【第59話】
ガトランティス艦隊の中核だった2隻のメダルーサ級の断末魔の閃光は
ガミロニアⅧの大気ガスに阻まれつつも、進行中のガミラス艦隊旗艦である
重戦艦「ツェルベロク」からも見ることができた。
「敵特殊砲戦艦2隻、撃沈!」
索敵オペレーターが朗報を伝えると、「ツェルベロク」艦長は苦笑を浮かべた。
「……欲を言えば、本艦の手で始末したかったのですがね。」
「姉妹艦の仇討ちに、か。
私も同じ思いがあるが、今回は同盟国にも華を持たせてやろうじゃないか」
ガミラス艦隊指揮官のシー・フラーゲ中将も微笑と共に応じる。
彼らが座乗する重戦艦「ツェルベロク」は、旧ガミラス帝星がその国力を
誇示するため大艦巨砲主義者の故ヘルム・ゼーリック国家元帥の主導で
建造された重戦艦ゼルグート級を改設計した艦である。
年の離れた3隻の
前後する形でいずれも非業の最期を遂げていたのだった。
しかも、長姉たる戦艦「ゼルグート2世」は今しがた沈んだメダルーサ級の
同型艦による攻撃で撃沈されたという。
「ツェルベロク」がメダルーサ級を撃沈すれば、仇討ちになったのだが___。
「確かに、いずれまたメダルーサ級とやりあう機会もありましょうな。
今日のところは、初陣を無難に乗り切るとしましょう」
艦長もフラーゲの言葉に同意を示して前方、敵艦隊がいる方向へ向き直った。
既に、事前にガミラス艦隊司令部と帯同する地球艦隊司令部で共有している
作戦計画における第二段階へと戦局は移りつつあり、ガミラス艦隊を指揮する
「ツェルベロク」艦橋では通信・管制員が休みなく
「第一・第二無人装甲戦隊、突撃します!」
改ゼルグート級が統括管制する、デストリア級・ケルカピア級改設計型の
無人艦で構成された2個装甲戦隊が、首輪を解かれた猟犬のごとく発進する。
ガス惑星大気内という高重力下環境のため、通常宇宙空間と比べると
速度は落ちるが、ガミラス空間機甲部隊が得意とする機動戦を行うには問題ない。
並進して地球=ガミラス連合艦隊の前衛を務めていた2個の無人艦戦隊は
鮫のようなフォルムに違わぬ獰悪さを携え、メダルーサ級を喪って
混乱しているであろう敵艦隊に突撃した。
急速に距離を詰めて来たガミラス艦隊約100隻に対し、ガトランティス艦隊は
主戦力足るメダルーサ級を撃沈されたとは言え、いまだ相手に倍する
200隻近い戦闘艦艇を有している。個艦性能としても同軍は駆逐艦でも
ガミラスの巡洋艦に匹敵する火力を有しており、戦闘力では互角だ。
「無人艦隊、敵艦隊と交戦開始!」
両軍の艦艇が吐き出した赤と緑のビームが交差し始め、旗艦のオペレーターは
その様を報告すると共に、大型モニターに彼我艦艇を示す
それを見て、フラーゲ司令官は表情を険しくした。
「……存外、敵の立ち直りが早いな」
ガトランティス艦隊を表す
撃沈された艦の空きはあっても統率に混乱が見られない。敵の指揮系統の再編が
よほど早かったのか、あるいはメダルーサ級が旗艦ではなかったのか、
敵が司令部を失い混乱している隙を衝こうとしたフラーゲの思惑は外れたようだった。
「戦力比では2対1、早急に動きませんと全滅は時間の問題です」
旗艦艦長と同じくフラーゲの脇に控えている師団参謀が冷や汗を浮かべて言う。
敵司令部不在の混乱を衝くという戦術構想が外れた以上、無人艦隊は
倍する数の敵艦隊を正面からまともに相手取らねばならず、このままでは
ガミラス艦隊は戦力の1/3を無為に失いかねない__そんな焦りが見てとれた。
「まぁ待て、我が軍の新戦力はそこまで柔ではない」
フラーゲも緊張の色を浮かべつつ、窘めるように告げる。
その言葉を受けて参謀は楕円型の大型モニターへと視線を向けた。
戦況としては、横隊による正面砲戦から彼我入り乱れての乱戦となりつつある。
速射が利く砲を多数装備したガトランティス艦にとっては有利な状況だが、
ガトランティス艦隊の艦艇の
