきり!全員で生きてガミラスに帰ってくる!

 俺たちなら必ずやれる筈だ!俺たちの船出を祝し、乾杯ッ!」

 

「「「乾杯!」」」

 

バーガーの音頭で盛り上がった艦橋内の将兵は、

一斉にカップの中身を飲み干すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、エヴァンスが艦橋内の掃除をやり直す羽目になったことと、

ヤマト船務長の淹れるコーヒーの悪評がガミラス軍で広まったことは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____マゼラン辺境域の何処かの惑星。

 

ここに表向き放棄され、データベースからも抹消された基地が存在し、

旧デスラー親衛隊残党の艦隊が集結していることを知る者は極めて少ない。

 

巨大なクレーターに建設された艦艇発着場には、あの民間タンカーに偽装した、

親衛隊のクローン兵士製造プラント船も停泊している。

その艦橋では、クローン士官のナッター・ネルゲが彼の上官である

ゴロラー・ケス親衛隊中将と極秘の通信を行っていた。

ケスはこの秘密基地とも別の場所におり、ネルゲも居場所を知らない。

 

「……閣下、件の物資は確かに受領いたしました。しかし……」

 

『……何か、あるのかね?』

 

秘密主義者であるケスとの通信は音声のみのやりとりで、

映像でケスの顔を見ることはできない。

音声も巧妙に加工されており、万一傍受されても何者か探ることは不可能となっていた。

そんな無機質で不気味な相手との通信で、ネルゲは報告と共に疑問を呈した。

 

「……は。()()()のことであります。

 あの男が持つ必要な情報を得た以上、既に利用価値は無いものと考えておりましたが、

 まさか本当に指揮官として軍に迎えた上、最重要作戦の指揮をお任せになるとは……」

 

ネルゲは困惑気味の声色で話す。

そして、ちらと艦の窓から基地の発着場に停泊する、一隻の艦に視線をやった。

 

その艦種はガイデロール級航宙戦艦。

親衛隊の艦らしく、ベースとなる塗装は"高貴なる青"だが、

その上からは黒と白のダズル迷彩が新たに追加されている。

電子加工されたケスの言葉が、ネルゲの視線を艦橋の天井モニターへと引き戻した。

 

『……貴官は不満かね?』

 

「いいえ!滅相もありません、閣下!」

 

ネルゲは焦燥と怯えを若干にじませた声で訴えた。

通信の向こうにいる人物がナッター・ネルゲを"消す"ことは容易いのである。

そのケスは、くっくっと小さく笑い、語りだした。

 

『……安心したまえ。

 "彼"の能力では作戦遂行に不安があるのだろう?……その懸念は理解する。

 だが彼とて無能ではないし、何より件の"切り札"がある。

 それを最大限活かすために、"彼"の持つ情報が必要だったのだ。

 ならば、彼にやらせるのが確実だろうからね……』

 

「……閣下が仰られるのであれば、間違いはないと考えます。」

 

ネルゲは、頭を下げてケスの決定にこれ以上の異論を唱えないことを決めた。

そんなネルゲの内心を知ってか知らずかケスは新たな話題を切り出した。

 

『____』

 

「……!?……了解いたしました。」

 

ネルゲは語られた新情報の意外さに目を丸くし、通信の彼方のケスは薄笑いを浮かべる。

 

マゼラン銀河という伏魔の海は今、

宇宙戦艦ヤマトの巡行を軸として大きな波乱へと突入しつつあった……!

 

 

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