【第46話】
西暦2201年11月12日(地球時間)。
ガミラス共和国の首星となっているサレザー恒星系の惑星ガミラス、その首都たるバレラス市の
一等地に聳え立つ土筆のような茸のようなガミラス特有の形の高層タワービルディングにて。
同ビル『エーリク=ヴァム=デスラー記念パレスホテル』の一画にある、
警備兵に固く守られた貸会議室では
ヤマトから降りたロドニー・ムベキ遣ガミラス外交団団長らが
ヤマトのガミラス到着後の行動方針について外交団内部の意見をまとめるべく議論していた。
「……ヤマトは現在大マゼラン中枢域に進入、
サレザー星系へはおよそ二日で到達する距離に進出しています。
ワルゴニア恒星系による襲撃以降は何事もなく航行している……との事。」
「おそらく、親衛隊残党も襲撃が失敗したことで護衛と警戒が強化されたことを鑑み
これ以上のリスクを冒すことを避けたのでしょう。現時点でヤマトが襲撃を受ける可能性は
極めて低いと考えられます。あくまで現時点、大マゼランにいるうちはですが……」
「とは言え、敵は我々が襲撃を受ける可能性が低いと見たワルゴニアで
奇襲を仕掛けてきました。警戒を解くべきではないと考えます。」
外交団員たちがモニターに映し出されたサレザー大管区の宇宙地図とそこに置かれた
宇宙戦艦ヤマトを意味するアイコンを見やりつつ現況を整理する。
外交団長ムベキは、瞑目して状況を頭の中で組み立てていた。
「ヤマトのガミラス星到着は何時を予定していたかね?」
目を開き問いかけるムベキ。即座にある団員が応えた。
「はっ、地球時間で15日の午後3時を予定しています。
再度、バンパレラ湖の軍用貨物港へ入泊することになってたかと。」
警戒のため航行速度を落としているとは言え、ヤマトとガミラス護衛艦隊の船足であれば
団員が語った時刻の1日前にはガミラスに降下できている筈だった。
しかし現在のサレザー星系外縁部には外宇宙から来航する艦艇が通過を強制される"検問"が置かれ
そこでチェックを受けてから星系内に進入せねばならず何かと手間がかかるのである。
この検問にはガミラスで開発された人工重力源が利用されており、
ワープで星系内に侵入しようとしても強制ワープアウトを余儀なくされ、
敵であればそこで警備艦隊による迎撃を受けるのである。
言うまでもなく2199年のヤマトによるバレラス突入を許したことを反省した措置だったが
元来この強制ワープアウト装置による外敵阻止構想は古くから存在していた。
2199年時点では国防軍主流とゼーリック元帥ら貴族派閥の中央軍に加え
デスラー親衛隊などが首都防備を巡り政治闘争を展開していたこと、
何より"帝国中枢に侵入を許す筈がない"という指導部の驕りから設置が見送られていたのだ。
芹沢が視た世界線においては耐高熱壁と組み合わせガトランティス火力転送兵器の
対策に転用されていた技術を利用した星系警備システムは、
民主化と共に急速に実用化・配備され地球にも輸出が約束されている。
なお、ヤマトはこの航海で最初のガミラス入泊時と合わせてこの"城門入り"は二度目となる。
「……ひとまず、サレザー星系内に入れば安心でしょう。それくらいは信頼してよいのでは。」
「そうだな。……とりあえずヤマトが無事にガミラスに到着したということで話を進めよう。」
既に外交団はガミラス星でパーティーや催事に多数出席し
ガミラス各方面関係者とのコネ作りに腐心してきた。
この場にいないヴェルニー副団長らも、両国の大使館正式設立など
重要事項の用事をおおよそ済ませた頃だ。
ガミラスにおける外交団の任務はほぼ果たしたと言えるだろう。
だが、スケジュールはまだあった。
「……イスカンダルへの
一方の地球。
晴空と群青の狭間をひとつの影がゆく。
それは地球連邦防衛軍に編入された元ガミラス国防軍外洋機動艦隊所属の
ガイペロン級多層航宙母艦「バルメス」、地球に籍を移した現在の艦名は「アーガス」だった。
同艦はガミラス艦特有の深緑から新世代地球軍艦と同じ明るめのグレーに艦体色を塗り直し、
一部の電測機器を地球のものへ換装していた。
賠償艦及び技術資料として供与物資船団の1隻として地球へ来航、
搭載したガミラス製航宙機ともども地球へ引き渡された
「バルメス」、否、「アーガス」は小規模な改装と元乗員による指導のあと
試験艦・練習艦として防衛軍が運用している。
西暦2201年11月12日現在も、「アーガス」は乗員の習熟と科学局・防衛軍開発部門合同の
新型航空機開発プロジェクトに協力するため地球の空を翔んでいた。
同艦の現在位置は極東管区に属する島嶼、硫黄島の近海である。
「__後方3000mより試験機接近。着艦アプローチに入ります。」
「現針路・速度を維持。着艦甲板は準備にかかれ」
艦橋では、乗員が一部を地球のものに取り替えたモニターを睨んでコンソールを叩き
艦長のリチャード・ランシング大佐はこの日数度目かの発着艦テストを固唾を呑んで見守る。
やがて青い彼方から機影が現れ、誘導ライトに従い一直線に「アーガス」へと向かってきた。
