大変遅くなりました!
第四章最終回です!
【第50話】
西暦2202年4月。
極東管区の旧近畿地域に置かれている地球連邦首都・メガロポリスは清々しい青空の下にあった。
同地の中心部には、先日完成したばかりの地球連邦防衛軍総司令部や
政府諸機関の庁舎をはじめとするビル群が外壁のガラスに日光を受け燦然と輝いている。
それらを遠望できる都市部外縁の一画には地球連邦防衛軍ーーー旧国連軍の、
極東管区出身の戦死者用の軍人墓地「英雄の丘」が置かれていた。
軍人墓地に隣接する催事用集会広場には、ステージと座席からなる特設会場が
出来上がっており、多くの国防局・防衛軍などの高官が既に着席していた。
そうした中に、その男・芹沢虎鉄の姿もあった。
地球連邦防衛軍の統括副司令官たる彼が座るのは、ステージ壇上の席である。
至近にはエイブラハム・ダグラス大統領やアーサー・チェスター・ペリー国防局長などが
着席している来賓席もあり立場相応の位置だが、今日の場合はそれだけが理由ではない。
この日、彼はある意味でこの式典の"主役"なのである。
「………」
普段通りに威厳を漂わせながら、芹沢は視線を一般参列者用に並べられた席へと向けた。
一点、否、一席に目が留まる。
何故ならそこには、芹沢が座っている場所に本来いるべき人物の姿を認めたからだった。
(藤堂長官……)
2202年春のこの日、地球連邦防衛軍は新たな統括司令長官を迎えようとしていた……
芹沢の脳裏では、つい先日のことが思い起こされていた。
互いに忙しい執務の間を縫って、藤堂邸で久しぶりに酒杯を交わしたときのことだ。
「……OMCS製ではありますが、この酒盗なかなかいけますな。」
「うむ、『美伊』の味がよく引き立つね。」
芹沢が手土産に持参したのは大日本酒造会社がガミラスなどへの輸出計画のために再現製造した
戦前の銘酒「美伊」の試供品である。対して藤堂は特別に酒の肴となる物を管区の配給部門から送らせていた。
アルコールが入った二人が話すのは、互いの近況や(口外が可能な限りでの)情報交換、世間話である。
「娘とは大分話せるようになってきた……。
曰く、研究開発部門でも友人たちとうまくいっているそうだ。」
「えぇ、実績をあげていると聞き及んでおります。」
話題は藤堂極東管区行政長官の娘、藤堂早紀のことに移る。
彼女は現在、防衛軍における兵器開発・試験部門で職に就いている。
こうした軍の科学技術部にて既に就役が始まっている既存艦艇を改設計した波動機関搭載艦艇や、
間も無く竣工する筈の新規設計艦の艤装となる新型の砲噴火器等兵器・レーダー等機器の開発、
学習式AIを利用した艦艇・航空機自動化システムの設計が進んでいるのだ。
彼女たちの働きによって、未来を視た芹沢が見覚えのある兵器や、その延長線上に構想された
芹沢も見たことのない武装が次々とこの世に産み落とされていた。
(兵器と言えば……)
芹沢の脳裏に、とある報告がよぎる。
それは時間断層工廠の設営作業が一段落した頃にやって来た、造船技官の藤本喜雄によるものだ。
内容は、以前に報告していた新造戦艦の設計仕様に微修正を加えたことについてのことだった。
彼曰く、"新型波動砲"の出力計算に誤差があったためそれに伴い若干の改変をおこなったという。
(……拡散波動砲。)
地球防衛軍が波動砲搭載艦隊建造に踏み切る強い要因になった兵器の名を心中で呟く。
ヤマトの波動砲を開発した技術陣に加え、時間断層工廠の建造にも活躍した各管区出身の物理学者たちが
2200年に静かに研究を進めて実現した、戦術使用にもある程度適した防衛軍の切り札というべき代物だ。
時間断層建造時の縁で拡散波動砲開発者の一人、北米管区出身のT.モンタナ教授とコネを作った
芹沢の腹心・下村大佐からも、正規の開発報告でも、色々と資料が送られてきていた。
(……まぁ、ここで語ることでもあるまい。)
芹沢は出掛かった言葉を腹へと流し戻すように、ぐいと猪口を傾けた。
そんな彼の内心を知ってか知らずか、藤堂が"話は変わるが"と断って話し出した。
「風の噂で聞いたのだが、土方君が次のヤマト艦長になるというのは本当かね?」
「……えぇ、事実ですが。……当人とは会われなかったのですか?」
猪口を置いてまじまじと藤堂を見る芹沢。
それに対して藤堂は肩をすくめて返す。
「……君の方がよく知っていようが、彼も忙しいようでね。
当人に会う前にこうして君と飲んでいるから、訊いたわけだが……」
「成程。」
納得した様子の芹沢に、徳利を勧める藤堂。
芹沢は一礼して猪口で「美伊」を受けた。
「……君がそう仕向けたのかね?」
「何枚かは噛んでおりますが、私だけの意向ではありませんな。」
