長らく時間がかかり申し訳ありません。
その分、内容は長く濃くしたつもりなので楽しんでいただきたく存じます。
平均の約2倍とかこれマジ?
【第44話】
西暦2201年11月6日。
共和政ガミラス国防軍の少年兵ミルト・エヴァンスは、
大マゼラン銀河辺境域の入口にあたるザグテン大管区の一角、
工業惑星ドレズテンに置かれた基地にいた。
宇宙戦艦ヤマトのマゼラン巡航の寄港地の一つだったこの惑星では、
地球・ガミラス間の条約締結以前から航宙機部品工場などで
民族主義分離独立運動に触発された労働者の大規模なストライキが発生していたが、
当局側の譲歩とヤマトによるデモンストレーションで分離独立運動の気運が
萎んだことから収束することになり、今では各種工場は生産活動を再開し
ドレズトはデスラー体制時代以来の平静を取り戻しつつあった。
そんな工業地区に隣接した国防軍基地では、
エヴァンスら年若い兵士たちなどが列をなして
双胴宇宙貨客船徴用型の兵員輸送船に次々に乗り込んでいる。
巡洋戦艦「バーゲルスト」をはじめバーガー大佐指揮下の
宇宙戦艦ヤマト護衛艦隊に乗り込んでいたはずの彼らがなぜ、乗艦を離れているのか。
それはヤマトがこの星に寄港した際に遡る。
ヤマトが工業惑星ドレズトに寄港した際、
バーガー大佐は艦隊が危険度が高い辺境宙域に突入することを鑑み、
万一の事態に備え年少兵たちを中心に艦の運用に最低限必要な人員を残して
エヴァンスらは足手まといにはならないと抗弁したのだが、
バーガーはこう言って一蹴した。
「お前らが邪魔だから降ろす訳じゃねェよ。一足先に帰ってろってだけだ。
心配すんな、俺たちくらいになると簡単には死なねぇ。
全員で生還するって言ったろう?
そのためにも指揮官たる人間は最善策をとる必要があるのさ。
悔しいと思うんなら……向こうでまた合流した後、たっぷりとしごいてやるぜ!!」
そして艦隊全体の1/3近い兵員が
兵員輸送船で別途ガミラスへの帰路につくことになった。
輸送船の乗船口に向かう列の中で、エヴァンスはバーガーや先任兵が残った
ヤマトの護衛艦隊が航海しているであろう夜空を、不安な顔つきで見上げた。
「バーガー大佐……リデム艦長……みんな、大丈夫かな?」
その頃、当の宇宙戦艦ヤマトと護衛艦隊計16隻は順調な復路の航海を続け、
大マゼラン銀河辺境から同銀河中枢のサレザー方面に向かう航路の
分岐点と言うべきポイントに達しつつあった。
深緑の艨艟に守られた巨艦の艦橋では、2年前の航海を彷彿とさせる
一種の緊張感が乗員の間に漂う。
彼らの脳裏には3日前に幹部乗員を集めて行われた、
ガミラス星への帰路についての会議が思い起こされていた。
ヤマト艦長山南修は、
シー・フラーゲ中将らガミラス護衛艦隊司令部と秘匿回線を使用して
敵の襲撃が予想されるガミラス星への帰路にどのようなコース・日程をとるか協議。
その結果ガミラス側が事前に温めていた、親衛隊残党の襲撃をかわす、
とある秘策が実行に移されることになった。
現在、ヤマトがいる宙域はガミラス星のあるサレザー方面とは
濃密な星間物質が立ち込める航行困難宙域が壁となり隔てられているような位置である。
そのためヤマトと護衛艦隊は近く差し掛かる航路分岐点で
問題の航行困難宙域を大きく迂回するルートをとる必要があるのだが、
この場合かなりの遠回りを強いられることになり、
航海日程を長くとらねばならず必然的に敵が襲撃するチャンスが多くなる。
会敵の可能性を出来るだけ下げるべく、
ヤマトと護衛艦隊は航行困難宙域を突っ切る策が提案されたのだ。
しかし、これにヤマト乗員と直衛ガミラス艦隊の指揮官バーガー大佐は懸念を示した。
現在の状況は2199年時のヤマトのイスカンダル行における
七色星団海戦前の状況と酷似しているのだ。
当時のヤマト艦長沖田十三はガミラス側の裏をかく意図を持って
航行困難宙域である七色星団を突破するコースにヤマトを導いたのだが、
かつてのガミラス国防軍銀河方面軍司令長官エルク・ドメルは