相当数撃沈されているのに対し、ガミラス無人艦隊の損害は相対的に小さい。
健在な
「
「ツェルベロク」艦長が唸るように言い、フラーゲもその言葉に頷く。
ガミラス国防軍が、地球連邦から貸与された時間断層工廠ステーションのうちの
一つで研究開発・建造した無人艦は、既存の航宙巡洋艦の設計を転用したものだ。
デストリア級航宙重巡・ケルカピア級航宙軽巡を自動制御の無人艦へと
手直しするにあたって、真っ先に艦橋や乗組員居住用空間が省かれ、
司令艦からの命令を受信する通信設備と、生身の将兵やガミロイドに代わって
操艦・戦闘など艦の活動一切をコントロールする人工知能・電算装置を配置する
空間が配される。その他に艦内各所の通路や生命維持用の気密・空調設備なども
全て設計から削除され、艦内の設計はほぼ完全に別物と化していた。
外観においてもピラミッドを思わせる大きな艦橋構造物は根元から撤去され、
クリピテラ級駆逐艦のものと大差ないほどの小振りな索敵・通信用上部構造物が
申し訳程度に置かれているなど、目に見える変更点があった。
こうした簡略化は量産のためという面が大きいが、同時に新装備をこの無人艦に
搭載するための空間を捻出するための措置でもあった。その新装備こそが、
防壁発振装置がこの2年のうちに新開発され、無人巡洋艦群に装備されていたのだ。
このため無人艦は
だがこれは、無人艦が求められる今後の戦いが苛烈で、損害を受ける可能性が
高いことの裏返しでもある。今この瞬間もガミロニアⅧの戦場では、その事実が
無人艦の抗堪性能と共に実証されつつあった。
「無人部隊に後進を命じろ。
これ以上敵の懐に深入りするのは得策ではない」
理論上は高い防御力を誇る無人艦隊の実戦でのデータが、管制艦「ツェルベロク」に
記録されていく。期待をかけていた新兵器がそれに応える働きをしているのに
満足を覚えながらも、同部隊がじわじわと消耗し損失の穴が空いていく状況に
目敏く反応し新たな指示を出すフラーゲ。彼は参謀の方に向いて言った。
「……貴官の言に理があるようだ。早いところケリをつけるべきだな。」
「はっ!」
元々、フラーゲら地ガ連合艦隊司令部が立てた計画としては以下の通りだ。
第一段階として、敵特殊砲艦の転送射撃をワープ誘導阻害装置で封じ込め、
直接砲撃に前進してきた所を先行させた地球軍無人攻撃機で叩く。
第二段階では、敵が司令部を喪失し混乱した隙に無人装甲戦隊を突進させ
敵艦隊の注意を引き付けさせると共に、可能な限り敵に打撃を与えておく。
第三段階では敵が無人艦隊により抑えられている間に敵を三方向から
包囲するように展開した地ガ連合艦隊の全部隊がミサイルを投射し
飽和攻撃を実施(無人艦隊残存艦は下方へ急速退避)、敵艦隊を撃滅する。
最終段階として後続のガミラス第三八空間師団が基地を奪回するというものだ。
今のところ作戦は第二段階に進んでいたが、敵が混乱をきたした様子がなく、
無人艦隊が想像より準備の整った敵と対峙しているアクシデントが起きている。
現在のところは戦局にあまり影響を及ぼしていないが、戦闘が長引けば
さらに予想外の事態となりかねない。指揮官フラーゲ中将は作戦における
第三段階への移行を少し繰り上げる必要を認め、各隊の進撃状況を確認する。
司令部(重戦艦「ツェルベロク」)と第四二駆逐戦隊、地球軍第一特務艦隊は
ガトランティス艦隊と交戦中の2個無人装甲戦隊から距離をおいた真後ろに位置し、
第七宙雷戦隊第一大隊は同様に戦闘空域から距離をおいてその右舷後方に、
同第三大隊は第一大隊と対をなす形で左舷後方へ順調に進行している旨が
フラーゲ中将の手元のデータデバイスで伝えられた。
彼が進撃速度を早めるよう艦隊に命じようとした、その時である。
「浮遊大陸周辺に、新たなエネルギー反応!」
焦りを滲ませた索敵手の報告が司令官の耳に飛び込むと同時に、楕円型の
