【第53話】
西暦2202年6月20日。
銀河間空間のちょうど中央部にある自由浮遊惑星、バラン。
アケーリアス文明が遺した亜空間ゲートネットワークの重要拠点だったこの星は
二つの亜空間ゲートを有する長大な構造物と、2199年にヤマトによる
ガミラス観艦式奇襲によって生じた
故ヘルム・ゼーリック国家元帥による叛逆(現在は義挙とされている)など、
様々な要因が絡み合い亜空間ゲートネットワークに大損害を与えた事件から
およそ3年の月日が経とうとしているが、いまだマゼラン銀河側のゲートは修復中で、
銀河方面への亜空間ゲートも多数の発電用波動機関(退役艦流用)で
稼働のためのエネルギーを辛うじて賄っている。ヤマトの波動砲によって
バラン星のエネルギープラントが破壊された影響で、星の形は楕円球から
一般的な星に近い球へと変わり、その変動の余波で大気内の浮遊大陸は崩壊していた。
現在、この星の大気内には新たに小惑星改造構造物、空間建造物が移設・建設され、
ガミラス国防軍・銀河機甲軍及び第10空間機甲軍団の司令部が置かれている。
同地には第ニ空間機甲師団艦隊、第一五空間機甲師団艦隊の戦闘・支援艦艇約1000隻が
新設の大気内浮遊基地に展開しており、その勢力は往時のバラン鎮守府を大きく凌駕していた。
また、惑星周囲のデブリ群も艦隊の航行に支障を来さないようある程度の掃海も実施されている。
そんな"新バラン鎮守府"の司令部庁舎には、多くのガミラス高級軍人らが集まっていた。
それは、ガミラス銀河機甲軍の首脳部の面々だ。
銀河機甲軍司令長官のヘルム・ソト大将に、同軍参謀長のフドリク・バウル中将。
バーガーの恩師で同軍副司令官格の一人であるバレルド・アクション中将、
彼は第10空間機甲軍団の司令と第二空間機甲師団長も兼ねている。
第一五空間機甲師団長と第10空間機甲軍団の副司令を兼務するエーリク・へプラー少将。
さらに、軍直属の幕僚や各師団の参謀など十数人が司令部庁舎の会議室に詰めていた。
彼らの議題は、2日前に銀河航路に近い大マゼラン銀河外縁宙域で哨戒に当たっていた
FS型宙雷艇が送ってきたガトランティス艦隊発見の報告についてである。
同宙雷艇はデータを送信した後、敵艦隊に撃沈されたらしかった。
「……各種観測データを総合しますと、敵艦隊は約200隻で銀河間航路方面に進撃していた、
という結論になります。本国からも当方面における敵の襲撃目標が
銀河航路である、と断定しており警戒するよう命令が発せられました。」
機甲軍参謀長のバウル中将が現状をかいつまんで説明した。
もうすぐ、銀河間空間は戦場と化そうとしているのである。
「……200隻、か。
諸君、敵の狙いは銀河航路内の何と考える?」
機甲軍総司令であるソト大将が椅子に座りながら会議室に集まった将校らの顔を見渡す。
真っ先に答えたのは、第一五空間機甲師団長のヘプラー少将だった。
「過去の例を鑑みるに、発見されたガトランティス艦隊の200隻という数は過大すぎます。
戦力自体は3年間のうちに再建したものでしょうが、連中の指揮系統や補給システムからして
このような数を1つの大集団として運用することは難しいかと。」
事実これまで、ガミラス国防軍が大小マゼラン銀河辺境で対峙してきた
ガトランティスの侵攻艦隊はおおよそ50隻~70隻という数だった。
これは艦隊として制圧した惑星や通商航路からの略奪によって食糧やエネルギーなど
各種物資を賄うことができる彼らにとっての上限だった。
「……従って、哨戒艇が発見した200隻の艦隊は複数の集団が合同したものとして
考えられるというわけか?」
「左様です。」
ソト大将はヘプラーの具申に頷くと、腕を組んで考え込む。
この場合、発見された敵艦隊は3~4個の集団が合同した部隊と考えられる。
それが一丸となって攻めてくるのか、あるいは分散して同時多発的な襲撃を仕掛けてくるか、
両方の可能性が想定された。
「敵の戦略的な狙いは、奈辺にあると見るべきでしょうか?」
バウル中将が言った。