それはXP-1501改、椎名博士ら研究チームが産み出したデータ収集用有人実験機である。
数々の飛行試験や実験、シミュレーションで得られたデータを元に度々改修され、
今回の試験では事前にガミラス空母に対応する着艦システムも組み込まれていた。
「アーガス」に肉薄したXP-1501改は誘導管制に正確に従い、ガイペロン級艦尾の並列二基の
メインエンジンと並列三基のサブエンジンとの間にある着艦甲板進入口へ悠々と滑り込む。
ガミラスのパイロット、それもガイペロン級での着艦に熟練した者と遜色ない見事な手際であった。
ランディングギアを甲板に接し制動装置で停止したXP-1501改の周囲には、宇宙空母の運用法を
習得せんとしている人間のクルー、整備員らにAU型・輸入ガミロイドの補助ロボットが群がり、
機体状態のチェックなどを開始した。また、上から数えて四番目の航空甲板にはこの実験機を
開発した研究チームが待機しており、機体を出迎えるのだった。
コックピットキャノピーが開かれ、
黒地に黄色の線が入ったパイロットスーツに身を包んだ男が梯子を伝ってデッキに立つ。
彼は歩み寄る無人機研究の俊英・椎名冥博士の姿を認めると装着していたヘルメットを脱いだ。
「お疲れ様、加藤中尉。お陰でいいデータが取れたわ」
実験機のパイロットは妻の妊娠により下艦しマゼラン派遣行には同行しなかった、
ヤマト航空隊長・加藤三郎が務めていた。
彼は相変わらずの坊主刈りの頭で彼女に敬礼を返す。
「こちらこそ、わざわざ計画に招いていただき光栄です」
加藤がシャワーを浴びている間、XP-1501改には研究陣が取り付き各種レコーダーの記録を回収。
「アーガス」会議室に設けられた臨時ラボで得られたデータの分析・フィードバックを行っている。
今回の試験は重力圏下での基本的発着艦や海上飛行などのデータ収集が目的だった。
データ整理が落ち着き、研究員が空母の中のラウンジなどに休憩に出ていった臨時ラボに、
シャワーを終えて着替え、実験機搭乗後に行われる健康診断を終えた加藤がやってきた。
椎名が座る長テーブルの反対に座ると、女博士との談話が始まる。
「……それにしても"弘法筆を選ばず"かしら?今日のは一際鮮やかな着艦だったわよ、中尉」
「まぁ、慣れって奴です。空母に乗る前からシミュレーターで訓練はしてましたし」
テーブルに座り、出された茶を口にしながら加藤は語る。
椎名はヤマト乗艦時の体験など研究に役立ちそうな些細なことでも貪欲に求め、
実験飛行以外の時間にも加藤との談話を希望した。
彼女にとって軍のトップエースという存在は非常に興味深い
ここで、加藤が思い出して言った。
「あぁ、そういえば実験の途中、ちょうどマリアナ諸島の東を飛んでた時だったんですがね。
南から来る船団を見かけたんですよ。ガミラスが賠償にくれたって言う船団だと思うんですが
なんであんなところにいたんでしょう?」
「それは多分、グアムに建設されてる大使館のための資材を運んでくる船団かしらね。」
「大使館、ですか」
意外な答えに加藤は目を丸くする。彼にとっては初耳だった。
「えぇ。芹沢副司令に研究について聞かれた際に教えてもらったのよ。」
本人いわく、研究の中間報告の際に小耳にはさんだとの情報を加藤に披露する椎名。
現在、マリアナ諸島のグアム島は地球・ガミラス政府の協定によって共和政ガミラスに貸与され
現在大使館庁舎が建設されているという。マリアナ諸島は地球連邦首都がある極東管区(日本列島)からも
地球におけるガミラス艦船の主要寄港地となっているカロリン諸島のトラック環礁からも近く、
利便性が高いと考えられたため大使館用地に選定されたのだ。
また島嶼であれば、いまだ地下でくすぶる対ガミラス強硬志向の過激勢力の抑止・対処も容易との思惑があった。
ここで、加藤が口を挟む。
「……博士、差し出がましいことは承知でお聞きしますが、
博士個人としてはガミラスのことをどう思われてるんですか?」
「……。」
思わず閉口する椎名。彼女は加藤から視線をはずしてぽつぽつと語った。
「……ガミラスは私の家族を奪った。そのことを忘れるつもりはないわ。
けどいちいち蒸し返していても仕方ない。それに彼らの技術は有用よ。
私は自分の研究と地球防衛のために、ガミラスと手を組むわ。
二度と弟みたいな戦争の犠牲者が出ないようにしたいから。
……とまぁ、世間一般と大差ない見方かしらね?」
「なるほど。」
加藤は彼女の回答に得心して頷く。今度は彼が聞かれる番だった。
「ところで、中尉は
そろそろ超空間通信ネットワーク整備が一段落する頃だし、ヤマトの航空隊長なら
そういうことがあってもいいんじゃないかしら?」
「いやいや、結構厳重でして。ヤマトは、
肩をすくめる加藤。
ヤマトのマゼランでの行動は防衛軍参謀総長のデューイ・ジェファソン大将が指揮する
運航プロジェクトチームと一部高官のみが知ることができ、外部には厳重に秘匿されている。
その中でもワルゴニア星系における襲撃の報は別個に送られ最高機密と化していたのだった。
加藤は大使館の件に話を戻した。
「それで、大使館はいつ出来上がるんでしょうかね?