大型モニターには前線の無人艦から送られたカメラ映像が映し出された。
無人艦隊は旗艦からの命令で後退し、再び中距離砲戦にシフトしつつある。
そんな艦隊に備えられた光学観測機器は遥か前方に展開している敵艦隊、
白と緑に塗り分けられ、山吹色に発光する複眼状索敵センサーを備えた
ガトランティス戦闘艦の生き残り・約百数十隻の姿を捉えていた。
しかし出現したエネルギー反応は敵艦隊の後方、
占拠された基地が置かれている浮遊大陸付近にある。
フラーゲたちが目を凝らすと、モニターの一角、
敵艦隊の向こう側で何かが動いているのを発見した。
「あれは……岩塊!……第三八師団の報告にあった物か!」
作戦前にフラーゲ中将とダス・ルーゲンス第三八空間師団長のやり取りで
存在が明かされた、ガトランティス軍が惑星内に搬入した謎の"岩塊"。
モニターに映る存在がそれと同一であると気付き、参謀が呻くように言い、
フラーゲもモニターに目を凝らす。
「……移動陣地か?……いや……あれは……!」
無人艦から捉えられた岩塊はガトランティス艦隊に追い付きつつあった。
そして、直後に異変が起こる。
なんと、岩塊が突如として数回にも渡る小爆発と共に砕け、バラバラになっていく。
まるで外装をパージするかのように崩壊した岩塊から現れたのは、
地球連邦防衛軍はもちろん、ガミラス国防軍も見たことのない艦影だった。
甲殻生物を思わせる緑一色の長大な船体には多数の大型回転砲塔が搭載され、
塔のような高い上部構造物には三重の三連装砲・連装の固定砲が艦橋砲として
装備されており、見るからに強力な火力を備えている。他のガトランティス艦に
標準搭載されている発光センサーがない代わり、艦橋最上部の窓とおぼしき
楕円の部位がオレンジに輝いている様は
周囲に展開している、円盤形を設計ベースとした既存のガトランティス艦とは
大きく異なる艦様だったが、武装や艤装・マーキングの意匠など共通点も多い。
それは、紛れもないガトランティス軍の新型戦艦であった。
「未確認の敵戦艦が敵艦隊主力と合流、前進を開始した模様!」
モニターは再度、彼我の戦力配置図へと置き換わる。
報告通り、敵の新型戦艦を戦列に加えたガトランティス艦隊は攻勢を開始し
ガミラス無人艦部隊に迫りつつあった。
「閣下……!」
「うむ、間違いない。……あれが敵の旗艦だ!」
フラーゲはここに至って、2隻のメダルーサ級を撃沈してなお敵に混乱が
見られなかった理由を悟った。敵艦隊の司令部はあの新型戦艦にあったのだ。
敵は新型戦艦の存在を隠すため、岩塊内に艦を隠匿・偽装して惑星内へ回航し、
今の今まで予備戦力として後置していたのだろう。そして、無人艦隊が
距離を置いたのを好機と見て、偽装を解除し反撃に打って出たのだ、と推測する。
「無人艦隊に、敵旗艦に攻撃を集中するよう命じろ!
ヤツを撃沈すれば今度こそ敵は潰乱状態に陥る筈だ!」
フラーゲはむしろ好都合とばかりに、無人装甲戦隊の残存全艦へ
未知の敵新型戦艦に対する攻撃を命ずるが……
「敵戦艦周囲にエネルギー反応の増大を確認!」
「何!?」
フラーゲが報告を受け取った時には、もう手遅れだった。
ガトランティスの新型艦は、麾下艦隊の陣列から少し突出する形に位置取り、
艦体各所から艦外に何らかの小型装置を多数射出した。
それらは戦艦の周囲で3つほどの環を形成しぐるぐると回転し始める。
新型戦艦の進む先にはガミラスの2個無人装甲戦隊の健在な戦闘艦70隻が、
未知なる敵艦に集中砲火を浴びせるべく鶴翼陣形を成して待ち受けており、
標的を射程に収めた艦から順繰りに赤いビームが次々に撃ち放たれる。
それに対し、ガトランティス戦艦の反撃はビームが届く前から始まった。
戦艦の周囲でリングを形成していた無数の"雷撃
嵐のごとき緑色のビームが降り注ぎ始めたのだ__
To Be Continued →