その目論みを読み切り艦隊を七色星団に配置。
結果、両陣営は七色星団で激闘を繰り広げたのである。
当事者であるヤマトクルーとバーガーは同様の事態が起こることを危惧した。
だが当然ながらガミラス側もその可能性は考慮に入れており、
その上でこの策を推していた。
まず、ガミラス護衛艦隊の主力部隊が陽動として
徹底的な情報統制・秘匿のもとで迂回航路を進行する。
陽動の存在はヤマトのイスカンダル行当時には存在しなかった要素である。
そしてヤマトとバーガー大佐の直衛艦隊のみで航行困難宙域突破を行うのだが、
ここに七色星団海戦の事例と異なる点、
このガミラス星への帰路航海日程短縮作戦の肝となる要素があった。
七色星団の場合、縮退星の重力干渉により
ヤマトがワープアウトする可能性があるポイントは限られており
そこで待ち伏せていた次元潜航艦UX01に捕捉されヤマトは
ドメル艦隊からの攻撃を受けることになった。
今回の航行困難宙域にもワープ航行を阻害・ワープアウト地点を限定する要素たる
重力源は複数存在し、そこに張り込まれていた場合伏撃は避けられないだろう。
重力干渉を避けようとしても、航行困難宙域を形成する濃密な星間物質や
アステロイドがワープアウト先に現れ最悪の場合ワープアウト直後に
それらと激突するリスクが存在していた。
では、どうするのか?
航行困難宙域の一画、ワルゴニア原始恒星系。
若い恒星の周囲に大量の岩塊だけが漂うこの恒星系には、
密かに無人ワープ管制ステーションが配備されている。
星系全域のアステロイドの分布や恒星ワルゴニアの活動を常時観測し、
ワープアウトに適した位置情報を艦船にもたらし誘導・管制を行うのである。
この無人ステーションは、かつて権勢を誇った大貴族ヘルム・ゼーリックが
極秘裏に配したものだった。
ガミラス中枢部にて万一の事態が自身や門閥に起こった場合を想定し、
早急にマゼラン辺境域へ脱出し体制を整えられるよう"抜け道"を作っていたのである。
当然ながら、この無人ステーションを利用するには厳重なロックを解除せねばならず、
その解除パスコードを知るのはゼーリック本人や彼の身内、一部の側近のみである。
しかし、デスラー復権運動に連動して行われたゼーリックの名誉回復運動に端を発する
旧貴族層との融和により、ガミラス共和政府はゼーリックの近親から密かに
管制ステーションの存在とその制御権限を得るためのパスコードを入手していた。
生前のゼーリックはデスラー親衛隊と水面下で激しく対立しており、
こうした脱出用プログラムはトップシークレットとしていたため、
ヤマトがワルゴニア星系から航行困難宙域を突破するコースを
親衛隊残党が察知する可能性は低い。
万一ワルゴニアに敵が艦隊を展開しようとしたとしても、
アステロイド密度が極めて高いワルゴニア星系に
無人管制ステーションの助けを借りずにワープすれば
ワープアウトした途端にアステロイドと激突し宇宙の藻屑となる末路が目に見えている。
現在の状況下において極めて有用かつ安全なルートであると言えた。
……斯くして、
ヤマトとバーガー護衛艦隊はワルゴニア星系を経由して航行困難宙域を突破して
ガミラス本星側にある大規模な国防軍基地がおかれている惑星まで航行、
そこでフラーゲ艦隊との合流を待つことなく別の護衛艦隊と共に
ガミラス本星へ先行し帰還する……という行程をとることになっていた。
「……艦長、間も無く予定地点に到達します!」
「うむ。護衛艦隊旗艦の「バーゲルスト」とのデータリンクを開始、
及び、ワープの準備に移れ!」
島航海長からの報告を受け、山南艦長は声を張って命じた。
試算の上では、件の無人管制ステーションは堅牢であり
送られてくるデータも信頼できるはずだ。
ヤマトの安全を図るのであれば、これが最善の選択である筈……
山南は内心で自身に言い聞かせる。
やがて、バーガー大佐の旗艦がパスコードを利用し
