【第57話】
宇宙戦艦ヤマトが富士宇宙軍港に新設された地下ドックから出渠したのは、
西暦2202年10月25日のことであった。
ヤマトがマゼラン銀河への外交派遣任務からトラック環礁宇宙港へと帰還し、
そこから極東管区へと戻り改装のためドック入りしたのが同年の4月7日である。
長旅で生じた劣化の検査と整備に加え、波動砲の再装備、武装・各種艤装の
換装・改修など手が加えられなかった箇所はないというほどの大工事は、
足掛け半年に渡り行われたのである。
この改修は時間断層工廠でのパーツ製造、人員のローテーションシフトや
ガミロイドの利用による昼夜問わない作業によって、かなりのハイペースで実施された。
改装による主な新設物は艦首波動砲、弾薬や補修部品の一部自給が可能な艦内工場だ。
対空パルスレーザー砲塔は高圧ガスの充填システムなどに改修が加えられ高威力化し、
砲塔自体も艦前方などに増備されている。艦体装甲も技術的進歩によって強度が増した
新造のものが用いられ、隔壁や消火設備など各種
さらに波動防壁も新設計の持続時間が長いものに更新され継戦能力は飛躍的に向上。
元来からの持ち味であった打たれ強さがより進化した改装となったのである。
艦を操るソフトウェアも、連邦防衛軍の基本方針に沿いながら新時代を睨んだ
更新が図られている。艦設備そのものの自動化に加え、艦橋に配置された
在来のAU09型(アップデート済)を中核とするAU11型ロボット群を代替管制、
自律サブフレームとして配する形で省人化を行い、乗員への負担軽減を試みていた。
防衛軍司令部付きの特務戦艦となったヤマトは、
この改装の総指揮官となっていた前宇宙艦隊副司令官・土方竜大将を新艦長として迎え、
一部を除いて引き続きヤマト乗組を命じられたクルー__練習艦やシミュレーターで
AU11型ロボットと連携しての運用訓練を行った__の手により、
同艦の早期再戦力化を目的とした訓練に乗り出すのであった。
時に、西暦2202年11月中旬のことである。
「本艦は現在、火星軌道を航過中。」
「コスモレーダー、前方に感。我が第二輸送艦隊です。」
「うむ。」
操艦席に着く島大介航海長、レーダー手席に着く森雪船務長が土方艦長へ報告する。
暫くしてヤマトとすれ違うことになった地球連邦防衛軍の第二輸送艦隊は、
艦の老朽化など諸事情で、元は3つあった練習・鉱物資源輸送のための艦隊を2つへ
再編したうちの一つである。同部隊は防衛軍宇宙艦隊の人員面での再編が一段落し、
現在は宇宙艦運用訓練より輸送任務に比重を置きつつあった。
核融合機関搭載型の在来地球軍艦はガミラスから供与された輸送艦と比しても
劣速で航続距離も短いため、基本的に内惑星圏内でのみ運用されている。
2度の内惑星戦争で荒廃して以来、永らく開発の手が入っていない火星や、
その衛星からガミラス供与の重機材で採掘された鉱物資源を詰めたコンテナを
金剛型装甲巡防艦や村雨型巡防艦が曳航し、最中のような姿の旧国連軍標準型
輸送艦が船倉に資源を満載し地球へ向かっている。
航続距離や船足で優れたガミラス供与の葉巻や団子串のような輸送艦は
波動機関の運用訓練任務も兼ねている第一輸送艦隊へ優先配備され、
木星や土星の衛星に眠るコスモナイトやチタンなどを地球にピストン運航で搬入する。
これら輸送艦隊は、近いうちに
標準輸送艦で構成された船団を加え、再び3船団体制に戻ろうとしているのだった。
「来ました!
