【第60話】
「第一・第二無人装甲戦隊、壊滅!!」
茫然自失としたフラーゲの耳に、オペレーターの悲鳴が届いた。
敵新型戦艦が攻撃を始めてから数分のうちに、無人艦隊は敵の新兵器、
"旋回雷撃砲"のビームの雨に打ちのめされ次々に爆散した。
予想を遥かに越えたビーム砲撃の連撃に限界を迎えたのである。
さらに、旋回雷撃砲の猛攻で態勢を崩された無人艦隊はガトランティス艦隊の
突撃をまともに食らって後退もままならないうちに文字通り
「敵艦隊、依然として前進中!我が艦隊に接近しつつあり!」
これまでにない恐怖と焦りに満ちた声が艦橋に響く。
たった1隻で戦況をひっくり返した敵艦が、迫りつつあるのだ。
しかも、敵艦は無人艦隊の集中砲火を正面から受けたというのに堪えた様子もない。
敵戦艦を相手取った無人艦隊の唯一の戦果と言えそうなものは、
敵の広範囲掃射ビーム兵器の持続時間がそこまで長続きしないものだと
証明したことくらいであった。
「フラーゲ提督……」
恐れていた想定外の非常事態に際し、緊張の汗を顔中に浮かばせた
連合艦隊の総指揮官を呼んだのは、重戦艦「ツェルベロク」の艦長だ。
「……メダルーサ級の代わりにとは言いませんが、やらせていただけませんか。」
艦長は、「ツェルベロク」を以て敵戦艦を相手取ろう__と言外に述べている。
参謀もそれを察し、反論を試みた。
「敵の掃射兵器は再充填中です。その様子から鑑みるに、砲戦距離に入る頃には
掃射兵器は再使用が可能になっています。いくらゼルグート級の装甲と
「……いいだろう。艦長、お任せする。」
艦隊司令部が乗る「ツェルベロク」で敵新型戦艦と対決することを承諾した
指揮官に参謀は信じられないといった視線を向けるが、フラーゲ中将は告げた。
「……艦隊のミサイルは敵艦隊の撃滅に温存する。
……今は信じようじゃないか、我らが「
やがて、向かうところ敵無しとばかりに前進するガトランティス艦隊と
後退中の地球・ガミラス連合艦隊主力、両陣営の最前に巨大な戦艦が進み出る。
共に艦隊の司令部が乗艦する戦艦同士の砲撃戦が始まろうとしていたが
その状況は、まるで騎馬武者同士の一騎討ちを思わせるものであった。
「本艦が敵掃射兵器射程圏に入るまで、あと300秒!」
「前部主砲、射撃用意完了!」
後進するガミラス艦隊の殿という形になった旗艦の改ゼルグート級戦艦では、
恐るべき新兵器を擁する敵新型戦艦との決戦に備え砲戦準備が進んでいる。
ゼルグート級戦艦の設計の大部分を受け継いだこの艦の一目で分かる特徴、
原型との相違点は搭載されている主砲が無砲身型四連装490mm陽電子ビーム砲塔から
太い砲身を持つ同口径の三連装砲塔に換装されているという点であろう。
マゼランの民間伝承に、死後の世界の門衛として現れる犬のような怪物から
名を採られた艦の威容は、ガミラス国防軍が天ノ川銀河系を守るため遣わした
「番犬」として相応しい物があった。
司令部が乗る相手の艦を撃砕せんと"一騎討ち"の準備を整えているのは敵も同様だ。
「ツェルベロク」の観測システムは敵艦の周辺に環状に浮遊する雷撃
再度の掃射を行うに充分なエネルギーが充填されたことを検知している。
こちらも、メダルーサ級を大きく凌駕し敵手ゼルグート級に匹敵する程の巨体と、
それに対応するような11門もの砲を備えた塔型の艦橋が周囲を圧する存在感を示す。
彼我の巨大戦艦は共に、鋼鉄の群れを庇護し率いるように戦陣の最前に立っていた。
勝敗に直結する運命の砲戦は、唐突な開幕を迎える。
先手を取ったのはガミラス側旗艦「ツェルベロク」であった。
「敵の射程まであと180秒!!」
「敵艦、我が方の有効射程内!!」
「よし!!撃ち方始めェ!!」
火器管制からの報告を聞くや否や、艦長の怒号が飛んだ。
直後、"番犬"は眼前の雄敵・蛮族の巨人に牙を剥くのである。
改ゼルグート級は、装備する主砲7基のうち艦尾最後部の機関付近の1基と
艦底部の1基を除く5基の砲塔が実弾も発射可能な構造となっており、
それらは直下の弾薬庫から急速に給弾がなされる。
2199年当時ではガミラス軍では実弾は旧式・蛮族の使うものと見なされてきたが