遥か彼方のワルゴニア星系の管制ステーションからワープアウト位置誘導データを受信、
ヤマトと艦隊各艦に共有する。
ヤマトの艦橋クルーは入手したデータを
コンピューターに入力しワープの準備を進めていく。
そう離れていない宙域からは、フラーゲ中将麾下の護衛艦隊本隊が
ヤマトと直衛艦隊の周辺に敵が潜んでいないか監視している。
ヤマトのワープ後は同艦隊はヤマトが安全圏に入るまで陽動として
動くことになっており、最終的にはヤマト護衛の任から離脱する予定だ。
そして全ての準備が整い、ヤマトと護衛のガミラス艦隊は前面に広がる航行困難宙域に、
ともすれば伏撃の恐れも大きい領域へと侵入する。
突破口ワルゴニアを目指し、16隻の艦隊は超空間へと飛び込んでいった……。
荒涼とした印象を抱かせる、若い恒星系の一画に光が灯る。
青白い輝き__宇宙艦艇がワープアウトする際に放つ独特の閃光だ。
光の中から飛び出してくる艨艟の至近には、幸いアステロイドは存在しなかった。
ガミラス共和政府が得たゼーリックの遺産は、有効に機能していたのである。
宇宙戦艦ヤマトとバーガー大佐率いる護衛艦隊は損害を負うことなく
航行困難宙域に人知れず空いた突破口、ワルゴニア星系へと到着。
すぐに艦隊は周囲に敵影がないか確認を開始する。
「コスモレーダー、ガス状星間物質及び恒星の電磁波により精度低下します。」
「各部、目視による警戒を厳とせよ!」
敵の出現の可能性が低いとは言え、安全地帯ではない。
そもそもここは原始恒星系というアステロイドが多数浮遊している危険な宙域なのだ。
慎重に歩を進めていくヤマトとガミラス艦隊。現在位置は艦隊の進行方向からみて
左舷前方に恒星ワルゴニアを望み、恒星の回転につられて公転する
広大なアステロイドの円盤の最外縁近くだ。
このまま直進して円盤状アステロイド群を抜ければ、
艦隊はエネルギーの回復と恒星の重力に干渉されることなく
ワープインできる空間に到達できる。かかる時間はおよそ半日ほどだろう。
ガミラス艦隊は宇宙戦艦ヤマトを中心に置いた球形陣を敷き航行する。
ワルゴニア星系内にワープアウトし、同星系内を航行すること6時間が経過する。
再度のワープが行えるポイントまでの道程の半分を消化し、
艦隊は原始恒星を左舷真横に捉えていた。
そんな艦隊の前に、明らかな人工物が設置された大型小惑星が
公転の流れにのって現れる。
ヤマトの天井モニターにも望遠映像が映し出された。
「あれは……」
「例の無人管制ステーションと思われます。距離およそ2万。」
星系内でもそこそこのサイズの小惑星に、暗緑色をした円盤形の人工物が
張り付いているような外観の無人ワープ管制ステーション。
長距離通信用のアンテナは小惑星同士の衝突を警戒して格納式となっているようだ。
あのステーションが存在しなければ、
ヤマトはワルゴニア星系に到達することはなかったであろう。
ガミラス星への復路日程短縮の立役者と言える存在だが、
その本来の主であるヘルム・ゼーリックはヤマトのバラン襲撃の折りに生命を落とした。
最期は自業自得であったにせよ、その行動や死によるガミラス国内の混乱は
ヤマトのイスカンダルへの航海を多いに助けることになった。
そして今、またしても彼の遺産がヤマトの航海を助けているのは皮肉であろうか。
このヤマトのマゼラン派遣行に先んじて、
打算を込みにしても彼の名誉が回復されたのはせめてもの救いか。
今回、恐らく初めて使用されたであろう無人ステーションは何を語ることもなく、
流れのままヤマトと護衛艦隊の傍らをすり抜け去っていくものだろうと思われたが……。
「「「!!」」」
なんの前触れもなくステーションは紅蓮の焔を吹き上げ
設営されていた小惑星もろとも爆ぜて砕け散った。
突然のことに呆然とし、硬直するヤマトクルーたちだが、
この瞬間にも事態は急速に動き始めていた。
「……前方1万にエネルギー反応多数出現!……艦艇クラスです!」
「ッ!……総員、第一種戦闘配置!」
「護衛艦隊旗艦「バーゲルスト」より入電!