ガトランティスが蛮族とはいえ馬鹿でもないから、
長期的な計画もなしに大戦力を差し向けてくるとは思えない。
何を目的として、過去に連中があまり進出して来なかった銀河間空間方面に
200隻もの部隊を向かわせたのか、敵の計画の基礎となる意図を計らんとしていた。
「敵の戦略的目標として考えられるのは、第一に銀河航路以遠に展開している
我ら銀河機甲軍の封殺であると思われます。」
発言したのは、かつて士官学校で教鞭を取った経歴もあるバレルド・アクション中将。
ディッツ派閥の中でも優れた手腕と視野を有する猛者だ。
「2199年時のヤマト同様、天ノ川銀河とマゼラン銀河間の往還において重要である
亜空間ゲートを破壊された場合、銀河機甲軍はマゼランの本国と分断されてしまいます。
ガトランティスからすれば、マゼラン外縁への侵攻を行うに当たって
マゼランの防衛軍と銀河機甲軍に前後から挟撃される危険を未然に防げると言えます。」
アクションが続けた言葉に、会議室内の一同はどよめいた。
2199年時に数千隻もの艦がバランから元の任地までの長い帰還行を強いられたことは
知らないものはいないし、当事者もこの中にいる。
果たして敵はその再現を狙っているのだろうか。
「では、第二の可能性は?」
だが、ソト大将は泰然として聞き返す。
最高責任者として動揺すまいと努めているのだろう。
アクション中将が答えた。
「第二に、敵が侵攻目標を天ノ川銀河方面に変えた可能性です。」
これに、一層会議室内が騒がしくなる。
アクションのこの発言は、ガトランティスがマゼラン銀河への侵攻を諦めたとも
解釈できるものであった。アクションは一同を静まらせるように咳払いをして語りだす。
「現時点で最後のガトランティス侵攻部隊との戦闘となっている、
2199年の第八警務艦隊及び宇宙戦艦ヤマトによる惑星シャンブロウ沖海戦ですが、
これもまた前哨戦を含め、銀河間空間において戦われたものだったと言えます。」
「……確かに。」
ガトランティス艦隊がここ3年間現れなかった遠因である、3年前の戦いへと思考をやる一同。
「だが、それがガトランティスの侵攻目標が天ノ川銀河方面に変わったことの
確かな証拠とはならないと考えるが?」
バウル参謀長が反論する。
これまで何度も執拗にガトランティス艦隊がマゼラン銀河への侵入を試みた
過去が存在する以上、そう簡単に攻撃の矛先が別方向に向くとは思えなかった。
ガトランティス軍がヤマト(及び第八警務艦隊)を発見・攻撃したのは言わば偶然で、
そうでなければ彼らはまた大マゼラン外縁からの侵攻を企んでいた筈だ、と語った。
「参謀長のおっしゃる通りです。
しかし、仮に
「どういう意味です?」
一同が怪訝な顔をアクションへ向け、ヘプラーがまじまじと機甲軍団での上官の顔を見る。
それでもアクションは冷静沈着な態度を崩すことなく、タブレットデバイスを取り出し
天板が立体投影型モニターとなっているテーブルに内部のデータを転送する。
「……これまで、我が国防軍は蛮族ガトランティスがマゼラン内部への侵攻を試みる
直接的な理由を、あくまでも領土拡大・資源収奪のためであると解釈してきました。」
「それが異なると?」
ソト機甲軍総司令も、身を乗り出して聞き返した。
我が意を得たり、と微笑したアクションは再度口を開く。
「はい。……こちらをご覧いただきたい。」
アクションが促し、全員が視線を映し出されたデータに目をやった。
発議者であるアクションが注釈をつける。
「これは2199年時のシャンブロウ海戦後に我が軍の捕虜となった、
イスラ・パラカスなるガトランティス軍指揮官の尋問記録となります。」
アクションはタブレットデバイスを操作し、音声データを再生する。
すると、かすれたような男性の声が室内に響き渡った。
このガトランティス士官は自爆防止処理をされた後に薬物を投与され、
重大な情報を話し出した、とアクションは語る。
『……我ら……
「
パラカスの声は小マゼラン外縁での襲撃と転戦、