ヤマトがガミラス大使を乗せて帰ってくる……なんてこともあり得そうですし、
ヤマトが戻ってくる頃合いの参考になると思うんですが」
「ま、いくら地球の現状に合わせて簡略化するにしたって外の星の大使館だからね。
そこそこの物を建設するわけだし急ピッチで進めて2ヶ月くらいはかかるんじゃないかな。
ーーーでも今回のヤマトは2ヶ月半でガミラスに行ったから、帰りも同じだとすれば
もうマゼランを発っているかもしれないわね。」
「なるほど。ーーー
きっと役に立つはずです。」
「えぇ。ヤマトの英雄たちだもの、期待しているわ」
二人は微笑みを交わしつつ次の話題へと移る。
地球連邦防衛軍の航空戦力再建を担う空母「アーガス」は、蒼海を悠然と行進していた。
大マゼラン銀河辺境のとある惑星。
データベースから意図的に消去され、ガミラスの大多数の人間が忘れ去った基地がこの星に存在する。
その宇宙艦船用発着港には、"高貴なる青"で艦体を染め上げた宇宙船群が整然と姿を並べていた。
旧デスラー親衛隊・航宙親衛艦隊の残党である。
危険な離反分子と化した彼らは、ワルゴニア原始星系にてマゼラン内での友好喧伝巡行を終えて
ガミラスへ戻る途上の宇宙戦艦ヤマト及び護衛艦隊を襲撃した。
緻密な作戦と強力なガミラシウム弾頭魚雷によって一時はヤマトを撃沈目前まで追い込んだが、
突然の撤退命令を下され涙を飲んで帰還したのである。
当然ながら秘密拠点へと帰着した襲撃部隊の指揮官グレムト・ゲール元国防軍少将は、
憤懣やるかたない思いで基地司令部庁舎へと足を踏み入れるのだった。
「ナッター大佐はいるか!?」
ゲールはどうしても、自らの悲願だったヤマト撃沈を阻んだ親衛隊残党の意図を知りたかった。
たとえそれで殺されたとしても、ゲールにはもはやこの世に未練がない。
地位も名誉も奪われた身を恨みと憎しみだけで動かしてきたのだ。
それも果たせぬとなれば生きている甲斐がないーーー頭に血を上らせた彼は紅潮した顔で怒鳴り
自分を脱獄させ、親衛隊残党に引き込んだ張本人であるクローン士官の名を呼んだ。
「そうカッカなさらずに、ゲール少将閣下」
「貴様ァ……!」
ナッター・ネルゲ親衛隊大佐は薄ら笑いを顔に張り付けてゲールの前に姿を表す。
ゲールは青筋を立てて彼を睨んだが、ネルゲは意外なことを口にした。
「ケス中将閣下のお達しで、貴方を客人に引き合わせよとのことです。どうぞこちらに」
「……!?……きゃ、客人!?」
呆気にとられるゲールだが、撤退命令を出した際にケスが言っていた"状勢が変わった"とのことに
関係しているのではないかと考え、急ぎネルゲについていく。
彼らは秘密基地司令部の一画にある会議室のドア前に立った。
「この部屋に客人をお待たせしております。」
「何者なのだ、客人とは……?」
困惑を隠せないゲール。
見ればわかる、とばかりにナッター・ネルゲはロックを解錠しドアを開いた。
室内には会議用の長机が置かれ、ゲールらと机を挟んだ向こう側に問題の客人は着席していた。
その男は肘をついて手を組み項垂れていたが、ゲールにはその風体が真っ先に目に飛び込んできた。
彼が着ているのはガミラスの軍服であるが、ゲールが今着ているものと同じ緑の色合いだ。
即ちそれは親衛隊ではなく国防軍所属を意味する。
ゲールの脳裏には、自分と同じく収監された元国防軍軍人が親衛隊に脱獄させられたのかという
思考が刹那的に走ったが、彼が顔を上げて面構えをゲールに見せた次の瞬間にそれは吹き飛んだ。
「お久しぶりですね、ゲール
「き、貴官は!?
いったい何故ここに!!」
親衛隊残党が拠点に迎え入れた"客人"は、
ガミラス共和政府下の国防軍参謀本部の要職に就くガルヒ・ダークナス少将だった。
かつて遣地球外交団で軍事顧問も務めたこの男が、なぜ反動勢力である親衛隊残党の本拠地にいるのか。
混乱するゲールと対照的に、ダークナスは不敵な笑みを覗かせる。
夜明け前の暗闇がごとき陰謀は、いまだその全貌を見せようとはしていなかった……