『直ちに退避されたし。我らを顧みることなかれ』!!」
「ガミラス艦隊、本艦前方に展開!敵艦隊へ向かいます!」
爆発した小惑星の向こう側に浮かぶアステロイドの影から、
探知を逃れるために停止していた機関を再起動させ
ヤマトを守っていた護衛艦隊と同じシルエットの宇宙船群が現れる。
異なるのは"高貴なる青"と呼ばれる特有のカラーリングのみ、
___デスラー親衛隊の航宙艦隊だ。
この場のヤマトクルーたちとガミラス護衛艦隊乗員共通の疑問は
安全である筈の宙域に、なぜ親衛隊残党艦隊が現れたのか、の一つだけだったが
その答えは現れた敵群の最後尾にある。
親衛隊残党襲撃艦隊の旗艦であるその艦は、
他艦同様深青の塗装をベースにしつつも所々に白と黒を迷彩状に配色していた。
ガイデロール級戦艦「ゲルガメッシュ2世」、
この伏兵たちの指揮を執るガミラス国防軍元少将、
"忠臣"グレムト・ゲールの座乗艦だった。
「ヤマトォ!!ここで会ったが百年目!覚悟しろォ!!」
興奮気味に声を張り上げ指揮仗を振るうゲール。無理からぬことだ。
自身の軍歴にとことん傷をつけた挙げ句、
敬愛する総統デスラーの体制を崩壊に追い込んだ元凶と呼ぶべき仇。
それをまた、格好の獲物として目の前にしたとき心踊らずにいられようか。
ヤマトやガミラス共和政府は知る由もないだろうが、
全てはこの時のための布石であった。
グレムト・ゲール、
彼もまた"もみあげゼーリックの腰巾着"と揶揄されていたゼーリックの側近。
ゼーリックからは密かにワルゴニアの"抜け道"と
そのパスコードについて教えられていたのである。
元来より、ガミラス本星からマゼラン辺境域へ脱出するための障害である
航行困難宙域に置かれたであろうゼーリック一派の"抜け道"は
既に親衛隊によって存在を察知されていた。
そして2201年にヤマトがマゼラン銀河に来航し
辺境域で地球とガミラス共和政府の友好を喧伝する
デモンストレーション航海を行うという情報を得て、
ヤマトが復路において襲撃をかわすため密かにこの"抜け道"を使用する可能性が高いと
親衛隊残党艦隊は睨んだ。
そこで彼らは"抜け道"についての情報を得られる可能性がある
収監中のゲールを脱獄させ、艦隊に迎えたのだ。
そして現在。
ヤマトと護衛艦隊が通る予定の進路上のアステロイドの影に潜んでいた
ゲール艦隊50隻余は、1/3ほどの戦力しか持たないバーガー艦隊を
前方から上下左右に大きく半包囲すべく鶴翼陣形へと展開。
開戦の号砲は、襲撃艦隊旗艦「ゲルガメッシュ2世」の
330ミリ陽電子ビーム砲の斉射であった。
「敵艦隊発砲!」
護衛艦隊旗艦、メルトリア級巡洋戦艦「バーゲルスト」艦橋内では
オペレーターが緊迫の声で報告する。
艦隊司令のフォムト・バーガー大佐も、エルート・リデム艦長も、
艦隊の将兵は揃って宇宙服を着用していた。
これは、万一襲撃・戦闘が生起した際に乗組員の生存確率を上げるために
バーガーがとった措置であり、最悪の形で役に立ったことになる。
そのバーガー大佐は、艦長と冷静に状況を分析・思考を回転させていた。
「……どうやら敵は用心棒の我々を葬り去ってから、
確実にヤマトを仕留めに行く気のようですな」
「そうらしいが、奴さんの思惑に乗ってやるつもりは無ぇ。
……"全艦、遅滞戦闘に徹しろ!敵弾を回避しつつ牽制射撃!突出はするな!"」
バーガーはマイクを握り、艦隊各艦に命令を飛ばす。
護衛艦隊で敵を釘付けにし、ヤマトが逃げる時間を稼ぐのだ。
「フラーゲ艦隊に救援要請は出したんだな?」
「ハッ!"我、襲撃を受く。至急来援乞う"と打電しましたが……」
リデム艦長が「バーゲルスト」通信長に訊く。
そこで、バーガーが嘆息混じりに呟いた。
「まぁ、来られまいよ。」
「我々だけでどうにかせねばなりませんな。」
襲撃に先駆けて、敵はワープ管制ステーションを破壊し
ワルゴニア星系内への安全なワープを不能にした。
即ち、来援ルートを塞がれた格好になる。
それは親衛隊残党艦隊に対しても同様のことが言えるが、
元より戦力的には敵が大きく勝っている以上デメリットにはならない。
それは必然的に、バーガー艦隊独力でヤマトが脱出するまで
粘らねばならないことを意味する。
「ヤマトの現在位置は!?」
「我が艦隊の後方1万、最大船速で離脱中!」
バーゲルストのモニターにはヤマトを示すマーカーが
戦域から急速に離れていく様が映されている。
「いいぞ、ヤマト。振り返るんじゃねぇぞ……。」
「このコースだと、アステロイドが特に密集するエリアに侵入しますな。
小惑星を盾にするつもりか……」
そこまで二人が話すと、アラートが鳴り響く。
両翼に展開する敵駆逐艦がミサイルを発射してきたらしい。
「全艦、迎撃ミサイル発射!」
バーガー艦隊も防御のためミサイルを応射、
両陣営のミサイルは共食いし、虚空に火球を生じさせた。
「妙ですな、どうにも本気でこちらを潰しに来ている気がしない。
遠距離攻撃を繰り返してますぜ」
「あぁ。敵艦隊の動きはどうだ!?」
「依然変わらず!引き続きこちらを圧する構えです!」
バーガーは訝しみ、眉間に皺を寄せてモニターの敵マーカーを睨む。
数の優勢を活かしてこちらを逆に足止めし、
一部を分離してヤマトを追撃させるつもりか……と考えてみるも、敵陣形に変化はない。
両軍は虚しく空振り続きの遠距離砲戦に終始している。
(まさか……!)