大マゼラン外縁における宇宙戦艦
その後「静謐の星」シャンブロウを発見し、制圧するため
ヤマトや第八警務艦隊と交戦したことを続けた。
「連中の言葉で"
直に命令が下されているという情報が上がっています。信憑性はかなり高いのではないでしょうか。」
アクションは、改めてマゼラン銀河でのガトランティスの活動の主目的が
「静謐の星」というのを発見するための捜索であり、惑星制圧や航路襲撃が
物資自給のための副次的な目的であったのではないかと推論した。
「報告ではシャンブロウ星の正体はアケーリアス文明の巨大宇宙船であり、
ゲシュタムジャンプによって深宇宙に消えていったとあるが……すると、
連中は遺跡を追うためにまずは近隣の天ノ川銀河に行ってみることにした、と?」
ソトが手持ちの情報を基に、アクションが主張せんとすることを予測した。
「可能性としては、あり得るかと。」
アクションはソトにそう返すと、自身の推理を締め括った。
腕を組んで考えていたバウル参謀長も発言する。
「もしも、ガトランティスの目的がこれまでの推測通り領土と資源であったとしても、
マゼラン銀河より天ノ川銀河の方が与し易いと見て標的を変更したということで
説明がつきます。ガトランティスが天ノ川銀河へ攻撃軸を移したというのは、
決して非現実的ではないかもしれませんな。」
それを聞いて、ソト司令長官も頷いた。
「……敵の目的が何かは現状推測する他無いが、どのみちここで仕掛けてくるに違いあるまい。
銀河間空間の戦略的価値は両銀河間の物資輸送・兵力移動ルートということにある。
マゼラン銀河を狙うなら我ら銀河機甲軍を孤立させるためとして、
天ノ川銀河へ矛先を移すならマゼランのガミラス本国と分断するためとして、
ガトランティスは銀河間空間の亜空間ゲートシステムを狙うと見て間違いない。」
ソトの総括に、ヘプラーが反応した。
「……問題はガトランティスがどのゲートを狙うと見るべきか、となりましょうか」
「うむ。現在のところ銀河間空間航路に存在する亜空間ゲートの分布はこの通りだ。」
バウルがデバイスを操作してテーブルモニターに銀河間空間の宇宙図を映し出す。
マゼラン銀河と天ノ川銀河を直線上に結ぶ航路の各所に、亜空間ゲートを表す
アイコンが5個ほど現れる。
「マゼラン方面寄りのゲート2ヶ所は第116空間師団艦隊が、
天ノ川銀河方面へのゲート2ヶ所は第164空間師団艦隊が
それぞれ戦闘団を展開し守備に就いております。」
ゲート防衛部隊である両空間師団艦隊の連絡要員が、現在の配置状況を説明する。
第116及び第164空間師団艦隊は、ゲート近傍の星系に基地を設けそこを拠点に
ゲート警備部隊を送り込んでいる。こうした艦隊基地には銀河方面航空軍団に
属する戦闘航空団が展開しており、周囲の警戒と基地防空に当たっていた。
そんな中で、ソト機甲軍総司令が断言した。
「敵の狙いは分かっている。
……まず天ノ川銀河方面のゲートだが、敵からすれば単純に遠すぎる。
攻撃前にこちらの哨戒網に引っ掛かり返り討ちにされかねないとすれば、選択肢からは消える。」
淡々と説明するソト。
銀河機甲軍を預かるこの将軍は、かの勇将エルク・ドメルにも劣らぬ声望を持つ。
彼ほど鮮やかな戦歴を有していないにせよ、空間機甲部隊を率い宇宙を疾駆してきた男だ。
「次にマゼラン銀河側のゲート。
これは先程とは逆に敵からそう遠くはなかろうが、マゼラン銀河に近いこともあり、
敵としては我々に余り大きな損害を与えられないと考えるだろう。
となれば残される選択肢はひとつ。敵が狙うゲートは、このバランだ!」
威厳と自信に満ちた声を張り、宣言する。
「司令長官、敵艦隊は全力を以てバランの銀河方面側ゲート及び、
修復中のマゼラン方面のゲートを狙ってくるとお考えですか?」
訊いたのはアクション中将。
彼としても敵がバランを狙う予測に異存はないようだったが、意見があるらしい。
「……いや、敵もバランに我が銀河機甲軍の主力部隊が展開していることは