木星軌道に展開中の第一艦隊よりワープ座標情報です!」
「よし。……これより本艦は火星=木星軌道間ワープテストを実施する。
総員、配置につけ!」
相原通信長の報告を受け、土方艦長が発令する。
ヤマトは改装完了後、初のワープ試験を実施しようとしている。
目的地は、地球防衛軍宇宙艦隊の主力が展開する、木星演習宙域であった。
木星宙域に設定された、地球連邦防衛軍・宇宙海軍の特別演習場。
そこで行われる各種戦闘訓練のため、地球とガミラスの宇宙艦隊合わせて
百数十隻が木星の衛星ガニメデを仮泊地として集結している。
ここまでの規模で行われる地ガ合同軍事演習は、古今例がなかった。
地球側の演習参加艦隊は第一・第三艦隊及び第六艦隊、第一航空艦隊であり、
その統括・監督は第三艦隊の旗艦であるA級戦艦「アキリーズ」に乗艦した
連邦防衛軍の宇宙艦隊司令長官、パウロ・D・タナカ大将が行っている。
西暦2202年11月時点で、
地球防衛軍宇宙艦隊は戦闘艦隊9個、練習・輸送艦隊2個を有していた。
第一艦隊は、A級宇宙戦艦「アンドロメダ」を旗艦としており、
ドレッドノート級(D級)宇宙戦艦4隻からなる戦艦戦隊一個、
エディンバラ級(E級)宇宙巡洋艦4隻で構成された巡洋艦戦隊二個、
フォークナー級(F級)宇宙駆逐艦12隻編成の宙雷戦隊一個、総勢25隻を有している。
第二艦隊はA級二番艦「アルデバラン」を、第三艦隊は三番艦「アキリーズ」、
第四艦隊は同級四番艦の戦艦「アンタレス」を旗艦として第一艦隊と
同じく戦艦、巡洋艦、駆逐艦の計24隻を従えていた。
第五、第六、第七、第八艦隊は、ガミラス戦役以前に設計された宇宙艦艇に
次元波動機関を搭載可能な改設計を行い新造した改金剛級(K級)装甲宇宙
改村雨級(M級)宇宙
改磯風級(I級)宇宙
そしてこれに、改ドレッドノート級(D級)宇宙空母3隻に一個巡洋艦戦隊、
二個駆逐隊のF級宇宙駆逐艦8隻の計15隻で構成された空母機動部隊、
第一航空艦隊が加わり地球連邦宇宙海軍、連合宇宙艦隊を成しているのだった。
第一~第四艦隊は、太陽系に来攻した敵を邀撃する主戦力となっているが、
新編されたばかりの第三・第四艦隊は練度の面においてまだ問題があり、
今回の演習には
第三艦隊が参加し、第二・第四艦隊は(後者は練度的にともかく)有事の際の
機動兵力として内惑星に後置されていた。
一方、第五~第八艦隊は太陽系外縁部の哨戒システム群と協同しての対宙警備、
航路掃海や外宇宙から入域するガミラス船団の護衛を任務としており、
今回の演習に参加した第六艦隊はガミラス側と協同でガニメデ泊地の警備、
参加艦艇の誘導管制も行っている。第五、第七、第八艦隊は、それぞれ整備、
外惑星圏における哨戒行動に就いている。
第一航空艦隊は、戦闘用有人航空間機を集中運用するために編成された高速機動部隊だ。
防衛軍司令部の方針によって、第一~第四の各主力艦隊の宇宙戦艦には、艦隊防空用の
二式小型無人戦闘機「コスモクロウ」が搭載されており、たとえ物質転送システムで
敵機が急襲してきた場合でも迅速に展開・有効な航空戦が出来るようにされていたが、
それでも艦隊防空で不利だったり戦闘宙域の制空権争奪で劣勢な場合に増援できるよう、
あるいは敵艦隊への漸減作戦として航空戦力での奇襲を行う目的で編成されており、
空母群には一式空間戦闘攻撃機「コスモタイガー」が集中配備されていた。
練度面では、搭載航空隊はともかく艦の乗員は同時期編成の第三艦隊と大差がない程度だ。
これら主力艦隊に配されている艦艇は、アンドロメダ級宇宙戦艦と同じく
最新技術の結晶として地球各所の時間断層工廠ステーションで建造されていた。
「主力戦艦」たるドレッドノート級(D級)宇宙戦艦は、発展型のA級同様に
いわゆる"史実"のものから大型化し全長は350mに達している。
主砲は"史実"でのA級が装備していた16インチ収束圧縮型三連装
副兵装として
艦橋構造物左右に前後背負式で8基16門、艦橋後方には煙突型VLS構造物を装備。
そして有砲身パルスレーザーを各部に、無砲身パルスレーザーを艦体バルジに
ミサイル/空間魚雷発射管などの武装ともども隠蔽格納されている。
