【第五話】
時系列は少々戻り、12月9日 午前七時。
藤堂平九郎が市民に、ヤマトの帰還を発表した放送の七時間前である。
富士宇宙軍港の一画にある航空機発着場において、選ばれた技師たちが次々に
VTOL輸送機に乗り込んでゆく。所属は国連宇宙海軍の技術部門や南部重工と
まちまちであるが、いずれも宇宙戦艦ヤマトの設計・建造に携わった上
今次大戦を生き延びた、人類の復興に欠かせぬ至宝のごとき存在だった。
そんな彼らを乗せて四機の97式輸送機・コスモシーガルは発進。
開いていくゲートの上の偽装土壌には、昨晩まで草木が生い茂っていたが、
未明に工作部隊の手によって除去された。
本州のとある湾に投錨、待機中のヤマトへと一路進む。
これから技師たちはヤマトの技術科や機関科などと共同で、
帰還後のヤマトの船体各部の状況を確認し今後の運用に耐えうるか検査する。
そのためヤマトの構造に精通した技師・工廠員たちを大勢派遣したのだ。
その一方。地下都市の極東管区司令部ビルの会議室において、藤堂行政局長や
土方空間防衛総隊司令、多数の司令部要員と、軍務局長 芹沢虎鉄が一堂に会し、
映像でコスモシーガルの発進を見守っていた。
「検査隊は0745時にヤマト乗艦予定です。」
「うむ。」
司令部員の報告に頷く藤堂。彼は一呼吸おいて部屋の面々を見回して告げた。
「諸君、ヤマトは帰還し、地球は人類の生存が可能な環境状態を取り戻した。
だが、再度人類が地表で生活するにはさらに段階を踏む必要がある。
その為われわれは宇宙戦艦ヤマトを人類の地上復員、
そしてその先の復興にいかに有効活用するべきかを策定せねばならない。
今回、諸君を集めたのはそのためだ。よろしく頼む。」
藤堂は一同に会釈し、場にいる者たちもそれに返す。
かくして会議がはじまり、参謀のひとりが挙手、発言する。
「検査隊の調査は二日ほどかかるという事前予測が出ており、
結果如何では今後ヤマトの運用に制限が加わる可能性がありますが、
その場合はどういった対応を行うのでしょうか」
「うむ。芹沢君、頼む」
「了解いたしました。
……仮にヤマトの活動に支障が出る場合、我が極東管区は人材、資材などの
あらゆる面において総力を上げ同艦の復旧を支援する。
……ただ、技師・工廠員は映像、写真などから推察できるヤマトの状態から
大きな問題は見受けられないと判断している。」
藤堂から質問の対応を任された芹沢が、ヤマトに問題が確認された場合の方針を語る。
そのうえで、乗艦前に技師たちに行わせた地球帰還時の映像・投錨中のヤマトから
送らせた画像データによる検査では、特に目立った不具合の兆候は見られないという
結論が出されたことを明らかにする。
「……とすると、懸念事項はやはり
「はっ。技師たちもその点を懸念していました。
なにぶん、異星のオーバーテクノロジーですので…」
藤堂が電子端末上の資料に目を落とし呟き、芹沢が返す。
これ以上は検査隊の報告を待つ他ないため、
議題はヤマトに問題が見られなかった場合におけるその後の運用法についてに変わった。
「……諸君らも知っての通り、我々が直面している主な問題は二つ。
エネルギー不足、そして食糧不足だ。ほかの管区でも状況は同じ、
いや極東管区よりも深刻な可能性がある。」
「ヤマトの波動エンジンは巨大なエネルギーを生み出すことができるのは周知の事実。
エネルギー・食糧の不足の恒久的解決の第一歩にはこの機関の利用は欠かせません。」
藤堂が口火を切り芹沢が補足。まずは現状況の再確認が行われていく。
「…地下都市の主電源は核融合発電であり、そのための資源は大気中の水素でした。
現在、蒸発していた海洋が復活しましたが、地下核融合発電所にある、
大気中の水素供給管・水素抽出装置などは機能不全になっています。」
「これは、長期にわたる戦争の影響で整備用資材・作業員の不足によりヤマト帰還前に
稼働停止になった装置があることに加え、稼働していた残存装置も水素の供給口が
蒸発した海底に設置されたため、海洋復活時に流入した海水によって破損、
稼働不能となってしまったことが原因であります。」
「現在、行政局の電源部門が各工業部門と共同で海洋水からの水素資源供給に向け
水素抽出装置の改良、水素供給システムの海洋対応化に取り組んでおりますが、
数か月の時間を要するとの見解が出ておりこの急場を乗り切るものとはなりません。」
「地下都市にある蓄電プラントには、2197年度の地下都市の消費電力が半年分ほど
まかなえる容量がありましたが現状、今の地下都市が消費する電力一か月分しか
残されておりません。」
「これがなくなると、地下都市すべての電力はストップし、
地下都市内の人類の生活は立ち行かなくなります。
一刻も早い電力の供給が求められます。」
電源部門から会議に参加した担当者たちの話を聞き、臨席した面々は嘆息する。
現在、地下都市では数日おきにかわるがわる各地区が計画停電を実施し節電に努めている。
一時に電力供給が停止する地域の割合は全体の30パーセントにも及ぶのだが