知っていると見るべきだ。連中が200隻の艦隊を有しその全力で向かってきたとしても、
戦闘艦艇800隻近くを有する2個空間機甲師団を相手するには戦力不足だ。
仮に、一撃離脱でゲートのみを狙うにしてもな。」
「では、我が方の戦力を一部誘引するような陽動作戦を実施する可能性があると。」
ソト大将の言葉で、バウル参謀長も気づいたようだった。
「その通りだ。敵がバラン展開戦力の一部を引き付けるために襲うと思われるのは……」
ソト大将がスクリーンモニターテーブルに繋がる手元の画面を操作すると、
先程から移されている銀河間空間航路の宇宙図に新たなアイコンが現れた。
位置は、銀河方面側の亜空間ゲートとバラン星の中間辺りである。
「MG03船団ですか。」
ヘプラー少将がアイコンを覗き込み呟いた。
2201年の賠償船団を第1号として、地球へと各種資源・製品を運送する
輸送船200数隻からなる大規模な
同船団は数か月前にマゼラン銀河を出発し護衛を受けつつバラン星へと向かっていた。
「確かに、現在同船団は"ヤマト
バウル中将も言う。
ヤマト
バラン星リングのマゼラン銀河側亜空間ゲートが破壊されたことで生じた、
長大な亜空間ネットワークの不通区間を指す、地球側には内密のガミラス軍内の通称である。
この空間の警備、侵入した敵艦隊の駆逐や通行する船団の護衛を担当しているのは
同宙域内に基地を有する銀河方面第八三航空師団隷下の4個航空団と、
同じく宙域内に拠点泊地を置いている第五空間機甲旅団艦隊である。
「MG03船団には、第五空間機甲旅団より分派された一個戦闘団67隻が
護衛に就いております。来襲が予測される敵襲撃部隊を約70隻としますとほぼ同数、
船団を護りながら戦うのでは極めて不利であると申し上げねばなりません。」
第五空間機甲旅団の連絡参謀が切羽詰まったように報告する。
陽動での攻撃とはいえ、鈍足で非武装、装甲など無いに等しい輸送船では、
敵艦1隻が迎撃からすり抜けられた場合でも容易に多数が撃沈され、
最悪の場合全滅することすらあり得るのだ。急を要する自体である。
「船団は現在、ガトランティス艦隊出現の報を受け、
ヤマト
「第五空間機甲旅団の他部隊は、直ぐに救援に向かえる状態ではないとのことです。」
参謀たちから報告される情報を総計すると、船団を救援できるのはバランに展開する
第二、第一五の2個空間機甲師団のみであるということだった。
が、それは即ち敵の目論みにまんまと嵌まってバランの亜空間ゲートを
防衛する戦力を減らすことを意味しており、救援を送るか否か判断に迷う局面だ。
「いかがなされますか、司令長官」
目を伏せ、腕組みをして熟孝する銀河機甲軍司令長官ヘルム・ソト。
バウル参謀長が決断を求め、訊いた。
「……民間人に被害を出すわけにはいかん。
銃後の人々を護れぬのであれば、国防軍の存在意義がない。」
「では……!」
「救援部隊を出そう。バランは残った戦力で守る。」
ソト大将は敢えて敵の狙いどおりに船団救援に戦力を割くことを決断する。
それから、視線をアクション中将へと向けた。
「アクション師団長!
第二空間機甲師団から一部戦力を抽出し、MG03船団の救援に向かってくれたまえ。
必要であればバラン鎮守府直衛部隊の一部を貸そう。
師団の残留戦力はこちらの指揮下に入れさせてくれ。」
「
アクションは威儀を正し腕を上げて敬礼し、戦力を抽出すべく第二空間機甲師団の
幕僚たちと共に会議室を後にしていった。
それを見届けると、ソト大将は残った将校たちの顔を見回して言った。
「バランに残る部隊は、
その総力をもって来襲が予期されるガトランティス艦隊を邀撃、これを殲滅する!
全軍、戦闘準備にかかれ!」
「「「ハッ!!」」」
次々に退出していく機甲軍の麾下部隊指揮官及び参謀たち。
バウル参謀長もソトに一礼して続き、会議室にはソトだけが残された。
「………。」
ソトは再び視線をモニターテーブルへと向けると、ある一点を凝視する。
3年近い時を隔て、ガミラスとガトランティスの戦いが再び始まろうとしていた……