ここでバーガーの脳裏に、見落としていたある可能性が浮かび上がるのだった。
一方、宇宙戦艦ヤマトは護衛艦隊を尻目に、
機関を目一杯回転させ戦場から遠ざかりつつあった。
その第一艦橋、戦術長シートに座する同艦の戦術長・古代進は口惜しさを胸に溜めつつ、
レーダーで捉えられた敵情と、ヤマトに発射が許されている
各部空間魚雷・ミサイル発射管及び
対空パルスレーザー砲塔の戦闘配備状況を確認していた。
(……バーガー)
置かれた状況を鑑みて彼は、
アケーリアス文明の方舟だった惑星シャンブロウでの戦いを想起する。
あの時は、ガトランティスの大型戦艦に狙われたガミラス空母「ランベア」を守るため
ヤマトは敵艦隊との戦闘宙域を離脱し、
バーガーの指揮する戦闘空母「ミランガル」が残留した。
翻って今は、ヤマトはただ自艦を守るために脱出し、
またしてもバーガーが矢面に立っている。
詮なきこととは言え、戦友が戦っているにも関わらず
何も出来ずに逃げることしかできない我が身を呪う古代。
(……そうだ、確か兄さんも沖田艦長の「キリシマ」を守ってガミラス艦隊に……!)
思い起こして古代は戦慄する。
自身はまたしても喪うのか。兄を、師を、そして友を__。
ヤマトは万一の際の盾とするため、
アステロイドが一層密集するエリアへ進入する。その時だった。
「……!ば、バーガー大佐から入電です!」
「何!?」
後方で戦闘中のバーガーから突如ヤマトに電文が入る。内容は直ちに読み上げられた。
「"退避先に敵の伏撃の恐れあり、警戒されたし"!!」
「ッ!!」
相原が読み上げたメッセージに
ヤマト艦長山南は弾かれたように顔を上げ、表情をひきつらせた。
何故こんなことに早く気付けなかったのか。
どんな方法を使ったのかは不明だが、
敵艦隊が現れる筈のないと思われていた星系で待ち伏せていた以上、
敵はヤマトと護衛艦隊がどう動くかを計算し尽くしていた筈なのだ。
護衛艦隊がヤマトを守るため足止め役を担い、
ヤマトを脱出させるであろう行動パターンも!
武装を封じられたヤマトが敵の攻撃からの盾とするため
アステロイドが密集するエリアへ進入することも!