そんな現況であっても、あと一か月しか電力はもたない。
その事実に関係者たちは打ちのめされたかのように俯いた。
重い空気に追い打ちをかけることを申し訳なく思うそぶりをみせつつも、
今度は食料資源を管轄する部門の責任者が口を開いた。
「……目下の食糧問題は、エネルギーの枯渇とリンクしております。
ご存じの通り地下都市の食糧供給源は有機物加工システム、
同装置の運用には少なからぬ電力の供給を必要とします。」
「したがって、エネルギー供給の停止は
現状であっても、市民への食糧配給は量が少なくなったうえ、滞りが目立つ状態です。
配給の問題に起因する闇物資の横行、暴動の一層の激化が懸念されています。」
「……それだけではありません。配給システムの機能低下は市民の栄養状態を著しく
悪化させており、幼児や高齢者が栄養失調に陥って中央病院エリアへ運ばれることが
常態化し、悪化こそすれ好転の兆しは何一つ見えません。」
「病院地区で使用する薬剤なども大半が
医療崩壊が近づいていると申し上げてよい状態に陥っているのです。
……しかも、この問題に関連し
いまや影響を出しつつあるのが現実であります。」
「皆さん、市民の生活は想像をはるかに下回るものになっており、
もはや
一刻も早い問題対処が求められています……!」
悲痛な声で食糧部門の管理者たちが訴えた。
地下都市の住民はあらゆる面から生命を脅かされる状況下にある!と。
その事実は会議に臨席したメンバーの誰もが否応なく理解していた。
この極東管区ビルでも大半の階での照明・エアコン用の電力の供給は停止され、
数か所を除きエレベーター、エスカレーター、自動通路、自動ドアなど
諸機能は停止して久しい。
食糧に関しても同様だ。
一般職員クラスはもとより、藤堂のような長官職においても配給される食糧は
2197年度と比較して四分の一ほどまで量を減らしている。
酒、煙草、コーヒー等嗜好品も当然ながら近頃はほとんど見なくなった。
その中でも、彼らは人類のためひたすら身を捧げてきたのである…。
会議室を満たす暗い空気の中で芹沢はすっと立ち上がり語りだした。
「……いま、地下都市を揺るがす問題の深刻さは再把握できた。
我々にはまったく時間がない。他の管区も間違いなく同じ状況化だ。」
「…しかし、我々には切り札がある。ヤマトだ。
あの艦が持つ波動エンジンのエネルギーを利用できれば状況は一変する。
波動エンジンがほぼ無限のエネルギーを生み出すのは諸君も知っていよう。
それを蓄電プラントに蓄えれば、生活水準を昨年度まで戻した上で
一年分ほどの電力が地下都市全域へ供給可能だろう。」
「エネルギー問題が食糧供給の問題に直結するということは即ち、
エネルギー不足の解決が食糧資源の解決につながることと同義だ。
地表には大量の植物が生い茂っている。調査と再開拓の際に伐採されるそれらを
使えばたやすいことだ。」
「当然、ほかの管区でもその手法を適用すればよい。ヤマトは船だ。移動できる。」
「……つまり、我々の問題の解決はまたしてもあの船に懸かっていることになる。」
芹沢はそう言い終えると、着席した。
藤堂は腕組みをして頷き、入れ替わるように立ち上がる。
「芹沢軍務局長の言う通り、ヤマトには無尽蔵のエネルギーを生み出す機関がある。
これを使わぬ手はない。それはこの場全員の共通認識だと思う。
基本方針として、ヤマトが運用可能と判断され次第、極東管区の地下都市への
エネルギー供給に従事してもらう。それが完了したあとは、
各管区へ同様にエネルギーを供給しに回ってもらう。」
「ヤマト出発のとき、地球上にあるすべての管区はヤマトにエネルギーを回してくれた。
その恩を返さねばならない。彼らはヤマトに賭けてくれたのだ。
それが実を結んだことをヤマト自身に告げに行ってもらおうではないかね。」
「ともあれ、すべては調査次第だ。……本日はここまでとする。ご苦労だった。」
斯くして、ヤマトの今後の運用方針は策定され、会議は終了。
検査部隊の報告を待って、再度の会議を行う旨が各位に伝えられた。
会議後、司令部ビルの廊下を藤堂、そして芹沢は歩んでいく。
藤堂はこの後、極東管区地下都市住民へのヤマト帰還を発表する放送があるため、
準備をしなければならない。そんな彼は、芹沢に伝えた。
「……検査隊を送った輸送機だが。」
「はっ。」
「沖田君の遺体を引き取り、たったいま帰還したそうだ。」
「……長官。」
「いま、第23番地表連絡線駅の一室に安置されているそうだ。
……君が引き取りに向かってくれ。」
「了解いたしました……。」
芹沢は、藤堂の内心を慮った。
本当なら、自分で出迎えてやりたいところだろう。たとえそれが、亡骸でも。
生憎のところ、沖田の親友である土方は別の用件が入っている。
沖田と反目していた自分を迎えに行かせる藤堂はどんな心情なのか。
藤堂は芹沢の少し前を歩いており、その表情を見せなかった。
この数時間後に、藤堂の発表放送が始まる。
完結はさせたいです。ホントに。