重力子スプレッド砲も艦前方の上甲板に設置されており、その他の波動機関、
波動防壁、レーダー、航空艤装などもA級とほぼ同等であった。
改D級空母は、D級船体をベースに後部を延伸拡大し全通甲板型宇宙空母として設計、
全長は約400mだ。D級戦艦譲りの強力な波動機関で生まれたエネルギーはガミラス供与の
空母「アーガス」のデータを反映し設計された低航跡波複合ノズルで出力され
高い速力・機動力を発揮する。波動砲の非装備を始め武装は自衛用の
5インチ両用速射連装
艦体格納式防空ミサイル発射管のみに抑えられ、艦容積のほとんどは航空機の格納庫で
埋め尽くされており、基本搭載機はコスモタイガー96機となっていた。
"史実"と違い、防衛軍司令部によって数の上での主力に位置付けられた
エディンバラ級(E級)宇宙巡洋艦は230mへと大きくサイズが伸長。
艦後部が延びたシルエットになり、主砲は8インチ収束圧縮型三連装
ヤマト副砲と同じ口径で貫徹力・連射力はこれを上回るものを前部2基、後部1基を装備。
史実では華奢だった全幅も肥大化し、艦橋左右には5インチ両用速射連装
前後に計4基(艦首下部にも1基)配置され、有砲身のパルスレーザー砲座も追加された。
空間魚雷発射管は内蔵式となり、艦首の波動砲搭載案を廃し重力子スプレッド砲に
換装した影響で弾薬庫が拡張され搭載弾数も増加。艦底部に設えられた航空艤装も、
波動機関や波動防壁と同様増強され、レーダーに至っては素のスペックで
"史実"での巡視仕様と同等になっていた。
フォークナー級(F級)宇宙駆逐艦は150mの巡洋艦と似た史実より後部が延びた姿となり、
5インチ両用速射連装
艦首や艦後部には大口径のパルスレーザー砲塔が設置されている。
空間魚雷発射管は巡洋艦と同じく内蔵式になり、波動砲の搭載を諦めたことで
魚雷の弾数も大きく向上。波動機関の出力される先が推進に絞られたため、
史実よりも加速力や機動力に関するエネルギー伝達網の強化・効率化に繋がった。
新造された22世紀設計艦船改良型は、主船体はおおよそそのままだが、
備砲は8インチ収束圧縮型三連装
5インチ両用速射連装
改金剛型に至ってはE級艦のものを簡略化した(史実E級艦のものに近い)新設計の
艦橋構造物を有しており、艦様は大きく変わっていた。
以上が、今日の地球艦隊を構成する宙の艨艟たちである。
これら新世代艦船と舳先を並べるガミラス艦隊は、地球艦隊と対照的に
地ガが戦っていた22世紀末の時代からあまり姿を変えていない。
それは元設計の優秀さを示すものでもあったが、
その中には変化が目につく艦もあった。
ガミラス国防軍の第七空間機甲師団艦隊、ひいては増強された第14空間機甲軍団の
旗艦らしき新造のゼルグート級戦艦。艦は濃い緑色、国防軍色一色に塗られている。
特徴的なのは、主砲が大型化し、有砲身化していることだった。
メルトリア級やハイゼラート級など同じく有砲身砲を装備する艦艇のものと
比べると、砲身がずっと太いことがわかる。まるで、実弾砲のようだった。
この艦を中心とする、第七空間機甲師団艦隊のフラーゲ師団長直率戦闘団約150隻のうち
外宇宙への警備任務に就く艦を除いた半数がこの合同演習に参加している。
___そして、改装から出渠した宇宙戦艦ヤマトが木星沖へと到来する。
改装後初のワープ試験は、どうやら成功裏のうちに終わったようだった。
今、木星沖の演習宙域は太陽系、ひいては銀河系の地球=ガミラス勢力の領域を守る、
鋼鉄の尖兵たちの集会の様相を呈していた___。
その、1週間後である。
新たに出現したガトランティス艦隊により、
銀河系最外縁に設営された無人補給基地群の一角である
ガス惑星「ガミロニアⅧ」の浮遊大陸基地が
占拠されたという急報が地球防衛軍司令部に届けられたのは、
西暦2202年11月30日のことだった。
作者的なイメージとして、拙作の
A級宇宙戦艦=モンタナ級戦艦
D級宇宙戦艦=サウスダコタ級戦艦
E級宇宙巡洋艦=ボルチモア級重巡洋艦
F級宇宙駆逐艦=アレン・M・サムナー級駆逐艦
改D級宇宙空母=エセックス級航空母艦
となっております。ご了承ください。
※次回より、2202本編入りします。
長かった………!(イヤほんとマジで)