宇宙戦艦ヤマトによって多用されたこと、その結果当時のガトランティスの
新型艦メダルーサ級、さらにガミラスの威信をかけて建造された
超戦艦デウスーラ2世が(特殊環境下ではあるが)実弾によって撃沈された事実が
地球側から戦史編纂のため(一部非公式で)開示された記録から明かされたため
戦後のガミラス軍では実弾の有用性に改めて着目し研究を実施した。
その研究は、
改ゼルグート級の搭載砲という形で結実したのだった。
「ツェルベロク」前部主砲3基9門のうち、第一・第二主砲6門から
ガミラスの名を冠する危険物質を弾頭とした赤熱した砲弾が同数射出される。
惑星ガミロニアⅧの薄い大気ガスを裂き、紅く不気味に光る砲弾は
そのまま超高速で標的へ迫り、うち4発が敵巨大戦艦の艦首と艦橋基部を捉えた。
刹那、眩い閃光が生まれ、高熱と衝撃波がそれに続く。
1年前にワルゴニア星系で親衛隊残党の使用した試作ガミラシウム宇宙魚雷が、
巡洋戦艦「バーゲルスト」に引き起こした惨劇が天ノ川銀河の辺境で再演されたのだ。
「命中!!……敵戦艦、轟沈!!」
「やったか!!」
索敵手がレーダー及びセンサーから敵戦艦の反応消失という吉報をもたらし、
艦長以下将兵の歓声が「ツェルベロク」の艦橋に響く。
「艦長、諸君、よくやってくれた……!!」
フラーゲも喜色を抑えきれない様子である。
地球・ガミラス連合艦隊の旗艦、改ゼルグート級重戦艦「ツェルベロク」は
姉妹艦の仇敵たるメダルーサ級こそ地球軍に譲ったが、その代わりに
凶悪な広域掃射兵器をひっさげ現れたガトランティスの新型戦艦を、
背後の味方に指一本触れさせることなく巨砲の一撃の下に討ち取ったのだ。
ガミラス国防軍が期待を込めて送り出した最新鋭艦に相応しい快挙と言えよう。
「敵艦隊、隊列乱れます!」
「今度こそ、敵司令部を潰せたようですな」
旗艦の艦橋大モニターには、明らかに混乱した様子を示す敵艦隊の
だが、それを見るまでもなくガトランティス艦隊は旗艦の新型戦艦を喪い
艦隊行動がぎこちなくなっている。
先に沈めたメダルーサ級にはおそらく指揮権を継承する筈の中級指揮官が
乗っていたのだろう。敵艦隊の命令系統は、完全に崩壊したも同然だった。
「ようし、この機を逃すな!
全軍ミサイル攻撃開始!!敵艦隊を殲滅せよ!!」
連合艦隊の総司令官・フラーゲ中将の号令一下、
統制がとれなくなったガトランティス艦隊の左右に占位したガミラス宙雷大隊や、
ガミラス艦隊旗艦部隊に後続する地球連邦防衛軍の第一特務艦隊に属する
クリピテラ級航宙駆逐艦96隻と改
一斉に対艦宇宙ミサイルが発射される。
烏合の群れと化したガトランティス艦隊は、降り注ぐミサイルの雨に
抗ずるべくもなく、灼熱の光に呑まれてゆくのだった___
「……素晴らしい。」
一連の光景は、天ノ川銀河・オリオン腕宙域内に多数設置されている
ガミラス製通信リレー衛星によって遠く太陽系まで実況中継されていた。
地球連邦防衛軍総司令部の大モニターで、戦闘の様を目にしていた男、
地球連邦防衛軍・統括司令官の職にある芹沢虎鉄大将は感慨深げに呟いた。
彼は、ガミロニアⅧで生起したガトランティスとの戦闘が本来このような展開を
たどる筈はなかったことを知る、この世界でただ一人の人間である。
"史実"とでも呼ぶべき、芹沢が視た未来、否、既に
ガミロニアⅧの戦いの情景はこのような物ではなかった。
あっさり沈められた2隻のメダルーサ級に連合艦隊は大いに苦戦を強いられ、
敵の思惑通りの消耗戦に引きずり込まれ、多くの犠牲を出した。
突然現れたガトランティスの新型艦には「アンドロメダ」の拡散波動砲を以て
奪還目標の基地を破壊してまでの攻撃を行ったにもかかわらず仕留めきれず、
あろうことか帰還する艦艇を追跡し太陽系への侵入すら許してしまったのだ。
しかし、現実にはどうだ。
地球とガミラスの連合艦隊は無人艦艇しか喪失せずに敵艦隊を1隻残らず撃沈、
現在は後方で待機していたガミラス第三八空間師団がガス惑星へと進入し
無傷同然の浮遊大陸補給基地への降下奪回作戦に取り掛かっている。
地球・ガミラス連合艦隊はガミロニアⅧの戦いで
戦闘という不確定要素が大いに絡んでくる事象においてさえ!