敵が護衛に妨害されることなくヤマトを叩くため、
護衛艦隊を有力な陽動で引き剥がし単艦で退避したところを、
更なる待ち伏せによって攻撃することは容易に予想できた筈なのだ。
突然の襲撃によって浮き足立っていたとは言え、
ヤマトを預かる身としてはあまりにも痛い
「前方のアステロイド帯に舟艇クラスのエネルギー反応!数、20!」
そしてその危惧は直後に現実のものと化す。
ヤマトの前方に、アステロイド帯に張り付き潜伏していたであろう
ガミラスのFS型宙雷艇20隻が出現。
自慢の快速性能を存分に活かしてヤマトに迫ってきた。
「敵宙雷艇、ミサイル発射!数40、速い!」
20隻の宙雷艇は予想以上に早く懸架されていた各艇2本の大型対艦ミサイルを射ち放つ。
ヤマトから離れている地点で発射されたミサイルは
それを補って余りあるほど高速でヤマトへ向かう。
「舵そのまま!後進一杯!」
「宜候、舵そのまま、後進一杯!!」
山南は敵ミサイルの速さから転舵も回頭も間に合わないと判断し
ミサイルに正対したままの後進を指示。
宇宙戦艦ヤマトの舵を握る島航海長や徳川機関長もそれに従い
ミサイル対処のため全速でヤマトを下がらせる。
「投射可能な全空間魚雷・ミサイルを持って敵弾を迎撃する!急げ!!」
「了解ッ!艦首空間魚雷、両舷側ミサイル、VLS全門、
矢継ぎ早に山南は古代に持てる武装での迎撃を命じる。
ヤマトは復路において装填を許された各部ミサイルを
惜しげもなく迫る敵ミサイルへと放った。
ヤマトの前方空間で起きる大爆発。
ヤマトから放たれた30発の迎撃ミサイルは見事に敵の奇襲を迎え撃った
ーーーかに見えたが。
「敵ミサイル健在!依然本艦へ向かってきます!!」
「「「何!?」」」
爆炎を突き破り、40本の敵ミサイルはヤマトに肉薄・艦を喰い破らんと疾走する。
敵がヤマト撃沈の切り札として持ち出してきたミサイルは、
想像を絶する頑強さを有していた。
「我が迎撃ミサイルで軌道が逸れ、本艦を捉える敵ミサイルは残り12本です!!」
「くっ!各部ミサイル、次弾は!?」
「装填が間に合いません!」
「駄目か……!」
指向・発射可能なミサイル発射管を全て使用してしまい、
着弾までに第二撃の装填・発射が間に合わない。
余りの事態に誰かが絶望の声を漏らした__。
「後方より急速接近する艦影1!……「バーゲルスト」です!」
「なっ!?」
絶望的な状況に、
突如としてバーガー座乗の護衛艦隊旗艦・巡洋戦艦「バーゲルスト」が登場した。
敵艦隊を押さえている護衛艦隊から離脱し、アステロイド帯の中でも構わず
急速で前進しヤマトの元へ駆けつけてきたのだ。
その艦橋ではバーガーが檄を飛ばしていた。
「ヤマトに指一本触れさせるな!残らず叩き落とせ!」
メルトリア級艦首にある6門の魚雷発射管から迎撃ミサイルが発射され、
ヤマトの左舷側をすり抜けると宙雷艇が発射したミサイルに突入、
先程のヤマトの迎撃ミサイルの爆圧で劣化していたのか、
今度こそ敵ミサイルは撃墜される。
さらに爆圧でヤマトから照準が逸れるミサイルも発生し
宇宙戦艦ヤマトを狙う敵弾は残り3本となった。
「「バーゲルスト」、本艦左舷をすり抜け前へ!
ミサイルと本艦の間に割り込みます!!」
「何をする気だ、バーガー!!」
船務長・森雪の悲鳴に近い報告に、
古代は飛び上がって艦橋窓から見える巡洋戦艦「バーゲルスト」を見た。
ヤマトの左脇を抜けて前に出た同艦艦橋では、
リデム艦長が艦前部のクルーに退避を命じていた。
「総員、直ちに艦の前部から離れろ!他の者は脱出艇区画へ移れ!……大佐。」
「__済まねェな、艦長。貧乏クジばかりこの艦に引かせちまってよ。」
「__大佐の無茶がいつもの事とは
「そうかい。だったら……
本艦はドメル艦隊生え抜きの誇りにかけて、ヤマト死守の任務を遂行する!
行けェェェーーーーーーー!!!」
ヤマトの前衛に躍り出た歴戦の巡洋戦艦「バーゲルスト」は、獣の咆哮さながらに、
艦前部に配された二基の三連装330ミリ陽電子カノン砲塔をミサイルに向けて発射する。
真紅の破壊光線は2基のミサイルを絡めとり撃墜。
最後の1基はなおもヤマトに照準を合わせ飛行するが
その前には「バーゲルスト」が立ちはだかっている。
艦橋から敵弾を見据えるバーガーの目に、恐れや怯えの色は一欠片さえない。
彼は、変わらぬ決意を込めてマイクに叫んだ。
「総員、衝撃に備えーーーッ!!」
次の瞬間、ミサイルは「バーゲルスト」の艦首へと突き刺さり、
烈光が宇宙空間を照らすのだった。