藤堂はそれを聞くと、残り少なくなってきた酒盗と猪口の酒を口に含み、飲み込んでから問いを重ねる。
「……と言うと?」
「長官も想像がつかれると思いますが、彼はやはり波動砲艦隊の整備には後ろ向きの姿勢でした。」
「まぁ、分かる。沖田君の事を考えると、どうしてもな。
……で、防衛軍内、ひいては国防局や政府と折り合いが……?」
「……お察しの通り、少々問題ではないかと意見が上がりまして。
しかし現況での宇宙艦隊副司令官に対する処分は難しく、
あれこれと理由をこね繰り回すことになりました。」
「……そこは触れずにおこうか。」
「ご配慮感謝します。」
苦笑を付き合わせる二人の高官。さらに酒が入る。
「結局、最終的に私が彼に直談判することになりました。
沖田の遺産を引き継がないか、とね。」
「君から言われるとは思わなかったろうな、土方君も。」
「えぇ、目を丸くしておりました。」
芹沢は愉快そうな笑みを浮かべ、藤堂は再び猪口を口にする。
「……ヤマトは現状、いや、今後は外交用の特務艦になることは先日のマゼラン派遣航海を見るに確実。
その艦長ならば、ま、多少格落ちは否めぬが穏当な措置と言える……と。」
「そういう結論に相成りました。」
そして、一息いれる芹沢と藤堂。
話題の締め括りとして、藤堂は赤味を帯びた顔に微笑を浮かべ、芹沢に告げた。
「……まぁ、私は既に軍から距離をおいた。
後の事は君が上手くやってくれると信じている。今でもそれは変わらん。」
「恐縮です。」
(……その信頼にも、応えねばなるまいな。)
そして、現在に至る。
壇上の演説台では国防局や地球防衛軍の高官らにダグラス大統領が演説を行っていた。
自身の出番はもうそろそろである。
「__続きまして、防衛軍統括司令官の交代式を行います。」
進行役のアナウンスと共に、現・副司令官の芹沢と
現・長官のブルーノ・プリエーゼ大将が起立し壇上の中央へと移動する。
「地球防衛軍の指揮を、お渡しします。」
「地球防衛軍の指揮を、継承致します。」
二人の連邦防衛軍大将は向かい合い、形式張った台詞を口にすると
互いに入れ替わるようにそれぞれが座っていた席へ着き、交代のための式典は終わる。
引き継ぎのための諸事は既に完了しており、これが全ての仕上げであった。
こうしてプリエーゼは前・防衛軍統括司令長官に、芹沢が現・防衛軍統括司令長官職となる。
後任の防衛軍統括副司令官職には、今まで中東管区の軍務局長を務めていた
アリー・エル=メディ中将が就くことになっていた。
芹沢はちらと自分の着いていた席に移ったプリエーゼの顔を見やる。
ブルーノ・プリエーゼ大将は芹沢より年長で、地中海管区軍務局長を経て
前・防衛軍統括司令を任じられた男である。実直な性格と確かな手腕から芹沢も
好感と信頼を持って接していたかつての上官は、眼鏡をかけた皺の多い顔に、
どこか安心したかのような表情を浮かべていた。
(……ご苦労様でした、プリエーゼ大将。)
そも、今回の交代劇のきっかけはプリエーゼが体調を崩したことにあった。
防衛軍全体を統御する総司令官という重責を伴う職務は、若くない彼の体を
酷使し蝕んでいったのである。彼が今まで背負ってきたもの、そしてこれから自らが
相対するものの大きさは察するに余りあった。
プリエーゼは今後、事実上無任所の御意見番となり、遠からぬうちに退役するだろう。
(ここからまた、厳しくなるだろうが……)
防衛軍トップという一段と責任の重くなる仕事に加え、芹沢は悲惨な未来を視たゆえに
やっておかねばならぬと自らに課した使命がある。
プリエーゼ以上に激務を強いられることは必定であった。
(たとえ、生命を燃やし尽くしてでも為し遂げて見せる。
そのために、ここに来たのだ)
芹沢は正面を向き直った。
視線の先には、会場に集った連邦・防衛軍の公僕たちの姿がある。
その向こうには、地球市民がやっとのことで取り戻した平穏を代弁する都市の姿がある。
何としてでも、迫り来る宇宙の脅威から地球の未来を守る、と芹沢は決意を新たにする。
ここに、地球連邦防衛軍は第二代統括司令長官を迎えたのであった。
……そんな会場に、彼方から轟音が響き渡った。
それは僅かな間に強さを一気に増して、式典の場に居る一同の視線を蒼穹へと引き付けた。
そこには、白い飛行機雲をたなびかせつつ首都上空に向かう、式典飛行中の防衛軍機が5機。
そのシルエットは、今までに多くの市民が目にした
「……一式戦攻か!!」
芹沢の口から感嘆と共に漏れ出た呼称は、
正式採用された最新鋭戦闘機コスモタイガーに冠された物である。
奇しくも芹沢と同じ『虎』の名を持つ天空の防人は、悠然と遠ざかっていった。
【第五章に続く】