(だが、これは序の口に過ぎぬ……)
しかし、芹沢が喜んでいたのは束の間だった。
それもそのはず、彼はこの先の更なる凄惨な"史実"を知っているのだから___
「実に見事なものです、セリザワ閣下」
唐突に芹沢を思索から引き戻したのは、隣のテーブルに着いていた青肌の紳士だ。
彼は共和政ガミラスの遣地球全権大使、メフィルス・ミューラー。
普段は作り物の表情を浮かべている男もまた、この時ばかりは周囲の他者と同じく
心の底から満足そうな微笑を見せ、芹沢の言葉に反応していた。
「貴国の新兵器、そして優秀な将兵のお陰です。
とりわけ、シー・フラーゲ提督の用兵は際立っていました。」
「フラーゲ中将の手腕については同感です。彼にも伝えておきましょう。」
防衛軍司令部には、ガミロニアⅧ奪還作戦を観戦するため芹沢統括司令や
ミューラー大使の他に、防衛軍宇宙艦隊副司令官ジョセフ・ボイス中将や
南部重工の専務やガミラス・ゲルップ重工地球支社長などVIPが集まっている。
当然ではあるが、彼ら全員にとって、戦闘の結果は満足のいくものだった。
「無人艦艇の実戦における働きぶりは、これで証明されたことになりますかな」
「一種の盾や囮役など危険度の高い任務でも、有人艦部隊の火力増強でも
期待を上回る結果を出してくれたのではないでしょうか?」
時間断層工廠での無人艦建造に携わる、地球・ガミラスの企業人が言った。
「少なくとも、太陽系防衛の有力な手段として確立したと言えるでしょう。」
土方竜に代わって防衛軍宇宙艦隊の副司令に任じられたボイス中将が頷く。
「波動砲のみに頼らずとも、我が軍は貴国の軍にある程度役立てると思います。
無論、貴国からの要請があれば波動砲艦の派遣も検討しますが。」
「それは心強い。」
芹沢がミューラーに言った。
"史実"の世界線では、地球はガミラスにアンドロメダ級の建造を秘匿し、
このガミロニアⅧの戦いで戦果を横から奪う形でデビューさせていた。
それに比べれば、ガミラスとの関係や波動砲問題のあれこれは好転しているだろうか……
「……しかし、あの敵艦には驚かされました。」
「全くです。やはりガトランティスは侮れませんな」
ミューラー大使が話題を切り替えると、ボイス中将が食いついた。
例の敵艦、のちにカラクルム級と呼称されるあの新型戦艦の戦闘力は
危険視すべきという意見に異論が出ることはなかった。
「敵新型戦艦はガミラシウム弾の射撃を受けても艦体の後半分は原型を留めています。
驚くべき防御力と結論付けざるを得ません。」
「敵艦の残骸は、我が軍が曳航し"シュルツ基地"で分析を行わせます。
解析できた情報は貴国にもお渡ししましょう。」
「ありがとうございます。」
ボイス中将が戦場の地球艦隊から送られてきた観測データを見て唸り、
ミューラー大使も真剣な調子で言う。芹沢はそれに対し礼を述べる。
ここで触れられたシュルツ基地とは、ガミラス天ノ川銀河派遣部隊(第14装甲軍団)の
基幹部隊である第七空間機甲師団艦隊が、地球の宇宙港湾に収まりきらないため
近隣のアルファ=ケンタウリ星系に設けた艦隊泊地施設である。
過去の不幸な戦争で、地球を攻撃するためのザルツ人部隊の指揮官となり
ヤマトとの戦いで生命を散らしたガミラス国防軍人ヴァルケ・シュルツの
名を記念し、過去の侵略戦争を忘れず戒めるために命名されていた。
同地には休養・補給・整備のための施設は勿論、各種の前線での鹵獲艦を
解析できる施設をも有していた。ミューラー大使は、同盟国の本拠地に
未確認の敵艦を曳航する危険性を考慮し、同地へ送ることを決めたのだろう。
早速、ミューラー大使は付き添いの武官に意向を伝えるため伝言する。
武官は手持ちのデバイスを操作しメッセージを送ろうとするが、
怪訝な表情を浮かべた。どうやら、通信がうまく行かないらしい。
直後、防衛軍司令部の巨大モニター画面に映るウィンドウも次々と乱れ出した。
只事ではない事態に、司令部にいた人々は困惑する。
かなり大規模な通信障害のようだ。
(……始まったか……。)
そんな中で芹沢虎鉄は冷静さを失うことはなく、瞑目して息をつく。
これが宇宙に住まう全人類種の運命を懸けた、
ガトランティスとの大戦争の開戦のゴングであると知るのは、
いまだ彼一人であった。
カラクルム級の必殺兵器を"旋回雷撃砲"表記にしたのは仕様です。
メダルーサ級の"火焔直撃砲"と語感を一緒にしたかったので……